第197回国会(臨時会)」カテゴリーアーカイブ

質疑を省略して採決の大義名分とは


■質疑を省略して採決

2018年12月5日に、水道事業の経営安定化に向け、民間の参入を促す水道法の改正案が衆議院厚生労働委員会で可決されました。水道法改正案は5日の午前中に参議院本会議で可決し、衆議院に送付されただちに厚生労働委員会に付託され、法案の趣旨説明と質疑を省略して討論採決を行いました。

「質疑を省略して採決」と聞くと、与党の横暴もここまできたか、という感じを受けるかもしれませんが、水道法改正案についての質疑を衆議院で全くやっていないわけではありません。実は、前の国会でやっているのです。

■継続審査になった法案なので省略した?

水道法改正案は今年の通常国会で衆議院本会議において可決され、参議院で継続審査になったものです。今国会で参議院先議で衆議院に送付されたのはそのためです。

与党の言い分は、「前の国会で質疑を行っていて、参議院で法案の内容に変更が加わったわけでもないので、質疑を省略してもいいのではないか」ということでしょう。

ここで不思議なことがあります。水道法改正案は、前の国会で衆議院で可決済みなのに、どうしてまた衆議院で採決しなければならないのでしょうか。法案成立の条件は「衆議院と参議院の両方で可決すること」ではないのでしょうか。

■会期不継続の原則のため、会期をまたがったらもう一度採決をやり直す必要がある

なぜ、衆議院で一度可決したものをもう一度可決しなければならないかというと、会期不継続の原則により、前の国会の議決はなかったことになるためです。

新しい国会が始まると、前の国会の議決がなかったことになり、かつ、法案の成立には衆参両院での可決が必要になるので、今国会で水道法改正案を成立させるためには衆議院でもう一度採決する必要があるのです。

会期不継続原則について、詳しくは廃案と継続審議の違い(決定版)に書いてあります。


野党同士の貸し借り


■立憲民主党の配慮

12月4日の日経新聞朝刊に面白い記事がありました。

外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の参議院の審議について、「立憲民主党が国民民主党の出した対案に配慮して審議拒否や委員長の解任決議案の提出といった日程闘争を行っていない」というものです。

■国民民主党の配慮

ただ、配慮しているのは立民ら国民に対してだけでなく、国民から立民に対する配慮もありました。国民が参議院に提出した対案は、入管難民法改正案の衆議院通過前にすでに策定されていたのですが、強硬姿勢を見せる立民に配慮して衆議院では対案を提出しなかったのです。国民も立民らと強調して審議拒否をしました。

与党と野党の間で衆議院の借りを参議院で返すということがあるとは聞いていましたが、野党の間でも衆議院と参議院で貸し借りを精算するような動きがあるのですね。とてもおもしろいです。

しかし、この立憲民主党と国民民主党の強調路線も、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の対応をめぐる与党との攻防で崩壊しました。


入管難民法案、徹夜国会で可決成立


■徹夜国会

本日12月8日未明、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案が参議院本会議で可決し成立しました。報道によると、午前4時過ぎに成立したのだとか。徹夜国会です。

■次々出される解任決議案、問責決議案

前日7日の参議院本会議から与野党の攻防は始まっていました。

前日に出された法務委員長の解任決議案が12時前に否決された後、14時ごろに野党から山下法務大臣に対する問責決議案が提出されました。19時半から法務大臣の問責決議案の審議が始まり、審議中の20時30分ごろに安倍総理大臣の問責決議案も提出されました。

入管難民法案を所管する大臣である法務大臣と内閣の長である総理大臣に問責決議案が出されている場合は、問責決議案の決着をつけてから審議をする慣例になっています。このため、法務委員会は入管難民法案の採決を前にして予定した委員会の開催ができない事態になりました。

法務大臣問責決議案は21時前に否決され、本会議は2度目の休憩に入りました。再開は22時10分。総理大臣問責決議案の審議が行われ、23時30分ごろ否決されました。

■日付変更前に1分だけ開かれた衆議院本会議

ここで、面白いことがおきました。日付が変わる直前の23時57分、衆議院本会議が開かれ、翌8日の1時から本会議を開くことを議長が宣言し、1分で本会議を終えました。内閣不信任決議案が提出された場合に、速やかに否決して参議院での審議を継続するための措置と思われます。

■国民民主党の反対討論で明確になった、野党の足並みの乱れ

日付が変わってやっと開かれた参議院法務委員会で入管難民法案は可決すべきものと決しました。採決に先立つ討論では、反対討論に立った国民民主党の議員が、委員会室に集まった委員でない議員の態度に苦言を呈しました。「反対討論をさせてほしい。あなたたちのやっていることは、解任決議案の趣旨説明の時間を15分程度に区切る要求を出した与党と変わらない。言論封殺につながるのではないか」といった趣旨の発言でした。野党の足並みに乱れがあることが明らかになった格好です。

野党の足並みの乱れは他にもありました。報道によると、国民民主党は内閣不信任決議案を提出して抵抗するつもりだったようです。

内閣不信任決議案の提出は51人の衆議院議員が必要ですが、国民民主党の衆議院議員は37人しかいないため、立憲民主党に協力を求めました。時事通信によると、立憲民主党は「事前の根回しがない」などとして協力を拒否しました。

内閣不信任決議案といえば、通常国会では立憲民主党の枝野代表が内閣不信任決議案の提案理由について3時間弱の演説を行い、演説が本になって話題になりました。「魂の大演説」をやるには準備が必要なようです。

■18時間に及ぶ攻防、決着

そして、8日1時20分から参議院本会議が開会し、14本の法案の採決が行われたあと、ついに入管難民法案の採決が行われ、可決されたのです。午前4時頃のことでした。

NHKによると、7日の参議院本会議から入管難民法案成立まで18時間かかったということです。

与党議員も野党議員も、お疲れさまですという感じです。


参議院の法務委員長解任決議案が提出される


■与党が採決を提案、野党は委員長解任決議案で対応

本日12月6日夕方、野党は参議院法務委員会の委員長解任決議案を提出しました。これにより、参議院で審議中の外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の採決は見送られました。

本日の法務委員会は午前中から開会しています。報道によると、昼の理事会で与党から野党に午後に採決する提案が出されましたが、折り合いがつかず結論を持ち越して午後の安倍総理が出席する質疑を行いました。総理出席の質疑が終わったあと、再度開かれた理事会で与党が改めて6日中の採決を提案したところ、野党が法務委員長の解任決議案を出した、という流れのようです。

法務委員長解任決議案が提出されたことにより、解任決議案が参議院本会議で採決されるまで法務委員会の審議を再開することはできません。そのため、与党は6日の入管難民法案採決を見送ったのです。

■7日の法務委員会は委員長の職権で決まる

少し気になったのは、明日の法務委員会の開催が委員長の職権で決まっていることです。解任決議案が提出される前に決めたのか、提出された後に決めたのかどちらなのでしょうか。解任決議案が提出された後に決めた場合は、解任決議案が提出された状態で審議を進めることはできないが、委員長としての権能はあるので委員会の運営を決定できるということになるのでしょう。

ちなみに、明日の参議院法務委員会は10:10から開催の予定になっています。参議院本会議はその10分前の10:00開会です。このスケジュールのとおりにはいかないでしょうが、本会議で速やかに解任決議案を否決して、午前中に法務委員会を開いて入管難民法案を採決するという与党の気持ちが伝わってきます。

午前中に法務委員会で採決したら、午後に再度本会議を再開して、入管難民法案を緊急上程し、採決しようと考えているのだと思います。このタイミングで法務大臣の問責決議案が提出されると、多少採決を遅らせることができます。


入管難民法改正案、明日12月6日に参議院法務委員会で採決か


■6日の法務委員会開催は、総理出席で与野党合意

本日12月5日、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の参議院での審議について、明日6日に安倍総理が法務委員会に出席して質疑を行うことで与野党が合意しました。これで、6日の審議まで与野党合意で行われることになります。

明日の法務委員会の理事懇談会で採決の提案がされ、野党が反対し折り合いがつかず、委員会での審議中に質疑終局の動議が出されて採決に向かう流れになるのでしょうか。採決の提案をそもそもしない可能性もあります。

■野党はカードをいつ切るか

野党も審議を遅延するカードを3つは持っています。法務委員長解任決議案、法務大臣問責決議案、そして内閣不信任決議案です。これらのカードを明日や明後日のどのタイミングで切るかが注目です。

野党は明日の衆議院本会議で採決される見込みの水道法改正案にも反対しているので、明日内閣不信任決議案を出すのでしょうか。内閣不信任決議案は、衆議院と参議院の審議を両方止めることができます。ただ、明日内閣不信任決議案を出してしまうと、明日の衆議院本会議で即採決されてしまうので、明後日に行われそうな入管難民法改正案の参議院本会議での採決を遅らせることには使えなくなってしまいます。


入管難民法案の採決に関する提案は5日か


■12月7日に成立を目指すのなら、12月6日に法務委員会で採決が第一候補

本日12月4日、参議院法務委員会で、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の質疑の続きが行われました。明日5日も、法務委員会の定例日ではありませんが、入管難民法改正案について参考人質疑を行うことで与野党が合意しています。

本日の報道を見る限り、与党から野党に対して、入管難民法改正案を採決する日程の提示はなかったようです。報道によると、与党は入管難民法改正案について今週7日の成立を目指しているとのことです。7日の参議院本会議に間に合わせるには、法務委員会の定例日に合わせるならば6日に採決するしかないので、明日法務委員会の理事懇談会などで与党から野党に採決の提案をすると思います。

ちょうど安倍総理が外遊を終え帰国しているので、総理が法務委員会に出席するなどあれば採決の合意が取れそうですが、どうなるのでしょうか。


終盤国会、入管難民法案に野党はどんな抵抗ができるか


■参議院の入管難民法案の審議で気になるところ

明日12月4日に、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の質疑が参議院法務委員会で行われます。明日以降、ぼちぼち採決の日程について、法務委員会の理事懇談会で与党から野党に提案があるのではないかと思います。

採決の提案があった場合、野党は「採決は時期尚早である」という抗議をすると思いますが、国民民主党の対案も同時に審議されているなか、立憲民主党は審議拒否するのかどうか気になります。衆議院での入管難民法改正案の審議では、一回分の質疑に主要な野党が出てきていません。

■審議拒否よりも確実に審議を遅らせる決議案系

とはいえ、審議拒否は、出てこない人たちがいたところで審議を強行してしまうことができるので、あまり意味がありません。

ただ、野党は制度的に審議を止める方法を、いくつか残しています。参議院の法務委員長解任決議案、法務大臣の問責決議案、そして内閣不信任決議案です。

法務委員長解任決議案と法務大臣問責決議案は、参議院に提出し、参議院本会議で採決するものですが、内閣不信任決議案を決議できるのは衆議院だけです(憲法69条)。ですが、内閣不信任決議案が提出されると衆議院本会議で採決されるまで参議院の審議も止まる慣例になっているため、内閣不信任決議案で入管難民法案の成立を遅らせることは可能です。


臨時国会会期末まで10日


■会期末まであと10日

12月2日時点で臨時国会会期末まで、残すところあと10日です。

今国会で注目されている法案のひとつである、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の参議院での審議は、4日と5日まで与野党で合意しています。

時事通信の記事では、現状を評して「衆議院に引き続き与党ペースで審議が進んでいる」と書いていますが、衆議院ではほとんどの審議を法務委員長が職権で決めて実施しているので、参議院のほうがより与党ペースに見えます。

入管難民法案改正案の衆議院法務委員会での審議は全4日(回)で、そのすべてが委員長の職権で開かれています。職権で委員会が開かれるというのは、与野党が委員会運営について合意できなかったということなので、衆議院のほうが与党に厳しかったのではないかと思います。対して、参議院法務委員会は職権で開かれたのは初回の11月29日だけです。


禁足とは


■壁に大きな”禁足”の文字

11月27日の立憲民主党 国会情報(@cdp_kokkai)というTwitterアカウントから投稿された写真に、面白いものが写っていました。

写真に撮られたのは立憲民主党の代議士会の会場です。山下法務大臣不信任決議案の採決を行う衆議院本会議の前に開かれたものです。

写真に写っていたのは、壁にかかる大きな”禁足”という二文字です。ここでいう禁足とは、本会議で重要な議案の採決があるため、所属議員に国会周辺で待機するよう求めることです。

なぜ禁足を求めるかというと、会議の過半数のラインが出席者の人数によって変わってしまうためです。全400人の出席予定者がいて、全員出席した場合は過半数は201ですが、50人欠席したら176で過半数になります。自陣営から欠席者がでると不利になってしまうのです。

「禁足がかかる」ということは知識で知っていましたが、代議士会でデカデカと”禁足”と書いた文字がかかっているとは思わなかったので、面白く思いました。

<a href=”https://twitter.com/cdp_kokkai”>立憲民主党 国会情報(@cdp_kokkai)


一転、参議院の入管難民法案の審議は与野党合意で決まる


■入管難民法案、参議院法務委員会で審議入り

本日11月29日、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の趣旨説明と質疑が参議院法務委員会で行われ、実質審議入りしました。

■4日と5日に質疑で与野党合意した理由は、国民民主党の対案か

報道によると、法務委員会のあと行われた理事懇談会で今後の審議日程について話し合われ、4日の質疑と5日の参考人質疑を行うことで与野党が合意しました。

衆議院の審議から、入管難民法案の審議は与野党で合意に至らず、委員長の職権で委員会が開かれることが続いていたので意外な感じがします。

おそらく、野党の国民民主党が入管難民法案の対案を提出し、その審議も合わせて行うため、その他の野党としても委員会の開催を無下に拒否できなくなったのではないかと思います。国民民主党の対案が議題になるのに審議の開催に賛成しなければ、野党が出した対案を審議に値しないという態度をとることになるからです。

それにしても、衆議院では質疑に出席しない姿勢まで見せた野党が、参議院では円満な委員会運営に協力するというのは面白いです。衆議院と参議院は文化が違うのかもしれません。文化が違うことが、国会が二院ある価値がのひとつなのでしょう。