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質疑を省略して採決の大義名分とは


■質疑を省略して採決

2018年12月5日に、水道事業の経営安定化に向け、民間の参入を促す水道法の改正案が衆議院厚生労働委員会で可決されました。水道法改正案は5日の午前中に参議院本会議で可決し、衆議院に送付されただちに厚生労働委員会に付託され、法案の趣旨説明と質疑を省略して討論採決を行いました。

「質疑を省略して採決」と聞くと、与党の横暴もここまできたか、という感じを受けるかもしれませんが、水道法改正案についての質疑を衆議院で全くやっていないわけではありません。実は、前の国会でやっているのです。

■継続審査になった法案なので省略した?

水道法改正案は今年の通常国会で衆議院本会議において可決され、参議院で継続審査になったものです。今国会で参議院先議で衆議院に送付されたのはそのためです。

与党の言い分は、「前の国会で質疑を行っていて、参議院で法案の内容に変更が加わったわけでもないので、質疑を省略してもいいのではないか」ということでしょう。

ここで不思議なことがあります。水道法改正案は、前の国会で衆議院で可決済みなのに、どうしてまた衆議院で採決しなければならないのでしょうか。法案成立の条件は「衆議院と参議院の両方で可決すること」ではないのでしょうか。

■会期不継続の原則のため、会期をまたがったらもう一度採決をやり直す必要がある

なぜ、衆議院で一度可決したものをもう一度可決しなければならないかというと、会期不継続の原則により、前の国会の議決はなかったことになるためです。

新しい国会が始まると、前の国会の議決がなかったことになり、かつ、法案の成立には衆参両院での可決が必要になるので、今国会で水道法改正案を成立させるためには衆議院でもう一度採決する必要があるのです。

会期不継続原則について、詳しくは廃案と継続審議の違い(決定版)に書いてあります。


廃案と継続審議の違い(決定版)


    まとめ

  • 継続審議はセーブ
  • 廃案はセーブデータの消滅
  • 会期がまたがると、前の会期で可決した院のセーブデータは消滅する
  • 法案の成立には、原則、同一会期中に両院で可決することが必要

以前『廃案と継続審議の違い』という記事を書きました。この記事は、先議の院で可決された法案が後議の院で継続審議になった場合だけをみて、「廃案と継続審議に違いはない」としています。ちょっと考え過ぎというか、視野が狭いものになっているので、改めて廃案と継続審議について整理したいと思います。

■継続審議の意義

継続審議のメリットは、それまでに行った審議過程を活かすことができるという点にあります。委員会に付託されていたら次は付託されたところから始まり、法案の提案理由説明が終わっていたら次は質疑から始まるわけです。「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案の対立をみてもわかる通り、法案を委員会に付託するだけでも大仕事になることがあるので、これは結構便利です。ゲームで言えば「セーブ」ですね。

これが廃案になってしまうと最初からやり直しです。それも、法案の提出からやり直しになります。例えば、内閣提出法案なら閣議決定をもう一度行うことになります。(*1)まだ調べきれてないのですが、おそらく閣議にかけるために必要な内閣法制局の審査もしなければならないでしょう。党内手続きもやり直しになるかもしれません。政府・与党からすれば、このやり直しは相当な損失になります。そのためか、全く審議が進んでいない、提出しただけの法案もよく継続審議になっています。廃案のダメージは、セーブデータが消えてしまった状態に近いと思います。

■継続審議の限界

ただ、継続審議にも限界があります。継続審議の効果は、継続審議を決定した院でのみ有効なのです。例えば、衆議院で可決した法案が参議院で継続審議になった場合、次の会期に参議院で可決しただけでは法案は成立しないということです。

これは会期不継続の原則がひとつひとつの案件を一会期内に限るだけでなく、議決の効力も一会期内に限定しているために起こります。先ほどの例で言えば、衆議院の議決(この場合可決)は次の会期には「なかったこと」になるわけです。

ですから、この法案を成立させるにはその会期中に再度衆議院で可決されなければならないのです。場合によっては両院で計4回可決してやっと成立することもあります。表にすると以下のようになります。(カッコ内の数字は議決の順番)

会期1 会期2 会期3
衆議院 可決(1) 継続審議 可決(3)
参議院 継続審議 可決(2) 可決(4)
結果 未成立 未成立 成立

また、参議院では継続審議によって審査過程を「セーブ」することを公式に認めていますが、衆議院では認めていません。衆議院は、会期不継続の原則によって審査過程も次の会期で消滅すると考えているので、建前上は継続審議になった法案を改めて委員会に付託しています。ですから、法案によっては改めて提案理由説明を行ったりすることがあります。

以上の点で継続審議の効力には限界があります。しかし、それでも貴重な審議時間を節約する方法であることに違いはありません。廃案に比べたらマシなのです。

 

*1…例えば、昨年大変話題になった特例公債法案は、通常国会で廃案になったあと、再び閣議決定して臨時国会に再提出しています。(bloomberg.co.jp:『財務相:特例公債法案を閣議決定、再提出へ?減額補正は提案受け検討』

参考文献


廃案と継続審議の違い


2013年6月15日追記:この記事では、議決効力の不継続の点しか考慮していません。継続審議と廃案はやはり別物です。継続審議の意義に関する現在の見解は『廃案と継続審議の違い(決定版)』を御覧ください。

国会での法案の審議プロセスと時間について考えてきました。とりわけ、法案が会期末までに成立しない場合廃案になるという会期不継続の原則のもとで、法案が廃案になる場合と継続審議になる場合の違いについて調べてきました。現時点での考えを書いてみます。

■継続審議と廃案に違いはない?

衆議院で可決した法案が参議院で議決に至らず、継続審査の手続をとったとします。このとき、次の国会で可決したとしても、また衆議院で可決しなければ成立しません。ちなみに、この根拠となる法律が国会法83条の5(*1)なのだそうですが、あっさりしすぎていて私には解説がないと理解できません。この点を解説している本を探してます。

同一のケースで参議院で審議未了により廃案になったときは、継続審査した場合でさえ、次の国会で両院の議決が必要になるのですから、衆議院に法案を提出するところからやり直しなると考えたほうがよさそうです。

同一会期中に両院で可決しなければならないので、継続審査しようが廃案になろうが、どちらもかわりないように思えます。あとは、83条の5のケースで衆議院に法案が戻ってきたときに、衆議院でどのように対応するかにかかっています。そのときの対応が、再提出のものと異なれば、継続審査と廃案に若干の違いが出てきます。

■会期不継続の原則自体に強力な制約がある

継続審議と廃案の違いについて調べるために、国会の法案審議の手続について書かれた本を読んできました。読んできて思ったのは、廃案と継続審議の違いよりも、会期で一区切りつけられてしまう会期不継続の原則自体に相当な制約があるということです。

会期不継続の原則の存在と国会の会期が150日程度しかないことにより、限られた会期で成立しなかった法案はふりだしに戻り、成立を目指すにはまた最初からやり直さなければなりません。そのため、その法案が重要であればあるほど、ひとつの法案にかける時間が多くなり、その分他の法案の審議や、新しい法案の準備などの時間がなくなっていきます。

これは、政府・与党にとって相当な制約です。時間も、お金も、人的資源も使います。法案を否決しなくても、これだけのダメージを政府・与党に与えられるのですから、野党が審議拒否をしがちなのもわかります。

*1…国会法第83条の5 甲議院の送付案を、乙議院において継続審議し後の会期で議決したときは、第83条による。


法案審議のプロセス


 政府提出法案の審議プロセスを発見しました。簡単に書いてみます。

  1. 先に審議する議院の議案課が議案を受け取る
  2. 議案課で所定の手続を行う
  3. 議院運営委員会で、審査する委員会を決める
  4. 議院運営委員会により、本会議で議案提出者に趣旨説明を求めることを決めたとき、本会議で趣旨説明と質疑応答を行う
  5. 委員会審査開始。提出者が趣旨説明をする
  6. 議案に関する質疑を行う
  7. 場合によっては、公聴会を開催する
  8. 採決する。委員会審査終了
  9. 議院運営委員会で議案の本会議上程日を決める
  10. 本会議で採決する
  11. 本会議で可決したときは、後に審議する議院で1〜10を繰り返す
  12. 両院で可決したら、後に審議する議院の議長と事務総長名で、法律の公布を天皇に奏上する

 このプロセスは、村川一郎『政策形成過程』(信山社)、伊藤光利・田中愛治・真渕勝『政治過程論』(有斐閣アルマ)、大山礼子『国会学入門 第2版』(三省堂)から、私がまとめて書きました。

 一点補足します。議案課というのは、国会議員ではなく国会職員が務めています。国会職員は各議員で独自に任用された、国会運営に従事する人たちです。この国会職員のトップが事務総長です。

 国会でこれだけの過程を経ないと、法律はできないわけです。あとは、「閉会中審査」または「継続審査」した議案の審議プロセスがわかれば、前回の記事(時間切れになった議案について)の疑問である、「廃案後再提出になった議案と、継続審議になった議案の違い」がわかるはずです。

 ところで、両院で可決した法律の公布を天皇に「奏上」したのち、天皇が法律を公布します。奏上とは「天皇に申し上げること」であり、議長は天皇にへりくだっているわけです。現在も天皇の権威というのは生きていて、国会よりも上にあるということなのでしょう。日常ではなかなか天皇の権威というものを意識しないので、こういう言葉や慣習を見つけると、少したじろぎを覚えます。こういうところも、政治制度を調べる面白さのひとつです。




時間切れになった議案について


 2012年9月4日現在、今年の通常国会もあと4日で会期―国会の活動期間―が終わり、閉会となります。話題になった赤字国債発行に必要な特例公債法案や、衆議院の選挙制度改革法案をはじめ、採決されていない議案がいくつもあります。審議途中で国会が閉会した場合、議案はどうなるのでしょうか。

 原則として、会期中に議決されなかった場合、議案は廃案となります。廃案になった法案をもう一度審議したい場合は、次回の国会に改めて提出して最初から話しあわなければなりません(国会法68条)。これを「会期不継続の原則」といいます。

 この原則には例外があり、衆議院では「閉会中審査」、参議院では「継続審査」する議決があれば、次の会期に引き継ぐことができます。ただし、次の国会までに衆議院の総選挙がある場合は、すべて廃案になることになっています。

 大山礼子『国会学入門』などには、会期不継続の原則があるために審議時間が限られてしまうと書かれています。審議時間が限られると、野党は審議時間を引き伸ばすことで議案を廃案にすることを目指すようになり、審議拒否など審議に消極的になってしまうのです。

 今まで、なんとなくこの説明で納得していました。しかし、よく考えてみると、法案審議で経なければならないプロセスとその所要時間がわからないことには、廃案になることと、継続審議になることの違いがよくわかりません。この点が、はっきり書いていてある記述が見つけられず、ちょっと困っています。

 また、参議院のサイト(http://www.sangiin.go.jp/japanese/aramashi/keyword/keizoku.html)によれば、参議院で「継続審査」した議案は、次の国会でそのまま審査出来るのに対し、衆議院で「閉会中審査」した議案は、会期の始めに議案を審査する委員会を決め直すと書いてあります。衆議院において、廃案になった場合と閉会中審査した場合の違いがいまいちよくわかりません。

 この点を、引き続き調べていきます。