秋以降解散?


 2012年8月12日付の朝刊に、民主党の前原政調会長が、「秋の臨時国会で特例公債法案の成立、衆議院の選挙制度改革、補正予算の成立、この三つを成し遂げれば解散できる」と発言したという記事がありました。野田首相が、解散時期について「”近いうち”というのは言葉通りの意味で、それ以上でも以下でもない」「解散は首相の専権事項だ」としているなか、わざわざ前原さんが解散の条件と次期を示したのはどういう意味があるのでしょうか。

 まず、新たに解散の条件と時期を示すことで、消費税増税を含む法案に続いて自民党や公明党の協力を求める狙いがあると考えられます。野党が「今度協力すれば本当に解散してくれるかもしれないし、この三つは国政にとって重要だから、協力して当然だ」と思ってくれれば、スムーズに話し合いが進むでしょう。少なくとも、話し合いには応じるので、衆議院を通過したところで参議院で放って置かれることはないでしょう。

 また、このような発言をすることで新聞に記事にしてもらい、政界や世論の反応を見るという目的もあります。もし、「上の三つが成立したうえで秋解散」の反発が強ければ別の方法を考える、というように、より人気がありそうな方向に微修正することができるからです。ただ、何回も言っていればみんな慣れてきて、既成事実化するかもしれません。ここでの既成事実化とは、秋の臨時国会以後解散、つまり今国会中(9月8日まで)の解散はないということです。そういう狙いもあるかもしれません。

 さらに考えます。衆議院のサイトを見ると、特例公債法案は今年の1月24日に受理されている(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm)ので、今国会中に成立を目指すこともできるはずです。なぜ、特例公債法案も今国会中ではなく臨時国会なのでしょうか。

 わざわざ「秋の臨時国会で」と言っているのは、野田さんが首相でない可能性を考えているからかもしれません。9月の民主党代表選で野田さんが落ちたときは、以前の約束は守らなくても問題ないので新しい首相と新しい約束をしよう、ということです。そして、前原さんは前回の代表選で野田首相の対抗馬でした。前原さんは、自分ならこの条件で解散すると宣言しているのでしょうか…ちょっと無理がある考えですね。

 この可能性よりは、同じく9月に総裁選がある自民党の谷垣総裁が交代するのを待っていて、谷垣さんの交代をもって「”近いうち”解散」の約束を白紙に戻し、新たな条件で解散を約束することを目論んでいる、という可能性の方がまだありそうです。

 どの考えにせよ、制度的に首相に解散を強制するすべはないように思います。世論を顧みないならば、約束したって、守らなくてもいいのです。与党が協力を求める法案と、約束する解散の時期を変えながら野党と取引していくという状況が、来年の夏まで続いていくのではないでしょうか。このままだと、法案などの内容よりも、約束の履行時期の方が話題になってしまって、あまりいい状況だとは思えません。

 この状況を変えるには、思いもよらない方法をとるしかありません。もし、盲点となって使われていないような制度があるのなら、それを使うことで打開できます。例えば、誰もが組むと思っていなかったと言われている、自民党と社会党が組んだ、自社さ連立政権の成立や、解散すると思っていなかったのに解散した郵政解散などがそれです。どちらも、制度として禁止されているわけではありませんが、計画した人間以外はほとんどの人がやると思っていませんでした。

 おそらく、今後、参議院による首相の問責決議案がどのように扱われるのかというのが、ひとつのポイントだと思います。もし、臨時国会冒頭で首相の問責決議案が可決されたらどうなるのでしょうか。本当に参議院の審議は止まり、政府にダメージを与えるのでしょうか。それとも、国民やメディアの反発が厳しく、むしろ野党にダメージを与えるのでしょうか。

 ちなみに、通常国会の会期末で首相の問責決議案を可決させられたのが福田元首相で、福田さんは3ヶ月後の臨時国会召集前に総辞職してしまいました。その臨時国会をしのぎ、次の通常国会の会期末に問責決議案を可決させられた首相が麻生元首相です。麻生さんは可決して7日後に衆議院を解散しています。どちらも、問責決議案が直接的な原因となって、総辞職や解散をしたとは言いきれません。ただ、共通するのは、首相の問責決議案が可決させられた後、国会が2週間以上続いた例はないということです。2週間を超えたとき、何が起こるのか。大変興味があります。


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