党内政治」カテゴリーアーカイブ

総務懇談会は官邸と与党の協力関係の強化につながるか注目


 2014年3月5日現在。2014年度予算案の衆議院での審議は与党ペースで進みました。その与党の意思決定は、官邸主導で行われています。総務懇談会を開くことは官邸が与党の意思を尊重する姿勢をみせたものです。

 自民党が今月17日に集団的自衛権について話し合う総務懇談会を開くということが報道されています。総務懇談会は、自民党意思決定機関である総務会のメンバーによる非公式な会合です。以下は時事通信からの引用です。

懇談会の開催は、安倍晋三首相の政権運営に批判や不満の声が出始めたことを受け、党務や政策に関する審議のため週2回行われる総務会とは別に、メンバーの意見を聞くのが狙い。

『時事ドットコム:自民、17日に総務懇談会=集団自衛権など討議』

 また、本日付の日経朝刊によれば、総務懇談会の開催は9年ぶりです。記録に残っている最後の総務懇談会では、自民党が分裂した郵政民営化についての議論が行われました。

 官邸からすると、官邸に不満がある議員のガス抜きにしたいところだと思います。ただ、総務懇談会で議員が官邸に反対したことが大きく報道された場合、官邸としてはなんらかの対応を行わざるを得なくなる可能性があります。意見を言ったのにほっておかれて、いい気がする人はなかなかいません。

 与党による官邸批判というリスク回避になるのか、新たなリスクの発生源になるのか注目です


内閣改造の報道が出たのは、与党議員に国会運営を頑張らせるため


■2014年度予算案、衆議院通過

 2014年3月1日現在。予算案のスピード可決は、国会で野党との折衝をしている与党議員に多大な負担を与えているのではないでしょうか。先月末から内閣改造(大臣の交代)が取り沙汰されているのは、国会の日程調整に関わっている与党議員のやる気を出すために官邸から出た情報だと思っています。

 昨日、2月28日に2014年度予算案が衆議院本会議で可決されました。予算案は参議院に送付され、憲法の規定により2013年度内に成立することが確実になりました。歳出総額は95兆8823億円で、昨年の92兆6115億円から3兆2708億円増えました。伸び率にして3.5%の増加です。

■政府の日程で、予算審議が窮屈に

 安倍首相の外遊を優先したこともあり、今国会の開会は1月末にずれ込みました。今年の予算審議が14日間という異例の短さになったのは、国会の開会が遅れたにも関わらず2月末の衆議院通過を目指したことが原因のひとつです。

 政府の都合でスケジュールが厳しくなって、与党が汗をかいて間に合わせている格好です。国会審議の現場の議員には、かなりストレスがたまっているのではないでしょうか。昨年の臨時国会で成立した、特定秘密法案の審議も同じような形で審議スケジュールが厳しくなっていて、与党から政府に注文がついています。

■内閣改造で不満を抑える

 その不満を抑えるための内閣改造です。今国会で頑張って政府案をスケジュール通り成立させれば、大臣になれるかもしれないのです。頑張りがいがあります。

 政界ものの読み物で、内閣改造が首相の切り札のひとつのように描かれていた意味がやっとわかってきました。いままでは、経験と知識を蓄積するためになるべく大臣を交代させないほうがいいんじゃないかと思っていたんですよね。

 ですが、大臣だけで行政が動くわけではなく、行政だけで政治が動くわけではありません。国会を通さなければいけないのです。その国会で頑張る議員を処遇するためには、内閣改造が必要なのです。


民主党が総合調査会を設置


■民主党の新しい機関:総合調査会

 2013年9月4日、民主党は「総合調査会」という新しい機関を設置しました。総合調査会は、憲法や外交、行財政改革などの重要課題について、民主党がどのような政策を打ち出していくのか検討する機関になる予定です。

■民主党の政策決定機関

 民主党の党規によると、現在、民主党の政策は「次の内閣」という機関で最終的に決定されます。総合調査会は「次の内閣」の下に置かれることになります。

 「次の内閣」の下には、もう一つ政策を立案する機関があります。「政策調査会」です。政策調査会長は「次の内閣」で「次の官房長官」になり、政策調査会の各部門の座長が、それぞれ「次の大臣」になります。

■総合調査会の意義

 総合調査会は政策調査会の上位にくる機関ではないようです。関係する役割分担をしっかりしないと、政策調査会と総合調査会で言っていることが違うということになってしまいます。そうなると、党論の統一という役割は担えなくなります。

 ただ、民主党は政権担当時に「交渉する相手が誰かわからない」と言われていました。総合調査会ができるとことで、「憲法ならこの相手」というように交渉相手が可視化したのはとてもいいことだと思います。


新人議員の教育


 昨年の衆議院選挙で誕生した自民党の新人議員は119名にのぼります。この119名の「教育」を巡って、石破幹事長と派閥の間で綱引きが行われています。

■執行部か派閥か

 自民党では、議員の教育や支援は派閥が中心となって行ってきました。新聞によれば、現在も各派閥による新人議員の囲い込みが行われています。しかし、石破幹事長は、自身が昨年9月の自民党総裁選で「脱派閥」を掲げて挑んだこともあり、119名全員を執行部主導で教育する構えです。執行部主導で教育することで、新人議員が派閥に所属しなくてもいいようにしようというねらいです。

■石破派?

 ただ、石破幹事長の「脱派閥」が本物でも、なかなかそのまま受け取れない可能性もあります。

 執行部主導で教育するということは、どういうことでしょうか。自民党執行部のトップは総裁である安倍首相です。とはいえ、安倍首相は内閣総理大臣としての仕事があるため、党の問題は幹事長が中心となって処理することになります。

 つまり、石破幹事長が中心となって教育するということになります。となると、もし新人議員の教育がうまくいった場合、119名を擁する石破派が誕生する可能性があります。

 石破幹事長は総裁選において、第一回投票で一位になりながらも、決選投票で安倍首相に逆転され、総裁の座を逃しています。いわば、安倍首相最大のライバルであり、安倍政権最大の不安要素です。

 その石破幹事長の勢力拡大につながりかねず、派閥の反発を生みかねない新人議員の執行部教育案を、安倍首相はどう受け止めるでしょうか。これにどう対応するかで、安倍首相がどのように与党をコントロールする方針なのかを判断することができそうです。


与党のコントロール手段としての党内手続き


 2012年12月28日現在。政府は通常国会の召集日を1月28日にする予定、という記事が今朝の日経朝刊に出ていました。28日にするなら、23日か29日がいいと思います。理由は、28日は仏滅ですが、23,29日は大安だからです。それだけです。

■与党のコントロール

 さて、安倍首相の国会運営が順調に進むかは、野党と与党を同時にコントロールできるかにかかっています。主義主張の違う野党の対応も大変ですが、与党の対応も大変です。与党をコントロールできなければ、なにもかも決まらないからです。

 党に所属する議員に賛成票を投じることを強制する「党議拘束」は、党をコントロールする手段のひとつです。自民党の場合は、総務会という機関で可決された法案に対して党議拘束がかかる仕組みになっています。また、総務会で可決されて初めて、法案が閣議決定され国会に提出されるのが慣例です。つまり、総務会の可決を得られない法案は、国会で審議されないことになります。

■党内手続き

 自民党内では、法案がこの総務会で審議されるよりも前から、法案について審議しています。政策分野別に分かれた政務調査会部会や、政務調査会審議会が議論の場となり、部会から総務会に至るまでの党内審議の手続きを「与党内審査」「党内手続き」と呼びます。

 与党内審査は、官僚が既存の法律や前例、関係団体の現状などをふまえて作成した法律に、初めて公式に政治家が意見をぶつける議論の場です。そのため、政治家が政策を主導する「政治主導」の文脈で語られることが多いです。

 同時に、党内の意見をまとめるための儀式の役割も担っています。特に総務会は全会一致なので、意見が違う議員にも、「みんなで決めたんだから、本会議で賛成しようよ」ということで、党議拘束をかける正当性が出てくるのだと思います。

 ちなみに、総務会で最後まで法案に反対する総務は、採決の前に反対である旨を発言してから席を外すことで、結果として全会一致にするそうです。

■総務会、政務調査会を活用する

 総務会や政務調査会で行われる党内手続きは、与党をコントロールするために重要です。そして、総務会の会長や、政務調査会の会長は幹事長と並んで「党三役」と呼ばれるほどの重要ポストです。

 安倍首相は、党内手続きを活用し、議論の行方をうまくコントロールすることで、首相が目指す政策に合った法案を与党議員に賛成させる必要があります。


294議席を武器にするために


■新人議員の初登院

 2012年12月27日現在。昨日26日は特別国会の召集日で、先日の衆議院総選挙で初当選した人が、国会に初登院した日になりました。

 今朝の朝刊で、今回294議席を獲得した自民党の石破幹事長が、新人議員に対して訓示したという記事がありました。やれ「年末年始の予定を出せ」だの、「本会議中に席を外したときは、トイレか中座かチェックする」だの言われ、「ここは小学校か」という声が漏れたとか。

 記事では、「大幅に増えた議席によって新人議員も増えた。新人議員の不注意によって政権を危機に陥らせないようにする自民党執行部の苦労が見える」というようにしめていましたが、大幅に議席が増えたことによるリスクは、新人議員だけにあるわけではありません。

■294議席の統制

 多くの議席を武器にするために絶対的に必要な条件があります。それは、多くの議席を完全に統制することです。

 少なくとも、国会の本会議の採決の際だけでも議席を統制する、つまりすべての議員に賛成票を投じさせることができなければ、議席数はなんの意味もありません。現在の自民党で言うと、294議席が一体となって動かなくては、なにもできなくなってしまうのです。

 参議院で否決された法案を衆議院で再議決して成立させるには、公明党の協力も得なくてはならないので、自民党はなおさら自らの議席をがっちりと握っていなければなりません。新人議員にとどまらず、すべての議員をコントロールしなければ、政権運営は立ち行かない訳です。

 これは、民主党政権で造反者や離党者が続出したことからもうかがえます。民主党は前々回の衆議院総選挙で300を超える議席を獲得したのにもかかわらず、今年11月の解散時には230議席と、過半数の241議席を下回る数になってしまいました。このようなことでは、政権運営どころか政権の維持すら難しいです。現に、民主党は政権を失ってしまいました。

 党はひとつとはいえ、人はひとりひとりみんな違います。大体同じ主張でも、どこかで違いもでてきます。これを294人分統制するのは並大抵のことではありません。そのためには、党内の政策グループである派閥をうまく使う必要もでてきます。

 総裁一人で300人分支配することがむりでも、人数が50人程度ならなんとか支配できるかもしれません。派閥をうまくおさえることで、党内をまとめあげ、国会運営の不安要素を減らして、政権運営を安定させることができます。

 安倍首相は大変です。野党だけでなく、公明党、そして自民党もしっかりコントロールしないといけないのです。野党対策だけでなく、自民党対策もまた、注目すべき点のひとつです。


政治主導とは4:効率化と「決める政治」


■効率化

 限られた時間を有効に使うため、無駄を省いて目的を確実に達成するということは、私たちにとって悪いことではありません。すすんで取り組むべきことですらあるかもしれません。

 私たちが日々スケジュールと目標達成に気を使っているように、政府もスケジュールに気を使っています。

■政府のスケジュール

 政府は年間100本程度の法案を提出しており、その大部分を通常国会の150〜250日で処理しなければなりません。通常国会の会期は150〜250日ですが、予算案は法案より先に審議しなければならない、という慣例により最初の60日程度は予算審議のために費やされます。また、日曜祝日はもちろん、土曜日もほぼ休みなので、さらに32日〜60日引かれます。ですから、法案全体の実質的な審議可能日数は58〜140日となります。

 ひとつの法案につき、委員会を通過するのに必要な日数は、最低でも2日です。それに本会議採決を加えて3日。さらに、日本は二院制をとっているため、2倍して6日。委員会を省略しない場合、一つの法案を処理するのに最短でも6日はかかります。仮に通常国会で提出する法案が100本あったとすると、すべての法案を成立させるには、のべ600日かかることになります。

 本会議での採決は、一日で複数の法案を扱います。また、委員会の数は30ほどあるので、すべての委員会にまんべんなく法案が付託された場合、ひとつの委員会で処理する法案は4本程度になります。したがって、すべての法案が最短で審議・採決された場合、4本×6日=24日、24日ですべての法案が処理できます。あれ、意外と楽勝な数字になりました。

 ここで出した数字には、2つの前提があります。ひとつは「野党が(賛成という意味ではなく)審議に協力的であること」。そして、もうひとつは、「与党が政府提出法案に賛成すること」という前提です。与党内で事前に合意を得ずに国会で法案を審議したら、時間も足りないでしょうが、法案成立の目処が立つかどうかすら怪しいです。

■与党が反対した場合

 2005年の郵政解散のもとになった郵政民営化法案は、与党内審査をしたことはしました。この法案には根強い反対があり、与党内審査の最終ステージである自民党総務会は苦しい決定をします。法案の国会提出だけを了承する、というものです。これで法案はなんとか国会に提出されました。

 しかし、法案の国会提出後も、自民党では修正案の審査が行われます。それほど反対派は強硬だったのです。結局、修正案はなかなか合意を得られず、自民党総務会は多数決で修正案を了承するところまで追い込まれました。自民党の与党内審査では全会一致で物事を決めるのが慣例になっているので、これは大変なことでした。与党内での強行採決が行われたようなものです。

 郵政民営化法案の修正案は5票差で衆議院を通過しましたが、参議院では17票差で否決されてしまいました。ここから、当時の小泉首相は衆議院を解散して大勝利。296議席を獲得します。そして、民営化の時期を半年延長した郵政民営化法案を国会に再提出し、衆参両院で可決され、やっと成立しました。

 与党できちんと了承されていない法案を成立させるのが、いかに大変かということがわかります。

■「決める政治」のための効率化、結果としての形骸化

 この例は極端ですが、こういう波乱を減らすために、官僚は根回しをし、与党で事前に法案を検討してしまうのです。スケジュールを確実にこなすための、効率化と言えます。これは悪いこととは言い切れません。政府として責任ある行政をするには、根拠となる法律が確実に成立することが不可欠だからです。

 責任ある行政、つまり「決める政治」を行うため、法案の成立を確実にしようとすればするほど、与党内審査で与党の意思をがっちり固めようとします。与党が賛成でまとまっていればいるほど、数において劣る野党にはなすすべがなくなり、国会は諸々の審議過程を消化するだけの場所となります。

 効率化と「決める政治」、どちらも大切です。ただ、それらの言葉と政治主導という言葉は、国会の形骸化という点で、時に相反することがあるようです。

参考文献:大山礼子『日本の国会』(岩波新書)