2012年11月26日現在。先週、野田首相が11月16日まで衆議院を解散しなかった理由を、政策遂行の責任を果たすため、周囲の人間が解散に反対だったため、世論を気にしたため、という3点から考えました。考えた結果、どれも「近いうちに解散する」と約束した8月と状況が変わらないか、むしろ悪くなっていることを示しました。
私は、11月までに解散しない合理的な理由はなかったと思っています。そして、このまま解散せずに粘っても良かったと思うのです。また、いつ解散しても良かったとも。結局のところ、どうして11月16日に解散したのでしょうか。
■首相が望まなければ解散はない
制度的には、首相に解散を強制する方法はありません。解散するということは、どういう理由であれ、首相が解散を望んだということにほかなりません。解散できるかどうかは、首相が解散をどれだけ望むかという意思の力にかかってきます。
したがって、11月16日まで解散しなかったのは、首相が解散したいと思わなかったからです。そして、解散したいと思ったから16日に解散したのです。
■正直な自分という自画像と、戦術の乖離
では、なぜ首相は解散しようと思ったのでしょうか。首相が党首討論で話した印象的なエピソードに、「通知表に『野田君は正直の上に馬鹿がつく』と書かれていて、それを父親に褒められた」というものがありました。このエピソードへの思い入れが本物なら、「正直な自分」という自画像は首相のなかで大きな位置を占めていると思われます。
8月に「近いうちに解散する」と約束してからずっと、自民党と公明党は約束の履行である解散を要求してきました。自公は「近いうちは8月だ」「9月だ」「年内だ」と責めつづけました。
しかし、首相は応じる姿勢をみせず、自民党は重要法案の審議に全面協力する太陽路線をとるまでに追い込まれました。国会で野党が協力するなら解散する必要はありません。なぜなら解散とは本来、首相と国会が対立したときに使う武器だからです。
期限の曖昧な約束をして野党から譲歩を引き出す戦術は当たり、「民主党政権そのものは来年の8月まで安泰かもしれない」というところまできました。この状況は、ある意味で、約束を反故にし続けることになります。約束を守らない人というのは、「正直な人」ではありません。野田首相の自画像と違うはずです。
とはいえ、その戦術は野田首相が約束を履行することを許しません。約束を履行した瞬間、衆議院は解散されるからです。
■野田内閣が死んでも代わりはいる
民主党政権存続における最大のリスクは、信任を得なければならない衆議院で多数の議席を失うことです。衆議院が解散され、総選挙を経ることで民主党の衆議院議員が落選し、議席が減って政権を失うことこそが、避けなければならないことなのです。
しかし、それは民主党政権を死守する、民主党の仲間をすこしでも長く生き残らせる、という見方をしたときに成立する考えです。そして、その考えは、野田内閣を生き残らせることを重視しません。
約束をいつまでも守らない首相に嫌気がさした野党と国民が一丸となって「首相は嘘つきだ!」と燃え上がったとき、民主党としては嘘つきをお役御免にして、新しい看板をかけることができるからです。
そう、野田内閣など、存続してもしなくてもいいのです。民主党政権を死守するための手段にすぎません。民主党の輿石幹事長が「解散は首相の専権事項」と繰り返し言っていたのは、「約束を守らないのはあくまで野田首相であって、民主党が嘘つきというわけではない。なぜなら、解散権は首相にしかないからだ」という含みもあったのかもしれません。
■追い込まれていた首相
野田首相は民主党政権以上に追い込まれていました。民主党政権としては野田首相は駒のひとつですが、野田首相にとって野田内閣は、すべてです。
「正直な自分」という自画像と異なる「嘘つき」を演じた挙句、民主党そのものに「約束を守れなかった首相」として自らの政治生命をも使い捨てられるかもしれない恐怖があったのではないでしょうか。
大学を出てすぐに松下政経塾に一期生として入塾し、政治に関する仕事以外ほとんど経験していない野田首相にとって、政治生命を失うことはなによりも辛いことだと思います。
野田首相は、自画像との乖離と、自身の政治生命に対する危機とに悩み、なりふり構わず解散したのだと思います。だからこそ、民主党政権の延命という観点からみると、今回の解散は不合理に見えるのです。野田首相の政治生命を守ることと、民主党政権の存続もまた、必ずしも両立するものではなかったようです。
■首相が死ぬ気で解散を決意したら、誰にも止められない
解散権は首相にあります。首相が本気のときは、誰にも解散を止められません。たしかに、解散には閣議決定が必要です。閣議とは、首相と首相が任命した大臣で行う会議です。閣議は全会一致が原則で、一人でも反対の大臣がいれば決定できません。
しかし、首相は反対する大臣を辞めさせ、自らその大臣を兼ねることができるため、首相は自らの意向を押し通すことができます。制度的には、解散をやめさせる手段もないのです。
非制度的になら、手段はあります。どんな手を使ってでも、首相を翻意させるか、首相に内閣総理大臣を辞職させることです。総理大臣じゃなくなれば、当然解散できません。
しかし、約束を果たさないまま総理の職を辞することを首相が嫌がっているのだとしたら、首相の説得は不可能です。それに、野田首相にとっては、総理大臣でなくなっても、衆議院議員として誰に恥じることなく生きることができればそれでいいのかもしれません。
政治的にも、感情的にも、総理大臣の椅子にこだわらなければ、解散が首相自身にとって最もプラスになる選択肢である、というところまで11月時点で追い込まれていたため、解散を決意した。これが、現時点での私の見解です。
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