月別アーカイブ: 2019年8月

国会を楽しむにもルールを知ることが必要


2019年8月25日現在。

甲子園も終わり、8月も終わりが近づいてきました。

甲子園といえば、野球の基本的なルールはほとんどの人に知られているので、盗塁する選手に「ずるい」という人はあまりいないのではないでしょうか。もう少しややこしい話になりますが、サッカーのオフサイドも、「せっかく一生懸命攻めているのに攻撃側の選手が反則になるなんてかわいそう」と言ったら、サッカーファンから失笑されそうです。

国会をめぐる意見には、上のような「ルールをふまえていない話」が多いです。審議拒否も強行採決も一定のルールのもとで行われています。しかし、審議拒否は「野党のサボり」、強行採決は「与党の横暴」で片付けられることが多いです。

野球やサッカーのルールを知らなければゲームを楽しむことが難しいように、国会もルールを知らなければ楽しむのは難しいです。

私が国会のルールを勉強しているのは、より国会を楽しめるようになるためです。


学校で習ったことと、政治記事のギャップをうめたい


■国会のルールの基本的なことは義務教育で習っているが……

国会のルールは、本当に基本的な部分、例えば「予算案は必ず衆議院で先に審議されて、衆議院で予算案が可決してから30日以内に参議院が議決しない場合は衆議院の議決だけで予算は成立する」というところなどは義務教育で習います。

しかし、義務教育で習った知識を使って新聞の政治面に掲載される国会審議を扱った記事を読み解くのは難しいです。

先ほど例にあげた部分は「衆議院の優越」「予算の自然成立」という言葉とともに習い、「30日」の部分が空欄になった形で小中学校のテスト問題になることもあるかもしれません。

しかし、カレンダーで具体的に30日を当てはめたときに、衆議院はいつまでに予算案を可決している必要があるか、ということまで問われたり、教わったりした人は多くないのではないでしょうか。これがわからないと、どうして毎年2月末から3月2日までの間に与野党が国会で大騒ぎして、時には徹夜までして国会審議をしているのか理解できません。

■学校で習ったことと政治記事のギャップ

新聞の政治記事は、学校で習ったことのある以上の知識や、知識の使い方を当然知っているものとして書かれています。つまり、学校で習ったことと政治記事の間にはギャップがあるのです。

新聞もそれは意識しているので、詳しく正確な解説記事を書いてくれていますが、毎日ではありません。たまたま新聞を読んだときに解説がなかったら、意味がわからないままになってしまいます。

私は、このブログを通じて、いままで習ってきたことと政治記事の間にギャップを感じている人の間を埋めたいと思っています。


立憲民主党の国民民主党に対する会派合流の提案は、提案するだけで目的を果たしている


■立民が国民に衆議院の立民会派合流を提案

2019年8月11日現在。

新聞などでは、立憲民主党は国民民主党に「衆議院の」立民の会派に加わるよう呼びかけていると報道されています。対して、国民は衆議院と参議院で同時に「新たな会派」を結成するよう要請する方針を決めたとのことです。

■よくわからない菅元総理大臣のコメント

国民のこの決定に関しては、立民の菅直人元総理大臣が以下のように応じられないというニュアンスのコメントをしたとして、記事になっています。

国民の電力総連出身の参院議員が原発再稼働を認めているとして、「(立民が主張する)『原発ゼロ基本法』に同調できるのか。まず衆院から段階を踏んだ方がいい」(2019年8月11日読売新聞朝刊)

このコメントは一瞬わかったような気になりますが、よくわからないコメントです。国民の電力総連出身の参議院議員が立民の会派に加われない可能性があるというのはわかるのですが、衆院先行で国民が立民の会派に合流したあとに、電力総連出身の参議院議員を仲間にする方法が見えないからです。

電力総連には原子力発電関係の組織もあるので、電力総連出身の議員が勝手に「原発ゼロ」を主張する訳にはいきません。それは投票してくれた有権者に対する背信行為になりかねないからです。

菅元総理大臣は何を考えているのでしょうか。衆議院で国民が立民の会派に合流したという実績を作って、国民の立民への合流を既成事実として強引に国民の参議院議員を従わせようというのでしょうか。

■国民と維新の参議院での統一会派を潰すことが目的では?

おそらくそうではないでしょう。今回の立民の国民に対する会派合流の提案の目的は、最終的に立民と国民の会派を衆参で作ることにはないのです。それは言い過ぎにしても、合流が一番の目的ではないはずです。

そもそも、衆議院で立民は自分の会派の議席数に困っていません。衆議院では立民の会派70議席に対して、国民の会派の議席数は39議席と、立民は国民の2倍近い議席数であり、立民の野党第1会派の地位が危うくなることは、まずありません。

問題は、参議院です。参議院では立民の会派35議席に対して、国民の会派は25議席で10議席の差があります。しかし、日本維新の会の会派と国民の会派が統一会派を組むと41議席となり、立民の会派の議席数を上回ります。

事実、参議院の国民と維新で統一会派を組む構想があるという報道が先日ありました。しかし、この統一会派構想については、国民の玉木代表が立民の会派合流の提案を前向きに受け取ったため、維新側が反発しているそうです。(2019年8月7日 日本経済新聞朝刊)

つまり、今回の立民の国民に対する会派合流の提案は参議院の国民と維新の統一会派を潰すことが最大の目的なのです。

立民としては、会派合流の提案ひとつで、維新の国民に対する不信感を与えることで国民と維新の統一会派を潰し、更に立民に移りたい国民の議員や立民と絶対に一緒なりたくない国民の議員を動揺させて、国民を弱体させることができるのです。そして、あわよくば国民を立民が吸収する形で、野党の大きなかたまりを作ることもできます。

本当にそうなるかどうかは、国民側の対応によります。今後どう話が進んでいくか、面白そうです。


「国会議員だけ特別扱いはおかしい」はおかしい


2019年8月4日現在。

■2019年度の参議院議員選挙の当選者、初登院

先週、8月1日に第199回臨時国会が召集されました。先月の参議院議員選挙の結果を受け、新しい議長が決まったり、各会派の委員の割当が決まったりしました。今回の国会は、特に審議などをせず、国会の構成を決めて終わりの予定です。

今回の国会召集で、注目を集めたことのひとつが、れいわ新選組の船後議員と木村議員の登院でした。大型車いすが必要な両議員のために、参議院の本会議場が改修されたりしました。

■参議院の介助費用の負担は特別扱い?

船後議員と木村議員は重度訪問介護の利用者でもあります。重度訪問介護のサービスは、仕事中に受けることができません。いまは、国会での議員活動も「仕事中」とみなされているため、両議員も議員活動中はサービスを利用できません。そのため、参議院は、議員活動中の両議員の介助費用を当面負担すると決めました。

この参議院の決定を批判しているのが、日本維新の会の松井代表です。「国会議員だけ特別扱いはおかしい」(2019年8月4日読売新聞朝刊)とのことですが、別にこの決定は特別扱いではありません。

そもそも、重度訪問介護のサービスが仕事中に受けられないという制度の趣旨は、「仕事中の介助費用は、雇用者が負担すべき」というものです(重度訪問介護を利用する人の雇用をためらうインセンティブしか生んでないのではないかと思いますが……)。そういう意味で、参議院議員が働く参議院が介助費用を負担するのは制度の趣旨にかなっていますし、現状、参議院以外が負担できるものでもありません。

これを特別扱いというのは、中小企業の社員が、大企業の社員の福利厚生の良さに対して、「大企業の社員だけ特別扱いはおかしい」というのと同じくらいおかしい理屈です。仮に、法律や厚生労働省の決まりで、「国会議員のみは仕事中の介助費用を負担する」となったらおかしいとは思います。

■参議院と議員の関係は、雇用者と被雇用者の関係と同じとは言えないかもしれないが……

しかし、参議院と参議院議員の関係が、雇用者と被雇用者の関係と同じと言えるかというとちょっと違うかもしれません。松井代表もそこを意識しているのか「参議院議員は個人事業主だ」(毎日新聞2019年7月31日19:11)ということも言っているようです。

ただ、「仕事中の介助費用を雇用者が負担する」という制度の趣旨を、ガチガチに考える必要はありません。参議院議員が個人事業主だとしたら、特定の場所で、複数の個人事業主同士で仕事をする必要がある個人事業主組合のようなものです。その組合の活動を大まかに決めていている機関である参議院議院運営委員会が介助費用の負担を決めているのですから、ある意味企業の取締役会で決定したのと同じとみなせるのではないでしょうか。

また、参議院議員が個人事業主なら、立法事務費や文書通信交通滞在費、JRの無料パス(または航空機の無料利用)、政党助成金などは何なんだということになります。国会議員は国会の会期中は国会の許諾がなければ逮捕もされません。国会議員はもとから特別扱いされているのです。しかし、今回の介助費用の負担については、別に特別扱いではありません。