2012」カテゴリーアーカイブ

参院の所信表明拒否は国会改革につながる


 今国会は参議院で首相の所信表明演説が行われないという異例の事態になりました。

 私は、所信表明演説というものは、両院でやるものだと思い込んでいました。やらなければならないことで、やることが当たり前のことだと思っていたのです。ですから、衆院で所信表明をやって参院でやらないなんてことがあるとは考えもしませんでした。

 しかし、議院運営委員会が国会のスケジュールを決めている以上、議運がやらないと決めたことはやらないわけです。すくなくとも、制度上そうなっています。ですから、議運の力というものをはっきり認識していると、その力でもって所信表明をスケジュールに組み込まないということが思いつくのだと思います。

 認識することによって、権力は権力になります。認識は自覚、権力は権「利」と置き換えてもいいでしょう。

 逆に言うと、いくら権利があっても自覚的に行使しなければ、意味はありません。例えば、議運が国会という儀式の「式次第」をこなすことを惰性でやっている場合は、議運はただの機械です。ここでいう機械とは、ある入力をしたらある出力が返ってきて、それに意外性がないものです。完全に何ものかにコントロールされている存在です。

 絶大な力をもっていても、コントロールされていればなんの恐れもありません。現状維持を望む人たちにはいいことでしょう。でも、ひとたび力を自覚し、コントロールから逃れれば、逆に何ものかをコントロールできるかもしれません。

 今回の参院の所信表明拒否は、新聞でも批判されています。私は逆に、このことは将来の国会改革のいい事例になるのではないかと思っています。国会議員が自覚すれば、今の制度は変えられるという希望が見えたからです。

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参議院、首相の所信表明演説を求めず


 2012年10月29日現在。臨時国会が召集されました。衆議院では野田首相の所信表明演説があり、本日の夕刊に要旨が掲載されています。いつもだったら、まったく同じ内容の演説を参議院でもやるのですが、参議院の議院運営委員会は首相の所信表明演説をスケジュールに組み込まず、衆院のみで演説することになりました。これは、先の国会で首相の問責決議が可決されていることを理由にしたものだそうです。「問責を出した首相に、所信表明を求める必要はない」ということでしょうか。

 日本を統治する機関は、大きく分けて3つあります。国会、行政、司法です。なかでも国会は、予算審議や法案審議を通じて行政をチェックするという役割を負っています。この役割から考えると、行政の長たる首相の所信表明を求めないことで行政をチェックする機会をひとつ手放したと言えるでしょう。なぜなら、所信表明演説がないことで演説に対する質疑もなくなったため、首相を追求する場がなくなってしまうからです。

 ただ、「憲法上の規定はないとはいえ、国会が出した問責決議を首相は重く受け取るべきだ。問責決議を撤回していない以上、首相が軽々しく参議院の議場に足を踏み入れることは許さない」という考え方もなくはないので、どちらが正しいかと言われると困ってしまいます。


議院運営委員会理事会と全会一致


 2012年10月25日現在。衆議院の議院運営委員会理事会は、政府から臨時国会召集について説明を受けました。

 議院運営委員会は国会運営全体を仕切っている機関であり、国会のスケジュールはすべてここで公式に決まります。議院運営委員会が政府からの説明を受けることは、臨時国会召集に必要な手続きのひとつなっています。

 この議院運営委員会の理事会に、自民党と公明党は出席しませんでした。自公が出席しなかったため、臨時国会冒頭で行われる野田首相の所信表明演説、それに対する質疑の時間配分と順番などの話し合いまではできず、政府からの説明を受けただけで理事会は散会してしまいました。

 なぜ、今日決めてしまわなかったのでしょうか。反対する人たちがいないのだから、そのまま決めてしまってもいい気がします。

 しかし、そうはいきません。「国会というのは議論する場であり、話し合わないのは理念に反する」という考えからか、国会の委員会の理事会では、ほとんどの案件を全会一致で決める慣行があるからです。

 理事会というのは、委員会の開会日の決定や、その日の委員会で話し合う議題、各会派(政党とほぼ同じ構成です)の質問の順番と持ち時間などを決めます。これが全会一致で決まるということは、一人でも反対する理事がいたら委員会を開くことはできないということになります。

 これが、全会一致と多数決の最も違う点です。全会一致で決めることにすると、多数派の思うがままにすることができなくなるのです。

 とはいえ、いくら話し合っても解決しない場合もあります。このときは、委員長がその職権で委員会の開会を決めることになります。

 会議の日程や議題などを決めることを議事整理権と言います。委員長はその権能を持っているので、理事会の決定によらず委員会の日程を決めることができます。 ただ、全会一致の慣行を破って行う、委員長職権による決定は非常に重いです。かつては委員長が辞任することで反発する野党を鎮めることもあったそうです。今でも、委員長の不信任案が出ることがありますね。

 このように、理事会では全会一致で決するという慣行があるために、数で劣る野党の審議拒否という戦略が有効になるのです。しかし、理事会の反対によって審議を止めるのも絶対ではなく、最終的には多数党の意向通りに決まってしまいます。 一度、野党の欠席や反対を尊重して理事会を散会し、委員会の開会を延期するのは、野党の意見を尊重するという、儀式のひとつと言えるでしょう。

 今回、具体的なスケジュールを決めずに、理事会を散会したのも、さらには、昨日の議事運営委員会の理事会で野党が欠席したため、政府から臨時国会召集の説明を受けることを延期したのも、儀式のひとつなのです。

参考文献:岩井奉信『立法過程』(東京大学出版会)

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与野党攻防の4パターン


 政府・民主党と自民・公明の攻防は、大きく4つのパターンにわかれます。以下に、そのパターンを書きます。

  1. 民主強硬vs自公強硬
  2. 民主譲歩vs自公強硬
  3. 民主強硬vs自公譲歩
  4. 民主譲歩vs自公譲歩

 民主強硬とは、民主党が具体的な解散時期を自公に明示しないで突き進むことです。逆に、民主譲歩とは、民主党が解散時期を明示し、話し合い解散に応じることです。

 自公強硬とは、自公が臨時国会で審議拒否をし続ける、またはすべての政府提案に反対することです。逆に、自公譲歩とは、自公が政府案に賛成することです。

 いま、政府・民主党は年内解散を否定する意見が大勢のようです。これは、先日の前原国家戦略相の「3つの課題が解決すれば、首相は年内にも解散するだろう」という発言が民主党内で袋叩きにあっていることからうかがえます。民主党は解散に関して譲歩しない構えだと言えます。つまり、冒頭であげた4つのルートのうち、2と4はないと自公に通告しているのです。

 そうなると、可能性があるルートは1か3しかないことになります。そして、1のルートをたどった時にもたらされる、特例公債法案未成立による財源の枯渇や、衆議院の選挙制度改革の遅れに対する世論の批判は、民主と自民・公明のどちらに向くかよくわからない面があります。

 もし、自公が世論の反発をなるべく抑えたいと思ったら、3のルートをとるしかなくなります。

 また、参議院で自公の勢力は過半数をもっていません。自公がいくら政府案に反対しても、自公以外の野党がすべて民主に協力したら、特例公債法案などは成立してしまうのです。つまり、自公の強硬策は、民主党に対する絶対的な決定打にはならないのです。

 そういう点から、自民党と公明党は不利な状況におかれていると、私は考えています。

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前原発言の効果


 2012年10月23日現在。予算執行に必要な特例公債法案の成立、衆議院の選挙制度改革、社会保障制度改革のための国民会議の設置、この3つ課題を臨時国会で成し遂げたら年内に野田首相は解散する。この見解を示した前原国家戦略相の発言は、与党民主党で反発され、野党自民党、公明党で歓迎されています。

 この発言の意図はよくわかりません。しかし、その効果はすこしわかってきました。

 効果とは、3つの課題が解散の条件になる可能性を示唆することで、自民、公明両党に、民主党との交渉の余地が残されたことです。これは、今朝の朝刊でも書かれています。

 先週、10月19日に行われた民自公3党党首会談は首相が解散時期について言質を与えなかったため決裂しました。このままでは、自民党と公明党は国会で民主党に協力するメリット(=年内解散)がありません。交渉の余地がないので、自公は徹底抗戦するしかありません。自公の協力がなければ、3つの課題の達成は不可能ではないにしろ、非常に厳しくなります。

 しかし、与党議員であり、内閣の一員でもある前原さんの発言があることで、自公に「前原発言をテコに3つの課題解決に協力する姿勢を示せば、首相が折れて解散するのではないか」と考える材料を与えられます。交渉の余地が生まれるのです。 自民党と公明党がどのような姿勢で臨時国会に臨むのでしょうか。

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年末解散?


 2012年10月22日現在。前原国家戦略相は、野田政権が抱えている3つの課題が解決すれば、野田首相は年内にも解散するだろう、とテレビで発言したそうです。

 前原さんが言った3つの課題とは、

  1. 予算執行に必要な特例公債法案の成立
  2. 衆議院の選挙制度改革
  3. 社会保障制度改革国民会議の設置

以上の3つです。これは、幹事長会談や党首会談で、民主党が野党に協力を求めていたものと同じです。

 このニュースとそっくりなニュースが2ヶ月前にもありました。秋の臨時国会で懸案が解決すれば解散するだろう、と民主党幹部が発言したというニュースです。その民主党幹部は、当時政策調査会長だった前原さんです。以前、私も記事にしました(秋以降解散?)。

 野田首相は解散する気が全くないんじゃないかと思われると、すかさずそんなことはないと言う前原さん。少なくとも、前原さんは懸案処理後の解散を常に訴えているようです。

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党首会談決裂


 2012年10月19日現在。野田首相は衆議院の解散についてなんら踏み込んだ表現をせず、民主・自民・公明の党首会談は決裂しました。

 野田首相は、あくまでも野党に解散の約束をしない構えのようです。いえ、あるいは、自分の言葉が最大限高く売れるところを選んでいるのかもしれません。つまり、特例公債法案の成立や衆議院や参議院の選挙制度改革を成すことで権力を手放す気は毛頭ないということです。

 それは逆から見れば、野田首相が解散を断行することがいかに困難なのか、うかがえます。

 一回野党にがっかりさせてから約束するのか、あくまでも解散時期についての表現を変えるつもりがないのかはわかりません。

 しかし、少なくとも野田首相に、唯々諾々として解散を約束する気がないということは、言えるようです。

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そもそも解散できるのか


 衆議院の解散は、首相ただ一人が決定権を持っています。「解散は首相の専権事項である」というのはそういうことです。 しかしまた、専権事項だからといって自由に解散を打てる、というわけではありません。

 解散は、周りに支えられているか、全世界を敵に回してもやり切る覚悟があるか、そのどちらかでなければできないのではないかと思います。

 例えば、吉田茂をみてみましょう。吉田が国会審議中に「ばかやろう」と漏らしたのをきっかけとして、内閣不信任決議案が提出される事態になりました。事態をここまでエスカレートさせたのは、鳩山一郎を首相に推すグループが吉田内閣の倒閣を図ったからです。

 吉田は衆議院の解散を断行します。世に言う「バカヤロー解散」です。総選挙後、自由党は議席を減らしはしたものの第一党を維持し、第五次吉田内閣が成立しました。

 そして第五次吉田内閣末期。やはり鳩山を支持するグループが新党を結成し、吉田内閣は少数与党内閣になってしまいました。野党は数の力を背景に不信任決議案を提出します。

 吉田はあくまで解散するつもりでした。しかし、世論は吉田に厳しく、また、吉田の側近たちも総辞職したほうが自由党政権を維持できると考え、解散を許しませんでした。特に、吉田を首相にした張本人とも言える松野鶴平は「この段階で解散しろというような総理は除名だ」と厳しい態度をとりました。そして、吉田内閣は総辞職し、鳩山内閣が成立しました。

 このように、ワンマンと言われた吉田茂でさえ、周囲の人間の支持もなく、絶対不利な状況で解散を断行することはできませんでした。

 明日、10月19日に民主、自民、公明3党の党首会談があります。そこで、野田首相が解散の時期について、あらたな見解を示すのではないかと言われています。 どういう表現で見解を示すのはともかく、果たして野田首相の解散を支持する身内はいるのでしょうか。

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与党と野党、どっちが勝ってる?


 臨時国会召集を巡る与野党の攻防は未だ決着を見ません。この攻防、与党民主党と野党自民党・公明党は何をどうすれば勝ち、また負けになるのでしょうか。ちょっと考えてみます。

 野党の勝利条件は、8月に野田首相が約束した「近いうちに解散する」という言葉の、「近いうち」をもっと踏み込んだ内容にすることです。どの程度踏み込んだ内容にすれば勝ちなのかは人によって濃淡があります。解散する日程を示さなければ負けという人もいれば、「『ごく』近いうちに『必ず』解散する」くらいの表現でいいという人もいるでしょう。

 野党の敗北条件は、野田首相が「近いうちは近いうちでそれ以上でも以下でもない」と従来の主張を繰り返すにとどまった場合です。人によっては、「年内に解散に追い込めなければ負けだ」という人もいるかもしれません。

 与党の勝利条件は、政権の維持です。予算執行に必要な特例公債法案の成立や衆議院の選挙制度改革の達成は、政権運営を続ける以上果たさなければならないやっかいな仕事程度のものであって、民主党政権の維持という観点からすれば達成できなくてもどうということはありません。もちろん、野田内閣は退陣に追い込まれるかもしれません。しかし、かえってその方が反野田内閣で民主党を離党した議員が復党する口実ができ、衆議院の民主党の議席が増えるかもしれません。

 与党の敗北条件は、政権を失うことです。それも、早ければ早いほど大負けになります。民主党に不利だといわれている状況で解散するなどもってのほかです。しかし、実際に解散しなければどうということはないので、「解散する…かも」くらいのことならいくらでも言えます。ただ、簡単に言ってしまうと価値がなくなってしまうので、精々もったいぶって言わなければならないでしょう。

 おそらく、与党も野党もともに「自分が勝った」と主張できるようなところに落ち着くでしょう。ただ、与党の勝利条件がかなり甘いのに対して、野党の勝利条件は厳しく、かつ、実がありません。

 状況は与党有利だと、私は見ています。

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誰が事態を打開できるのか


 2012年10月16日現在。昨日、10月15日に民主・自民・公明3党の幹事長会談が行われました。今朝の朝刊をみたところ、昨日の会談では民主党と自民・公明両党の要求を表明しただけに終わったようです。

 話がまとまらなかったためか、10月18日に再度幹事長会談を行うことになりました。今週中にも党首会談を行うという予定だったはずなのに、8日に幹事長会談をやっていて間に合うのでしょうか。

 自民党と公明党はあくまで年内解散を求めるようです。しかし、国会が開かれなくては解散はありません。

 また、民主党は予算執行に必要な特例公債法案や、衆議院の選挙制度改革について臨時国会で話し合うことを求めています。もちろん、国会が開かれなくては、特例公債法案を成立させることも選挙制度改革もできません。

 与党民主党と野党自民党・公明党、どちらの要求にも国会の召集が必要です。そして、臨時国会の召集を最終的に決定できるのは内閣です。ただし、単に召集するだけではいけません。参議院は与党が過半数を持たない「ねじれ国会」なので臨時国会召集を強行しても、審議が進まない恐れがあるのです。

 ですから、召集の段階から野党を丁重に扱って協力してもらわないといけません。今回の幹事長会談、そして今月中に行われるはずの党首会談も、与党による野党のおもてなしです。

 もう一度整理します。与党も野党もお互いに臨時国会の召集が必要です。そして、臨時国会を召集する力があるのは与党です。しかし、臨時国会を与党の思い通り機能させるには野党の協力が不可欠です。ただし、野党が求める解散は与党が協力しなければ絶対にできません。何だか混乱してきました。いったい誰が臨時国会を開きたいのでしょうか。いったい誰が事態を打開する決定権を持っているのでしょうか。