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2013年12月4日の本会議-記名投票要求と休憩動議


2013年に開かれた臨時国会(第185回国会)の最大のイベントは特定秘密保護法案の審議でした。土日を含んで50日程度という短い時間のなかで何が何でも法案を成立させたい与党と、時間切れで廃案か継続審議に持ち込もうとする野党、特に民主党との間で熾烈な争いが繰り広げられました。2013年12月4日の参議院本会議も、そのひとつです。

■経過

2013年12月4日。午後1時22分に参議院本会議が開かれました。以下、『参議院インターネット中継』の動画の経過時間で追っていきます。

  • 7分 開議
  • 10分 日程第一〜第三の条約承認を求める件、外交防衛委員長報告終了
  • 11分 採決 記名投票要求があったことを議長が告げ、記名投票になる
  • 12分 議員の点呼開始
  • 17分30秒〜18分50秒 ゆったり投票する議員が集中
  • 23分 賛成236、反対0で可決
  • 24分29秒 日程第四の法案について、政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員長が登壇し発言を始めたところで、議場から「議長」という呼び声
  • 24分52秒 石井準一議員が暫時休憩することの動議提出
  • 25分34秒 動議可決、本会議休憩

■採決の種類と記名投票の特徴

本会議での採決には、賛成の議員に起立を求める起立採決、演壇の投票箱に賛成の白票、反対の青票を議員一人一人が投票する記名投票などがあります。また、参議院のみ議席で賛成反対のボタンを押して投票する、押しボタン式投票というものがあります。

記名投票を求めるには、本会議に出席している議員の五分の一以上の要求が必要です。参議院の定数は242人です。

本会議に全員出席なら、五分の一以上、242÷5≒49人の要求があれば足ります。4日の日程第一から第三の採決では、57人の要求がありました。本会議の欠席者いれば、もっと少なくてもよいはずです。衆議院の定数は480人なので、本会議に全員出席なら96人の要求で記名投票になります。

参議院での民主党の議席は58議席ですので、民主党は単独で記名投票を要求できます。

しかし、衆議院の民主党の議席は56議席です。本会議で200人以上の欠席者が出ないかぎり、民主党単独では記名投票を要求することはできません。確実に記名投票にするためには、53議席を持つ日本維新の会の協力が不可欠です。

維新の協力が得られない場合は、維新以外のすべての野党会派と数名の無所属議員の協力を得なけれなりません。

実際、12月6日の衆議院本会議での安倍内閣不信任決議案採決において、民主党は維新の協力を得られませんでした。他の野党の協力も得られず、不信任決議案としては31年ぶりの起立採決となりました。

■記名投票の狙い

野党にとっての記名投票の目的は、採決に時間をかけることによる審議の引き伸ばしです。4日の投票では、12分ほどかかっています。おそらく、スムーズにいけばもっと短くなるでしょうが、動画を見るとわかる通り、ゆったり丁寧に投票する議員がいるので10分以上かかるのです。

この本会議で予定されていた議題は12件ありました。もし、そのすべての採決を記名投票で行ったらどうなったのでしょうか。いくつかの議題をまとめて採決することもあるので、だいたい9回採決の機会があります。9回×12分=108分くらい採決だけでかかる計算になります。本会議が終わるのは、午後3時30分〜4時くらいになります。

4日の午後には国家安全保障に関する特別委員会の地方公聴会が予定されていました。地方公聴会の会場は埼玉県さいたま市大宮です。

この地方公聴会は特定秘密保護法案の採決の前提となるものです。採決の前提になるというのは、地方公聴会が終わるまでは、採決までいけないということです。

地方公聴会は委員会審査のひとつで、本会議中に平行して委員会を開くことは原則できません。よって、本会議が終わるまで地方公聴会はできないことになります。

民主党の記名投票要求は、この地方公聴会を翌日に先送りすることを狙ったものだとされています。

すべての議案を記名投票し、午後4時に本会議が終わるとします。それから大宮に行ったとすると、午後5時30分には地方公聴会を開けるように思います(身支度して東京駅に着くまでに30分。東京駅から大宮駅まで新幹線で25分。地方公聴会を始める準備に30分程度かかる想定)。

具体的に何時くらいがデッドラインだったのかはよくわかりません。新幹線の座席や会場、地方公聴会で意見を述べる公述人の都合などを考えると、午後5時30分から地方公聴会を開くのは無理なのかもしれません。

■与党によるタスクの組み替え

なんとしても4日中に地方公聴会を開きたい与党はどうしたでしょうか。与党は採決前に、しかも委員長の報告中に本会議の休憩動議を提出します。『残りの議案の採決』→『本会議散会』→『地方公聴会』という順番から、『本会議休憩』→『地方公聴会』→『本会議再開』→『残りの議案の採決』という順番にタスクを組み替えたわけです。

先に公聴会を済ませてしまえば、本会議で多少時間がかかっても特定秘密保護法案の審議が遅れることはありません。民主党の記名投票要求による議事妨害は不発に終わってしまったのです。

参考:参議院規則
第137条 議長は、表決を採ろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、その起立者の多少を認定して、その可否の結果を宣告する。
議長が起立者の多少を認定し難いとき、又は議長の宣告に対し出席議員の五分の一以上から異議を申し立てたときは、議長は、記名投票又は押しボタン式投票により表決を採らなければならない。
第138条 議長は、必要と認めたときは、記名投票によつて、表決を採ることができる。出席議員の五分の一以上の要求があるときは、議長は、記名投票により、表決を採らなければならない。
第139条 記名投票を行う場合には、問題を可とする議員はその氏名を記した白色票を、問題を否とする議員はその氏名を記した青色票を、投票する。
第140条 記名投票を行うときは、議場の入口を閉鎖する。


後議の院の審議は短くなる-第185回国会会期末


 2013年12月8日現在。12月6日に会期が2日間延長されたため、本日が第185回国会の会期末となります。

 特定秘密保護法案の審議は見どころがありました。与党と民主党で委員長の解任決議案をお互いに出しあったりとか、すごいです。だって、与党の解任決議案は数から言ってほぼ確実に成立しちゃうんですから、すごいとしか言いようがありません。

 他にも、民主党が本会議での法案の採決を時間がかかる記名投票にして国家安全保障特別委員会の公聴会の開会を翌日にずらそうとしました。しかし、すかさず与党が本会議の休憩動議を出して、採決自体を先送りし、採決よりも公聴会を先にしました。かなり面白かったのですが、あんまり面白がっていると「見世物じゃないぞ!」と怒られそうな気もします。でも、そういうのが好きなのです。

 民主党などの野党が特定秘密保護法案の成立阻止のために使った武器にどのようなものがあったのかは、また少しずつ調べて書いていきたいと思っています。

 さて、予想通り特定秘密保護法案が注目をあびているあいだに、様々な内閣提出法案が難なく成立していきました。このブログでは厚生労働委員会の動きを追っていました。最終週の、衆議院と参議院の厚生労働委員会の日程は以下のようになりました。

衆参厚生労働委員会日程(#185最終週)


12/2(月) 12/3(火) 12/4(水)
定例日
12/5(木) 12/6(金)
定例日
12/7(土) 12/8(日)
会期末
    生活(可決)   中国残留邦人
(可決)
がん登録推進
(可決)
請願の審査等
   


12/2(月) 12/3(火)
定例日
12/4(水) 12/5(木)
定例日
12/6(金) 12/7(土) 12/8(日)
会期末
プログラム
(参考人質疑)
プログラム
(質疑終局)
薬事
(趣旨説明)
中国残留邦人
(可決)
がん登録推進
(可決)
  プログラム
(可決)
薬事
(可決)
請願の審査等    

 社会保障プログラム法案、インターネットでの薬販売を解禁する薬事法改正案、生活保護法改正案など、懸案とされていた内閣提出法案はすべて委員会で可決され、本会議でも可決、成立しました。会期内の定例日を使い尽くす、無駄のないスケジュールになっています。

 生活保護法改正案や薬事法などは、先議の院の審議回数より1回少ない2回で採決されています。先議の院よりも、後議の院の方が審議時間が短くなる傾向があるみたいですね。2013年12月5日21時44分付の時事ドットコムの記事によれば、「参院は衆院の「7掛け」が通例とされる」そうです。参議院に限らず、後に審議する方が時間が短くなる傾向にあるのは間違いなさそうです。


参議院厚生労働委員会1日4法案審議(うち2法案可決)


 2013年12月4日現在。12月2日、参議院議院運営委員会は、9法案を本会議での趣旨説明を省略して各委員会に付託することを決定しました。付託された法案のなかには、民主党をはじめとする野党が本会議での趣旨説明を求めていた内閣提出法案がありました。このため野党は「委員長の議事運営が強引だ」として自民党の岩城光英議院運営委員長の解任決議案を提出しています。

 参議院厚生労働委員会にも12月2日に付託された法案はありました。まず、インターネットでの薬販売を解禁する薬事法改正案です。薬事法改正案は、12月3日に厚生労働委員会で趣旨説明(衆議院で言う「提案理由説明」)を終えています。

 次に、いずれも参議院議員発議である、「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の一部を改正する法律案」と「がん登録等の推進に関する法律案」です。こちらも12月3日同時に審議され、与野党の賛成で可決しています。

 ちなみに民主党は欠席でした。12月2日の9法案付託に反発して厚生労働委員会などの4つの委員会に欠席したということです。与野党で争いがない法案の可決に加わらないで、民主党にはどのようなメリットがあったのでしょうか。気になります。

 これで、衆参の厚生労働委員会の状況は以下のようになります。

衆参厚生労働委員会日程予想


12/2(月) 12/3(火) 12/4(水)
定例日
12/5(木) 12/6(金)
定例日
会期末
    生活   生活
(採決?)


12/2(月) 12/3(火)
定例日
12/4(水) 12/5(木)
定例日
12/6(金)
会期末
プログラム
(参考人質疑)
プログラム
(質疑終局)
薬事
(趣旨説明)
中国残留邦人
(可決)
がん登録推進
(可決)
  プログラム
(採決?)
薬事
 

 会期末の12月6日を使えば、薬事法改正案(衆議院での審議実績は3回)も余裕で成立しそうです。また、衆議院の厚生労働委員会の日程には余裕があるので、12月3日に可決した中国残留邦人自立支援法案とがん登録推進法案も成立しそうです。

 それにしても、いくら与野党で争いがない法案とはいえ、1日で可決されるのはすごいですね。会期末の参議院の委員会では、1日に4法案の審議ができるということがわかりました。


11月25日週と12月2日週の厚生労働委員会の実績と予測


 2013年12月1日現在。11月25日週と12月2日週の厚生労働委員会の実績と予測をまとめました。(下の表からは土日は除いています)



11/25(月) 11/26(火) 11/27(水)
定例日
11/28(木) 11/29(金)
定例日
12/2(月) 12/3(火) 12/4(水)
定例日
12/5(木) 12/6(金)
定例日
会期末
    薬事
(可決)
  生活
(提案理由説明)
    生活   生活
(採決?)


11/25(月) 11/26(火)
定例日
11/27(水) 11/28(木)
定例日
11/29(金) 12/2(月) 12/3(火)
定例日
12/4(水) 12/5(木)
定例日
12/6(金)
会期末
  プログラム
(提案理由説明)
  プログラム   プログラム
(参考人質疑)
プログラム   プログラム
(採決?)
 

 社会保障プログラム法案の参議院審議は、定例日外の12月2日に参考人質疑を行うことになっています。これで、他に定例日外の審議をしないとしても、会期末である12月6日までの審議実績は5回になります。衆議院の実績は6回なので、参議院の審議時間の相場が衆議院より若干短い場合は、採決までいく可能性があります。

 生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は、参議院の審議実績をふまえるとあと2回で採決できます。野党各党の力が特定秘密保護法案に集中しているので、今国会中の成立は間違いないでしょう。

 この表をつくるために、衆議院参議院のサイトの情報を使いました。具体的には、衆議院は衆議院公報と委員会ニュースを、参議院は参議院公報と委員会経過を使いました。

 ところで、参議院は当日中に参議院公報を出してくれるのですが、衆議院は1日遅れとなっています。例えば、12月1日時点で衆議院のサイトで出ているのは、11月28日の衆議院公報です。そこで、衆議院の最新情報を得るために衆議院インターネット審議中継の情報も使いました。インターネット審議中継は、審議が行われたその日の審議中継が公開されているからです。


法案審議のスケジュール感ー生活保護法に注目


 2013年11月24日現在。先週中に成立すると予想していた「生活保護法改正案」と「生活困窮者自立支援法案」は、まだ成立していません。成立どころか、衆議院でまだ審議されていません。審議の前提となる委員会付託すら行われていない状態です。

 先週の衆議院厚生労働委員会は、インターネットでの薬販売について定めた「薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律案」を審議していました。てっきり、先々週に「社会保障プログラム法案」を衆議院厚生労働委員会で強行採決したのは、生活保護法と生活困窮者法を審議するためかと思っていましたが、どうも薬事法を早く審議するためだったようです。

 スケジュールを考えると、生活保護法と自立支援法の審議を後回しにするのは、合理的な判断です。いまのところ、衆参の厚生労働関係を所管する委員会のスケジュールは以下のようになっています。(薬事2が先週衆議院で審議していた法案。薬事1は先に提出され、すでに成立した薬事法などの改正案。)

  定例日1
(11/18週)
定例日2
(11/18週)
定例日3
(11/25週)
定例日4
(11/25週)
定例日5
(12/2週)
定例日6
(12/2週)
会期末
衆議院 薬事2
(提案理由説明)
薬事2 薬事2
(採決?)
生活
(提案理由説明?)
生活 生活
(採決?)
参議院 薬事1(可決)
再生医療(可決)
休み プログラム プログラム プログラム プログラム
(採決or継続審査or審議未了)

 参議院の審議実績を踏まえると、生活保護法と自立支援法は衆議院の定例日4,5,6を使えば成立します。その上、薬事法を参院に送付することができ、今国会中の成立の目が残ります。最悪、参院に送付してから継続審査にすれば、次の国会で参院で可決したあと衆議院で審議する時、「一回可決したんだから」ということで衆議院での可決までの時間を大幅に短縮することができます。

 もし、生活保護法と自立支援法を衆議院で先に審議すると、今度は以下のようなスケジュールになります。

  定例日1
(11/18週)
定例日2
(11/18週)
定例日3
(11/25週)
定例日4
(11/25週)
定例日5
(12/2週)
定例日6
(12/2週)
会期末
衆議院 生活
(提案理由説明?)
生活 生活
(採決?)
薬事2
(提案理由説明?)
薬事2 薬事2
(採決?)
参議院 薬事1(可決)
再生医療(可決)
休み プログラム プログラム プログラム プログラム
(採決or継続審査or廃案)

 ご覧のとおり、衆議院が薬事法を採決するのは会期末になってやっととなり、よほど強引な国会運営をしなければ、今国会での成立は時間的に不可能になります。

 これは、生活保護法と自立支援法で使う3マス分をどこで埋めれば一番効率がいいかを考えるパズルです。公務員試験で、判断推理という論理パズルの問題が必ず課されるのは、法案審議のスケジュールを考える力を養うためかもしれません。

 ちなみに、プログラム法案は衆議院で6回の審議実績があります。うち1回は定例日外に参考人質疑を行ったので、単純に定例日のみで考えることはできないかもしれませんが、審議時間が足らないようにみえます。また、薬事法を成立させるためには、薬事法の審議時間もねじ込まないといけません。かなり厳しいスケジュールです。

 薬事法とプログラム法案ともに、継続審査になる可能性があります。


生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は順調に審議中


 2013年11月10日現在。注目していた参議院先議の「生活保護法の一部を改正する法律案」、「生活困窮者自立支援法案」は、あっさり厚生労働委員会付託されました。2013年11月5日、参議院議院運営委員会は、生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案を本会議で趣旨説明を聴取することなく法案を付託することを与党の賛成多数で決議したのです。

 法案が可決するまでにはだいたい5つの段階があります。

  1. 本会議での趣旨説明
  2. 委員会での趣旨説明・提案理由説明
  3. 質疑
  4. 討論
  5. 採決

 今回、生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は1をすっ飛ばして、すでに3に入っています。

 日本共産党は生活保護法改正案に反対のようです。夏の参議院選挙で躍進した共産党が議院運営委員会でこの2法案に対してなんらかのアクションを起こすのではないかと思っていたので、なんとなく拍子抜けの感があります。

 共産党にとって、生活保護法改正案反対よりも特定秘密保護法案反対の方が大切だから特に何もしなかったのでしょうか。それとも、何かしたかったけどその力がなかったのでしょうか。どちらにせよ、国会は完全に政府・与党ペースで進んでいます。新しい国会の流れを考えるときに、共産党の働きを重視していた私の見方は外れたようです。

 ただ、議運委の会議録を読んだところ、11月5日に議運委が立てられたのは委員長の職権で急に決まったようです。この日の委員会で民主党の小見山幸治議員が与党の強引な国会運営を批判しています。付託も全会一致でなく採決だったので、円満な国会運営とは言えないかもしれません。

 共産党をはじめ、野党の目が完全に特定秘密保護法案に向いているので、他の法案は特に波乱なく成立していくのではないでしょうか。このペースでいくと、生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は来週中に参議院を通過し、再来週にも成立するでしょう。


多党化する国会は安倍内閣の障害になるか


■両院の過半数で政権は安泰か

 2013年10月27日現在。昨年の衆院選と今夏の参院選の勝利により、自公は両院で過半数の議席を得て、衆参で与野党の議席数が逆転した「ねじれ国会」から脱却しました。これで自公政権は安泰だと言われることもあります。

 ただし、その安泰は予算案の成立、法案の成立、条約の承認、内閣不信任決議案と問責決議案の否決という点に限られます。これに加え、正常な国会運営を目指すとなると、安泰と言える状況かどうかは難しいです。

■自公の復権と民主党の影響力低下

 自公の勝利は、民主党の存在感の低下とともにもたらされました。民主党は昨年まで政権を担当しており、両院で第一党の座を保持していましたが、いまでは衆議院で維新の会に迫られ、参議院でも退潮しています。

 民主党の影響力低下により、民主党が野党代表になることは難しくなりました。そのため、今までなら自民党・民主党・公明党の3党で話しあえば国会が動いていましたが、今後はそうはいかなくなってきます。

 議案提出権を持つ会派を国会運営のプレーヤーだとします。現在、衆議院で議案提出権がある20議席以上を保有している会派は自民党・民主党・維新の会・公明党。参議院で議案提出権がある10議席以上保有している会派は自民党・民主党・公明党・みんなの党・共産党です。小泉政権後半から菅内閣まで(2004年〜2010年*1)と比べて、国会運営のプレーヤーは、3党から6党に倍増しました。

 例えば、与党が訴えている国会運営改革の進み方をみると、自・民・公の3党だけでは動かない現実が見えてきます。当初、自民公で国会運営改革について方向性をまとめてから全党で話し合う流れになるとされていましたが、3党に加えかねてから国会運営改革を唱えていた維新の会が加わりました。さらに、先週には、最初から全党が案を持ち寄って話し合うことになりました。民主党の影響力低下により、維新の会やみんなの党、共産党が台頭していることが影響していると思われます。

■共産党がどういうルールで国会運営に加わるか

 特に共産党があらたな国会運営のプレーヤーとして登場したのは大きいです。これは、自公にとっては新たな脅威です。自公は連立与党、民主党・維新の会・みんなの党には政権運営をした議員がいるので、阿吽の呼吸で話がつくこともあるかもしれません。ですが、これからは共産党の登場により話がつかなくなるのではないでしょうか。

 また、共産党が議運の理事ポストを持っているのはもちろん参議院だけですが、衆議院で共産党をないがしろにして、参議院で報復を受けることがないと言えません。そのため、自公は衆議院でも共産党に対して一定の配慮をしなければならなくなるのではないかと思います。

■もう「ねじれ」には甘えられない

 もちろんこの話には、「政府・与党が議院運営委員会理事会の全員一致により議事運営をすすめるという原則を尊重する」という前提があります。その前提がなければ、なんでもありです。なにしろ数を持っているので、すべて多数決で押し通していけばいいわけです。つまり、強行採決の連発です。

 ただ、ねじれ状態が解消されたので、そうはいかないでしょう。ねじれ国会下ならば、強行採決や法案の廃案、多少の混乱も大目にみられるところもありました。そうしなければ何も決まらないからです。そのため、場合によっては野党の態度がマスコミに非難されることもありました。

 しかし、いまやねじれは解消されました。国会は正常(与野党が議事運営で一致している)であって当たり前であり、国会運営の混乱はすなわち、与党の調整不足であるとの評価を受けることになります。参議院選挙でリベンジを果たしたとは言え、安倍内閣は世論の恐ろしさを身をもって知っているはずです。

 おそらく、ねじれが解消された今国会でも提出法案を絞っているのは、国会運営の失敗が政権にダメージを与えることを懸念しているからです。そして、無用な批判を生まないように、国会運営改革を行って、国会運営でミスをする機会を減らそうとしているのだと思います。

■今のところ与党ペース

 安倍内閣は、衆院選と参院選で増えた多くの自民党議員を統率し、かつ、公明党との関係を良好に保ち、かつ、民主党、維新の会、みんなの党、共産党に相応の配慮をした国会対策をしなければなりません。

 とはいえ、今国会の出足は好調です。国家安全保障に関する特別委員会設置に少々手こずったのを除けば、今のところ与党ペースです。安倍内閣は、この調子で多党化した国会を乗り切り、強行採決を減らすことができるでしょうか。

 

*1 参考資料は『平成18年 衆議院の動き 第14号 国会関係資料 2 国会議員会派別議員数の推移(召集日ベース)』と『平成24年 衆議院の動き 第20号 国会関係資料 2 国会議員会派別議員数の推移』です。また、菅内閣の途中からみんなの党が参議院で10議席以上持っていましたが、ねじれ国会だったためか、民主党や自民党との議席数に差がありすぎたためか(両党とも80議席オーバー)、あまり国会運営に影響力を発揮できなかったようです。現に、消費税増税を決めた3党合意は、民主党・自民党・公明党で合意されたものです。


冒頭国会の流れと参議院先議、そして共産党


■秋の臨時国会召集

 2013年10月20日現在。10月15日に臨時国会が召集されました。召集後の国会の流れは以下のようになります。

  1. 議席の指定
  2. 会期の議決(今回は10月15日から12月6日までの53日間)
  3. 常任委員長人事(委員長辞任の許可と、新委員長の指名)
  4. 特別委員会の設置
  5. 首相の所信表明演説
  6. 所信表明演説に対する各党代表質問(2日間)

 だいたいここまでで4日ほどかかります。しかし、今回衆議院では3日で終わっています。本来なら所信表演説のあと1日空けてから代表質問に入るのですが、今回は演説の翌日に代表質問に入っているためです。53日の会期をフルに使って法案を処理していきたいという、内閣の意気込みがうかがえます。

 すでに安倍首相の所信表明演説と、所信表明に対する各党の代表質問の日程は消化済みで、明日からは予算委員会で全閣僚が出席する基本的質疑が行われる予定です。衆参で2日ずつ行われる、与党議員・野党議員の序盤最大の見せ場です。

■参議院先議の法案

 予算委員会の基本的質疑が終わると、各委員会で法案の実質的審議が始まります。先週提出された内閣提出法案のなかに、参議院先議のものが2つありました。「生活保護法の一部を改正する法律案」と「生活困窮者自立支援法案」です。

 参議院先議にするメリットは、審議時間の短縮がはかれることです。法案を衆議院から参議院に送るだけでは、衆議院で審議している間、参議院は暇になってしまいます。衆議院で審議している間に、参議院で別の法案の審議を進めることができれば、法案の提出から成立までの時間を短縮できます。

■日本共産党はどう動くか

 このことから、政府・与党は「生活保護法の一部を改正する法律案」と「生活困窮者自立支援法案」を確実に今国会中に成立させるつもりであることがわかります。ただ、この2法案はまだ委員会に付託されていないので、場合によっては、本会議の趣旨説明から始まる、一番長い審議をするコースになる可能性もあるかもしれません。先の参議院選で勢力を増やした日本共産党の動向がキーになるでしょう。

 勢力を増やした共産党は、参議院の議院運営委員会に理事を出せるようになりました。議院運営委員会は議院の運営を取り仕切る重要な委員会です。そして、理事会は委員会の運営を決めます。理事会の決定は理事の全員一致が原則なので、共産党は国会運営に対して大きなテコを手に入れたと言えます。

 今までと違い、共産党の動きは国会運営に影響を与えます。「生活保護法の一部を改正する法律案」と「生活困窮者自立支援法案」の審議がどのように推移するかで、共産党の実力が試されるでしょう。


野党のTPP特別委設置要求について考える


 2013年10月7日、菅官房長官は衆参両院の議院運営委員会理事会に出席し、10月15日の国会召集を伝えました。

 臨時国会召集に向けた与野党の話し合いでは、与党側が海賊対処・テロ防止特別委員会の廃止と内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を審議する特別委員会設置を求めた一方、野党は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に関する特別委員会の設置を主張し、結論はでませんでした。

 野党のTPPに関する特別委員会の設置という主張は、国会戦略上なかなか興味深いです。TPPは多くの閣僚が関わっているため、その分、多くの閣僚の出席要求が出され、閣僚を国会に拘束しやすくなります。閣僚は1人なので、特別委員会に出席することになれば、その分他の委員会に出席することができなくなります。すると、他の委員会が開けなくなり、国会審議全体が停滞する可能性もあります。しかも、特別委員会は連日開会も可能なため、拘束の度合いは高いと言えます。

 もちろん、TPPの特別委員会で審議する法案や条約がないのであれば、連日開会しないことや、まったく開かないことで閣僚の拘束を防ぐことはできます。ただ、特別委員会を開かないこと自体が、政府・与党がTPPに関して国会を無視しているという印象を世論に与え、野党に政権批判の口実を与えてしまいます。

 それだけではなく、TPPの特別委員会設置を拒否するだけでも、「政府・与党はTPPに関して国会で審議する気がない」という宣伝をするには十分です。

 こういうのは定石なんでしょうか。かなりいい手だと思います。


特別委員会設置数には上限がある?


■衆議院の特別委員会が廃止に

 2013年10月6日付読売新聞朝刊に「テロ特廃止へ」という小さい記事がありました。来週15日に召集予定の臨時国会で、与党は衆議院の海賊対処・テロ防止特別委員会を廃止する方針を決めたという内容です。これは、臨時国会で内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を審議する特別委員会設置するための措置です。

■特別委員会の特徴

 そもそも特別委員会とはなんでしょうか。予算委員会や内閣委員会は、どの国会(通常国会、臨時国会)でも常に置かれている常任委員会です。この常任委員会とは別に、それぞれの国会ごとに設置されるのが、特別委員会です。特別委員会は、扱う内容も個別具体的な案件に特化していて、その案件を審議するために置かれます。

 特別委員会の特徴はいくつかあります。ひとつは、定例日がないことです。常任委員会では委員会を開く定例日が決まっていて、会期末や年度末など余程のことがないと定例日以外の日に委員会を開くことは難しい(野党が同意しない)です。でも、特別委員会なら定例日を設けずに連日審議をすることも可能です。

 この特徴を使って、内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を審議する特別委員会を設置し、審議をスピードアップして国会の日程に余裕をもたせ、それぞれの法案を確実に成立させよう、というのが政府・与党の狙いです。

 もうひとつの特徴は、設置の自由度が高いことです。常任委員会の名称と数は国会法41条に定められていて、国会法を改正しなければ増やしたり改名したりできません。ですが、特別委員会については特に法律に定めがないので、自由にいくらでも設置することができます。

■実は制限がある

 特別委員会は設置数に制限がない、はずだったのですが、現状では制限があるようです。

 冒頭にあげた読売の記事には以下のような記述がありました。

国会の慣例で、衆院特別委の数は最大10とされ、新設には既存の特別委を廃止しなくてはならない

 どういう経緯があってこの慣例ができたのかわかりませんが、実際の運用上は衆議院の特別委員会は10までしか作れないことになっているようです。内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を成立させるためには、テロ特を廃止して新しい特別委員会を作らなければならないわけです。ちなみに、特別委員会の廃止には手続きはいりません。すでに前の臨時国会の閉会と同時にすべての特別委員会が消滅しているからです。

 法律や規則だけ読んでいてもこういう慣例というものはわからないので、記事にしてもらえると大変ありがたいです。ただ、欲を言えば、どういう経緯でそういう慣例ができたのか、とか、なにか与野党の申し合わせ事項があるのか、とかそういうことも書いてくれると調べる手間がはぶけていいのですけどね。

 地道に調べるしかなさそうです。

■追記(2013年10月18日現在)

 2013年10月17日、衆議院本会議は、新しい特別委員会である「国家安全保障に関する特別委員会」の設置を自民・公明・民主・維新・みんな各党などの賛成多数で議決しました。既存の特別委員会の廃止はしなかったため、衆議院の特別委員会の数は11になりました。10月17日付読売新聞朝刊によると、衆議院の委員長ポストの配分をめぐる各党協議が難航したため、与党は、検討していたテロ特の廃止を見送ったそうです。

 どうも、衆議院の特別委員会の最大設置数を10とする慣例は、野党がこの慣例を理由にして新しい特別委員会の設置を拒むほど強いものではなかったようです。

    変更履歴

  • 2013年10月18日:タイトル末尾に「?」を追加
  • 2013年10月18日:「■追記」以下を追加