■納得いかない与党理事
「厚労委の30分」は、2013年3月19日の衆議院厚生労働委員会の審議が30分中断したことについて分析する連載です。前回は、討論が終了したら、すぐ採決になるという委員会審査のルールがあることを確認しました。
討論が終了し、さぁ採決!…となったところで、厚生労働委員長は理事を集めました。委員長は、「民主党の手続きが終わるまで討論の終局を宣言せずに待つことになる」と理事に説明します。
納得いかないのが与党理事です。「他の党はすべて手続きを終えて委員会に臨んでいる。民主党だけが党内手続きを終えていないために審議を中断するというのはおかしい」というわけです。そして、委員長に「民主党の手続きを待つために中断すると宣言してほしい」と要求します。
■党内手続きが終わってない!
ここで言う「党内手続き」とは、党として法案の賛否を決める手続きのことです。現在、民主党は「次の内閣」という機関で法案の賛否を決めているようです。この「次の内閣」で法案を了承する手続きが終わっていないために、討論のあと、ただちに採決することができませんでした。
与党理事の不満は、「採決する予定の委員会に臨む前に、法案への態度を決める党内手続きを終えるのが当然だ。党内手続きが終わっていないというのは、民主党の怠慢か、さもなくば意図的な議事妨害だ」という点にあります。この見方は妥当でしょうか。
■民主党の言い分
民主党にも言い分はあります。『「巨大与党の傲慢、信義にもとる行為」 自民党の発言に?木国対委員長が抗議』という表題の民主党公式サイトの記事で以下のように弁明しています。
会見には衆院厚生労働委員会筆頭理事の山井和則議員も同席、本来水、金曜日が定例日である同委員会の審議に関して、与党側からの「予防接種法の一部を改正する法律案(予防接種改正法案)をどうしても19日に採決してほしい」という強い要請があっため、これに応え予備日である火曜日の法案審議を行ったものであり、採決前には当然党内手続きが必要であったと経緯を説明。通常1日に採決する法案は1本であるところ、予防接種法改正案のみならず「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための試作の総合的な推進に関する法律案」(再生医療推進法案)とあわせて2本採決したとも述べ、「筆頭間協議、理事会で全政党合意のもと、法案の採決は元々5時過ぎとの段取りになっていた。急に止めたわけではない」「理事会合意したことに対し野党を批判するのは感覚がおかしい。正常な委員会運営はできないのではないかと思う」と与党の姿勢を批判した。
つまり、「今回の問題は、与党の要求に応じて迅速な審議に協力したために、民主党の党内手続きが間に合わなくなってしまって起きた事態である。審議に協力したことに関し、与党から感謝されこそすれ、非難される筋合いはない」というように思っているというわけです。
■「日切れ法案」の審議はタイトだが…
民主党の言い分には一理あります。この予防接種改正法案は、「日切れ法案」です。「日切れ法案」として扱われる法案は、年度末、3月末日までに処理しなければならないので、審議日程は非常にタイトになります。衆参で100を超える議席を持つ政党が自民党と民主党以外にないなかで、「他の党が手続きを終えたのに、民主党が終えていないのは怠慢だ!」と、単純に言うわけにはいかないと思います。
とはいえ、問題がまったくないわけではありません。「日切れ法案」として扱われるためには、与野党で合意している必要があります。逆に言えば、与野党で年度末までに処理しようと決めたからこそ、「日切れ法案」として扱われているのです。すなわち、「日切れ法案」として3月下旬に審議されているからには、それまでに党内手続きを完了させることを承知していてしかるべきであったと言えるかもしれません。
ましてや、委員会採決の段階では民主党を含めた全会一致で「原案の通り可決すべし」としているわけで、党内手続きの何に手間取っていたのだろうかと不思議に思います。そして、手間取るのなら、採決事態を先延ばしするよう理事会で要求すべきだったと思われても仕方がないところであります。
■「話し合い」の困難さ
しかし、話し合いはロジックと規則だけで決まるわけではありません。厚生労働委員会の委員名簿を見ると、委員会の審議日程などを決める理事8名のうち野党理事は民主党と日本維新の会の代議士の2人のみです。民主党の山井代議士は野党筆頭理事ですが、野党は2人しかいないのです。しかも、同じ野党と言っても、維新の会は野党第一党の座を民主党から奪おうと虎視眈々と機会を伺っている政党で、決して味方ではありません。
このような状況で、民主党の立場を堂々と主張して、委員会の審議日程を左右することができるでしょうか?私は、なかなか難しいのではないかと思います。
確かに、衆議院予算委員会は同程度の理事の比率(9人中2人)であるなかで、野党筆頭理事の長妻代議士は自らの意思をガンガン通しています。そのためかどうかはわかりませんが、同委員会の与党筆頭理事は馳代議士から遠藤代議士に交代してます。しかし、大臣を務めた今までの活躍を考えると、長妻代議士は特別と考えるべきでしょう。他の人が長妻さんのようにできるかと言うと、そうではないと思うのです。
「理事会の決定は全会一致で決まるから、自分が反対すれば決まらない。自分は死んでも反対するんだ。」というのは、言うのは簡単ですが、やるのは難しいです。時の政治的な難題を、気力と体力と弁舌だけで乗り切った、徳川慶喜のような例(四侯会議)は、本当に稀有な例ではないでしょうか。そこに、政治において意外な状況が起こってしまう要因があるのではないかと思います。