今日から休暇で、神保町に行ってきました。興味深い本を買ったので紹介します。
●壽木孝哉『就職戦術』(先進社)
大学生や専門学校生向けの就職ガイド本です。奥付を見ると、昭和4年12月5日発行となっています。1929年です。この年の7月に濱口雄幸内閣が誕生し、10月には世界恐慌の引き金となるブラック・サーズデーが起こっています。日本はそれ以前から長い不況に苦しんでいました。この本によると、1929年の時点で学校卒業生の就職率はぎりぎり5割をキープする、という水準だったそうです。
本の内容は、就職難にいかに立ち向かうべきかという心構えや、有名な企業の選考委員が求めている人物像、就職活動をするにあたっての注意、有名企業の就職試験科目や面接での頻出する質問の紹介、企業の待遇一覧、景気に左右されない職業とその就職方法の紹介、女性の就職について、と当時の学校卒業者の就職のほとんどを網羅しています。
パラパラめくってみると、手紙の書き方を説明する箇所がありました。『自分の方に御の字を使った手紙を書く青年が多いが、是れは丁寧の心算(つもり)でその実誤っているのである。』とか、『月日の記入を忘れ又自分の住所番地の記入を忘れる人がある』とか、『郵便切手は真直(まっすぐ)に貼るべきである。』とあるのを見ると、昔もおっちょこちょいな人はいたんだな、となんだかホッとします。
他にも、「確かに不況で求人はないが、それは個々人にとっては関係ないことだから、経済状況など心配せず就活を勝ち抜け」というようなことが書かれていたり、「不況も原因のひとつだが、学校経営者が学生をあまりに増やしたのも就職難の原因」というようなことが書かれていて、不況下の就職活動の心構えは現代で言われているものとあまり変わらないようです。
むしろ、マクロ経済学が誕生するかしないかという時期の言説と、現代の就職に関する言説があまり変わらないのは、就職難についての認識に進歩がないからではないかとも思え、不安になります。就職活動指南で経済状況を云々してもしょうがないのはもっともではあります。しかし、厳しい状況を生き抜いていく若者への配慮が足りないのではないでしょうか。「政府には今後も不況対策に全力を尽くすよう声をあげていくけれども、君たちは己の才覚でなんとかこの厳しい状況を勝ち抜いてほしい」と言う人がいてもいいと思います。
この『就職戦術』、いまの就職ガイド本と比べながら読んでみると、面白そうです。現代の就活生と、昭和初期の就活生?の違いなどがわかるかもしれません。