政治を考える」カテゴリーアーカイブ

「小選挙区は国会議員をつまらなくしている」


(前略)私は小選挙区は国会議員をつまらなくしているのではないかという気持ちをすてきれません。(中略)一人区で振幅が激しくなって、ころころ議員が代わることになり、若い政治家が育ちにくくなっています。中選挙区のときのような議員を切磋琢磨する機会がなくなっていると思います。

御厨 貴, 牧原 出, 佐藤 信『政権交代を超えて――政治改革の20年』岩波書店(P.83)

 『政権交代を超えて――政治改革の20年』の谷垣禎一法務大臣のインタビューです。

 私は学生のとき(2007年)に自民党本部で開かれた谷垣政調会長(当時)の勉強会に出席したことがあります。質問時間で私は「今後、有権者は候補者をみないで党で選ぶようになるのではないか」というような質問をしました。そのときも、谷垣さんは「政治家が、政治家としてではなく、単に数合わせのものとして必要ならばそれでもいいかもしれないが、そうではないだろう」という答えをされました。

 谷垣さんは小泉内閣の閣僚で、ポスト小泉の一角でもあったので、「当然、小泉首相に空前の大勝利をもたらした小選挙区制に賛成なのだろう」となんとなく思っていました。ですから、厳しい言葉に思わずたじろいたことをおぼえています。

 ただ、中選挙区制というのは「同じ政党の候補者が競う」ものです。谷垣さんも自民党の有力者であった野中広務さんと競っています。競っている候補者が同じ党に所属しているので、党の政策だけが、有権者が候補者を選択する際の基準になりません。当選するには、党の政策プラスアルファが必要になります。このプラスアルファが、選挙区への利益誘導につながる可能性があるというデメリットがあります。


「五一対四九でも五一が勝ち」


 ―かつて小沢さんは、これまでの政治はなあなあだった。きちんと決めないといけない。五一対四九でも五一が勝ちだとおっしゃった。それは変わりませんか?
 変わりません。選挙では一票でも足りなければ落選ですから。自社なれあい談合政治の中で僕も育ってきましたが、表は別にして裏では共産党を除いて常に全会満場一致なのですね。そのためにあらゆることが曖昧な話になって、妥協妥協でどっちつかずで、思い切ったことはできないということになってしまっていた。

御厨 貴, 牧原 出, 佐藤 信『政権交代を超えて――政治改革の20年』岩波書店(P.55)

 『政権交代を超えて――政治改革の20年』の小沢一郎議員のインタビューです。小沢さんは、「賛否両論の問題だとしても、一人でも多い人が賛成する政策を妥協せずやりきるべき」という意味で「五一対四九でも五一が勝ち」言ったのでしょうが、わたしはちょっと違う捉え方をしました。

 「五一対四九」となるような問題は、どっちでもいい問題も含まれるのではないでしょうか。選択肢が2つあっても「どっちもなんだかな」と思うような問題です。それでも、「五一対四九」で2ポイント多い方を選択する必要があります。その積み重ねで、例えば二大政党のどちらを政権与党にするか選択することになります。でも、なんとなくそういう決め方は後ろめたい気もします。

 ですから、「五一対四九でも五一が勝ち」という理念は、「小選挙区制になって政党の違いがわからないよ」という有権者の背中を押すものになるのではないかなと思います。


変わらないことが悪ならば、一年で替わる首相は民意を反映しているので良いのか


いまや大企業のトップリーダーは一年か二年で結果を出さなければいけません。リーダーシップはかくあるべしということになると、これからの代議制民主主義は苦しいことになるでしょう。だから民意に愛想をつかされて一年で首相が替わるということは、いいことだということになるかもしれませんよ。

御厨 貴, 牧原 出, 佐藤 信『政権交代を超えて――政治改革の20年』岩波書店(P.24)

 『政権交代を超えて――政治改革の20年』の冒頭の座談会での、牧原教授の言葉です。牧原教授の言った意味とは違うとは思いますが、この言葉を目にして思ったことを書きます。

 政権交代がないこと、世代交代がないこと、世襲という形で政治への人材供給が制限されて人材の入れ替わりがないこと。これら政治の硬直性は、しばしば批判の的になります。政治において「変わらないこと」は民意との乖離の証拠とされ、悪とされているように思えます。

 そうなると、政治家が民意に素早く反応した結果として首相が降ろされることは、日本の政治が民意に素早く反応しているとポジティブに評価できなくもありません。ですが、「短期間でころころ替わる首相」がポジティブに評価されるのをみたことはありませんし、なんとなくネガティブなことに思えます。

 不思議です。変わる頻度はどこまでが良くて、どこからが駄目なのか、考えたこともありませんでした。


集団的自衛権を逆算する


集団的自衛権について、政府が考えているゴールから逆算して、必要なプロセスを洗い出してみます。

ゴール:集団的自衛権を行使するために必要な法案の成立

15.法案の成立
14.法案の審議
13.法案の付託
(特別委員会の設置?)
12.法案の提出
11.法案の閣議決定
10.内閣法制局審査
9.自民党総務会決議
8.自民党政調会決議
7.担当省庁の原案作成
6.集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈を閣議決定
4.自民党総務会決議
3.自民党政調会決議
2.自民党政調会、安全保障法制整備推進本部合同審査
1.安保法制懇報告書提出

集団的自衛権を行使する環境が整うまでに、これだけのステップが必要になります。2014年4月4日現在、ステップ1以前の段階です。

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悪い政策を良い手続きで実現するほうがまし


 政治の評価には、良い政策と悪い政策というような「政策」を軸にしたものがあります。「自分にとって良い政策を訴えているから、この政党を支持しよう」とか、「悪い政策を訴えているあの政党は支持しないぞ」というようなものです。

 しかし、評価の軸は政策だけではありません。良い手続きと悪い手続きという「手続き」を軸にしたものもあります。良い手続きというのは、政策決定過程に疑問の余地がないものです。

 すべての可能性をあげると以下のようになります。

  1. 良い政策を良い手続きで実現する
  2. 悪い政策を良い手続きで実現する
  3. 良い政策を悪い手続きで実現する
  4. 悪い政策を悪い手続きで実現する

 2と3だったら、2のほうがましです。議会の多数派が変われば、自分にとって良い政策が実現される可能性があるからです。3や4は、自分が支持している勢力が議会の多数派である(3)ときはいいですが、そうでない(4)ときは怖すぎます。何がどう決まるかわからないからです。

 そんなことはみんなわかっているので、与党はどんな形であろうと手続に則っているようにみせます。そして野党は、与党がどう頑張っても手続きに傷があるようにしむけるのです。


大臣が持つ拒否権


2014年3月31日現在。首相の進める政策に慎重な議員を大臣にすることは、反対を抑えることができる一方、内閣を危機に陥らせる可能性もあります。

首相と大臣の意見が違うと、「閣内不一致」だと野党から攻撃されるので、首相の政策に慎重な大臣は、首相の政策に合わせるか、自らの主張をトーンダウンします。

そもそも、なぜ閣内不一致が問題なのでしょうか。手続き上の理由としては、内閣として意思決定する閣議決定が、全会一致形式であることがあげられます。全会一致ということは、1人でも反対したら決められません。1人1人が拒否権を持っているわけです。

例えば、集団的自衛権の行使を容認するには、「日本国憲法は集団的自衛権の行使を認めていない」という憲法解釈をした1981年の政府答弁を否定する閣議決定を行わなければなりません。ということは、憲法解釈変更の閣議決定をするときに、1人でも反対があったらピンチになります。

閣議決定に反対の大臣が出たとき、首相には2つの選択肢しかありません。閣議決定をあきらめるか、反対する大臣を罷免して自らがその大臣を兼務し、全会一致にすることです。

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ねじれ国会は、いつでも起こりうる


 ねじれ国会が終わったからといって、参議院の存在感が低下したと思ったら大間違いです。ねじれ国会が終わったということは、野党に代わって参議院与党の力が更に高まったということです。

■参議院の賛成がないとめんどくさい

 一部の議案や手続きを除いて、参議院の賛成なしに成立するものはありません。衆議院と参議院が、同一会期中に賛成して議案が成立するのが原則です。つまり、参議院が反対したらなにもできません

 なにもできないというのは言い過ぎかもしれません。少なくとも、与党の政権運営が非常に困難になる実例を、参議院で与野党の議席数が逆転したねじれ国会で見てきました。このねじれ国会は、昨年の参議院選挙で与党が勝利したため、解消されました。

■与野党逆転以外のねじれ国会

 でも、ねじれ状態は野党が多数派でなければ起こらないわけではありません。参議院の与党が、官邸や衆議院と反対の動きをしてもねじれ状態になります

 これも、実例があります。2005年の郵政解散は、参議院で郵政民営化法案が否決されたことで起きています当時の参議院は、与党が多数派だったのにもかかわらず否決されました。まさに、ねじれ状態です。

 集団的自衛権の行使容認をめぐって、参議院自民党の幹部である脇参院幹事長の発言がクローズアップされるのも、参議院自民党の影響力が大きいためです。


大島さんと漆原さん


 3月23日付の日経新聞朝刊の「自民各派、勉強会で慎重論」という見出しの記事には、以下のような記述もありました。

 大島氏は慎重論の根強い公明党とパイプを持つ。

(日経新聞『自民各派、勉強会で慎重論』)

 この記事の「大島氏」とは、前副総裁の大島理森衆議院議員のことです。大島さんとの関係が深い公明党の議員というと、漆原国対委員長が思い浮かびます。民主党が政権を取る前に、お互い与党の国対委員長を務めています。

 水内茂幸『居酒屋コンフィデンシャル』という本があります。この本は、産経新聞の記者である著者が、議員と酒食をともにしてインタビューをするという内容になっています。この本に大島さんも漆原さんも取り上げられています。

 漆原さんのインタビューには、大島さんとの関係や国対委員長として民主党の政権運営をどう思うかなどが書いてあり、非常に面白いです。

 「(引用者註:民主党の政権運営を)みていると、自動車教習所の教官のような気持ちになるんだ。思わず助手席のブレーキを踏みたくなる。僕は国会対策だから『ここで法案出さないと大変だぞ』『そんなことしたら危ない』とハラハラしちゃう。」

水内茂幸『居酒屋コンフィデンシャル』新潮文庫)


政官要覧を買った


 『政官要覧』という本を買ってみました。政官要覧は、国会議員のプロフィールから、官庁幹部職員の人事データが載っている本です。

■自民党の派閥別議員一覧をみたい

 最近、自民党内の動きに注目しています。集団的自衛権の行使容認を巡る議論が盛り上がっているからです。そこで、自民党内の動きを知るために、派閥の数や規模をおさえておこうと思いました。報道では、集団的自衛権の行使容認に積極的な町村派、慎重な岸田派という見方が出ていて、派閥の規模感や誰がどの派閥に属しているのかを知っていたほうがいいと考えたのです。

 政官要覧の党派別議員一覧では、自民党だけ「派閥別議員一覧」になっているため、誰がどの派閥に属しているかは一目瞭然です。派閥に所属している議員数もすぐわかります。

■議員にも注目

 類書に『国会便覧』や『国会議員要覧』という本もあります。政治の制度と手続きを中心に、今後は議員にも目を向けていきます。 政官要覧 H26S


与党盤石だからこそ出てくる議論がある


 2014年3月19日現在。来年度予算案がすんなり通り、「与党盤石」という見方が広がれば、思いっきり議論をしようという与党議員がいてもおかしくはありません

■与党ペースだからこそ議論が盛り上がる

 明日20日に2014年度予算案を採決することで、与野党は合意しています。国会は依然、与党ペースで進んでいます。これだけ与党の一人勝ち状態が続くと、少々党内が揺れても大丈夫じゃないかと思う人がでてきてもおかしくありません。

 補欠選挙を除けば、国政選挙も当分ありません。そうすると、例えば集団的自衛権の行使容認を巡る議論で、「首相とは違うが、自分の意見を言いたい」という人が出てくるかもしれません。与党が盤石になればなるほど、党内で議論が盛り上がる可能性もあるのです

 集団的自衛権の行使容認を巡る動きは、憲法上重要なテーマがどのようなプロセスで決まっていくのかと、与党と政府の綱引きがどういう風に行われるかという2つのことがわかるので非常にお得な話題です。