■事前報道ルール
先週は公正取引委員会委員長の候補者が、衆参両院の議院運営委員会に提示される前に報道されたことを理由に、民主党は議院運営委員会理事会から民主党の理事を退席させました。
このように、人事案が事前に報道されたら、国会は同意人事の提示を受けないという「事前報道ルール」が話題になっています。
そもそもは、国会で同意される前に人事案が報道されてしまうので、「国会が決議する前に人事が決まってしまうようでよくない。国会軽視だ!」という理由でできたようです。
この事前報道ルール。現在は「報道によって人事案がつぶれてしまうため、政府が慎重になり、ジャーナリストが取材しにくくなることで、報道の自由を侵している!」とか、「議院運営委員会に提示する前に与野党で人事案について相談した方がよく話し合えるのに、事前報道ルールがあるとなかなか野党に相談しづらくなるのでよくない!」とか、事前報道ルールに反対する論調も多く出てきました。
しかし、事前報道ルールを残すことは、野党にとって非常に重要な意味があります。
■事前報道ルールは必要ない?
実は、野党が政府・与党の足を引っ張るという点で言えば、事前報道ルールはあってもなくてもいいのです。
少なくとも現状では、与党である自民・公明両党は参議院で過半数を持っていません。すべての野党が反対したら、どうやっても国会の同意が必要な人事案は通りません。
法案なら参議院で否決されたあとに、衆議院で全議席の3分の2以上の賛成を得れば成立させられます。これは憲法で決まってる手続きなので、憲法を変えない限り誰も止められません。
しかし、国会同意人事にはこのような規定がないために、参議院で否決されたらどうにもなりません。立ち往生です。だからこそ、事前報道ルールがあろうがなかろうが、与党が参議院で過半数を持たない限り結果は変わらないはずなのです。
■それでも事前報道ルールが必要な理由とは
ですから、私は、なぜ事前報道ルールが必要なのかわかりませんでした。「報道が既成事実になる」という理由は、野党の国会戦略において重要なことに思えなかったからです。ただ、考えていくうちに、事前報道ルールが必要な理由がひとつ見つかりました。
それは反対する理由を考えるのが楽になる、という理由です。
いくらなんでも、「与党のやることだから」といってすべて反対するのは難しいです。ただ、与党が衆参両院で過半数を持っていれば、適当なところで与党が強行採決をすれば物事が決まりますが、参議院で与党が過半数を持っていないときは、「与党のやることだから」というだけでいくらでも反対し続けることができてしまうのです。
さすがに、そのような「反対のための反対」を延々と続けたときに有権者の賛成を得られるかどうかわかりません。ですから、反対するもっともな理由を考えなければなりません。
しかし、反対する理由を考えるのは大変です。ましてや、与党だけでなく、マスコミや有権者を納得させる理由など、そういくつも考えつくものではありません。
このとき便利なのは「事前報道ルールに違反しているから、国会では話し合えないよ」ということです。
例えば、政府・与党が根回しのため、野党に人事案を国会提示前に伝えたとします。このとき、野党は人事案をマスコミに漏らせばいいのです。そうすれば、事前報道ルール違反で堂々と反対することができます。名目上は人事自体に反体してはいませんので、反対のための理由を深く考える必要はありません。ただただ、ルール違反をした政府・与党を糾弾するだけで、与党の足を引っ張れるのです。
こんな便利なもの、そう手放せませんよね。つまり、野党民主党にとって事前報道ルールは、「あったほうが便利な道具」なのです。だからこそ、なかなか手放しがたいのかな、と思うのです。