欠席と審議拒否


■与党議員の国会欠席

 2013年5月8日現在。昨日7日、参議院環境委員会委員長である、自民党の川口順子議員に対し委員長解任決議案が提出されています。この解任決議案は、川口委員長が参議院議院運営委員会から許可を得ていた日数を超えて中国に滞在したことで、国会に出席できず環境委員会が流会になってしまった責任を問うものです。

 また、同じく昨日7日、参議院法務委員会で一部の与党委員の出席がないことが問題となり、予定された審議日程を消化できなくなる事態が起きました。

 どちらも与党議員が国会に出席できなかったために起きた事態です。民主党を始めとする野党は、これらを「与党の国会軽視の現れである」として厳しく批判しています。

 ただ、国会に出席しないことが「国会軽視」だとすると、野党の審議拒否もまた、「国会軽視」につながりかねません。審議拒否の正当性が弱くなってしまうので、野党は議員の出席についてあまり過剰反応しないほうが良いのではないかと思います。

■審議拒否は単なる欠席とは違う

 とはいえ、与党議員の欠席と野党の審議拒否は意味が違います。与党議員の欠席は、よくて手続きの行き違いか、単なるミスですが、野党の審議拒否は、政府・与党の国会運営から正当性を奪うための審議拒否だからです。

 国会で審議して決定したことは、みんなを縛ることになります。そのため、国会で審議することは、決定したことが正しいことを担保することにつながります。この担保を取っ払う手段が、審議拒否です。審議拒否しているということは、正常に審議が行われていないということです。それだけで、国会の決定に傷をつけることができるのです。

 審議拒否には、審議日程を遅らせる効果に加えて、政府・与党の政策にケチをつける効果もあります。だから、野党による審議拒否はこれからもなくならないでしょう。

 ところで、本日は珍しく与党が参議院予算委員会を審議拒否するという事態になりました。これにどういう意義があるのかは、まだ良くわかりません。


議員定数削減と脱政治化


■議員定数削減

 先月衆議院を通過した衆議院選挙の区割り法案は、与野党が真っ向から対立しました。「0増5減」を先行し、衆議院選挙の正常化を目指す与党と、恒久的な衆議院選挙の正常化のため、抜本的な選挙制度改革を目指す野党の対立です。

 とは言え、野党でも賛否がわかれている点があります。それが議員定数削減問題です。民主党やみんなの党などが大幅な定数削減を目標に掲げている一方、共産党などは定数削減に否定的です。

■定数削減は脱政治化

 政治で扱う問題がどんどん少なくなれば、当然、国会議員も少なくていいことになります。そうでなければ、定数削減によって国会審議はうまく回らなくなってしまいます。人数を減らして、今までと同じかそれ以上の仕事をするのは大変なことです。

 つまり、定数削減と、政治の役割を減らす「脱政治化」はセットで行われることになるはずです。その点で、「小さい政府」を目指す政党が大幅な定数削減を目指すのは矛盾がありません。

 例えば、みんなの党は政権公約でも「小さい政府」の実現を謳っていて、かつ、定数削減による「立法機能の低下はない」という立場です。脱政治化という観点から見れば理屈は通っています。

 逆に、安倍首相が率いる自民党は経済や金融、教育などについて公的な場で討論し対策を決定すべきという立場にあるように見えます。問題を「政治化」していく立場です。

 もし、みんなの党に比べて自民党が大幅な定数削減に消極的なのだとしたら、それは「脱政治化」と「政治化」という問題解決の基本的な立場の違いからくるものなのかもしれません。


政治化と脱政治化


■読売:地球を読む欄

 2013年4月29日現在。今朝の読売新聞朝刊に面白いフレーズが載っていました。「地球を読む」という欄で、今回は政治学者の御厨貴さんが書いていました。内容は発足から120日経った安倍政権を振り返るというものです。以下がそのフレーズです。

経済・金融を政治が統治できるのだという姿勢を明確にしたことは、ここ20年で初めてだ。

 経済・金融を政治が統治できるというのは、政治が経済・金融をコントロールできるということです。そして、政治が経済・金融をコントロールできるということは、経済・金融の問題が公的な討議の領域に入るということになります。つまり、私達も投票を通して日本の経済・金融をコントロールすることができるということになるのです。

 逆に経済・金融を政治がコントロール出来ないというのはどういうことでしょうか。政治がコントロールできないということは、それは政治の領域で扱うことから外れます。少なくとも投票を通しては、私達にコントロールできなくなります。経済・金融の場合は、問題解決を市場に任せる・日本銀行に任せるということになります。

 前者のように問題を政治の領域に移すことを「政治化」、後者のように問題を政治の領域から外すことを「脱政治化」といいます。

■政治化と脱政治化

 「政治化」と「脱政治化」という言葉は、コリン・ヘイ『政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方』という本で知りました。この本はタイトル通り、「どうして政治というと悪いイメージがつきまとうのか」ということを扱っています。

 ヘイは、政治に関わる政治家や官僚は、みな自らの利益を最大化することを狙っているという前提で見られていると指摘します。そのため、もはや政治にはこの世の様々な問題を解決することができないと考えられているとも。

 やっかいなことに、有権者だけでなく政治家や官僚自身も同じ前提=政治には問題解決能力がないという立場をとっているため、様々な問題を政治の領域から移すことに熱心になってきました。ヘイの言う、脱政治化を推進してきたのです。

 脱政治化が問題解決に役立つかどうかはともかくとして、脱政治化は政治にダメージを与えます。脱政治化は、政治で扱える問題をどんどん減らしていくからです。問題解決の当事者が、国会や政府から市場に、そして市場の参加者としての消費者=有権者にどんどん移っていきます。果ては、その問題は誰の手にも扱えない、運命的、宿命的なものとみなして、受動的に対処することになっていきます。

 現在の日本で言えば、識者の経済成長に対する見方がこれに当てはまるでしょう。「経済成長を左右するのは、国でもなく、市場でもない。まして消費者にどうこうできるものではない。もう日本はかつてのような経済成長はできない。いかに経済成長するかではなく、経済成長しないことを前提に考えていくべきだ」という見方です。

 ここまでいくと極端ですが、そうでなくても脱政治化によって政治で扱える領域は減ります。つまり、有権者が選挙に行って投票しても、なんにもならないということです。政治で決められることが減ってしまうのだから当然です。結果として投票率は減り、多様な意見を取り入れることができなくなって政治の選択肢が更に狭まり、また投票率が減っていくという負のスパイラルに陥ってしまう。先進国で投票率が年々減っていることには、そういう背景があるかもしれないと、ヘイは書いています。

■各党の政治姿勢

 冒頭で紹介した御厨さんの言葉でも示されている通り、安倍政権は脱政治化ではなく政治化の道を進んでいるようです。確かに、安倍首相は日銀を政府の統制下におくことで金融をコントロールし、大型の補正予算を組むことで経済をコントロールしようとしています。

 また、安倍首相の持論であった「戦後レジームからの脱却」を実行するには、教育や安全保障などをどんどん政治化していく必要があるでしょう。政治化という点で、安倍政権の政治姿勢は一貫しているのでしょうか。

 そうでもありません。関税をなくすことを目指す、少なくとも関税の決定を国内政治だけでなく国家間で決めるようにするTPPは政治化ではなく脱政治化的な政策です。民主党やみんなの党、日本維新の会も、ある政策については政治化し、またある政策については脱政治化するという姿勢です。これは、非常に興味深いことです。

■政策の優先順位を見抜く

 ひとつひとつの政策の詳細も重要なのでしょうが、政策を政治化と脱政治化という側面でみるのも面白いかもしれません。各党の基本的な理念が政治化よりなのか脱政治化よりなのかということと、それぞれの政策が政治化よりなのか脱政治化よりなのかを考えることで、政策の優先順位がわかるのではないかと思うからです。

 優先順位が高いもの重視するため、優先順位が低いものは交渉の材料にされることでしょう。政策の優先順位がわかれば、与野党がどのように国会で攻防を繰り広げ、どのように物事が決まっていくかをおおよそ予測できるかもしれません。そうすれば、投票の際、自分が大切に思っていることを改善してくれる政党を、より適切に選べると思うのです。


議事整理権について


■議事整理権

 議事整理権という言葉があります。議事整理権とは、会議の議長が議事進行を左右できる権利です。具体的には、会議を開くこと、休憩すること、そして、発言を許すか許さないかなどを決定することができます。

 国会の場合は、本会議では議長が、委員会では委員長が議事整理権を持っています。しかし、いつも議長や委員長が単独で議事整理権を行使しているわけではありません。本会議では議院運営委員会が、委員会では理事会がそれぞれ協議して決めています。

 そして、普通は議院運営委員会や理事会で協議したとおりに会議が進むため、議長や委員長の議事整理権はあまり目立ちません。むしろ、目立たないということは、完全に協議通りに、つまり事前の台本通りに会議が進行しているということであり、議事整理権が適切に行使されていることを示していると言えます。

■議事整理権行使の例

 その普段は目立たない議事整理権が、その言葉とともに出てきた例を見つけました。先日、2013年4月23日の議院運営委員会の会議録が、衆議院のサイトで公開されました。この日の議院運営委員会では、衆議院小選挙区の区割り法案を採決する本会議の運営などについて協議しています。会議録から引用します。

○佐田委員長 次に、本日の議事日程第五について発言を求められておりますので、順次これを許します。

 議事日程第五が区割り法案についてです。委員長に指名された、みんなの党、日本共産党、生活の党の議員が、区割り法案の強行採決に抗議する意見を次々に表明します。この順番と、発言者については理事会で申し出があり、決定されたものだと思われます。

 予定された発言が終わり、委員長が発言の終了を宣言しようとした時です。

○佐田委員長 これにて発言は終了……(渡辺(周)委員「委員長、発言を」と呼ぶ)整理権はこちらにありますので。(渡辺(周)委員「委員長、発言を」と呼ぶ)理事会でそのような申し出はありませんでしたので。
 これにて発言は終了いたしました。(渡辺(周)委員「委員長、そこを、発言を」と呼ぶ)

 これはどういうことでしょうか。どうも、理事会で発言を申し出なかった民主党の渡辺周議員が発言を求めたところ、委員長は議事整理権を行使し、発言を許さなかった、ということのようです。民主党は、この日の本会議に出席するか欠席するか最後まで迷いに迷ったようです。この議院運営委員会に党としてどのように対応するかも決めかねていたので、こういうイレギュラーなことになったのかもしれませんね。ちなみに、会議録中の「呼ぶ」という言葉は、「声をだす」程度の意味です。会議録では、正式な発言以外で言ったことを「呼ぶ」というように書いているようです。

 この会議録から、委員会の議事進行は理事会で事前に決めていること、そして、委員長が許さなければ、委員会で発言することができないことがハッキリとわかります。

 この前の、厚生労働委員会が中断した件もそうですが、変わったことが起こると国会審議を成り立たせている仕組みが見えてきて面白いです。


審議拒否と日本共産党


■審議拒否の意義

 2013年4月25日現在。先週、4月15日〜19日は、衆議院の選挙制度を巡って審議拒否が起こりました。

 審議拒否は、多数派の強引な国会運営に抵抗する手段のひとつです。

 強引な国会運営とは、例えば、多数派にとって都合の良い議案だけを議題にして、すぐに採決するようなものです

 原則、議題になっていないものについて話し合うことはできないので、議題の設定や設定過程自体がおかしいと思った場合は、審議拒否して委員会が開かれないこと狙います。そして、審議復帰を条件に多数派から譲歩を引き出すのです。

 事実、4月17日の衆議院は、党首討論を行う国家基本政策委員会以外のすべての委員会が、野党の出席を得られなかったため審査を進めることができませんでした。審議拒否には、委員会を開かせないという力が存在すると言えます。

■それでも委員会が開かれたら

 審議拒否には一定の効果があります。

 とはいえ、その効果は多数派である与党が譲歩した時のみ発生するものです。特に、現在の衆議院のように与党が圧倒多数の議席を持っている場合、野党が出席しようがしまいが、与党は強制的に委員会を開くことが可能だからです。

 こうなってしまうと、審議拒否をして委員会を欠席してしまったら、会議録に自分たちの意見を残すことはできません。

 せいぜい、委員長が欠席した会派の名前を読み上げたことが残るだけです。

 本会議の日程について協議したあと、委員長の職権で再開された、4月16日の衆議院議院運営委員会の会議録では、以下のようになっています。

○佐田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 再開に先立ち、民主党・無所属クラブ、日本維新の会、みんなの党、生活の党の所属委員に理事をして出席を要請いたしましたが、いまだ出席が得られません。やむを得ず議事を進めます。

 この時、議院運営委員会に委員を出している会派のうち、野党会派で出席したのは日本共産党のみでした。

■審議拒否にくみしない日本共産党

 日本共産党は他の野党が審議拒否しているなかでも委員会に出て、与党と反対の立場から意見を述べています。

 会議録では共産党議員の以下のような発言が残っています。

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 初めに、この委員会が、与野党合意のないまま、与党によって一方的に開かれたことに対して、強く抗議するものであります。議会の運営は、合意の上、円満に行われるべきであります。
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。

 与党の強引な国会運営に抗議し、与党の提案した「区割り法案を特別委員会に付託して審議を開始する」ことに反対したことが、会議録からわかります。

 この意見は会議録に残ります。審議拒否をして、委員会を開かせないようにして、多数派から譲歩を引き出したり、対応を改めさせたりするのも大事ですが、委員会に出て自分の意見を会議録に残すのも大事です。

 ですから、どこか1党は野党の出席が必要です。

 日本共産党は、その点で議会政治に対し、一定の役割を果たしていると言えます。


なぜ区割り法案は迅速に処理されなければならないのか


■60日でみなし否決

 『区割り法案強行採決』でまとめてみて感じたのですが、よくもまあ、これだけのことを5日間でやったものです。与党がこれだけ焦っているのも、民主党などの野党がこれだけ抵抗しているのも、区割り法案が確実に成立するには、4月26日までに衆議院を通過している必要があるからです。

 憲法59条2項には、参議院が否決した法案を衆議院の3分の2以上の議席でもって可決すれば、その法案は成立するという、いわゆる再可決の条項があります。しかし、再可決は参議院が否決しなければ使えません。ずーっと参議院が審議せずにほっといたら何もできないのです。

 そこで、同じく憲法59条第4項にこうあります。

参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 これによって、参議院に法案が送付されてから60日たてば、衆議院で再可決できることになります。国会は延長できるので、60日に足らなかったら延長するという手もあります。しかし、今国会のあとには参議院選挙が控えているため、あまり延長はできません。まごまごしていると60日経過する前に国会が終わってしまいます。

 今国会の会期は6月26日までなので、区割り法案を確実に成立させるには、60日前の4月28日までに衆議院を通過していなければなりません。ただし、4月28日は日曜日なので、それ以前の最後の平日である4月26日までに衆議院本会議で採決しなければならない、というわけなのです。


区割り法案、特別委で強行採決


■区割り法案強行採決

 2013年4月19日現在。1票の格差を是正するため内閣が提出した、衆議院の小選挙区を「0増5減」して区割りを変更する公職選挙法改正案、いわゆる区割り法案が「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」で強行採決されました。

 区割り法案をめぐる動きは、法案審議で起こるイベントのオンパレードだったので、非常に興味深かったです。

■4月15日・野党審議入りを拒否

 区割り法案の扱いについては、今週初めから揉めていました。4月15日、衆議院の議院運営委員会理事会で、区割り法案の審議入りについて話し合われました。この理事会では野党が審議入りを拒否し、話し合いは物別れに終わりました。

 国会は法案を審議するところです。国会で法案審議を主に担当するのがそれぞれの委員会です。区割り法案の場合は、「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」という長い名前の委員会で審査することになります。

 ところが、委員会で審査するには、法案を委員会に付託しなければなりません。原則として、法案が委員会に付託されなければ、委員会での法案審査は行われません。法案の付託は議長の権能ですが、議長の諮問機関でもある議院運営委員会が実質的に決めています。

 また、法案を委員会に付託する前に、その法案の趣旨説明を本会議で行うことがあります。これを決めるのも、議院運営委員会です。趣旨説明を行うことが決まったら、趣旨説明が終わるまで委員会に付託されません。趣旨説明が終わって初めて、法案の委員会審査が始まります。

 野党は議院運営委員会理事会で、区割り法案を、本会議での趣旨説明を省略して特別委に付託することを拒否したのです。

■4月16日・与党強引に付託

 4月16日午後。与野党の幹事長・書記局長会談が開かれました。与党は改めて0増5減の区割り法案を、衆議院議員定数の大幅削減に先行して処理することを求めましたが、野党はやはり拒否しました。

 4月16日夜。議院運営委員会理事会が開かれ、話し合いが持たれましたが、与野党の意見は折り合いません。ついに、議院運営委員長の職権により、議院運営委員会の開催が強行されます。

 委員会を開いたり、委員会の議題を決める権限は委員長が持っています。ですが、それら委員会の議事進行の決定については、各委員会の理事会で行うことになっています。そして、理事会の決定は理事の全会一致によってなされるのを原則としています。委員長が、その職権で委員会を開くのは尋常な議事運営ではありません。これに反発し、共産党を除く野党は、議院運営委員会を欠席することになります。

 この日の議院運営委員会で、区割り法案について、本会議での趣旨説明を省略して「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」に付託することが議題とされます。この議題は、共産党以外の野党が欠席する中、自民公明両党の賛成で可決され、特別委員会で区割り法案を審議する準備が整いました。

■4月17日・野党全面審議拒否

 前夜の強引な国会運営に野党が反発し、党首討論が行われる国家基本政策委員会以外のほとんどの委員会の出席を拒否します。そのため、各委員会は流会になったり、委員会を開いたものの、審査に入るにいたらなかったりしました。

 そんななか、特別委の理事懇談会が開かれます。ここで、与党は野党に18日に区割り法案の趣旨説明と質疑を行い、19日採決する日程を提示します。野党はこれを拒否し、18日に特別委を開くことは、特別委の委員長職権で決定されました。

■4月18日・野党審議復帰

 4月18日。野党欠席のなか開かれた特別委で、趣旨説明と質疑が行われ、区割り法案は審議入りしました。と同時に、衆院選挙制度改革に関する実務者協議が開かれます。この実務者協議が開かれることによって、野党は特別委を除いて審議に復帰します。

 この日、野党各党は伊吹衆議院議長に与党の強引な国会運営への抗議を申し立てます。議長から与党へ、野党に配慮した国会運営を行うよう働きかけるよう求めたのです。このように、与野党が対立してどうにもならないときは、議長が間にはいって調整することがあります。これを議長あっせんと呼びます。

■4月19日・議長あっせんと強行採決

 4月19日。伊吹議長は区割り法案に関する与野党対立の打開に向けたあっせんに乗り出しますが、合意にいたりませんでした。ついに、民主党や維新の会などが欠席する中、特別委で区割り法案が可決されます。強行採決です。

 強行採決とは、多数派が強引に採決してしまうことです。本来なら、与野党すべての党が出席したなかで審議し、採決しなければならないのに、力任せに採決してしまうので「強行」とつくのです。与党は多数派だから与党なので、すべての議題を即採決していたら、すべて与党の思うがままになるに決まっています。それでは意味がないのです。

 ただ、何も決まらないのも困りものなので、強行採決も使い方次第というところがあると思います。今回はどうなのでしょうか。

■典型的な与野党対立

 一見荒れているように見えますが、一連の動きをみると、典型的な与野党対立型の国会審議となっています。すべての動きが、国会審議の「お作法」から外れていません。むしろ、民主党などの野党は審議拒否を一日でやめてしまったので、おとなしいくらいです。なんにせよ、これで区割り法案の衆議院通過は、本会議での採決を待つばかりとなりました。


自然成立の30日はどう数えるか?


■予算に関する衆議院の優越

 2013年4月15日現在。明日16日に、2013年度予算案は衆議院予算委員会と本会議で採決される見込みです。予算委員会でも本会議でも、自民党・公明党の与党勢力が過半数を占めているので、予算案は可決されることになります。

 衆議院での採決が終わると、予算案は16日中に参議院に送付されます。参議院での審議は、17日には党首討論が、18,19日はG20があるため、来週4月22日以降に行われると見られます。17日以降は、首相や財務大臣を参議院予算委員会が確保できないからです。

 参議院での審議はありますが、衆議院で可決されてしまえば予算案はもう安泰です。憲法60条2項があるからです。

憲法60条2項
 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

 参議院に予算案を送付してから30日以内に採決されない、もしくは、採決されて否決された場合でも、予算案は衆議院の議決通り可決成立するからです。

■30日をどう数えるか?

 この30日は、どう数えるのでしょうか。参院に送付された4月16日から1日ずつ数えていくのでしょうか?そして、自然成立は30日目の5月15日になるのでしょうか?それとも、その翌日の5月16日?ここ最近、予算案の自然成立について考えるとき、いつも悩んでいました。

 その悩みが、先週解決しました。2013年4月13日付の読売新聞朝刊、『予算案、16日衆院可決へ』という見出しの記事に、次のように書いてあったのです。

予算案は16日に参院に送付され、遅くとも30日後の5月15日には自然成立する。

 読売新聞によれば、参議院に予算案が送付された日から「30」とカウントダウンが始まり、カウントが「1」になったところで自然成立する、と考えて良いようです。新聞がこういうところをきちんと書いてくれると、政治を楽しむ立場からすると非常に助かります。

 


2013年度予算案、4月16日衆院通過へ


■2013年度予算案4月16日採決

 2013年4月13日現在。2013年度予算案を4月16日に衆議院予算委員会と本会議で採決することが決まりました。

 ここで審議状況を確認します。()内の数字は2012年度予算の衆議院予算委員会の審議実績です。

  • 基本的質疑:4日(4日)
  • 一般的質疑:3日(6日)
  • 集中審議:6日(5日)
  • 地方公聴会:1日(1日)
  • 参考人質疑:0日(1日)
  • 公聴会:1日(1日)
  • 分科会審査:0日(1日)*4月12日,15日に実施決定済
  • 締めくくり質疑,討論,採決:0日(1日)*4月16日に実施決定済

■昨年と比較

 2013年度予算案の衆議院の審議日数は、18日間になる見込みです。昨年は20日間なので、昨年よりも2日少ないことになります。ただ、これはあくまでも2013年度予算案を議題とした衆議院予算委員会が開かれた日数です。実際の審議時間で比べた時に、どの程度差が出るかはこれだけではわかりません。

 4月11日付の読売新聞朝刊に、「最近5年間の予算案審議状況」と題する表が出ていました。過去5年間の衆議院予算委員会の基本的質疑、一般的質疑、集中審議、締めくくり質疑の合計時間などを示したものです。その表によれば、昨年の予算案の総質疑時間は88時間40分でした。基本的質疑、一般的質疑、集中審議、締めくくり質疑の日数である16日で割ると、1日あたりおよそ5時間30分審議していることになります。

 その表には4月10日時点での2013年度予算案の総質疑時間も出ていました。総質疑時間は76時間30分。4月10日までに基本的質疑、一般的質疑、集中審議は13日間審議しているので、13日で割ると、1日あたりの審議時間はおよそ5時間50分になります。読売の表で考慮されてる審議で残っているのは、4月16日の締めくくり質疑のみです。16日で12時間ほど審議すると昨年の総質疑時間に達することになりますが、おそらく、時間数でも昨年より短くなるでしょう。


一般的質疑より集中審議?


■予算審議状況

 2013年度予算案は、16日に衆議院で採決し、可決する見込みであるという報道がされています。ここで審議状況を確認します。()内の数字は2012年度予算の衆議院予算委員会の審議実績です。また、カレンダーの*印は予定分です。

  • 基本的質疑:4日(4日)
  • 一般的質疑:3日(6日)(2013年4月11日訂正)
  • 集中審議:5日(5日)*4月10日に6日目実施決定済(2013年4月11日訂正)
  • 地方公聴会:1日(1日)
  • 参考人質疑:0日(1日)
  • 公聴会:0日(1日)*4月11日に実施決定済
  • 分科会審査:0日(1日)*4月12日,15日に実施決定済
  • 締めくくり質疑,討論,採決:0日(1日)

!!2013年4月11日追記:4月5日の一般的質疑を集中審議と間違えていました。訂正いたします。!!

2013年 4月
1
一般的質疑2
2
集中審議3
3
地方公聴会
4 5
一般的質疑3
6

7 8
集中審議4
9
集中審議5
10
集中審議6*
11
中央公聴会*

12
分科会審査1*
13

14 15
分科会審査2*
16
予算委員会採決?
17

18
G20
19
G20
暫定予算期間内成立最終ライン
20

21 22

23

24 25 26 27

28 29 30

 もし、16日に採決するとなると、昨年より、一般的質疑が3日少ないことになります。そして、審議時間の総数も昨年より2日分少なくなります。これで民主党をはじめとする野党は納得するのでしょうか。

■一般的質疑より集中審議?

 一般的質疑と集中審議はどう違うのでしょうか。一番違うのは、一般的質疑は首相に出席義務がないのに対して、集中審議は首相が出席しなければならないという点にあります。首相が出席しなければならないということは、首相の時間を拘束するということです。行政の長である首相を、国会の監視下におくことになります。つまり、一般的質疑より、集中審議の方が野党にとって価値が高い可能性があります。

 今年度は、一般的質疑が昨年より3日少ないかわりに、集中審議は昨年より1日多く実施する見込みです。もし、集中審議1日分が一般的質疑2日分に匹敵する価値をもっているとすれば、野党としても面子を潰さずに、採決に臨むことができます。「価値が高い審議(集中審議)を昨年より1日多くしているから、昨年より2日少ない審議時間でも構わないでしょ」と、与党が野党を説得する余地が生まれるのです。

 私は、今国会の審議状況から考えて、野党は審議時間の確保をするため4月16日に採決で折り合うのは難しいんじゃないかと思っていました。ですが、上で述べたような考え方が通れば、「集中審議を一般的質疑の代わりにする」ことで手を打って、野党が4月16日に衆議院に予算案を採決することを許す可能性もあるかもしれません。