野党再編の意義


 2014年1月4日現在。野党再編について、連日報道されています。昨年末に誕生した結いの党が、3月にも維新の会と合流して、さらには民主党の一部とも合流するとか、そんな感じです。

 野党再編の最大の意義は、巨大与党に対して野党勢力を結集し、野党が一体となって行動できることです。

 例えば、議事妨害に欠かせない本会議の採決に対する記名投票要求は、本会議出席者の五分の一以上が賛同していなければ受け入れられません。昨年末の内閣不信任案の採決において、民主党は日本維新の会の協力を得られず、内閣不信任案の採決としては珍しい起立採決になってしまいました。

 また、本会議や委員会に欠席する審議拒否も大勢でやったら目立ちますが、野党1党だけが欠席してもあんまり効果がありません。ただでさえ審議拒否に対する世論の見方は厳しいので、悪くすると「何やっちゃってんの?」と総スカンを食う恐れもあります。野党として抵抗するのにも、数が必要なのです。

 国会において野党が使える力は、国会の制度、時間、そして議席数―つまり数です。国会内ではこれしかありません。あとは、国会外でデモを指揮して政府・与党をビビらせて自分たちの要求を呑ませるというものがあるにはあります。ありますが、政府・与党をビビらせるだけの人を集められるのなら選挙で勝っているはずなので、そうそうあることではありません。

 野党の数は、国会全体の議席数−与党の議席数で決まります。現在は衆議院も参議院も自民党・公明党で過半数を占めているので、与党の議席数を引いた時点で野党の数は悲しいことになります。その少ない野党の数が、さらに民主党だ、日本維新の会だ、みんなの党だ、日本共産党だ、というように分かれているのです。各々の党がバラバラに与党と戦っても、結果は見えています。

 そこで野党再編して、野党勢力の結集をしよう、野党の数をまとめようということになるわけです。


内閣提出法案の成立率の高低は与野党の勝敗を示すか


 2014年1月3日現在。NHK NEWSWEBに、『野党勢力結集 どこまで進むか見通せず』と題する記事が本日付けで出ています。

 記事の趣旨とは関係ないのですが、この記事の中に以下のような言葉があります。

先の臨時国会では、衆参のねじれが解消したことを受けて、政府が新規に提出した法案の成立率が87%に達し、野党側は与党ペースで国会運営が進んだことに危機感を強めています。

 内閣提出法案の成立率が、与党ペースで国会運営が進んだことを示す指標のひとつであると、この記事はみているようです。

 衆議院と参議院の第一党が一致しているのにもかかわらず内閣提出法案の成立率が低いのは、与党の国会運営がうまくいっていないことを示しています。これは間違いありません。

 ただ、内閣提出法案の成立率が高いことが、必ずしも与党一人勝ち、与党が好き放題にやっている国会であることを示すわけではありません。野党の言い分を聞き、与党が納得したら野党の主張を取り入れて法案を修正した上で成立させる。このような丁寧な国会運営の結果、成立率が高いのであれば、与党が野党を圧倒して好き勝手しているとは言えません。

 内閣提出法案の成立率が高ければ与党の勝ち、低ければ野党の勝ち、という見方は必ずしも当てはまらないのです。

 巨大与党が存在する現在、与党を分裂させない限り、野党が数で与党を上回ることはできません。特定秘密保護法の成立経過を見れば分かる通り、与党はどんなに議事妨害をされても内閣支持率を犠牲にすればいくらでも法案を成立させられます。

 そして、衆議院を解散しなければ、国政選挙は2年以上先になります。支持率が国政選挙の結果に影響するのも2年先です。支持率の低下は、与党に「安倍おろし」を誘うくらいが関の山で、国会の勢力図に影響はありません。安倍内閣は困るかもしれませんが、与党は与党のままで、野党はいつまでたっても野党です。

 このような状況で、内閣提出法案の成立率の高低にこだわっても意味がありません。大切なのは審議の中身です。審議の充実こそが、野党の進むべき道です。


国会の定例日


 国会のスケジュールを考えるには、本会議と委員会の定例日を把握する必要があります。 今までなんとなく覚えていたところなので、通常国会の召集前に正確に覚えなおそうと思います。

■本会議の定例日

 衆議院本会議の定例日は、火曜日、木曜日、金曜日でいずれも午後1時からとなっています。一方、参議院本会議の定例日は、月曜日、水曜日、金曜日でいずれも午前10時からとなっています。これ以外に、国会の召集日と会期の最終日に本会議が開かれます。図にすると以下のようになります。

   
参議院本会議
衆議院本会議  
参議院本会議
衆議院本会議 衆議院本会議
参議院本会議
 

■委員会の定例日

 委員会の定例日は、各々の委員会によってまちまちです。予算委員会や特別委員会なんかは、連日開かれます。衆議院は水曜日と金曜日の組み合わせが、参議院は火曜日と木曜日の組み合わせが多いようです。大体週2ペースですが、会期末や年度末になると連日開いたりしています。図にすると以下のようになります。

    パターンA  
パターンB
パターンA  
パターンB
 

野党の存在感の示し方


 2014年1月1日現在。明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

■荒れない国会は面白く無い

 昨年の臨時国会は、特定秘密保護法案を巡って運営が荒れていました。今月24日に召集されるとの話も出ている通常国会は、どのような国会になるのでしょうか。楽しみでなりません。

 「運営が荒れている」とは言いましたが、「荒れているくらいじゃないと面白くない」という気持ちもあります。政局が楽しみというだけではありません。平穏で何の波乱もない国会というのは、政府・与党の1人勝ちの状況であり、野党の存在感がなくなっているということです。野党だって支持者がいて議席を得ているのですから、支持者に向けて存在感を示す必要があります。

■野党の存在感の示し方2つ

 いま気になっているのは、野党の存在感の示し方についてです。野党の存在感の示し方には、2つあります。ひとつが、昨年の臨時国会で民主党が取った審議引き伸ばし戦術で法案の廃案や継続審議を狙うことです。もうひとつが、日本維新の会やみんなの党のように、与党と協議して政府提出法案を修正させることです。

 審議引き伸ばし戦術のような議事妨害は見た目が派手でアピールできますし、大成功すれば法案を廃案や継続審議に持ち込んで、法案成立を次の国会に持ち越すことができます。そこまでいかなくても、与党に強行採決を強いることで、世論に与党の国会運営の強引さを印象付け、内閣や与党の支持率を下げることができます。

 ただ、議事妨害ができるのはそれだけです。あくまで国会の中だけの話で、政府をコントロールする力は少ないです。政府のコントロール、つまり、日本を動かすという観点からするとあんまり効果がありません。

 その点、与党と法案の修正協議は、成功すれば野党の主張が法案に反映され、その後の政府の運営を法律面でコントロールすることができます。というより、野党が政府をコントロールする手段は、法律によるか、質問や質疑によって答弁という言質をとり、政府の行動に一定の枠をはめる以外にありません。野党は政府に参加していないから野党なのですから、当然です。

 最終的には数で押し切られるとしても法案の廃案や継続審議を目指すか、それとも、すこしでも自党の主張を反映させるべく与党に法案の修正を求めるか。今年の野党は、どの道を目指すのでしょうか。

 私は、議事妨害をちらつかせて(強行採決による支持率の低下を想起させて)与党を脅しつつ、法案の修正を求めるような流れになるのかなぁ、と思っています。


2013年12月4日の本会議-記名投票要求と休憩動議


2013年に開かれた臨時国会(第185回国会)の最大のイベントは特定秘密保護法案の審議でした。土日を含んで50日程度という短い時間のなかで何が何でも法案を成立させたい与党と、時間切れで廃案か継続審議に持ち込もうとする野党、特に民主党との間で熾烈な争いが繰り広げられました。2013年12月4日の参議院本会議も、そのひとつです。

■経過

2013年12月4日。午後1時22分に参議院本会議が開かれました。以下、『参議院インターネット中継』の動画の経過時間で追っていきます。

  • 7分 開議
  • 10分 日程第一〜第三の条約承認を求める件、外交防衛委員長報告終了
  • 11分 採決 記名投票要求があったことを議長が告げ、記名投票になる
  • 12分 議員の点呼開始
  • 17分30秒〜18分50秒 ゆったり投票する議員が集中
  • 23分 賛成236、反対0で可決
  • 24分29秒 日程第四の法案について、政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員長が登壇し発言を始めたところで、議場から「議長」という呼び声
  • 24分52秒 石井準一議員が暫時休憩することの動議提出
  • 25分34秒 動議可決、本会議休憩

■採決の種類と記名投票の特徴

本会議での採決には、賛成の議員に起立を求める起立採決、演壇の投票箱に賛成の白票、反対の青票を議員一人一人が投票する記名投票などがあります。また、参議院のみ議席で賛成反対のボタンを押して投票する、押しボタン式投票というものがあります。

記名投票を求めるには、本会議に出席している議員の五分の一以上の要求が必要です。参議院の定数は242人です。

本会議に全員出席なら、五分の一以上、242÷5≒49人の要求があれば足ります。4日の日程第一から第三の採決では、57人の要求がありました。本会議の欠席者いれば、もっと少なくてもよいはずです。衆議院の定数は480人なので、本会議に全員出席なら96人の要求で記名投票になります。

参議院での民主党の議席は58議席ですので、民主党は単独で記名投票を要求できます。

しかし、衆議院の民主党の議席は56議席です。本会議で200人以上の欠席者が出ないかぎり、民主党単独では記名投票を要求することはできません。確実に記名投票にするためには、53議席を持つ日本維新の会の協力が不可欠です。

維新の協力が得られない場合は、維新以外のすべての野党会派と数名の無所属議員の協力を得なけれなりません。

実際、12月6日の衆議院本会議での安倍内閣不信任決議案採決において、民主党は維新の協力を得られませんでした。他の野党の協力も得られず、不信任決議案としては31年ぶりの起立採決となりました。

■記名投票の狙い

野党にとっての記名投票の目的は、採決に時間をかけることによる審議の引き伸ばしです。4日の投票では、12分ほどかかっています。おそらく、スムーズにいけばもっと短くなるでしょうが、動画を見るとわかる通り、ゆったり丁寧に投票する議員がいるので10分以上かかるのです。

この本会議で予定されていた議題は12件ありました。もし、そのすべての採決を記名投票で行ったらどうなったのでしょうか。いくつかの議題をまとめて採決することもあるので、だいたい9回採決の機会があります。9回×12分=108分くらい採決だけでかかる計算になります。本会議が終わるのは、午後3時30分〜4時くらいになります。

4日の午後には国家安全保障に関する特別委員会の地方公聴会が予定されていました。地方公聴会の会場は埼玉県さいたま市大宮です。

この地方公聴会は特定秘密保護法案の採決の前提となるものです。採決の前提になるというのは、地方公聴会が終わるまでは、採決までいけないということです。

地方公聴会は委員会審査のひとつで、本会議中に平行して委員会を開くことは原則できません。よって、本会議が終わるまで地方公聴会はできないことになります。

民主党の記名投票要求は、この地方公聴会を翌日に先送りすることを狙ったものだとされています。

すべての議案を記名投票し、午後4時に本会議が終わるとします。それから大宮に行ったとすると、午後5時30分には地方公聴会を開けるように思います(身支度して東京駅に着くまでに30分。東京駅から大宮駅まで新幹線で25分。地方公聴会を始める準備に30分程度かかる想定)。

具体的に何時くらいがデッドラインだったのかはよくわかりません。新幹線の座席や会場、地方公聴会で意見を述べる公述人の都合などを考えると、午後5時30分から地方公聴会を開くのは無理なのかもしれません。

■与党によるタスクの組み替え

なんとしても4日中に地方公聴会を開きたい与党はどうしたでしょうか。与党は採決前に、しかも委員長の報告中に本会議の休憩動議を提出します。『残りの議案の採決』→『本会議散会』→『地方公聴会』という順番から、『本会議休憩』→『地方公聴会』→『本会議再開』→『残りの議案の採決』という順番にタスクを組み替えたわけです。

先に公聴会を済ませてしまえば、本会議で多少時間がかかっても特定秘密保護法案の審議が遅れることはありません。民主党の記名投票要求による議事妨害は不発に終わってしまったのです。

参考:参議院規則
第137条 議長は、表決を採ろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、その起立者の多少を認定して、その可否の結果を宣告する。
議長が起立者の多少を認定し難いとき、又は議長の宣告に対し出席議員の五分の一以上から異議を申し立てたときは、議長は、記名投票又は押しボタン式投票により表決を採らなければならない。
第138条 議長は、必要と認めたときは、記名投票によつて、表決を採ることができる。出席議員の五分の一以上の要求があるときは、議長は、記名投票により、表決を採らなければならない。
第139条 記名投票を行う場合には、問題を可とする議員はその氏名を記した白色票を、問題を否とする議員はその氏名を記した青色票を、投票する。
第140条 記名投票を行うときは、議場の入口を閉鎖する。


後議の院の審議は短くなる-第185回国会会期末


 2013年12月8日現在。12月6日に会期が2日間延長されたため、本日が第185回国会の会期末となります。

 特定秘密保護法案の審議は見どころがありました。与党と民主党で委員長の解任決議案をお互いに出しあったりとか、すごいです。だって、与党の解任決議案は数から言ってほぼ確実に成立しちゃうんですから、すごいとしか言いようがありません。

 他にも、民主党が本会議での法案の採決を時間がかかる記名投票にして国家安全保障特別委員会の公聴会の開会を翌日にずらそうとしました。しかし、すかさず与党が本会議の休憩動議を出して、採決自体を先送りし、採決よりも公聴会を先にしました。かなり面白かったのですが、あんまり面白がっていると「見世物じゃないぞ!」と怒られそうな気もします。でも、そういうのが好きなのです。

 民主党などの野党が特定秘密保護法案の成立阻止のために使った武器にどのようなものがあったのかは、また少しずつ調べて書いていきたいと思っています。

 さて、予想通り特定秘密保護法案が注目をあびているあいだに、様々な内閣提出法案が難なく成立していきました。このブログでは厚生労働委員会の動きを追っていました。最終週の、衆議院と参議院の厚生労働委員会の日程は以下のようになりました。

衆参厚生労働委員会日程(#185最終週)


12/2(月) 12/3(火) 12/4(水)
定例日
12/5(木) 12/6(金)
定例日
12/7(土) 12/8(日)
会期末
    生活(可決)   中国残留邦人
(可決)
がん登録推進
(可決)
請願の審査等
   


12/2(月) 12/3(火)
定例日
12/4(水) 12/5(木)
定例日
12/6(金) 12/7(土) 12/8(日)
会期末
プログラム
(参考人質疑)
プログラム
(質疑終局)
薬事
(趣旨説明)
中国残留邦人
(可決)
がん登録推進
(可決)
  プログラム
(可決)
薬事
(可決)
請願の審査等    

 社会保障プログラム法案、インターネットでの薬販売を解禁する薬事法改正案、生活保護法改正案など、懸案とされていた内閣提出法案はすべて委員会で可決され、本会議でも可決、成立しました。会期内の定例日を使い尽くす、無駄のないスケジュールになっています。

 生活保護法改正案や薬事法などは、先議の院の審議回数より1回少ない2回で採決されています。先議の院よりも、後議の院の方が審議時間が短くなる傾向があるみたいですね。2013年12月5日21時44分付の時事ドットコムの記事によれば、「参院は衆院の「7掛け」が通例とされる」そうです。参議院に限らず、後に審議する方が時間が短くなる傾向にあるのは間違いなさそうです。


参議院厚生労働委員会1日4法案審議(うち2法案可決)


 2013年12月4日現在。12月2日、参議院議院運営委員会は、9法案を本会議での趣旨説明を省略して各委員会に付託することを決定しました。付託された法案のなかには、民主党をはじめとする野党が本会議での趣旨説明を求めていた内閣提出法案がありました。このため野党は「委員長の議事運営が強引だ」として自民党の岩城光英議院運営委員長の解任決議案を提出しています。

 参議院厚生労働委員会にも12月2日に付託された法案はありました。まず、インターネットでの薬販売を解禁する薬事法改正案です。薬事法改正案は、12月3日に厚生労働委員会で趣旨説明(衆議院で言う「提案理由説明」)を終えています。

 次に、いずれも参議院議員発議である、「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の一部を改正する法律案」と「がん登録等の推進に関する法律案」です。こちらも12月3日同時に審議され、与野党の賛成で可決しています。

 ちなみに民主党は欠席でした。12月2日の9法案付託に反発して厚生労働委員会などの4つの委員会に欠席したということです。与野党で争いがない法案の可決に加わらないで、民主党にはどのようなメリットがあったのでしょうか。気になります。

 これで、衆参の厚生労働委員会の状況は以下のようになります。

衆参厚生労働委員会日程予想


12/2(月) 12/3(火) 12/4(水)
定例日
12/5(木) 12/6(金)
定例日
会期末
    生活   生活
(採決?)


12/2(月) 12/3(火)
定例日
12/4(水) 12/5(木)
定例日
12/6(金)
会期末
プログラム
(参考人質疑)
プログラム
(質疑終局)
薬事
(趣旨説明)
中国残留邦人
(可決)
がん登録推進
(可決)
  プログラム
(採決?)
薬事
 

 会期末の12月6日を使えば、薬事法改正案(衆議院での審議実績は3回)も余裕で成立しそうです。また、衆議院の厚生労働委員会の日程には余裕があるので、12月3日に可決した中国残留邦人自立支援法案とがん登録推進法案も成立しそうです。

 それにしても、いくら与野党で争いがない法案とはいえ、1日で可決されるのはすごいですね。会期末の参議院の委員会では、1日に4法案の審議ができるということがわかりました。


11月25日週と12月2日週の厚生労働委員会の実績と予測


 2013年12月1日現在。11月25日週と12月2日週の厚生労働委員会の実績と予測をまとめました。(下の表からは土日は除いています)



11/25(月) 11/26(火) 11/27(水)
定例日
11/28(木) 11/29(金)
定例日
12/2(月) 12/3(火) 12/4(水)
定例日
12/5(木) 12/6(金)
定例日
会期末
    薬事
(可決)
  生活
(提案理由説明)
    生活   生活
(採決?)


11/25(月) 11/26(火)
定例日
11/27(水) 11/28(木)
定例日
11/29(金) 12/2(月) 12/3(火)
定例日
12/4(水) 12/5(木)
定例日
12/6(金)
会期末
  プログラム
(提案理由説明)
  プログラム   プログラム
(参考人質疑)
プログラム   プログラム
(採決?)
 

 社会保障プログラム法案の参議院審議は、定例日外の12月2日に参考人質疑を行うことになっています。これで、他に定例日外の審議をしないとしても、会期末である12月6日までの審議実績は5回になります。衆議院の実績は6回なので、参議院の審議時間の相場が衆議院より若干短い場合は、採決までいく可能性があります。

 生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は、参議院の審議実績をふまえるとあと2回で採決できます。野党各党の力が特定秘密保護法案に集中しているので、今国会中の成立は間違いないでしょう。

 この表をつくるために、衆議院参議院のサイトの情報を使いました。具体的には、衆議院は衆議院公報と委員会ニュースを、参議院は参議院公報と委員会経過を使いました。

 ところで、参議院は当日中に参議院公報を出してくれるのですが、衆議院は1日遅れとなっています。例えば、12月1日時点で衆議院のサイトで出ているのは、11月28日の衆議院公報です。そこで、衆議院の最新情報を得るために衆議院インターネット審議中継の情報も使いました。インターネット審議中継は、審議が行われたその日の審議中継が公開されているからです。


法案審議のスケジュール感ー生活保護法に注目


 2013年11月24日現在。先週中に成立すると予想していた「生活保護法改正案」と「生活困窮者自立支援法案」は、まだ成立していません。成立どころか、衆議院でまだ審議されていません。審議の前提となる委員会付託すら行われていない状態です。

 先週の衆議院厚生労働委員会は、インターネットでの薬販売について定めた「薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律案」を審議していました。てっきり、先々週に「社会保障プログラム法案」を衆議院厚生労働委員会で強行採決したのは、生活保護法と生活困窮者法を審議するためかと思っていましたが、どうも薬事法を早く審議するためだったようです。

 スケジュールを考えると、生活保護法と自立支援法の審議を後回しにするのは、合理的な判断です。いまのところ、衆参の厚生労働関係を所管する委員会のスケジュールは以下のようになっています。(薬事2が先週衆議院で審議していた法案。薬事1は先に提出され、すでに成立した薬事法などの改正案。)

  定例日1
(11/18週)
定例日2
(11/18週)
定例日3
(11/25週)
定例日4
(11/25週)
定例日5
(12/2週)
定例日6
(12/2週)
会期末
衆議院 薬事2
(提案理由説明)
薬事2 薬事2
(採決?)
生活
(提案理由説明?)
生活 生活
(採決?)
参議院 薬事1(可決)
再生医療(可決)
休み プログラム プログラム プログラム プログラム
(採決or継続審査or審議未了)

 参議院の審議実績を踏まえると、生活保護法と自立支援法は衆議院の定例日4,5,6を使えば成立します。その上、薬事法を参院に送付することができ、今国会中の成立の目が残ります。最悪、参院に送付してから継続審査にすれば、次の国会で参院で可決したあと衆議院で審議する時、「一回可決したんだから」ということで衆議院での可決までの時間を大幅に短縮することができます。

 もし、生活保護法と自立支援法を衆議院で先に審議すると、今度は以下のようなスケジュールになります。

  定例日1
(11/18週)
定例日2
(11/18週)
定例日3
(11/25週)
定例日4
(11/25週)
定例日5
(12/2週)
定例日6
(12/2週)
会期末
衆議院 生活
(提案理由説明?)
生活 生活
(採決?)
薬事2
(提案理由説明?)
薬事2 薬事2
(採決?)
参議院 薬事1(可決)
再生医療(可決)
休み プログラム プログラム プログラム プログラム
(採決or継続審査or廃案)

 ご覧のとおり、衆議院が薬事法を採決するのは会期末になってやっととなり、よほど強引な国会運営をしなければ、今国会での成立は時間的に不可能になります。

 これは、生活保護法と自立支援法で使う3マス分をどこで埋めれば一番効率がいいかを考えるパズルです。公務員試験で、判断推理という論理パズルの問題が必ず課されるのは、法案審議のスケジュールを考える力を養うためかもしれません。

 ちなみに、プログラム法案は衆議院で6回の審議実績があります。うち1回は定例日外に参考人質疑を行ったので、単純に定例日のみで考えることはできないかもしれませんが、審議時間が足らないようにみえます。また、薬事法を成立させるためには、薬事法の審議時間もねじ込まないといけません。かなり厳しいスケジュールです。

 薬事法とプログラム法案ともに、継続審査になる可能性があります。


生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は順調に審議中


 2013年11月10日現在。注目していた参議院先議の「生活保護法の一部を改正する法律案」、「生活困窮者自立支援法案」は、あっさり厚生労働委員会付託されました。2013年11月5日、参議院議院運営委員会は、生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案を本会議で趣旨説明を聴取することなく法案を付託することを与党の賛成多数で決議したのです。

 法案が可決するまでにはだいたい5つの段階があります。

  1. 本会議での趣旨説明
  2. 委員会での趣旨説明・提案理由説明
  3. 質疑
  4. 討論
  5. 採決

 今回、生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は1をすっ飛ばして、すでに3に入っています。

 日本共産党は生活保護法改正案に反対のようです。夏の参議院選挙で躍進した共産党が議院運営委員会でこの2法案に対してなんらかのアクションを起こすのではないかと思っていたので、なんとなく拍子抜けの感があります。

 共産党にとって、生活保護法改正案反対よりも特定秘密保護法案反対の方が大切だから特に何もしなかったのでしょうか。それとも、何かしたかったけどその力がなかったのでしょうか。どちらにせよ、国会は完全に政府・与党ペースで進んでいます。新しい国会の流れを考えるときに、共産党の働きを重視していた私の見方は外れたようです。

 ただ、議運委の会議録を読んだところ、11月5日に議運委が立てられたのは委員長の職権で急に決まったようです。この日の委員会で民主党の小見山幸治議員が与党の強引な国会運営を批判しています。付託も全会一致でなく採決だったので、円満な国会運営とは言えないかもしれません。

 共産党をはじめ、野党の目が完全に特定秘密保護法案に向いているので、他の法案は特に波乱なく成立していくのではないでしょうか。このペースでいくと、生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案は来週中に参議院を通過し、再来週にも成立するでしょう。