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休憩動議や中間報告で野党の攻撃を無効化する:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール6


ここまで野党の抵抗方法についての説明が続きました。与党だって負けてはいません。野党がどんなに抵抗しても、与党が会期内に成立させると決めた法案はありとあらゆる手をつかって審議を進めます。ここでは、2013年に成立した特定秘密保護法案と、2017年に成立した組織的犯罪処罰法改正案の審議を例に、与党がどのように野党の攻撃をさばいているかをみていきましょう。

記名投票要求による採決の引き延ばしに休憩動議で対抗

2013年12月4日、午後1時22分から開かれた参議院本会議には、12件の案件が上程されていました。この時点で、第185回臨時国会の会期末は12月6日となっており、国会審議はまさに大詰めを迎えています。

この国会で与野党が対決していた重要法案のひとつである特定秘密保護法案は、すでに衆議院を通過し参議院の審議に入っていました。与党は4日の午後に採決の前提となる地方公聴会をさいたま市で開くことを狙っていましたが、本会議開会中に公聴会を行うことはできません。野党は普段は記名投票を求めないような全会一致になる案件にも記名投票要求を出して、採決を長引かせることで本会議が終わる時間を遅くしようとしていました。

本会議が長引いて地方公聴会が開けないことを恐れた与党は一計を案じました。一括として議題となった最初の3件の記名投票採決が終わり、次に議題となった案件の審議をした委員長の報告をさえぎり、動議が出されます。本会議を休憩する動議です。ただちに動議は取り上げられ起立採決で可決し、午後1時41分、本会議は休憩しました。このまま残りの案件の採決を続けるのではなく、いったん休止することで確実に地方公聴会を実施できるようにしたのです。

ちなみに、休憩した本会議は午後9時11分に再開します。再開後の本会議は残りの7件の採決が終わった10時18分にいったん延会し、2時間後の5日0時11分から残りの2件の採決を行う本会議が開かれました。予定されていた12案件がすべて採決されたあと、野党提出の議院運営委員長(与党議員)解任決議案と与党提出の内閣委員長、経済産業委員長(いずれも野党議員)の解任決議案が次々に動議により議題とされ、採決されます。

採決の結果は、議運委員長のものは否決、内閣、経産委員長のものは可決です。ここまでで午前2時39分、いったん休憩します。午前3時16分に再開した本会議で、解任された内閣、経産委員長の後任を選ぶ選挙が行われ、与党議員が後任の委員長に選出されました。こうして徹夜となった本会議は、午前3時54分に休憩しました。

この国会は特定秘密保護法案で与野党がバチバチにやりあっていたためか、12月6日〜7日にかけても、深夜まで本会議、さらに延会して午前0時から本会議開始という流れになりました。6日が会期末なのに7日も審議できているのは、6日に12月8日までの会期延長を議決したためです。これも特定秘密保護法案を確実に成立させるための策でした。結局、特定秘密保護法案は12月6日の参議院本会議で可決し、成立しました。

休憩、散会、延会

ここで本会議の休憩、散会、延会の違いをおさえておきましょう。

すべての議事日程が終了したとき、本会議は散会します。散会したときは、その日のうちに再び本会議を開くことはできません。

議事が終わる前に会議を休止するのが休憩です。ですが、あらかじめ決められた議事日程が終了していても、新たな案件が緊急上程されることが見込まれるときは休憩します。なぜなら、休憩ではなく散会してしまうと本会議を開くのが翌日以降になってしまうからです。

そして、議事の途中で会議を終了するのが延会です。ここまで見てきた特定秘密保護法案をめぐる攻防のように、議事の途中で午前0時になる場合も0時になる前に延会します。延会した場合、次の本会議では、終わっていない案件をそのまま審議することができます。

おそらく、休憩のまま日付が変わってしまうと自動的に散会になり、新たに議事日程を組み直すための議院運営委員会を開くなど調整が必要なのでしょう。また、定例日外に本会議を開く場合の野党との調整も大変なはずです。散会になることを避けて、翌日の本会議でただちに続きの審議をしたいときに、延会という手段を講じるのだと思います。

委員会審議を打ち切る「中間報告」

2017年6月14日、第193会国会の対決法案である、織的犯罪処罰法改正案は5月23日に衆議院を通過し、参議院に舞台を移して法務委員会で審議中でした。

参議院では5月29日に本会議趣旨説明を終え、法務委員会に付託、翌30日に委員会で趣旨説明と質疑に入り実質審議入りしました。与野党でどういう駆け引きがあったのかはわかりませんが、法案の趣旨説明と質疑が同日中に行われている時点で、だいぶヤバそうな雰囲気がただよっています。

その後、6月1日、8日、13日と質疑を行っていますが、13日の委員会で野党議員の質疑の途中で法務大臣の問責決議案が提出され、委員会は休憩となりました。休憩後、法務委員会が開かれることのないまま迎えた14日の参議院本会議で、組織的犯罪処罰法改正案の中間報告を求める動議が突如提出されます。

中間報告とは、委員会の審議が終わる前に本会議で法案の審議経過を報告させることです。中間報告を受けたあとは、本会議の議決で委員会での審議に期限をつけたり、委員会から法案をとりあげて本会議で審議を継続したりできます。本会議で審議を継続するということは、採決もできるということです。中間報告を求める動議と、本会議で審議することを求める動議のセットで、本会議で質疑、討論、採決をすることができます。

中間報告からの本会議採決は、強行採決のなかでもかなりハードなものです。そもそも委員会で採決がないという「採決なしの強行採決」であり、究極の強行採決といえるでしょう。

ちなみに、中間報告を求める動議が議題になった直後に議院運営委員長解任決議案が提出され、解任決議案の採決が終わった段階で午後9時42分延会しました。5時間後の6月15日午前2時31分から本会議が始まり、中間報告を求める動議が可決、組織的犯罪処罰法改正案の中間報告、同法案を本会議で審議する動議の可決まで行って午前4時33分休憩します。1時間後の5時41分再開し、法務大臣や外務大臣に対する質疑、討論、採決が行われ、午前7時46分に組織的犯罪処罰法改正案は可決し本会議が休憩しました。この15日は休憩後に本会議の再開はありませんでした。ものすごい徹夜国会です。

紹介した事例のように、会期末に与野党で本気で戦うと審議が深夜に及ぶどころか徹夜になることもあります。国会議員の仕事も体力が必要なのです。


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出したいけど、可決したら困る。「内閣不信任案」:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール5


内閣が役所を指揮できる根拠は、衆議院の信任を受けているというところにあります。それゆえに、衆議院が「本院は、○○内閣を信任せず。」と議決することは、内閣の命運が尽きることと同じです。その他の不信任案と違って、内閣不信任案は採決の結果次第で重大な政治的な状況を生み出し、単なる野党の審議引き延ばし策以上のものになります。そんな内閣不信任案をめぐる攻防を見ていきましょう。

内閣不信任案が可決するのは、与党が割れたとき

内閣不信任案が可決されたケースは4例あります。1948年の第2次吉田内閣、1953年の第4次吉田内閣、1980年の第2次大平内閣、1993年の宮沢内閣です。

このうち、1948年のケースは衆議院総選挙を早期に行うことで与野党合意していた、いわば八百長のようなものですが、それ以外のケースは与党議員の造反により可決したガチのものです。

1953年は、当時の吉田総理が国会審議中に漏らした「ばかやろう」という言葉をきっかけにして起こった政局で、与党自由党を脱党した議員が不信任案に賛成しました。

1980年のケースは、当時の大平総理に対抗していた福田赳夫元総理を支持する与党自民党内の反主流派の欠席により、出席していた与党議員の数が野党議員を下回ったことで不信任案が可決するというものでした。このケースでは初の衆参同日選挙となり、大平総理が選挙中に死去したこともあってか、自民党は衆参両院で大勝しました。

1993年のケースは、与党自民党の最大派閥が内紛により分裂し、派閥抗争で少数派になった議員や当時の一大テーマであった「政治改革」に対して宮沢内閣が消極的だと考えた議員が不信任案に賛成したことで可決しました。1955年の結党以来与党であった自民党が初めて下野するきっかけとなった事件でもあります。

このように、内閣不信任案が可決したケースが与党議員の造反によるものしかないのはある意味当然です。通常は、衆議院の過半数の支持を得た議員が総理大臣になります。過半数の支持を得てできた内閣が、過半数の信任を得られなくなるということは、支持したうちの何人かが不支持にまわったからなのです。

逆に言えば、与党が一枚岩ならば内閣不信任案は絶対に可決することはありません。与党に分裂のきざしがない状態で出された場合は「野党は不信任案が可決することを本気で望んでいないんだな」と考えてもいいかもしれません。

内閣不信任案が可決したら、選挙戦がはじまる

内閣不信任案の可決には、内閣に次の2つの選択肢のうちのいずれかを選ぶことを強制する効果があります。ひとつが内閣総辞職すること。もうひとつが衆議院を解散することです。どちらかを、10日以内に選ばなければなりません。

内閣総辞職するのは、内閣総理大臣を選び直し、現在の衆議院が信任する内閣を作り直すためです。そして、衆議院の解散には、内閣を信任しない衆議院議員全員をクビにしたうえ、選挙で国民に選び直してもらい、新たな衆議院の信任を得た内閣を作り出すという狙いがあります。衆議院の不信任の議決に素直にしたがうか、議決に対抗して、内閣と衆議院のどちらが正しいかを国民に問うかという違いです。

過去に内閣不信任案が可決されたケースでは、内閣総辞職した例はひとつもありません。すべての内閣が衆議院を解散しています。内閣不信任案は解散の呼び水になる可能性があるのです。

内閣不信任案は野党にとって「もろ刃の剣」

批判している政策を進める内閣の法案審議を妨害し、場合によっては退陣に追い込むことができる内閣不信任案は、野党にとって大変魅力的なものです。内閣不信任案の賛成討論は、内閣のこれまでの政治姿勢をまるごと批判する機会でもあり、演説の内容によって有権者にアピールすることもできます。実際、2018年7月20日に行われた安倍内閣不信任決議案の賛成討論は『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)として出版されました。

そんな不信任案の欠点は「可決したら解散総選挙になる」という点です。

与党議員の造反や欠席がなければ可決しない以上、内閣不信任案の可決により衆議院の選挙が前倒しで実施されることは、野党にとって政権獲得のチャンスになるはずです。与党議員に裏切られるような人気のない政権ならば、野党にも勝てる可能性があるからです。

しかし、野党側が選挙の準備が全くできていない状態で不信任案が可決したらどうでしょうか。選挙資金さえ十分でなく、他の野党とも争わなくてはならない状況であれば、政権獲得どころかよけいに党勢を落としてしまいます。

しかも、与党議員が裏切るのではなく意図的に採決の前に欠席した場合は、与党にとって有利なタイミングで内閣不信任案が可決し、総選挙になる可能性もあります。この決議案は、選挙を勝ち抜くあてがない野党が出してはいけないものなのです。

総理大臣の「解散の構え」に翻弄された野党の例

2019年6月に、内閣不信任案が野党にとってもろ刃の剣であるということがよく分かる事例がありました。

2018年の臨時国会の会期末では、野党である立憲民主党と国民民主党との間で内閣不信任決議案の提出の方針が割れたという報道がありました。内閣不信任案の提出を求めた国民民主党に対し、立憲民主党は参議院選挙の直前となる2019年の通常国会の会期末にしぼって不信任案を提出することで与党との対決ムードを盛り上げたいと考え、提出を拒んだということです。(時事ドットコム『内閣不信任案で足並み乱れ=立憲・国民』2018/12/08-01:15)

この報道によれば、立憲民主党は2018末の臨時国会で内閣不信任案を温存して、2019年の通常国会の会期末で提出する気満々だったということです。

しかし、「総理大臣は、衆議院を解散して衆議院と参議院の同日選挙を狙っているのではないか」という観測が出ると、立憲民主党の幹部の中に内閣不信任案提出慎重論が出ているという報道が出始めました。この内閣不信任案提出慎重論は、5月下旬に官房長官が「内閣不信任案が提出は衆議院を解散する大義になりうる」と記者会見で質問に答えたことで、ピークに達します。

5月30日の日経新聞朝刊には、内閣不信任案の国会提出について話し合った野党党首の次のようなコメントが出ていました。

「様々な政治状況を判断したうえで、改めて状況によって相談させてもらう」(立憲民主党:枝野代表)  「今回は年中行事のように出すものではない」(国民民主党:玉木代表)  「党首会談で合意したのは、よく相談していこうという一点だ」(日本共産党:志位委員長)

どの党首も、なんとも煮え切らない態度を示しています。

ところが、徐々に同日選見送りの方向がみえてきた6月上旬には、野党党首は一転して内閣不信任案の提出に前向きになります。はっきりと不信任案を出さないほうがいいというようなコメントを出した玉木代表などは「不信任に値する点は多々ある。枝野代表が出すというのであれば協力したい」(日経新聞6月12日朝刊)と正反対のコメントを出しています。

このまま内閣不信任案を出すのかなと思いきや、6月16日に枝野代表は「参院選に挑むので、首相の問責決議案を参院に出すのが筋ではないか」(日経新聞6月18日朝刊、読売新聞6月18日朝刊)と、不信任案の提出を見送るかのようなコメントを出しました。

このコメントは「野党は通常、可決されても法的拘束力のない問責決議案より、内閣総辞職を迫る内閣不信任案を重視する」(読売新聞6月18日朝刊)という点で、これまでの常識では考えられないものでした。しかも、内閣不信任案を提出しない理由は「衆議院の解散がなさそうだから不信任案を出す、と思われるのはしゃくだ」(日経新聞6月18日朝刊、読売新聞6月18日朝刊)という信じがたいものでした。当然、不信任案を出す気になっていた他の野党党首は枝野代表のコメントに猛反発しました。

結局、6月19日に行われた党首討論で総理大臣が衆議院を解散しない意向を示したことで、枝野代表は再び内閣不信任案の提出に傾きます。6月25日、立憲民主党や国民民主党などは内閣不信任案を提出しました。

このように、内閣不信任案とその結果もたらされる可能性がある衆議院の解散は、野党を右往左往させる力があります。ちなみに、この事例では総理大臣や官房長官といった政権幹部だけでなく、与党議員からも解散総選挙待望論がある状態でした。1980年の衆参同日選挙以来、「同日選は与党有利」という考えがあるからです。これは、与党が総選挙をやる気のように見えて、かつ、野党が選挙に消極的であることが重なったときに起こった、珍しいケースなのかもしれません。


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不信任案や解任決議案で審議をストップ!:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール4


国会で多数派にならなければ内閣を維持できない関係上、野党は与党よりも議席数が少ないことが普通です。ここからは、そんな野党が与党に対抗するためにどんな手段を使っているかを見ていきます。まずは不信任案の使い方です。

野党の欠席で審議が止まるのは、与党の配慮によるもの

野党が法案審議を止める方法として、よく知られているのが審議拒否です。何らかの条件が満たされるまで委員会や本会議を開くことに反対し、開かれた場合も欠席します。

与党としては、野党抜きで審議を進めたとあっては有権者に悪い印象を与えてしまう恐れがあります。余裕がある場合は「野党が出席しないのでこの会はお流れにします」と、与党が自発的に審議を止めてくれます。

ただし、この対応はあくまで与党の譲歩です。定足数という委員会を成立させるための最低限の出席者を満たしている限り、野党の委員が何人休もうが委員会を開いて審議を進めることにルール上の問題はありません。委員会の定足数は「委員の半数以上」と国会法で定められています。すべての常任委員会で委員長を出して、かつ、定足数を満たす半数の委員を与党議員で占めることができる議席数を「安定多数」と呼びます。

ただ、これだけでは与党で委員会を牛耳ることはできません。委員長は可否同数の場合しか採決に加わりません。ぴったり過半数の与党議員しか委員会に出せなかった場合は、与党議員から委員長を出すと、与党側は過半数を割ります。与党の委員がひとりでも欠席したら、採決で野党に負けてしまいます。委員長を出しても、与党議員が過半数になるようでなければ真に安定的な国会運営ができません。この状態をすべての常任委員会で達成できる議席数を「絶対安定多数」と呼びます。

最低でも与党が安定多数となる議席を保持している場合は、定足数を与党議員だけで満たせます。野党の欠席で審議が必ずストップすることにはなりません。

単なる欠席よりも審議を止める力が強い方法があります。委員長の不信任案を提出することです。

委員会の進行を少し遅らせる委員長の不信任案

法案審議中に委員長の不信任案が提出された場合は、不信任案の採決が優先されます。つまり、不信任案の採決が終わるまでのあいだ、もともとやっていた法案審議が止まります。

なぜ不信任案の採決が優先されるのかというと、不信任されるかもしれない委員長のもとで審議を進めるのは問題だという考え方があるからです。不信任されるような委員長は正常な委員会の運営をできないはず→そのような委員長のもとで審議を進めたらおかしな結果になりかねない→だから審議を止めて不信任案の採決をする、という理屈です。

不信任案が否決されれば、委員長は信任されたということになります。そして、たいていの場合は与党委員の反対で否決されます。委員長は与党議員であることがほとんどだからです。

不信任案を提出することで、強行採決を数分遅らせることもできます。

質疑終局、討論省略のうえ採決を求める動議が出た直後、委員長の不信任を求める動議を出します。先に提出されたのは採決を求める動議ですが、委員長の不信任案の方が優先されます。不信任案の採決後、採決を求める動議が採決され、法案の採決にはいります。

本会議で採決するまで審議を止める委員長の解任決議案

委員長の不信任案は、委員会を数分止めるくらいの効果しかありません。もうちょっと止めたい場合は、委員長の解任決議案を提出します。

委員長の解任決議案は本会議で採決する必要があります。そのため、委員会開会中に解任決議案が出された場合は、本会議で決議案が採決されるまで委員会を中断しなくてはなりません。決議案が提出された日に本会議が設定されてなければ、委員会の再開は翌日以降になります。

本会議も委員会も毎日やっているわけではなく、決まった曜日に開かれています。「あらかじめ決められた定例日以外に会議を開くことは望ましくない」という慣習があるようで、急に会議を設定するいうのは不可能ではありませんが、与党としては野党に抵抗するスキを与えることになってしまいます。つまり、解任決議案が提出されたからといって、予定されていない本会議をすぐに開くことは原則できません。

委員長解任決議案を提出した場合は、委員会で委員長不信任案を出すよりも長い間審議を止めることができます。しかも、本会議は全議員が集まることに意味があるので、原則として本会議中はすべての委員会の会議を行いません。解任決議案しか議題がない場合は、すべての委員会の審議を決議案の採決の間止めることができるのです。

似たような効果を持つものに、本会議で議決する所管大臣の不信任案、議長の不信任案などがあります。

不信任案の最優先、内閣不信任決議案

究極の不信任案が、衆議院のみが議決できる内閣不信任決議案です。内閣不信任決議案が提出されると、衆議院だけでなく参議院の審議も止まる慣例になっています。「内閣」とは、総理大臣だけでなく、内閣を構成するすべての大臣を含みます。すべての大臣に対して不信任案が出されていて、かつ、可決した場合は内閣総辞職して全大臣がいなくなるか、衆議院が解散して全法案が廃案となる状態で、審議を続けても意味がないということなのでしょう。

討論、採決でさらに延長

不信任案の採決の際も討論は可能です。本気で審議を遅らせようとする場合は、討論で1時間以上は演説して不信任案の審議を引き延ばし、後に控える法案審議の再開を遅らせることができます。

また、内閣不信任案に限りませんが、本会議で採決する場合は採決の種類が4つあります。

・議長が異議の有無を聞く「異議なし採決」 ・議長が賛成の議員の起立を求める「起立採決」 ・議員が賛否いずれかのボタンを押す「押しボタン式投票」(参議院のみ) ・議員ひとりひとりが賛否を表す木札を演壇に置かれた投票箱に投票する「記名投票」

このうち、一番時間がかかるのは記名投票です。内閣不信任案やその他の大臣の不信任案の採決方法に記名投票を要求することで、さらに審議の停止時間を延長することができます。ただし、記名投票は出席議員の五分の一以上の要求が必要です。野党会派の議席が少なすぎる場合、野党の意見を統一しなければ記名投票にできません。

同一の対象に対する不信任案は何度も出せない

このように審議を確実に遅らせられる不信任案ですが、何度も出せるものではありません。一回の国会の会期内に同一の案件を二度議決しない「一事不再議」という考え方があります。同じ案件を何度も議決できると、いつその案件の可否が確定するかわからず国会の決議が信用されなくなるおそれがあります。国会の決議に対する権威を落とさないための工夫です。

一事不再議の原則により、会期内に出せる不信任案や解任決議案は、それぞれの対象について一回だけです。たとえば、ある委員長の解任決議案を会期の序盤で出した場合、決議案が否決されたあと、どんなに強引な委員会運営を委員長が行っても、もう一度解任決議案を出すことはできません。

実際、2018年の197回臨時国会で、外国人労働者の受け入れを拡大する「入管難民法改正案」の審議を衆議院法務委員会で審議し始めた段階で、野党が法務委員長の解任決議案を出して否決されたことがあります。このあと、法務委員長は解任も不信任もされることのない「無敵の法務委員長」となり、どんどん職権で委員会を開いて審議を進めていきました。不信任案や解任決議案を提出するタイミングは慎重に見極めなくてはいけないのです。

ちなみに、内閣不信任案を提出したあとは、個別の大臣に対する不信任案を出せません。内閣不信任案がすべての大臣の不信任案を兼ねているためです。ですから、もし国会冒頭で内閣不信任案を出して否決された場合、どの大臣も必ず不信任案が出されない無敵の内閣が誕生することになります。

ただし、一事不再議は絶対の原則ではありません。同一会期内であっても、社会情勢が変化したなど、前回不信任案を否決したあとに事情が変わったとみなされる場合はもう一度不信任案を出せるとされています。

不信任案は、単なる欠席よりも確実に国会を止められますが、出すタイミングをはかる必要があります。野党が効果的に不信任案を出した場合は、どうせ与党の反対多数で否決されたとしても、評価されてほしいものです。

不信任案の基本はこれでOKです。次は内閣不信任案をめぐる攻防についてみていきましょう。


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これだけおさえよう!国会審議の流れとルール:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール3


 法案にせよ予算にせよ、審議のメニューはだいたい同じです。議案が提出され、審議する委員会が決められて審議採決したあと、本会議で採決します。このような、一見なんの変哲もないプロセスのひとつひとつに、思いもよらぬルールがあります。この章では、国会審議の流れとともに、審議を成り立たせるルールを見ていきましょう。

話し合いを成立させるにはルールが必要

「国会というのは話し合うところだと聞いているけれど、話し合うだけなのにルールなんて必要なの?」と不思議に思うかもしれません。

 こんな場面をイメージしてみてください。2人の人間が向かい合って話しています。ただし、片方は包丁を持っていて、もう片方の胸に刃を突きつけています。この状態で双方が出した結論を「話し合った結果」として、あなたは認められるでしょうか。

 もちろんこの例は極端なものです。ですが、現実の世界でも買い手と売り手、上司と部下、先輩と後輩、大人と子どものように、力の大きい人と小さい人が話し合う状況は少なくありません。もしかしたら、そういう場面がほとんどといっていいかもしれません。あなたも力関係を考慮して、自分の主張を引っこめたことはないでしょうか。このように、まっとうな話し合いを成立させることは、実は難しいことなのです。

 国会のルールは、だれもが認める話し合いを実現するためにあります。逆にいうと、ルールを逸脱してしまった場合には、話し合いが成立しなかったとみなされます。この状態を「議事不成立」と呼びます。そうなると、決めたことが無効になったり、審議のやり直しが必要になったりします。ルールを守って話し合うというプロセスを重視することこそが、国会審議で重要な要素なのです。

提出前に与党で審議されている政府提出法案

 国会で審議されるのはおもに法案、予算、条約の承認の3種類の議案についてです。このうち、予算と条約は内閣のみが提出します。予算編成をする権限と条約を締結する権限は内閣にあるからです。

 法案については、内閣と国会議員が提出できます。このうち、内閣が提出する政府提出法案は、各省庁が政策を遂行するために作成したものです。法案を作成するのは役所で働く官僚です。官僚が作成した法案は、内閣法制局の審査を経て、閣議決定されたのちに国会に提出されます。実際には、国会に提出された法案のうち、成立するもののほとんどが政府提出法案です。

 政府提出法案は、その作成過程で与党議員と官僚が事前に話し合いながら作成することもあります。たとえば、自民党が政権与党である場合は、党内の政務調査会という機関で自民党の国会議員と官僚とが議論しながら法案を作成します。自民党政権では、政務調査会や総務会といった党内機関で正式決定されない法案は、閣議決定されないことになっています。このような仕組みを「事前審査制」と呼びます。「自民党が法案を了承した」という言葉は、この政務調査会や総務会で法案審査が終わって閣議決定が可能になった状態を表しています。

多数決を確実にするための事前審査

 ところで、なぜ事前審査が必要なのでしょうか。もし事前審査がなかったとすると、与党議員は国会で初めて法案の中身を知ることになります。そうなると、国会では野党議員だけでなく、与党議員も政府にガチの質問をしなくてはなりません。

 そうなると、ゲームの内容が完全に変わってしまいます。野党の相手をしながら、限られた会期のなかで、いつ採決にもちこめるかを決めるゲームではなく、政府が与党と野党の議員を会期内に説得することがクリアの条件になるからです。当然、政府にとって攻略すべき相手プレーヤーは与党と野党の2者に増えます。難度もイージーモードからハードモードまで、一気に高くなってしまうのです。

 いくら与党の議席数が野党より多くても、与党議員が一体となって賛成しなければ、法案の成立は不確かなものになります。このような事態を防ぐために、政党が党の方針として法案の賛否を決めたときは、採決の際に決定したとおりの行動をとるように所属議員に強制します。議員の意思にかかわらず、党が賛成と決めたら賛成し、反対と決めたら反対するということです。これを「党議拘束」と呼びます。

 自民党政権では、自民党総務会で「決定」された法案は、閣議決定することができると同時に、党議拘束がかけられます。事前審査制のもとでは、法案提出の前提となる閣議決定がされた時点で、与党議員全員の賛成が約束されています。

 与党議員は与党の方針に従い、野党議員は野党の方針に従うというのは、あたりまえのように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。一般人でも何人かが集まれば、おのおの勝手な行動を始めます。ましてや、ここにいるのは、わざわざ選挙に立候補して、過酷な選挙戦を勝ち抜いてきた国会議員です。みな、一般人よりも強い思いと主張をもっています。国会対策を円滑に進めるうえで、彼らを統制する仕組みは必要不可欠なのです。

国会議員は簡単に法案を提出できない

 「国会議員は法律を作るのが仕事」といわれますが、現在の制度では国会議員が自由に法案を提出することはできません。議員による法案提出には厳しい条件があるからです。

 衆議院では、法案の提出者の他に議員20人の賛成が必要です。さらに、法案が新たに予算を伴うものである場合は50人の賛成が必要です。衆議院とは議員の総数が違う参議院では、必要な賛成者の数も異なります。予算が必要ない法案は賛成者が10人で、予算が必要な法案は賛成者が20人、それぞれ必要とされています。

法案提出要件
法案提出要件

 つまり、衆議院では議員の数が21人以上の会派であれば、会派主導で法案を提出することができ、20人以下であれば難しくなります。会派に所属しない議員が法案を提出するのは、まず不可能ということです。

 さらに、衆議院ではこの人数制限のほかに、法案提出には提出者が所属する「会派」の「機関承認」が必要です。たとえ会派をこえて賛成者を集めたとしても、所属会派の許しがなければ法案を提出できません。多数の議員が所属する会派の一員であったとしても、主流派の方針と異なる法案を提出するには、所属会派の他の議員を説得する必要があります。つまり、提出されやすいのは、多数会派の野党による政府の政策に反対する内容の法案ということになるわけです。

 このように、国会議員による法案の提出は非常に高いハードルがあります。たまに、法案の提出数で国会議員をランクづけしようとする企画を目にすることがありますが、私はこのことにあまり意味があるとは思いません。ここまで見てきたように、提出要件を満たす難しさを考えれば、法案提出数がゼロの議員がサボっているとはいえないからです。

 与党議員ならば、法案提出数はゼロでも事前審査で政府提出法案に影響を与えているかもしれません。少数会派の野党議員ならば、法案提出のかわりに質問主意書で政府を追及しているかもしれません。与党と野党、多数会派と少数会派で、それぞれ戦い方は異なります。その違いを理解したうえで、法案提出数や、質疑回数、質問主意書の提出数などを見なければ、「数」の意味を見誤ってしまうでしょう。

会派の議員数があらわす「攻撃力」

 国会議員による法案提出の用件について説明する際、「会派」という言葉を使いました。会派も、あまり説明されないわりに、あたりまえのようにニュースに出てくる言葉です。

 会派とは、国会内の議員グループです。国会議員同士のグループというと、真っ先に「自民党」や「共産党」などの政党が思い浮かぶかもしれません。議員は国会で、政党ではなく会派という単位で活動しています。多くの場合、同じ政党の議員同士で会派を組みます。また、政党に所属しない無所属議員が既存の政党の会派に参加したり、別々の政党同士でひとつの会派を作ったりすることもあります。複数の政党で結成した会派は「統一会派」と呼ばれます。

 政党と会派では、会派の方が自由度が高いイメージがあります。政党の合併となると、選挙について真剣に考えて選挙区の調整や政策のすり合わせをしなければなりません。とくに選挙区の調整は、選挙を勝ち抜かなくてはならない国会議員にとって死活問題です。しかし、選挙に関係のない会派の結成ならば、ハードルは大幅に下がります。ちなみに、政党が合併する前に統一会派を組むこともあります。

 先ほど説明した法案提出要件など、国会では会派に所属する議員の数がものをいう場面が数多くあります。会派の所属議員数は、ゲームでいうと「攻撃力」のようなものです。会派を大きくすることは、国会内で影響力を発揮することに役立つのです。

 会派を大きくする方法は大きく分けて2つあります。統一会派の結成のように、国会内で交渉して自会派の議員を増やす方法と、選挙で同じ政党の仲間をたくさん当選させて国会に送り込む方法です。

法案審議の最初の一歩にもハードルがある

 法案の審議は以下のような流れで行われます。予算審議も同じです。

法案の審議過程
法案の審議過程

 法案が提出されると、議長はその内容に応じた適切な委員会を決めます。法案を審議する委員会を決めて、審議を任せることを「付託」といいます。付託は法案審議の入り口です。

 提出された法案を付託することに揉める要素などない、と思うかもしれません。しかし、すでにこの付託の段階から与野党の攻防は始まっているのです。

 法案の付託先を実質的に決めるのは、本会議の理事会のような役割を持つ、議院運営委員会です。この議院運営委員会の理事会で、与野党の見解が対立している政策に関する政府提出法案に、野党は「本会議趣旨説明要求」というものを出します。本会議趣旨説明要求が出された法案は、①本会議で提案者による趣旨説明と質疑を行うか、②要求者が要求を取り下げるか、③趣旨説明しないことを議院運営委員会で決めるか、のいずれかを満たすまでは委員会に付託されません。この本会議趣旨説明要求によって法案の付託を遅延させる行為を「吊るし」と呼びます。

 すでに書いたように、法案が付託されなければ法案審議は始められません。この状態を会期末ぎりぎりまで維持できたとしたら、法案は審議未了どころか審議未着手となり、野党がゲームの勝者になります。

 もちろん、与党はこの状態を黙って見ているわけにはいきません。総理大臣や法案を作成した省庁の大臣を本会議に呼んで趣旨説明と質疑の答弁をさせたり、野党となんらかのやりとりをして趣旨説明要求を取り下げてもらったり、多数決で趣旨説明せずに法案を付託することを決めたりします。いずれも、ひと手間必要だったり、与党の国会運営が強引だという印象を国民に抱かせたりする厄介な手続きです。

 ちなみに、野党だけでなく、与党も野党提出の法案を吊るすことがあります。

議院運営委員会は国会の交渉の中心

 議院運営委員会は、文字どおり議院の運営全般について話し合います。おもな仕事は本会議の議題を決めることです。

 本会議の議題の決定権をもつことによって、国会で議決する内容に大きな影響を及ぼせるようになります。なぜならば、議題に上がっていないものは採決されないからです。国会では議題と関係ない話題について質疑や討論をすることは認められません。会議において、議題を設定できるということはかなり強力な力なのです。

 議院運営委員会は、国会に影響を及ぼすという意味で、非常に重要な役割を担っています。参議院では、議院運営委員会に委員を出せるのは10人以上の議員が所属する会派に限られています。参議院規則に定められたこの条件を満たす会派を「交渉会派」と呼びます。衆議院ではとくに規則上の制限はなく、会派の議席数の比率に応じて委員が割り当てられます。

法案の提案理由説明で1回分の会議を消費する

 法案が委員会に付託されると、いよいよ本格的な審議が開始されます。ただし、法案審議の第1回目は、法案提出者による法案の提案理由説明のみで終わる慣例になっています。

 政府提出法案の場合、法案を作成した役所の大臣が説明します。質疑応答もなく、一方的に説明文を読み上げることから、「お経読み」と呼ばれています。

 「提案理由説明が終わったあとに続けて質疑すればいい」と思うかもしれませんが、委員が説明を聞いてから質問の内容を考えるための時間が必要という理由で、次の回から質疑に入ることになっています。ただし、読み上げる説明文は事前に配布されていることを考えると、そのような理由は成り立たないようにも思えます。

 国会で行われるゲームのルールを知らないひとには無駄な慣習のように見えることでしょう。審議を進めたい与党の立場からすれば、たしかに無駄です。しかし、審議を遅らせたい野党にとっては、まさに必要な無駄です。初回をかならず提案理由説明のみにすることで、法案の成立を確実に1日分遅らせることができるからです。

 ただし、与野党で対立がない法案の場合は、提案理由のあと、すぐに質疑に移る場合もあります。お経読みに限らず、すべての慣習には例外があります。

「実質審議入り」は質疑を開始した日

 お経読みが終わった次の回から、いよいよ質疑に入ります。質疑とは、委員会のメンバーが法案を提出した大臣や官僚などに口頭で質問することです。この質疑に入ることを「実質審議入り」と呼びます。

 通常、一回の委員会は長くて6時間ほどです。時間内にいろいろな会派の議員が質問できるように、会派の委員数に応じた比率で持ち時間を分配します。当然、与党会派の質問時間がもっとも多くなります。ただ、政府提出法案の場合、与党の議員は国会提出前に法案について議論し終わっているためか、議席数より少ない時間が与党に配分されます。与党から野党に質問時間を譲っている形です。

 質問時間の配分と質疑の順序は、委員会の理事会で決めます。与党と野党にそれぞれリーダーとなる理事がいます。これを「筆頭理事」と呼びます。与野党の協議は筆頭理事のあいだで行われます。野党の筆頭理事になるのは、野党会派でもっとも議席数が多い会派の理事です。

 いわゆる「野党第一会派」は与党との交渉の窓口になります。野党第一会派と違う考えの野党会派の意向はあまり考慮されません。衆議院と参議院の野党第一会派が違うと、両院で野党の対応が異なることもあります。野党の第一会派と第二会派の議席数の差が少ない場合は、相手の議員を自分の会派に入れようとする激しい第一会派争いが繰り広げられる場合もあります。

 ちなみに、すべての委員会の理事を指揮しているのが、ニュースによく出てくる「国対委員長」です。国対とは「国会対策委員会」の略称で、「委員会」という名前ですが、国会に設置された委員会ではありません。各政党に置かれた党内機関であり、他党と国会の日程や議事進行の調整などを行います。国会で揉め事が起こったときに与野党の国対委員長の会談が行われるのは、国対が国会運営の最前線である証拠です。

野党にとって質疑はメリットとデメリットがある

 野党は質疑を通じて、法案の問題点をあぶり出したり、法案が成立したあとに政府ができることを制限するような答弁を引き出したりする「攻撃」系のものになります。対する与党の質疑は、法案のメリットを宣伝したり、国民の多くが心配に思う部分を払拭したりする答弁を引き出す「アシスト」系のものになります。

 与野党で対立している政策についての法案審議では、質疑を何回も行い審議時間を積んでいくことで、採決する準備が整っていきます。質疑を重ねることは、与党にとって採決が近づくというメリットがあります。野党にとっては、政府を追求できるというメリットもあれば、採決が近づいてしまうというデメリットもあります。ここが野党のジレンマになるわけです。

ビュッフェのような予算委員会

 質疑で質問できるのは法案に関連した内容に限られています。法案と関係ない話題について質問することはできません。また、質疑に答えるのは法案を提出した役所の大臣や幹部となる役人で、他の役所の大臣や役人に質問することはできません。ただし、総理大臣は、重要広範議案と呼ばれる最重要法案の審議の場合、委員会に出席して質疑に応じることがあります。質疑の内容は法案に関連するものに限定され、質疑に応じるのも法案を提出した省庁の大臣や役人、これが質疑の基本ルールです。

 予算審議が行われる予算委員会の質疑は、一般的な法案審議とはルールが異なります。予算委員会の質疑には、基本的質疑、一般質疑、集中審議、締めくくり質疑の4種類があります。この4つは、答弁を要求できる大臣の種類と数によって分けられています。

 基本的質疑では総理大臣をはじめとして、すべての大臣に質問することができます。しかも話題は無制限です。無制限である理由は、予算が国が直面しているあらゆる問題のうち、どれに対応するか、どの優先順位で対応するかをお金の量で見えるようにしたものだからです。そのため、予算案が妥当かどうかを明らかにするには、さまざまな話題を扱う必要があるのです。

 基本的質疑は予算審議の最初に行われます。本予算とも呼ばれる、次年度の予算審議では3日間にわたってこの基本的質疑が行われます。審議の模様はテレビ中継されます。

 一般質疑では財務大臣と答弁を要求された何人かの大臣にのみ質問できます。テレビ中継はありません。

 集中審議には、総理大臣と決められたテーマに関係する大臣が出席します。集中審議もテレビ中継が入ります。

 締めくくり質疑には、基本的質疑と同じく総理大臣とすべての大臣が出席します。「締めくくり」という名前のとおり、予算案の委員会での採決直前に行われます。こちらもテレビ中継されます。

 基本的質疑に始まり、一般質疑で審議を重ね、ときおり集中審議をはさみ、締めくくり質疑で締める。これが予算審議の流れです。

 予算審議は、「総理大臣に質問する機会がある」「すべての大臣に幅広い質問ができる」という点で、「質疑の内容は法案に関連するものに限定される」「質疑に応じるのも法案を提出した省庁の大臣や役人だけ」となる一般的な法案審議よりも優遇されています。議員からみれば、基本的質疑や締めくくり質疑は好きな料理を好きなだけお皿に取れるビュッフェみたいなものかもしれません。しかも、テレビ中継もあります。

 テーマと出席する大臣は多少、限定されますが、総理大臣に直接質問できてテレビ中継もある集中審議は、予算案の提出がないときでも与野党の取引材料として使われています。野党が審議に応じる見返りとして、与党は集中審議というデザートビュッフェを用意するようなイメージです。集中審議は、それほど野党にとっておいしいものなのです。

公聴会が設定されると審議も終盤

 予算審議や重要な法案の審議では、採決の前に公聴会というものが開かれます。公聴会は、委員長が審議中の議案について意見がある人を国会に呼んで話をしてもらう場です。意見を述べる人を「公述人」と呼びます。公述人の多くは与党や野党が推薦した学者などの人ですが、いちおう委員長の名のもとに国民全体に参加の呼びかけを行っています。

 現在の慣習では、公聴会の開催は審議が終盤になったことを意味します。たとえば次年度の予算審議の場合、公聴会が終われば、たいてい一週間以内に採決されることになります。

 この慣習は、採決を遅らせたい野党にとって重要なポイントです。なぜなら、公聴会の設置を遅らせることで採決を先送りできるからです。与党が公聴会設置を最初に提案したときに、野党が「審議が深まっていない」と反対するのはお決まりのパターンなのです。

質疑応答のない討論が終わったら即採決

 委員長が質疑の終局を宣言すると、ただちに討論というフェーズにうつります。討論というと、議員同士で議論するイメージがあるかもしれませんが、そういうものではありません。「○○党を代表して、ただいま議題となりました□□について賛成(反対)の立場から討論を行います。」という決り文句から始まる演説を、何人かがひとりずつ行います。討論で話したことについて他の議員と質疑応答することはありません。

 そして、討論が終わったらすぐに採決に入ります。これで委員会の審議が終わります。

強行採決がはじまる合図 討論省略の動議

 質疑が終局したら討論をして、その後採決するというのが原則的な審議の流れです。逆にいえば、質疑と討論が終わらなければ採決できないということです。

 審議の内容は事前に委員会の理事会で決めることが原則です。理事会で野党が質疑の終局、討論と採決の実施に合意しなかった場合は、とりあえず質疑を行うために委員会を開きます。与野党の対立が激しいと、野党は委員会の開催自体にも反対します。この場合、委員長が自らに与えられている権限を使って委員会の開催を強行します。理事会の合意によって委員会を開催するのではなく、委員長の職権で開催することから「職権立て」と言われています。

 会議は事前に決められた内容どおりに行うことが原則です。委員会開催前の理事会で質疑をやることしか決まっていないのならば、質疑だけしかできません。他のこと、たとえば採決をしたいのであれば、会議中に採決の提案をしなければならないのです。

 そこで「動議」を出します。動議というのは、会議中に予定外の議案を提出することをいいます。採決したい場合は、「質疑を終局し、討論を省略し、ただちに採決に入ることを望む」動議を提出します。

 予定された質疑が終わったタイミングを見計らって、与党議員が動議を提出します。野党議員は当然、反発し、野党議員の怒号が飛び交います。その激しさは、動議を提出している議員の声が聞こえない場合もあるほどです。同時に、野党議員が委員長席を取り囲みます。委員長に委員会の運営を抗議するためです。

 場合によっては、委員長のマイクを奪おうとしたり、審議の進行のために用意されている「カンペ」のようなものをビリビリに破ったりすることもあります。これは委員長に、「本案に賛成の諸君の起立を求めます」という採決の呼びかけや、「起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました」という採決結果の宣言を言わせないための行動です。委員長の議事運営を妨害しようというのです。委員長が委員会の議事運営を適正に行わなかった場合は議事不成立となります。議事不成立になると、行われたはずの採決ももちろん無効です。強行採決をなかったことにするための、野党議員の最後の抵抗なのです。

 こうして、よくニュースで見る「野党議員にもみくちゃにされながらマイクを必死に掴んで離さない委員長」という絵が生まれます。なかなか激しい攻防ですが、野党議員も強行採決が行われることはだいたいわかっています。委員長をいじめても意味がないことも十分に承知しています。お決まりの儀式のようなものなのです。

 もし、野党議員が粛々と審議に応じていたら、野党支持者はどう思うでしょうか。きっと「なんでもっと反対しないんだ」「やる気があるのか」「この国がどうなってもいいのか」と思うことでしょう。このような儀式をやってみせることで、自分たちは法案の可決に本気で反対したという事実を、支持者にアピールするわけです。

 動議提出後、委員長はじゃまをされながらも動議の採決、動議が可決されたことの宣言、法案の採決、法案が可決されたことの宣言などを一気に行い、委員会の審議は終了します。

いよいよ本会議に上程される法案

 委員会で採決して一件落着、ではありません。実は、委員会で採決されたのは「法案を原案のとおり本会議で可決すべき」ということだけなのです。衆議院あるいは参議院として法案の可否を決定するのは、全議員が集まる本会議でなければなりません。

 本会議での採決の流れは次のようになります。

 まず、委員会で可決した法案が、本会議の議題にのぼっていなければなりません。法案を本会議の議題にすることを「上程」と呼びます。本会議を開く際は、日程と議題をあらかじめ周知しておく規則になっています。そのため、本会議の前日までに委員会で採決した法案が上程されることになります。ただし、この規則には例外があります。本会議が始まったあとから議案上程の動議を提出し可決することで、本会議の開催当日に委員会で可決された法案を即座に上程することができます。これを「緊急上程」と呼びます。

 さて、法案が上程されると、議長がその法案を議題とすることを宣告します。次に、それまで法案を審議していた委員会の委員長に審議の経過と結果について報告を求めます。委員長は、どのような法案であるか、いつから審議を始めてどのくらいの審議時間を重ねたか、いつ採決して採決の結果はどうであったかなどを報告します。

 委員長の報告が終わると、次は討論です。委員会での討論と同じく、会派を代表して賛成、あるいは反対の意見を演説します。与野党のあいだでとくに争点のない法案の場合は、討論がないこともあります。

 討論が終わると、いよいよ採決です。採決の結果、賛成者が過半数を超えれば、議長は法案が可決したことを宣言し、ついに法案審議が終了します。

 以上が法案審議の流れです。法案提出、法案の付託、質疑、討論、採決、そして本会議での採決と、法案審議は決まった手順で行われます。この手順さえおさえておけば、ニュースに出ている法案が今どういう状態で、どうなれば法案が成立するのかが見通せるようになると思います。


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