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与野党の合意なきイギリス議会閉会


2019年9月15日現在。

先週9月10日に、イギリス議会は5週間の閉会期間に入りました。例年9月中旬から10月上旬まで、イギリスの主要政党の党大会が実施される関係で議会は閉会しています。今年はジョンソン首相がエリザベス女王に議会閉会の時期を前倒しを求め、承認されたため、1週間ほど早く閉会となりました。

■閉会の儀式の一幕

議会閉会の儀式の一部がBBCなどにより動画で配信されています。以下はBBC News Japanが投稿したものです。

動画では、”Black Rod” 黒杖官(こくじょうかん)と呼ばれる貴族院の使者が庶民院に入場し、庶民院議長に「貴族院で閉会を宣言するので、貴族院まできてほしい」と要請している場面があります。

黒杖官には、開会や閉会の儀式で庶民院議員を貴族院に召喚する役目がありますが、このとき、ちょっとした慣習があります。

黒杖官が庶民院の議場に入る際、黒杖官の目の前で議場の扉が閉じられます。黒杖官は、手にした黒い杖で議場の扉を3回ノックすると扉が開き、庶民院の議場に入ることを許されます。

イミダスによると、「1642年に、反国王派議員を逮捕しようとした当時の国王チャールズ1世の立ち入りを、下院議長が拒否したことに由来」しているとのことです。国王や国王の使者といえども、庶民院に入るには庶民院の許可が必要であるということを示しています。国王の言いなりにはなりませんよ、ということですね。

ちなみに、現在黒杖官に就いているサラ・クラークさんはイギリス初の女性黒杖官です。動画を見ると、貴族院への同行を求めるところで画面手前の野党側の席からブーイングされていてます。黒杖官が閉会を決めたわけではないので気の毒ですが、今回の閉会が与野党の合意がないものであったことを象徴しているようなシーンでした。


イギリス庶民院の総選挙前倒しの提案が否決


2019年9月8日現在。

先週のイギリス議会では、ジョンソン首相の庶民院の総選挙を前倒しする提案が否決されました。

■イギリスの二院制

イギリスは日本と同じく二院制で、貴族院と庶民院に分かれています。

貴族院は日本の参議院に近いです。ただ、貴族院の議員はイギリス国民が選挙で投票して選ばれるのではなく、爵位を持っている貴族がなります。貴族の中には、貴族と聞いてイメージする通りの代々世襲で爵位を受け継ぐ世襲貴族と、様々な分野で功績をあげた人が功績をたたえられて爵位をもらってなる一代貴族などがいます。また、任期は終身です。この点、日本の参議院とは違います。

庶民院は日本の衆議院に近いです。国民が選挙で投票して選ばれた人が議員になります。首相は庶民院から選ばれる慣行になっています。庶民院の任期は5年です。日本と同じように首相が任意の時期に解散・総選挙をできましたが、2011年以降は庶民院の3分の2以上の議員が総選挙の前倒しに賛成するか、内閣不信任案が可決されたときのみ解散・総選挙になることになっています。先週否決されたのは、3分の2が必要な総選挙前倒しの提案でした。

■解散を制限することの効果

総選挙前倒しの提案が否決されたため、ジョンソン首相は改めて前倒しを再提案するという観測があります。また、過半数の賛成で足りる内閣不信任案を可決させるのではないかという見方も出ています。

第二次安倍政権が衆議院総選挙で連勝しているためか、「総理大臣が好きに選挙の時期を選べるのはおかしい」ということが言われるようになりました。日本が取るべき道としてイギリスの解散権制限が取り沙汰されることが多かったですが、もしジョンソン首相が庶民院が内閣を信任していない状態を作り出して総選挙を前倒しするとしたら、解散権の制限にはあまり意味がないと言えるかもしれません。

とはいえ、ジョンソン首相が総選挙をするために苦労しているのも事実です。解散権の制限というのは、完全に首相の恣意的な解散・総選挙を防げるわけではありませんが、やりにくくするのは間違いないようです。


夏休み明けのイギリス議会が1週間弱ですぐに閉会


2019年9月1日現在。

■イギリス議会閉会

イギリスでは、ジョンソン首相が議会を9月9日の週から10月14日まで閉会することを決めました。イギリス議会は、7月26日から夏休みに入っており、明後日9月3日に再開しますが、一週間弱で再び活動を止めることになります。議会の再開は10月14日からになります。

報道によると、ジョンソン首相は10月31日に予定されているイギリスのEU離脱交渉を議会の介入なしで進めるために閉会を決めたということです。議会の議論を封じようとする行為だとして、反発する声が上がっているとも報道されています。

■女王の勅令による議会閉会

この議会の閉会ですが、形式的にはイギリス女王の命令で行われています。イギリスの枢密院という機関が女王の名のもとに「9月9日から14日までの間に議会を閉会する」という枢密院令(枢密院勅令)を出しています。

「女王の勅令で議会が閉会した」と聞くと、いつの時代の話だろうとギョッとするかもしれませんが、実質的には首相の「閉会したほうがいいですよ」という助言を承認しただけなので、閉会それ自体はたいした話ではありません。

逆に、今回のジョンソン首相による議会閉会はあまりに強引な方法なので、女王が首相の助言を承認しないのではないかという懸念(あるいは期待)もありました。結果的に女王は議会閉会を承認したので、その点は問題にはなりませんでした。

■天皇の国事行為

日本も、法律の公布、政令の公布、国会の召集、衆議院の解散は、天皇の名のもとで行われています。これらは憲法で定められた国事行為と呼ばれるもので、内閣の助言と承認により行われます。天皇の名のもとで行われた命令には、すべて内閣総理大臣のサインがされていて、命令の結果に責任を負うのが総理大臣であることがはっきりしています。