参議院の会派に所属しない議員は予算委員になれない


■会派に所属しない無所属議員は不利

竹中治堅監修『議会用語事典』(学陽書房)によると、参議院では会派に所属しない無所属議員は、第一種常任委員会の委員になることしかできないそうです。

参議院では常任委員会に第一種常任委員会と第二種常任委員会という種類があります。 内閣委員会など省庁別になっているものを第一種、予算委員会などその他のものを第二種としています。つまり、無所属議員は国会の花形の委員会である予算委員会の委員になることができないのです。

一年に一回必ず召集される通常国会は、会期の半分近くを予算審議に費やします。予算委員会に関われないということは、通常国会の会期前半でほぼ委員会で審議に関わることができないということです。

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少数会派の不利な点


■会派の所属議員数で委員になれる委員会が変わる

国会では、会派の所属議員数で活動の幅が変わってきます。

例えば、参議院では10人以上の所属議員がいる会派を交渉会派と呼び、所属議員を議院運営委員会の委員にすることができます。

議院運営委員会というのは議院の運営について話し合う委員会です。本会議の議事について話し合うことが多いです。

本会議の議事について話し合うことができるというのは、それなりに重要です。たいていの重要な法案には委員会で審議する前に本会議で説明することを求める「本会議趣旨説明要求」というものが出されています。「本会議趣旨説明要求」が出された法案は、本会議で趣旨説明するか、趣旨説明要求が取り下げられるか、趣旨説明要求を否決しない限り委員会で審議することができません。

この本会議趣旨説明要求について審議するのが議院運営委員会であるため、議院運営委員会の委員になることで法案審議のスタートに関わることができます。

逆に言えば、10人以上の所属議員がいる会派でないと、議院運営委員会に議決に加わることすらできないのです。

参考:竹中治堅監修『議会用語事典』(学陽書房)


会派に所属することと、政党に所属することの違い


■ 「無所属の会」の岡田代表ら9名が立憲民主党の会派に加わる

2019年1月9日の日経新聞朝刊に、衆議院の「無所属の会」の岡田代表ら9名が立憲民主党の会派に加わったという記事が出ていました。一方、同じ「無所属の会」の野田前総理大臣ら数名は立憲民主党の会派への合流を見送りました。

無所属の会は、岡田代表や安住元財務大臣、野田前総理大臣ら民進党のベテラン議員が結成した会派です。政権運営をしていた旧民主党を源流とする民進党は、2017年の衆議院総選挙からなんやかんやあって立憲民主党と国民民主党に分裂しました。分裂の過程で、無所属のまま衆院選を戦ったのが、無所属の会の面々です。

立憲民主党の会派に無所属の会のメンバーのほとんどが参加したということは、立憲民主党が旧民主党の後継政党になる第一歩になるかもしれません。

■会派とは

ちなみに、会派というのは国会で議員が活動するグループです。国会では、会派に所属する議員の数によって、どの委員会に所属できるか、委員会の運営に関与する委員長や理事などの役職につけるかどうかが決まります。会派の議員数は、国会運営に関わるうえで非常に重要なのです。岡田代表らが無所属の会を作ったのも、会派としてある程度まとまった人数がいないと国会運営に関与できないためです。

基本的には、政党と会派はイコールの存在になりますが、複数の政党がひとつの会派を組んだり、政党に所属していない議員が既存の政党と一緒に会派を組むことも可能です。無所属の会も、無所属議員が集まって会派を組んでいました。会派は自由なのです。

■会派に入ることは、政党に入ることではない

今回の場合は、無所属の会の岡田代表らは、特定の政党に所属しないまま、国会では立憲民主党とともに活動することになります。ざっくりいうと、国会では立憲民主党と一緒に活動するけど、選挙では一緒に活動しないということです。

たとえば、岡田代表は、国会では議員数の多い立憲民主党に割り当てられた質問時間を利用したり、立憲民主党に割り当てられた委員会の委員になって政府に質問することができます。会派が同じだからです。

しかし、選挙で岡田代表が苦戦したときに、立憲民主党の比例票で復活当選するようなことはできません。政党が違うからです。


予算審議の期限


■3月2日までに衆議院で採決するという期限

  1. 財務大臣による財政演説(本会議)
  2. 財務大臣による予算案の趣旨説明(予算委員会)
  3. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する基本的質疑(予算委員会)
  4. 財務大臣と答弁を要求された大臣が出席する一般質疑(予算委員会)
  5. 総理大臣とテーマに沿った大臣が出席する集中審議(予算委員会)
  6. 地方公聴会(予算委員会)
  7. 中央公聴会(予算委員会)
  8. 分科会(予算委員会)
  9. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する締めくくり質疑(予算委員会)
  10. 討論・採決(予算委員会)
  11. 討論・採決(本会議)

委員会で採決されたら、本会議で「11. 討論・採決(本会議)」になります。「11. 討論・採決(本会議)」に何月何日にたどり着くかというのは、極めて重要です。参議院でいつ「11. 討論・採決(本会議)」をできるかというのは、予算案が、予算が執行される年度になる前に成立するかどうかという点でもちろん重要ですが、それ以上に衆議院で「11. 討論・採決(本会議)」がいつ行われるかが重要になります。予算案は憲法の規定で、衆議院で可決されて参議院に送付された後、30日以内に採決されなかった場合は、衆議院の可決という議決だけで予算案が成立することになっているためです。

この「30日以内」が3月31日までに収まるギリギリの期限が3月2日になります。3月2日までに衆議院で「11. 討論・採決(本会議)」が行われれば、参議院審議が始まる前から予算案は安泰で、役所は安心して仕事ができるというわけです。


予算委員会の分科会


■採決終盤の分科会

  1. 財務大臣による財政演説(本会議)
  2. 財務大臣による予算案の趣旨説明(予算委員会)
  3. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する基本的質疑(予算委員会)
  4. 財務大臣と答弁を要求された大臣が出席する一般質疑(予算委員会)
  5. 総理大臣とテーマに沿った大臣が出席する集中審議(予算委員会)
  6. 地方公聴会(予算委員会)
  7. 中央公聴会(予算委員会)
  8. 分科会(予算委員会)
  9. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する締めくくり質疑(予算委員会)
  10. 討論・採決(予算委員会)
  11. 討論・採決(本会議)

予算審議終盤では「8. 分科会」が開かれます。「8. 分科会」は予算案をいくつかの分野に分けたうえで予算委員を割り振り、同時並行で審議を進めます。

「8. 分科会」が終わると、「9. 締めくくり質疑」「10. 討論・採決(予算委員会)」で予算委員会の審議が終わります。


予算委員会の中央公聴会


■採決の前提、中央公聴会

  1. 財務大臣による財政演説(本会議)
  2. 財務大臣による予算案の趣旨説明(予算委員会)
  3. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する基本的質疑(予算委員会)
  4. 財務大臣と答弁を要求された大臣が出席する一般質疑(予算委員会)
  5. 総理大臣とテーマに沿った大臣が出席する集中審議(予算委員会)
  6. 地方公聴会(予算委員会)
  7. 中央公聴会(予算委員会)
  8. 分科会(予算委員会)
  9. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する締めくくり質疑(予算委員会)
  10. 討論・採決(予算委員会)
  11. 討論・採決(本会議)

「7. 中央公聴会」が開かれると、予算審議も終盤とみなされます。そのため、「7. 中央公聴会」開催の提案を与党がするときは、「与党が予算審議を終局に向けている」と野党がみなし、「審議が尽くされていない」と、まずは反対するという「国会しぐさ」があります。


予算委員会の集中審議とは


■交渉材料にもなる集中審議

  1. 財務大臣による財政演説(本会議)
  2. 財務大臣による予算案の趣旨説明(予算委員会)
  3. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する基本的質疑(予算委員会)
  4. 財務大臣と答弁を要求された大臣が出席する一般質疑(予算委員会)
  5. 総理大臣とテーマに沿った大臣が出席する集中審議(予算委員会)
  6. 地方公聴会(予算委員会)
  7. 中央公聴会(予算委員会)
  8. 分科会(予算委員会)
  9. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する締めくくり質疑(予算委員会)
  10. 討論・採決(予算委員会)
  11. 討論・採決(本会議)

上に示した予算審議のイベントのなかでも、「5. 集中審議」は何回か行われます。総理大臣が出席するため、与野党の日程闘争の駆け引きの材料になっている面があります。総理大臣を出席させて審議することは、野党のポイントになっているようです。

そのため、「5. 集中審議」は予算審議がなくても随時行われます。


予算審議の流れ


■基本的質疑から始まり、締めくくり質疑で終わる

  1. 財務大臣による財政演説(本会議)
  2. 財務大臣による予算案の趣旨説明(予算委員会)
  3. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する基本的質疑(予算委員会)
  4. 財務大臣と答弁を要求された大臣が出席する一般質疑(予算委員会)
  5. 総理大臣とテーマに沿った大臣が出席する集中審議(予算委員会)
  6. 地方公聴会(予算委員会)
  7. 中央公聴会(予算委員会)
  8. 分科会(予算委員会)
  9. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する締めくくり質疑(予算委員会)
  10. 討論・採決(予算委員会)
  11. 討論・採決(本会議)

予算案の実質的な審議としては、「3. 基本的質疑」が最初に行われます(「2. 趣旨説明」は財務大臣が一方的に説明するだけで質疑がないので、除いています)。「3. 基本的質疑」は、だいたい3回(3日間)行われます。そして、「9. 締めくくり質疑」は「10. 討論・採決(予算委員会)」する日に行われます。実質的な審議としては、「3. 基本的質疑」が最初で、「9. 締めくくり質疑」が最後となります。

「3. 基本的質疑」と「9. 締めくくり質疑」の間に、4〜8のイベントが行われます。予算委員会は定例日がないため、連日開会することで与野党の日程闘争において摩擦を生じさせることはありません。そのため、連日「4. 一般質疑」が行われ、その合間を縫って「5. 集中審議」「6. 地方公聴会」「7. 中央公聴会」が行われることになります。


予算審議の質疑の種類


■予算審議のパターン

法案審議と同じく、予算審議もパターン化されています。 予算審議の流れは法案審議の流れとほぼ同じです。

  1. 財務大臣による財政演説(本会議)
  2. 財務大臣による予算案の趣旨説明(予算委員会)
  3. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する基本的質疑(予算委員会)
  4. 財務大臣と答弁を要求された大臣が出席する一般質疑(予算委員会)
  5. 総理大臣とテーマに沿った大臣が出席する集中審議(予算委員会)
  6. 地方公聴会(予算委員会)
  7. 中央公聴会(予算委員会)
  8. 分科会(予算委員会)
  9. 総理大臣をはじめ全閣僚が出席する締めくくり質疑(予算委員会)
  10. 討論・採決(予算委員会)
  11. 討論・採決(本会議)

■質疑の種類

予算審議は法案審議に比べて、質疑に種類があります。「3. 基本的質疑」「4. 一般質疑」「9. 締めくくり質疑」の3種類です。この3つは、ある条件で2種類で分けられます。その条件は、総理大臣が出席するか、しないかです。

総理大臣が出席するのが、「3. 基本的質疑」「9. 締めくくり質疑」で、出席しないのが「4. 一般質疑」です。総理大臣の出席の有無は、テレビ中継が入るかどうかという基準にもなっています。総理大臣が出席する「3. 基本的質疑」と「9. 締めくくり質疑」には、テレビ中継が入ります。よく目にする、赤を基調とした部屋で総理大臣とすべての大臣が並んで椅子に座っている光景は、予算委員会の「3. 基本的質疑」や「9. 締めくくり質疑」のものです。なぜそう言い切れるかというと、「3. 基本的質疑」「9. 締めくくり質疑」以外に、すべての大臣が出席する機会はないからです。

「4. 一般質疑」が答弁を要求された大臣と財務大臣が出席するのに対して、「3. 基本的質疑」「9. 締めくくり質疑」は要求があろうがなかろうが、内閣のすべての大臣が出席することになっています。なかには座っているだけで1日過ごす大臣もいるかもしれません。

このように質疑に種類ができたのは、総理大臣が国会に出席する回数を減らすためだと言われています。


ペーパーレスでも、あえて2時間待ち続ける


■国会のペーパーレス化

ーー内閣不信任案の印刷で時間を稼ぐなど、野党側の武器としてそうしたものを使うという指摘もあるが?

小泉:正直言って、野党が武器としてそれを有効だと見ているのであれば、まずはそれを武器のまま残せばいいと思ってます。印刷時間に2時間。それを持っているということが国会の戦略上必要だというのであれば、仮にペーパーレスにしても実際に2時間空ければいいじゃないかと。

『国会のペーパーレス化に批判 小泉進次郎氏「意味がわからない」 – ライブドアニュース』

自民党の小泉進次郎衆議院議員は、国会改革を訴えている政治家のひとりです。上の記事では小泉代議士の主張のうちペーパーレス化について取り上げています。

国会改革というと、わりと「省エネ」「効率化」につながる提言が多いです。国会を効率化するということは、今までよりも短い時間で審議できるようになるということです。つまり、与党に有利になる部分が多くなるため、野党が賛成しにくいです。

■ペーパーレスでも2時間待つ

ペーパーレスも与党が有利になる例として挙げられていて、その例が冒頭で引用した部分で言及されている「内閣不信任決議案の印刷で2時間必ず国会審議が止まる」というものです。

小泉代議士は、「ペーパーレスで2時間がなくなるのでは?」という批判を念頭に、「ペーパーレスになっても決議案提出から2時間審議を止める慣例にしたらいい」と言っています。これは、なかなかいい考え方ではないかと思います。

特に、「技術上は待つ必要がないのに、昔の名残で2時間待っている」という状態になるところが、新しい国会の伝統が作られるようでワクワクします。