国会制度と慣習」カテゴリーアーカイブ

会議録でみる国会


 第181回国会、いわゆる臨時国会が衆議院解散によって閉会となって1週間以上たちました。この国会は会期が短かったため、かえって、今国会で成立した成立した法律がどのようなプロセスをへて成立に至ったのかを調べやすいのではないかと思います。それを調べるもとになるのが、国会の会議録です。衆議院の場合はここにあります。

 この会議録は、リアルタイムに更新されるものではありません。実際に委員会が開かれてから、会議録が掲載されるまでに一定のタイムラグがあります。そろそろ、今年度の臨時国会の会議録も出そろってきました。実際に委員会で行われた審査をみて、どのようなシナリオで国会審議という儀式が執り行われているのをみると面白いのではないでしょうか。

 例えば、先の国会で「解散の条件」として最も注目された、予算執行に必要な特例公債法案と衆議院の一票の格差是正法案がどのように衆議院と参議院で審議され、成立したのか、気になりませんか?会議録を見てみると、外せいないプロセスを踏みつつも、かなりのスピードで審議が進んでいることや、委員会で法案の審査に入る前に行う本会議での趣旨説明をするかどうかでいちいち賛成反対の意思表明をしていることがわかります。国会において一定の枠内の手続きを踏むことがつねに求められており、与党といえどもそれを尊重しないことには法案審議が進まない現実が見えてきます。

 ただ、委員会で踏むべきプロセスにはどのようなものがあって、それぞれのプロセスにどの程度の時間をかけるべきなのか、という慣例を知らないとなかなか会議録で示された政党間の攻防をうまく読み取れないと思います。思うに、国会審議とはすごろくのようなものです。サイコロを振って進んでいき、大きい目がでたからといって出た目の分だけ進めるとはかぎりません。一回休みや、二回休み(野党の審議拒否)があるかもしれません。時間内にすごろくが終わらず振り出しに戻る(廃案)もあるかもしれません。また、最初のステージを早く上がったところで、次のステージでなかなか駒を進めることができないかもしれません(参議院での審議停滞)。このすごろくのルールを知っているだけでも、政治記事で示される「政治日程」のスケジュール感が養われると思います。スケジュール感がなぜ重要なのかというと、時間を伸ばしたり縮めたりすることがなかなかできないため、時間はすべての政治家にとって平等な制約になるからです。

 私もこの臨時国会で注意してみるまでは、このスケジュール感を実感できませんでした。しかし、会議録や衆議院公報などをみることで、ひとつの法案を成立させるのにどの程度の時間が必要になるのか、また、首相や所管大臣が外遊中で国会に出席できないようなスケジュールが組まれているときに、どれだけ国会審議が停滞し、法案成立が危うくなるか、ということが腑に落ちるようになってきた気がします。これからも、国会の公報や会議録に注目していこうと思います。


予算委員会とは


 2012年11月12日現在。臨時国会(会期末11月30日)は残り18日です。本日12日は衆議院で予算委員会が開かれる予定です。予算委員会は広く国内外の課題を議論することができるので、野田首相と野党議員の活発なやりとりが期待されます。

 そもそも、国会の委員会はそれぞれ話し合えることが決まっていて、その委員会の所管と関係ない課題を扱うことはできません。農林水産委員会で警察官の定員について話したりはできないのです。

 では、予算委員会はなぜ色々な課題を扱えるのでしょうか。それは、この世にある課題を解決しようとするとき、予算措置が必要ないものはないからです。課題について検討するだけでも、人員を割き、資料収集や報告書作成、有識者の話を聞く場合は有識者への報酬などにお金が必要です。課題を解決するだけでなく、解決策を考えるだけでもお金がいるのです。

 予算案を作成するのは政府で、国会ではありません。ですから、政府が見逃している課題があったら、国会としてはそれを指摘し、政府に対策を立てさせる必要があります。そのための場が予算委員会なのです。したがって、扱える話題を制限しては役割を果たせない恐れがあります。

 そういうわけで、予算委員会ではどんな話題でも持ち出せることになっています。

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国対委員長とは


 2012年11月9日現在。臨時国会(会期末11月30日)は残り21日です。予算執行に必要な特例公債法案は、来週15日に衆議院本会議で可決される見込みになったと報じられています。新聞などのメディアは何をもってそう判断しているのでしょうか。

 それは、昨日11月8日に民主党、自民党、公明党の国会対策委員長が以下の日程について合意したからです。

  • 11月12,13日:衆議院予算委員会
  • 11月14日:党首討論と財務金融委員会で特例公債法案採決
  • 11月15日:衆議院本会議で同法案採決

 国会対策委員長、通称国対委員長は政党内の役職であって国会の公的な役職ではありませんが、その力は国会運営全般を取り仕切る議院運営委員会委員長をしのぎます。議院運営委員会を含む各委員会の委員長と理事は、国対委員長の指示に従い、議事日程を決めています。

 与党民主党と、主要な野党である自民党、公明党の国対委員長が合意するということは、この合意通りのシナリオで国会審議が動くことが決まるということです。ですから、メディアも「特例公債法案衆院通過へ」という見出しを出せるのです。

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少ない残り時間


 2012年11月6日現在。臨時国会(会期末11月30日)は残り24日です。この24日間で特例公債法案、衆議院の選挙制度改革法案、様々な行政執行上必要な内閣提出法案を衆議院で審議可決し、さらに参議院で審議可決しなければ、いずれも成立しないことになります。

 一応24日残ってはいますが、すべての日に審議をやるわけではありません。日曜日は休みですし、土曜日もよほどのことがない限りやりません。

 では、平日はすべて審議しているかというと、そういうわけでもありません。法案審議の中心である委員会には、通常、定例日というものがあります。例えば、特例公債法案を審査する衆議院の財務金融委員会では火曜日、水曜日、金曜日が定例日となっています。すべての定例日に委員会を開けたとしても、週3しかありません。

 さらに、憲法63条後段は、国会から大臣に審議の出席を求めたときは出席しなければならないとしています。そのため、所管大臣の欠席を野党が容認しなければ、委員会は開かれないことになります。

 財務金融委員会において、定例日である本日11月6日でなく、明日7日に城島財務相の所信表明に対する質疑を行うのは、城島さんがG20出席のためスペインに行っていて、国会に出席できないためと思われます。 今国会で法案審議にかけられる時間は、見かけの日程よりもかなり少ないです。与野党の対応が少しずれるだけで、何も決まらなくなる可能性があります。

憲法第63条
 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

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特例公債法案と野党の協力


 2012年11月5日現在。予算執行に必要な特例公債法案の審議はまだ始まっていません。与党は野党の顔色をうかがいながら、そろそろと議会運営をしているようです。野党は与党に協力するのでしょうか。

 委員会の審査は基本的に8段階のステージがあります。以下がそれです。清野正哉『国会とは何か』(中央経済社)P.174を参考にしました。

  1. 法案提案者の趣旨説明
  2. 趣旨説明に対する質疑
  3. 参考人の意見聴取とそれに対する質疑
  4. 委員会視察あるいは委員派遣
  5. 公聴会の実施
  6. 質疑
  7. 討論
  8. 採決

 また委員会での法案審査に先立ち、委員会の所管大臣の所信表明とその質疑を一日ずつ行うことになっています。

 衆議院で特例公債法案を審査する財務金融委員会では、11月2日に所管大臣の所信表明を終わらせており、今週7日に所信表明に対する質疑に入るところまでは与野党で合意しています(参考記事:時事通信ドットコム:公債法案、8日にも審議入り=解散にらみ駆け引き?国会)。

 上の記事で書いてある「実質審議入り」というのは、1:法案提案者の趣旨説明を行うことをいいます。少なくとも、1と2:趣旨説明に対する質疑を行って、7:討論、そしてもちろん8:採決を行わないと委員会の審査は通常終わりません。

 これらのステージは、一旦始まれば機械的に進んでいく…というものではありません。その理由は、委員会のスケジュール決定方法にあります。

 毎回の委員会開会前に理事会を開き、その日の委員会のスケジュールを決めます。扱う題材、質疑の順番、ひとりひとりの持ち時間など、その日の委員会の式次第を決めているのです。

 例えば、そろそろ採決したいなと思ったら、理事会で今日は採決をやると決めなければいけません。原則、理事会の決定には理事全員の賛成が必要です。ですから、理事がひとりでも「今日採決するのはダメ」と反対したら尋常には決まらないのです。

 理事のポストは与野党問わず議席数に応じて分配されるため、スムーズな委員会進行には与野党の調整が必須になります。野党の間でも対応が割れている特例公債法案では、審議スピードを読むのは非常に困難です。野党がいつ審議を遅延させるかわからないからです。

 現に、上の記事では委員会での審査前に、本会議での趣旨説明を野党側が求めているとあります。通常は委員会で1〜8のステージをこなせば本会議で採決する環境が整います。ただし、特に重要な法案については委員会審査の前に本会議で趣旨説明を求めることができます。この趣旨説明を野党は求めているのですが、法案審議に必須のものであるというわけではないので、結果的に審議スピードを遅らせています。

 この野党の要求を与党は突っぱねることもできます。少なくとも、突っぱねても違法にはなりません。しかし、法案は衆議院だけで審議するものではありせん。野党多数である参議院の審議を控えているのにもかかわらず、強硬策に出ることは得策ではありません。それは、前回の通常国会会期末での特例公債法案と衆議院の選挙制度改革法案の強行採決の結果が、首相の問責決議可決とそれにともなう全面審議拒否だったことを考えれば明らかです。

 野党が完全に与党民主党に協力しない限り、特例公債法案の速やかな成立はありません。逆にいえば、与党の目論見通り、来週中にも参議院に法案を送れる状況になったとしたら、野党議員がどんな強がりを言ったとしても、与党に協力したことは間違いないと言えるわけです。

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参院の所信表明拒否は国会改革につながる


 今国会は参議院で首相の所信表明演説が行われないという異例の事態になりました。

 私は、所信表明演説というものは、両院でやるものだと思い込んでいました。やらなければならないことで、やることが当たり前のことだと思っていたのです。ですから、衆院で所信表明をやって参院でやらないなんてことがあるとは考えもしませんでした。

 しかし、議院運営委員会が国会のスケジュールを決めている以上、議運がやらないと決めたことはやらないわけです。すくなくとも、制度上そうなっています。ですから、議運の力というものをはっきり認識していると、その力でもって所信表明をスケジュールに組み込まないということが思いつくのだと思います。

 認識することによって、権力は権力になります。認識は自覚、権力は権「利」と置き換えてもいいでしょう。

 逆に言うと、いくら権利があっても自覚的に行使しなければ、意味はありません。例えば、議運が国会という儀式の「式次第」をこなすことを惰性でやっている場合は、議運はただの機械です。ここでいう機械とは、ある入力をしたらある出力が返ってきて、それに意外性がないものです。完全に何ものかにコントロールされている存在です。

 絶大な力をもっていても、コントロールされていればなんの恐れもありません。現状維持を望む人たちにはいいことでしょう。でも、ひとたび力を自覚し、コントロールから逃れれば、逆に何ものかをコントロールできるかもしれません。

 今回の参院の所信表明拒否は、新聞でも批判されています。私は逆に、このことは将来の国会改革のいい事例になるのではないかと思っています。国会議員が自覚すれば、今の制度は変えられるという希望が見えたからです。

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参議院、首相の所信表明演説を求めず


 2012年10月29日現在。臨時国会が召集されました。衆議院では野田首相の所信表明演説があり、本日の夕刊に要旨が掲載されています。いつもだったら、まったく同じ内容の演説を参議院でもやるのですが、参議院の議院運営委員会は首相の所信表明演説をスケジュールに組み込まず、衆院のみで演説することになりました。これは、先の国会で首相の問責決議が可決されていることを理由にしたものだそうです。「問責を出した首相に、所信表明を求める必要はない」ということでしょうか。

 日本を統治する機関は、大きく分けて3つあります。国会、行政、司法です。なかでも国会は、予算審議や法案審議を通じて行政をチェックするという役割を負っています。この役割から考えると、行政の長たる首相の所信表明を求めないことで行政をチェックする機会をひとつ手放したと言えるでしょう。なぜなら、所信表明演説がないことで演説に対する質疑もなくなったため、首相を追求する場がなくなってしまうからです。

 ただ、「憲法上の規定はないとはいえ、国会が出した問責決議を首相は重く受け取るべきだ。問責決議を撤回していない以上、首相が軽々しく参議院の議場に足を踏み入れることは許さない」という考え方もなくはないので、どちらが正しいかと言われると困ってしまいます。


議院運営委員会理事会と全会一致


 2012年10月25日現在。衆議院の議院運営委員会理事会は、政府から臨時国会召集について説明を受けました。

 議院運営委員会は国会運営全体を仕切っている機関であり、国会のスケジュールはすべてここで公式に決まります。議院運営委員会が政府からの説明を受けることは、臨時国会召集に必要な手続きのひとつなっています。

 この議院運営委員会の理事会に、自民党と公明党は出席しませんでした。自公が出席しなかったため、臨時国会冒頭で行われる野田首相の所信表明演説、それに対する質疑の時間配分と順番などの話し合いまではできず、政府からの説明を受けただけで理事会は散会してしまいました。

 なぜ、今日決めてしまわなかったのでしょうか。反対する人たちがいないのだから、そのまま決めてしまってもいい気がします。

 しかし、そうはいきません。「国会というのは議論する場であり、話し合わないのは理念に反する」という考えからか、国会の委員会の理事会では、ほとんどの案件を全会一致で決める慣行があるからです。

 理事会というのは、委員会の開会日の決定や、その日の委員会で話し合う議題、各会派(政党とほぼ同じ構成です)の質問の順番と持ち時間などを決めます。これが全会一致で決まるということは、一人でも反対する理事がいたら委員会を開くことはできないということになります。

 これが、全会一致と多数決の最も違う点です。全会一致で決めることにすると、多数派の思うがままにすることができなくなるのです。

 とはいえ、いくら話し合っても解決しない場合もあります。このときは、委員長がその職権で委員会の開会を決めることになります。

 会議の日程や議題などを決めることを議事整理権と言います。委員長はその権能を持っているので、理事会の決定によらず委員会の日程を決めることができます。 ただ、全会一致の慣行を破って行う、委員長職権による決定は非常に重いです。かつては委員長が辞任することで反発する野党を鎮めることもあったそうです。今でも、委員長の不信任案が出ることがありますね。

 このように、理事会では全会一致で決するという慣行があるために、数で劣る野党の審議拒否という戦略が有効になるのです。しかし、理事会の反対によって審議を止めるのも絶対ではなく、最終的には多数党の意向通りに決まってしまいます。 一度、野党の欠席や反対を尊重して理事会を散会し、委員会の開会を延期するのは、野党の意見を尊重するという、儀式のひとつと言えるでしょう。

 今回、具体的なスケジュールを決めずに、理事会を散会したのも、さらには、昨日の議事運営委員会の理事会で野党が欠席したため、政府から臨時国会召集の説明を受けることを延期したのも、儀式のひとつなのです。

参考文献:岩井奉信『立法過程』(東京大学出版会)

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今回の内閣改造について-国対委員長と議運委員長


 2012年10月2日現在。昨日10月1日に内閣改造が行われました。改造とは、総理大臣が、一部、あるいは全部の大臣を交代させることです。私が注目したのは、城島財務大臣と小平国家公安委員長です。この二人は政府・与党の議会運営の要だったからです。城島さんは民主党の国会対策委員長、小平さんは衆議院の議院運営委員会の委員長を務めていました。

 国会対策委員長、通称「国対委員長」は文字通り議会対策をする役職です。つまり、国会審議全般の事前調整に責任をもつ役職です。例えば、与野党で賛成反対が真っ二つに分かれていて、委員会だけで採決の日程を組めないようなときは、各党の国対委員長が話し合うことで落とし所を探ります。

 議院運営委員会は、衆参両議院の運営権限を議長から預かっています。やはり、各法案の審議日程に大きな影響力を持ちます。議院運営委員会委員長は国会の役職で、国対委員長は党の役職なので、議院運営委員会委員長の方が偉いようにも思えます。実際は国対委員長の指示に従い、議事日程を決めています。

 城島さんと小平さんという、議会運営の要を担っていた人が、いっぺんに抜けてしまうことになります。大丈夫なのでしょうか。政府・与党の議会運営が失敗すると、野党が反発して審議拒否することにつながり、国会が開店休業状態になります。ただ、衆議院では一応過半数を確保しているので、どってことはないのかもしれません。

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政治主導とは4:効率化と「決める政治」


■効率化

 限られた時間を有効に使うため、無駄を省いて目的を確実に達成するということは、私たちにとって悪いことではありません。すすんで取り組むべきことですらあるかもしれません。

 私たちが日々スケジュールと目標達成に気を使っているように、政府もスケジュールに気を使っています。

■政府のスケジュール

 政府は年間100本程度の法案を提出しており、その大部分を通常国会の150〜250日で処理しなければなりません。通常国会の会期は150〜250日ですが、予算案は法案より先に審議しなければならない、という慣例により最初の60日程度は予算審議のために費やされます。また、日曜祝日はもちろん、土曜日もほぼ休みなので、さらに32日〜60日引かれます。ですから、法案全体の実質的な審議可能日数は58〜140日となります。

 ひとつの法案につき、委員会を通過するのに必要な日数は、最低でも2日です。それに本会議採決を加えて3日。さらに、日本は二院制をとっているため、2倍して6日。委員会を省略しない場合、一つの法案を処理するのに最短でも6日はかかります。仮に通常国会で提出する法案が100本あったとすると、すべての法案を成立させるには、のべ600日かかることになります。

 本会議での採決は、一日で複数の法案を扱います。また、委員会の数は30ほどあるので、すべての委員会にまんべんなく法案が付託された場合、ひとつの委員会で処理する法案は4本程度になります。したがって、すべての法案が最短で審議・採決された場合、4本×6日=24日、24日ですべての法案が処理できます。あれ、意外と楽勝な数字になりました。

 ここで出した数字には、2つの前提があります。ひとつは「野党が(賛成という意味ではなく)審議に協力的であること」。そして、もうひとつは、「与党が政府提出法案に賛成すること」という前提です。与党内で事前に合意を得ずに国会で法案を審議したら、時間も足りないでしょうが、法案成立の目処が立つかどうかすら怪しいです。

■与党が反対した場合

 2005年の郵政解散のもとになった郵政民営化法案は、与党内審査をしたことはしました。この法案には根強い反対があり、与党内審査の最終ステージである自民党総務会は苦しい決定をします。法案の国会提出だけを了承する、というものです。これで法案はなんとか国会に提出されました。

 しかし、法案の国会提出後も、自民党では修正案の審査が行われます。それほど反対派は強硬だったのです。結局、修正案はなかなか合意を得られず、自民党総務会は多数決で修正案を了承するところまで追い込まれました。自民党の与党内審査では全会一致で物事を決めるのが慣例になっているので、これは大変なことでした。与党内での強行採決が行われたようなものです。

 郵政民営化法案の修正案は5票差で衆議院を通過しましたが、参議院では17票差で否決されてしまいました。ここから、当時の小泉首相は衆議院を解散して大勝利。296議席を獲得します。そして、民営化の時期を半年延長した郵政民営化法案を国会に再提出し、衆参両院で可決され、やっと成立しました。

 与党できちんと了承されていない法案を成立させるのが、いかに大変かということがわかります。

■「決める政治」のための効率化、結果としての形骸化

 この例は極端ですが、こういう波乱を減らすために、官僚は根回しをし、与党で事前に法案を検討してしまうのです。スケジュールを確実にこなすための、効率化と言えます。これは悪いこととは言い切れません。政府として責任ある行政をするには、根拠となる法律が確実に成立することが不可欠だからです。

 責任ある行政、つまり「決める政治」を行うため、法案の成立を確実にしようとすればするほど、与党内審査で与党の意思をがっちり固めようとします。与党が賛成でまとまっていればいるほど、数において劣る野党にはなすすべがなくなり、国会は諸々の審議過程を消化するだけの場所となります。

 効率化と「決める政治」、どちらも大切です。ただ、それらの言葉と政治主導という言葉は、国会の形骸化という点で、時に相反することがあるようです。

参考文献:大山礼子『日本の国会』(岩波新書)