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与党のコントロール手段としての党内手続き


 2012年12月28日現在。政府は通常国会の召集日を1月28日にする予定、という記事が今朝の日経朝刊に出ていました。28日にするなら、23日か29日がいいと思います。理由は、28日は仏滅ですが、23,29日は大安だからです。それだけです。

■与党のコントロール

 さて、安倍首相の国会運営が順調に進むかは、野党と与党を同時にコントロールできるかにかかっています。主義主張の違う野党の対応も大変ですが、与党の対応も大変です。与党をコントロールできなければ、なにもかも決まらないからです。

 党に所属する議員に賛成票を投じることを強制する「党議拘束」は、党をコントロールする手段のひとつです。自民党の場合は、総務会という機関で可決された法案に対して党議拘束がかかる仕組みになっています。また、総務会で可決されて初めて、法案が閣議決定され国会に提出されるのが慣例です。つまり、総務会の可決を得られない法案は、国会で審議されないことになります。

■党内手続き

 自民党内では、法案がこの総務会で審議されるよりも前から、法案について審議しています。政策分野別に分かれた政務調査会部会や、政務調査会審議会が議論の場となり、部会から総務会に至るまでの党内審議の手続きを「与党内審査」「党内手続き」と呼びます。

 与党内審査は、官僚が既存の法律や前例、関係団体の現状などをふまえて作成した法律に、初めて公式に政治家が意見をぶつける議論の場です。そのため、政治家が政策を主導する「政治主導」の文脈で語られることが多いです。

 同時に、党内の意見をまとめるための儀式の役割も担っています。特に総務会は全会一致なので、意見が違う議員にも、「みんなで決めたんだから、本会議で賛成しようよ」ということで、党議拘束をかける正当性が出てくるのだと思います。

 ちなみに、総務会で最後まで法案に反対する総務は、採決の前に反対である旨を発言してから席を外すことで、結果として全会一致にするそうです。

■総務会、政務調査会を活用する

 総務会や政務調査会で行われる党内手続きは、与党をコントロールするために重要です。そして、総務会の会長や、政務調査会の会長は幹事長と並んで「党三役」と呼ばれるほどの重要ポストです。

 安倍首相は、党内手続きを活用し、議論の行方をうまくコントロールすることで、首相が目指す政策に合った法案を与党議員に賛成させる必要があります。


294議席を武器にするために


■新人議員の初登院

 2012年12月27日現在。昨日26日は特別国会の召集日で、先日の衆議院総選挙で初当選した人が、国会に初登院した日になりました。

 今朝の朝刊で、今回294議席を獲得した自民党の石破幹事長が、新人議員に対して訓示したという記事がありました。やれ「年末年始の予定を出せ」だの、「本会議中に席を外したときは、トイレか中座かチェックする」だの言われ、「ここは小学校か」という声が漏れたとか。

 記事では、「大幅に増えた議席によって新人議員も増えた。新人議員の不注意によって政権を危機に陥らせないようにする自民党執行部の苦労が見える」というようにしめていましたが、大幅に議席が増えたことによるリスクは、新人議員だけにあるわけではありません。

■294議席の統制

 多くの議席を武器にするために絶対的に必要な条件があります。それは、多くの議席を完全に統制することです。

 少なくとも、国会の本会議の採決の際だけでも議席を統制する、つまりすべての議員に賛成票を投じさせることができなければ、議席数はなんの意味もありません。現在の自民党で言うと、294議席が一体となって動かなくては、なにもできなくなってしまうのです。

 参議院で否決された法案を衆議院で再議決して成立させるには、公明党の協力も得なくてはならないので、自民党はなおさら自らの議席をがっちりと握っていなければなりません。新人議員にとどまらず、すべての議員をコントロールしなければ、政権運営は立ち行かない訳です。

 これは、民主党政権で造反者や離党者が続出したことからもうかがえます。民主党は前々回の衆議院総選挙で300を超える議席を獲得したのにもかかわらず、今年11月の解散時には230議席と、過半数の241議席を下回る数になってしまいました。このようなことでは、政権運営どころか政権の維持すら難しいです。現に、民主党は政権を失ってしまいました。

 党はひとつとはいえ、人はひとりひとりみんな違います。大体同じ主張でも、どこかで違いもでてきます。これを294人分統制するのは並大抵のことではありません。そのためには、党内の政策グループである派閥をうまく使う必要もでてきます。

 総裁一人で300人分支配することがむりでも、人数が50人程度ならなんとか支配できるかもしれません。派閥をうまくおさえることで、党内をまとめあげ、国会運営の不安要素を減らして、政権運営を安定させることができます。

 安倍首相は大変です。野党だけでなく、公明党、そして自民党もしっかりコントロールしないといけないのです。野党対策だけでなく、自民党対策もまた、注目すべき点のひとつです。


首班指名選挙と参議院の情勢


 2012年12月26日現在。衆議院と参議院の両院で自民党の安倍総裁が内閣総理大臣に指名されました。

 昨日書いた記事では、参議院の「議席数から考えると、今日中に決まる予定の民主党の新代表が一番多くの票を得る」と書きました。しかし、参議院のサイトを確認すると、民主党の87議席に対し、自民党(83)と公明党(19)をあわせる102議席となっています。第一回投票から安倍さんが一番多くの票を得ることは決まっていたわけです。間違えてしまいました。

 第一回投票で過半数を獲得した候補者がいなかったため、安倍さんと民主党の海江田代表で決選投票が行われ、安倍さん107票、海江田さん96票で安倍さんが指名されました。自公や民主党以外のほとんどの党は白票を投じ、その数は30票にのぼりました。また、新党改革や新党大地は安倍さんに、日本未来の党は海江田さんにそれぞれ投票したようです。

 この決選投票の結果得た票数を自公がコントロールできる議席数とみると、自公が参院を動かすのに必要な議席はあと12〜15議席程度となります。幅があるのは、現在参議院に欠員が存在していて236議席となっているためです。

 安倍さんが目指している日銀法改正など、民主党が対決姿勢をとるとみられる案件については、この12〜15議席をなんとか工面しなければなりません。

 民主、自民、公明に次ぐ議席を持つのは、11議席を保有するみんなの党です。みんなの党もまた、日銀法改正や積極的な金融政策の活用を訴えているため、自公と協調する場面があるかもしれません。ただ、みんなの党の議席を加えても過半数にはまだ届かないため、民主党議員を造反させるか欠席させる(欠席がでると過半数ラインが下がります)、または国民新党や日本維新の会から協力を得るなどしないとならないでしょう。

 自公が参議院で協力を得るには、衆議院でも少数政党に配慮した議会運営が必要になると思われます。衆議院での振る舞いによって、参議院で報復される可能性があるからです。衆議院で多数をの議席を持っていても、参議院に配慮しないといけないわけですね。


特別国会召集


 2012年12月25日現在。先週末22日に「平成二十四年十二月二十六日に、国会の特別会を東京に召集する詔書」が渙発されており、明日26日に特別会、いわゆる特別国会が開かれます。この特別国会の主な役割は、何と言っても新しい内閣総理大臣を決めることです。これを「首班指名選挙」といいます。この前の衆議院総選挙の結果、自民党と公明党は衆議院で大量の議席を獲得したので、新しい総理大臣には自民党総裁である安倍衆議院議員が指名される見込みです。

 その他の案件と同じように、参議院でも総理大臣の指名をします。衆議院は自公が圧倒的な勢力を擁していますが、参議院はいまだ民主党が第一党の座を保持しています。参議院で誰が総理大臣に指名されるかは大変興味深いです。

 議席数から考えると、今日中に決まる予定の民主党の新代表が一番多くの票を得ることになります。ただし、首班指名選挙においては過半数の票を獲得した候補がいないとき、上位2名による決選投票を行うことになります。民主党は参議院で一番多くの議席を擁していますが、過半数にはとどかないため、民主党代表と安倍さんの決選投票が行われるはずです。

 このとき、民主党と自民党・公明党以外の勢力がどちらに投票するかで、参議院が自民党・公明党に近くなるか、最初から遠くなるかがわかります。

 総理大臣の指名も、予算と同じように衆議院の優越があり、最終的には衆議院で指名された国会議員が総理大臣になります。ほぼ確実に成立する安倍内閣にとって、参議院は話せる相手になるのか、それとも完全な敵になるのか。

 明日の特別国会を注目しています。


変わらない自分と選挙


 過去の行動と整合性のある行動をしようとすることがあります。ちょっと変なたとえをすると、ポイ捨てしている高校生を見かけたとして、「以前ものすごく怖そうな人がポイ捨てしているときは注意しなかったのに、この子を注意するのはいけないんじゃないか」、と思ってやはり何も言わないようなものです。

 こういう行動の粘着性みたいなものは何によって高まるのでしょうか。過去の自分と現在の自分、そして未来の自分が同じでありたいという気持ちがそうさせるのでしょうか。

 それはさておき、過去の行動と整合性のある行動をしようとするのは、個人だけでなく組織、国家レベルでも同じではないかと思います。例えば、「過去のAにたいしては、Bと対応して一定の成果をあげているので、それと同じA’に対してもBと対応する」というような前例踏襲型の行動は、説得力があります。この場合の説得力とは、行動に対する正統性です。国の場合、行動するのは国家権力で、行動の対象は国民になるので、国家から国民に対する説得・理由の説明がしやすいということになります。

 ただ、前例踏襲型だと、新しい事態に対応することは難しくなります。特に、対象自体は変わっていないのに、今までの対応が全く効果をあげなくなったような場合は、厄介です。どこかで行動を見直さないといけません。

 政治が国家の習慣形成の過程だとすると、政権交代とは、元旦の決意のようなものだと思います。ずーっと何となく停滞してきたところで、ある機会にガッと決意して新しい習慣を打ち立てようとするわけです。国家の場合は、憲法で選挙の間隔=決意の機会が定められているので、新しい行動をする機会がその分増えます。

 一個人の場合はなかなかそういう義務としての決意の機会はないので、なかなか変われないのかもしれません。変わるという観点からみれば、現在の衆議院総選挙でとられている小選挙区比例代表並立制はなかなかいいです。そういう制度を自分にも構築できると面白いかもしれません。

 2009年の衆議院選挙の民主党圧勝と、今年の選挙の自民党圧勝から、「触れ幅の大きい小選挙区制は危険じゃないか」、「安定を求めるなら、中選挙区制の方がいいのではないか」という意見がちらほらみられるようになってきました。しかし、変わることと同じくらい、「変わらないこと」にもリスクがあることを考えると、一概に今の選挙制度が悪いとは言えないと思います。


参院対策が必要な理由


 自民・公明両党は、先日の選挙で衆議院の三分の二を超える議席を獲得しました。衆議院で三分の二を超える議席を持っているということは、民主党がいまだ第一党の座を死守している参議院で法案を否決されても、衆議院でそれを再可決し成立にこぎつけられるということです。とはいえ、参議院を無視した国会運営ができるわけではありません。例えば、日本銀行の総裁などは内閣が任命するのですが、任命には衆参両院の同意が必要です。この同意に関しては、法案と違い再可決の規定がないので、参議院が同意せず、話し合いにも応じない場合、どうにもならなくなってしまいます。そして、少なくとも来年の7月までは法案についても再可決は難しいです。そう考える理由は、「スケジュール」と「可処分時間」にあります。

 「スケジュール」というのは、来年7月に控えた参議院選挙のことです。選挙前には国会を閉じなければならないので、来年の通常国会は6月末で終わりになります。今年の通常国会は6月21日までであったところを、9月8日まで延長されましたが、来年はそんな大幅な延長はできません。

 ここで、「可処分時間」が問題となります。実は、衆議院の再可決の制度には二つの制限があります。その制限を乗り越えないと再可決の権利を行使することができません。ひとつは、もちろん参議院で法案が否決されること。もうひとつは、衆議院から参議院に法案が送付されてから60日経過することです。これは憲法59条の2項と4項に定められています。

 これがどういうことかというと、ある法案が参議院の本会議で採決せずに放っておかれた場合、衆議院で可決されてから60日過ぎなければ、衆議院で再可決できないということなのです。下手に否決すると、すぐ衆議院で再可決されて法案が成立してしまうので、本気で自公に抵抗するなら、採決を先送りし続けるのが一番合理的な行動になります。

 この制度上の事実と、来年7月に参院選があることを考えると、ひとつの結論が導かれます。通常国会の延長が6月末頃になる以上、再可決できる法案はそう多くはないということです。

 通常国会では、普通、その年の予算審議が行われます。そして、予算案は法案よりも優先して審議することになっているので、ほとんどの法案が予算が衆議院を通過してから実質的な審議に入ることになります。もし、3月中に予算案が衆議院を通過したとしても、7月までに通常国会を閉会しなければならない場合、法案を審議できるのは、4,5,6の3ヶ月になります。3ヶ月は90日です。衆議院・参議院の法案審議の中心となる、委員会の定例日が週2〜3日であることを考えると、参議院が審議拒否を貫いたら、ひとつの法案に60日かかっていれば、成立させられる法案が少なくなることは明白です。また、再可決を多用することで、与党が自分勝手に国会運営をしている印象になり、世論の反発を生む可能性もあります。

 自公が立法を通じて日本のタスクリストを本格的に再構成できるのは、来年の秋、臨時国会意向になるでしょう。しかし、その前の参議院選挙で自公が勝利しなければ、今よりさらに難しくなります。そして、参議院選挙で勝つためには、通常国会中に実績を出さなければなりません。日銀総裁人事などは、自民党の総裁選の最中にも言及していた、安倍総裁が最も重視している政策のひとつになるので、これを思い通り動かせなければ話になりません。そのためには、現時点での参議院の多数派工作が大変重要になるのです。

 自民党・公明党の勝ち過ぎを心配しているみなさん。みなさんの心配は杞憂です。日本国憲法は、こういうときのために、選挙制度の違う第二院を設置したのです。まずは、憲法を信頼しましょう。


参議院対策は必要か


 2012年12月17日現在。昨日16日に衆議院総選挙の投開票が行われました。自民党と公明党が480議席のうち325議席獲得するという結果になりました。対する与党民主党は選挙前の231議席から57議席と大敗北です。野田首相は、すでに民主党代表を辞する意向を示しています。

 さて、今年中にも安倍新内閣が誕生するとみられています。年明けからは、予算審議が始まります。まずは、予算でどれだけ独自色を出せるかが見所です。予算案は法案より先に審議することになっているため、安倍自民を中心とする政権が新たに日本のタスクリストに加えるタスク=法案を作り上げるのは、来年の4月以降になるでしょう。

 ただ、参議院では民主党がいまだ第一党です。第一党とは、参議院に議席を持つ会派の中で一番多い議席を持っているということです。自民党83議席に対して民主党87議席と、なんとか自民党を上回っています。自民党と公明党の議席をあわせても参議院の過半数に達しないため、このままでは、自民党と公明党は参議院をコントロールできません。参議院のコントロールなしに、法案を成立させることはハードルが高いため、参議院においてなんらかの対策が必要になります。

 「あれ、自公で衆議院の三分の二を占める議席を持っているんだから、参議院で法案が可決しなくても衆議院で再可決すればいいんじゃないの?参議院の過半数必要?」と思われるかもしれません。私は、「スケジュール」と「可処分時間」の観点から、参議院対策は必要不可欠だと思っています。理由はまた明日。


派閥政治と「三木おろし」


 以前の記事で書いた、福田派・大平派・田中派による三木武夫内閣倒閣運動である「三木おろし」について感じたことを書きます。

 そもそも、少数派閥のリーダーである三木が自民党総裁、そして総理大臣になれたのはなぜでしょうか。今年の9月にやったような総裁選をやって決まったのかというと、実はそうではありません。話し合いでもありません。指名で決まりました。いわゆる「椎名裁定」です。

 椎名とは、当時自民党の副総裁だった椎名悦三郎です。首相は田中角栄でした。就任早々の1972年の12月の衆議院総選挙で敗北し、その翌々年、1974年7月の参議院議員選挙で敗北し与野党を伯仲させた田中は、週刊誌発のスキャンダルによって追い込まれていました。総理総裁の座を争った三木や福田赳夫も閣僚を辞任し、倒閣に動きます。このとき、ポスト田中の有力候補だったのは福田と、閣内に残り大蔵大臣を務めていた大平正芳でした。

 総裁選をやれば、自派に加えて田中派の票を獲得できると大平が有利だとみられていました。しかし、田中のスキャンダルの原因が、派閥の伸長により総裁選挙での派閥対立が激化し、票を集めるために多額のお金が動いているのではないかというものだったため、選挙をするのも難しい情勢なってしまいます。大平も福田も「次は絶対に自分」と思っていたため、壮絶な争いが起こることが容易に想像できたからです。

 選挙でないのならば、話し合いという手法が考えられます。ただ、話し合いで大きな影響力をもつとみられる岸信介や佐藤栄作などの長老は親福田であったため、話し合いになれば福田有利だと見られていました。

 選挙か話し合いか、どちらを選ぶかで次の総理総裁が決まってしまうような状況だったため、どちらかを選んでも、不利になる派が反発する苦しい状況です。最悪、反発した派が党を割る可能性さえありえるとまで言われました。

 田中に後継者選出を一任されたという椎名が、大平・福田の対立をうまくかわし、党分裂の危機を防ぐため、白羽の矢を立てたのが三木でした。三木は自民党のなかでも左派であり、常に野党と連携するのではないかと言われていたため、三木の離党を防ぐという狙いもあったと言われています。こういう経緯で、少数派閥の総理総裁が誕生したのです。ある意味、三木内閣は派閥政治の産物だと言えると思います。選挙をやっていたら、三木はまず総裁になれなかったと思うからです。

 少数派閥の総理総裁は、党内の支持基盤が弱いため、政権運営、ことに国会運営がとても難しくなる危うさをはらんでいます。国会で予算や法律を作るには、衆議院と参議院の両議院の過半数を持っていなければなりません。そして、政権与党であるということは少なくとも、衆議院で与党勢力が過半数を持っているということですので、衆議院では予算や法律を可決できる能力があることになります。なぜなら、与党は内閣に協力するだろうという、前提があるからです。そして少数派閥の政権の場合は、少ない人数で党内の多数の派閥をコントロールしなければ、与党に協力させられない可能性がでてきます。野党どころか、与党のコントロールからして、そもそも難しい立場に立たされるのです。この場合、参議院の議席の多少はもはや問題になりません。衆議院だろうが参議院だろうが、少数派閥の政権は、建前ぬきに党内多数派の協力を得なければ政権を維持できないのです。

 与党のコントロールができなくなった状態が、「三木おろし」知られる、一連の三木内閣倒閣運動です。もともと福田と大平の総理総裁への野心が大きかったために両者は激しく対立していたわけです。総理になるためにお互いが協力して三木を退陣させようとするのは当然の流れだと言えます。

 「三木おろし」により政治は停滞し、その年の臨時国会召集と赤字国債発行を可能とする財政特例法案の成立が危ぶまれる事態に陥ります。しかし、三木は恐ろしい粘りと執念をもってこれを乗り切りました。任期満了前の解散さえ打てなかったものの、自らが総理として1976年12月に衆議院総選挙を戦うことがでたのです。その結果、自民党は敗北し、三木は退陣、福田と大平は手を結び、福田が次の総理大臣になりました。

 三木内閣の興亡をみると、中選挙区制が派閥を育て、派閥の影響力が拡大すると党内抗争を抑えるために、少数派閥の政権ができ、少数であるがゆえに政権運営が困難になり、政治が停滞するという、一連の流れを感じます。政治停滞のひとつのパターンとして、「三木おろし」は研究に値すると考えています。


中選挙区制と小選挙区制


2012年12月11日現在。

「決められない政治」に代表されるような、今日の政治停滞の原因は現行の小選挙区比例代表並立制にあるとして、中選挙区制を復活させようとする意見があります。ここで、小選挙区と中選挙区の性質をまとめてみます。

中選挙区制では1つ選挙区で3~5人が当選するようになっています。1つの選挙区から複数の候補者が当選するということは、同じ政党の候補者同士が争う可能性を生みます。政党が多くの議席を取ろうとするなら、1つの選挙区になるべく多くの候補者を出馬させるからです。

他党だけでなく同じ政党の候補者とも戦わなくてはならなくなることで、自分が確実に当選するためには所属政党からの支援だけでなく、独自に選挙資金を集めたりして選挙戦を戦わなくてはならなくなります。そのため、政治家個人に対する献金を受け取る政治団体が必要になります。当然、お金もかなりかかります。

また、個人だけでは限界があるため、政党内の政治グループからも支援を受ける必要があります。政治グループは、グループのリーダーを党首、そして首相にするため、自らのグループの議員をより多く必要とします。確実に当選したい候補者と、自らの勢力を増やしたい政治グループの思惑が合致しているのです。この政治グループが、いわゆる派閥です。派閥同士の対立が激化し、1つの選挙区で同じ政党なのにも関わらず、違う派閥に属しているがために、ものすごいお金をかけて戦うようにもなりました。派閥の影響力拡大と、お金がかかることが、中選挙区の特徴とされています。

中選挙区の特徴には他に、投票した候補者が落選してしまう死に票が少なく、多様な意見の反映が期待されるので、急激な議席の変化が起こりにくいことが、よく挙げられます。

小選挙区制は、1つの選挙区で1人が当選するため、政党ごとに1人だけ候補者を立てることになります。選挙で戦うのはすべて他党なので、所属党からの支援と自分の政治団体だけで戦えば足りることになります。党が全面的にバックアップするので、あえて派閥に頼る必要がなくなります。小選挙区制に変えたときに、企業献金を個人でなく党でのみ受け取るようにしたり、政党交付金と呼ばれる国費による政党助成制度ができたりしたことで、派閥から政党(幹事長)に候補者支援の主体が移っていったことも、派閥や派閥的な政治グループの影響力の低下を促しました。実際、与党民主党には自民党の派閥ほど統制がとれた政治グループが存在していないと言われています。派閥の影響力の低下と、個人で集めるお金が少なくなることが、小選挙区の特徴とされています。

小選挙区の特徴には他に、死に票が多くなることで、多様な意見が収斂されるため、二大政党化を促進し、急激な議席の変化を促すことが、よく挙げられます。


ポリティカルタスクリストを活用できるか


 2012年12月10日現在。衆議院総選挙の投開票まで1週間を切りました。選挙戦も盛り上がってきました。早く国会が始まってほしいなぁと思いながら、毎朝ドーナツを食べています。

 まだ投票していないので、政治とタスクリストに書いたポリティカルタスクリストを自分で作ってみようと思っています。日々の仕事でプロジェクトを遂行する為の個々の項目表や、自分の習慣を変えたり、維持したりしながら目標達成に進んでいくための行動遂行予定表をタスクリストといいます。ポリティカルタスクリストとは、政党や政治家の政権公約、マニフェスト、アジェンダなどと呼ばれているの政策課題集を「国家のタスクリスト」と捉えたものです。

 私は、次のようにポリティカルタスクリストの考え方を投票にいかそうと思っています。

 個々の政策で考えると、あまりに抽象的で漠然とした政策や、逆にあまりに具体的で国家全体からの意義が見えづらい政策が入り交じり、どの党に・誰に投票すればいいのかわからなくなります。そこで、政党や政治家の主張を、「国家のタスクリストに加えたい事柄」「タスクリストから除きたい事柄」「タスクリストの優先順位を変えたい事柄」というように大雑把に分類します。そして、自分の現在の立場や今後どうなりたいかなどを考え、自分のためのポリティカルタスクリストを挙げていきます。

 「財政再建」と「福祉の充実」といったような一見矛盾するようなものがあっても気にしないでいいと思います。時間を考慮に入れれば、財政再建を果たしてから景気を回復させ、経済成長によってできた余力を福祉にまわしていくということもあり得るからです。ただ、どちらを先にやってほしいかという順番は気にした方がいいかもしれません。例えば、風邪をひいた人に、風邪薬を渡したあと乾布摩擦用のタオルを渡すのか、タオルを渡してから風邪薬を渡すのかでは、長期的に同じ結果になっても短期的な状態にはかなり差があると思います。自分はあんまり急いでないし、風邪も軽いので先に鍛えておこうと思うか、逆にものすごくつらいので今すぐ風邪薬を飲んで寝たいのかは人によって違います。

 ほとんどの政党や候補者の主張が同じに見えるとか、違いが見えないとかテレビで言っている人がいます。もしかしたら、総合的には同じかもしれません。結局、国を豊かにするとか、平和にするとかを目指しているのですから当然といえば当然です。総合的には同じですが、おそらく順番に違いがあるのです。順番が違う程度のことをあんまり気にしすぎるのもよくないかもしれません。そういう風に言っている人もいます。ただ、時間は有限なので、何から先に取り組むかで大激論になるのも無理はないと思います。私は、順番は大事だと思っています。長期的にはみんな死んでるからです。

 ここで自分のポリティカルタスクリストを書いていこうかと思いましたが、やめました。セミナーのワークショップなどで、自分のタスクリストを発表するのも恥ずかしいですが、ポリティカルタスクリストになると、恥ずかしい以上の抵抗を感じます。自分のタスクリストに従うのは自分だけですが、ポリティカルタスクリストは自分以外の人を巻き込むからです。他人のタスクリストに自分がまずしないようなことが書かれていてもあまり気になりません。だいたい自分とは関係ないからです。しかし、それがポリティカルタスクリストになると、その遂行のために国が動きます。国が動くということは、全国の役人が動き、税金が投じられるわけです。税金を払うのは言うまでもなく、私たち国民全員です。まだ有権者でない高校生だって消費税は払います。この点から、ポリティカルタスクリストを公表するのにはものすごい勇気がいります。

 そういう私からすると、政治家や政治家志望のみなさんは、まさにご自身のポリティカルタスクリストを公開しているわけで、すごいなぁと思います。できれば、詳細なポリティカルタスクリストを作って、会期ごとに見直し、できたかできなかったかチェックして、次の会期までにタスクリストを調整するような人や政党が出てくると面白いし、選ぶときにわかりやすいと思うんですけどね。そうなると、国会の手続きを調べている私みたいな人間にも世の中の役に立つチャンスがあるかもしれません。「リスト上位の項目に関係する○○法案が会期末なのに委員会審査も始まってないぞ!やる気あるのか!」みたいなツッコミをバシバシ入れていくのも面白いかも。