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審議拒否と日本共産党


■審議拒否の意義

 2013年4月25日現在。先週、4月15日〜19日は、衆議院の選挙制度を巡って審議拒否が起こりました。

 審議拒否は、多数派の強引な国会運営に抵抗する手段のひとつです。

 強引な国会運営とは、例えば、多数派にとって都合の良い議案だけを議題にして、すぐに採決するようなものです

 原則、議題になっていないものについて話し合うことはできないので、議題の設定や設定過程自体がおかしいと思った場合は、審議拒否して委員会が開かれないこと狙います。そして、審議復帰を条件に多数派から譲歩を引き出すのです。

 事実、4月17日の衆議院は、党首討論を行う国家基本政策委員会以外のすべての委員会が、野党の出席を得られなかったため審査を進めることができませんでした。審議拒否には、委員会を開かせないという力が存在すると言えます。

■それでも委員会が開かれたら

 審議拒否には一定の効果があります。

 とはいえ、その効果は多数派である与党が譲歩した時のみ発生するものです。特に、現在の衆議院のように与党が圧倒多数の議席を持っている場合、野党が出席しようがしまいが、与党は強制的に委員会を開くことが可能だからです。

 こうなってしまうと、審議拒否をして委員会を欠席してしまったら、会議録に自分たちの意見を残すことはできません。

 せいぜい、委員長が欠席した会派の名前を読み上げたことが残るだけです。

 本会議の日程について協議したあと、委員長の職権で再開された、4月16日の衆議院議院運営委員会の会議録では、以下のようになっています。

○佐田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 再開に先立ち、民主党・無所属クラブ、日本維新の会、みんなの党、生活の党の所属委員に理事をして出席を要請いたしましたが、いまだ出席が得られません。やむを得ず議事を進めます。

 この時、議院運営委員会に委員を出している会派のうち、野党会派で出席したのは日本共産党のみでした。

■審議拒否にくみしない日本共産党

 日本共産党は他の野党が審議拒否しているなかでも委員会に出て、与党と反対の立場から意見を述べています。

 会議録では共産党議員の以下のような発言が残っています。

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 初めに、この委員会が、与野党合意のないまま、与党によって一方的に開かれたことに対して、強く抗議するものであります。議会の運営は、合意の上、円満に行われるべきであります。
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。

 与党の強引な国会運営に抗議し、与党の提案した「区割り法案を特別委員会に付託して審議を開始する」ことに反対したことが、会議録からわかります。

 この意見は会議録に残ります。審議拒否をして、委員会を開かせないようにして、多数派から譲歩を引き出したり、対応を改めさせたりするのも大事ですが、委員会に出て自分の意見を会議録に残すのも大事です。

 ですから、どこか1党は野党の出席が必要です。

 日本共産党は、その点で議会政治に対し、一定の役割を果たしていると言えます。


なぜ区割り法案は迅速に処理されなければならないのか


■60日でみなし否決

 『区割り法案強行採決』でまとめてみて感じたのですが、よくもまあ、これだけのことを5日間でやったものです。与党がこれだけ焦っているのも、民主党などの野党がこれだけ抵抗しているのも、区割り法案が確実に成立するには、4月26日までに衆議院を通過している必要があるからです。

 憲法59条2項には、参議院が否決した法案を衆議院の3分の2以上の議席でもって可決すれば、その法案は成立するという、いわゆる再可決の条項があります。しかし、再可決は参議院が否決しなければ使えません。ずーっと参議院が審議せずにほっといたら何もできないのです。

 そこで、同じく憲法59条第4項にこうあります。

参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 これによって、参議院に法案が送付されてから60日たてば、衆議院で再可決できることになります。国会は延長できるので、60日に足らなかったら延長するという手もあります。しかし、今国会のあとには参議院選挙が控えているため、あまり延長はできません。まごまごしていると60日経過する前に国会が終わってしまいます。

 今国会の会期は6月26日までなので、区割り法案を確実に成立させるには、60日前の4月28日までに衆議院を通過していなければなりません。ただし、4月28日は日曜日なので、それ以前の最後の平日である4月26日までに衆議院本会議で採決しなければならない、というわけなのです。


区割り法案、特別委で強行採決


■区割り法案強行採決

 2013年4月19日現在。1票の格差を是正するため内閣が提出した、衆議院の小選挙区を「0増5減」して区割りを変更する公職選挙法改正案、いわゆる区割り法案が「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」で強行採決されました。

 区割り法案をめぐる動きは、法案審議で起こるイベントのオンパレードだったので、非常に興味深かったです。

■4月15日・野党審議入りを拒否

 区割り法案の扱いについては、今週初めから揉めていました。4月15日、衆議院の議院運営委員会理事会で、区割り法案の審議入りについて話し合われました。この理事会では野党が審議入りを拒否し、話し合いは物別れに終わりました。

 国会は法案を審議するところです。国会で法案審議を主に担当するのがそれぞれの委員会です。区割り法案の場合は、「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」という長い名前の委員会で審査することになります。

 ところが、委員会で審査するには、法案を委員会に付託しなければなりません。原則として、法案が委員会に付託されなければ、委員会での法案審査は行われません。法案の付託は議長の権能ですが、議長の諮問機関でもある議院運営委員会が実質的に決めています。

 また、法案を委員会に付託する前に、その法案の趣旨説明を本会議で行うことがあります。これを決めるのも、議院運営委員会です。趣旨説明を行うことが決まったら、趣旨説明が終わるまで委員会に付託されません。趣旨説明が終わって初めて、法案の委員会審査が始まります。

 野党は議院運営委員会理事会で、区割り法案を、本会議での趣旨説明を省略して特別委に付託することを拒否したのです。

■4月16日・与党強引に付託

 4月16日午後。与野党の幹事長・書記局長会談が開かれました。与党は改めて0増5減の区割り法案を、衆議院議員定数の大幅削減に先行して処理することを求めましたが、野党はやはり拒否しました。

 4月16日夜。議院運営委員会理事会が開かれ、話し合いが持たれましたが、与野党の意見は折り合いません。ついに、議院運営委員長の職権により、議院運営委員会の開催が強行されます。

 委員会を開いたり、委員会の議題を決める権限は委員長が持っています。ですが、それら委員会の議事進行の決定については、各委員会の理事会で行うことになっています。そして、理事会の決定は理事の全会一致によってなされるのを原則としています。委員長が、その職権で委員会を開くのは尋常な議事運営ではありません。これに反発し、共産党を除く野党は、議院運営委員会を欠席することになります。

 この日の議院運営委員会で、区割り法案について、本会議での趣旨説明を省略して「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」に付託することが議題とされます。この議題は、共産党以外の野党が欠席する中、自民公明両党の賛成で可決され、特別委員会で区割り法案を審議する準備が整いました。

■4月17日・野党全面審議拒否

 前夜の強引な国会運営に野党が反発し、党首討論が行われる国家基本政策委員会以外のほとんどの委員会の出席を拒否します。そのため、各委員会は流会になったり、委員会を開いたものの、審査に入るにいたらなかったりしました。

 そんななか、特別委の理事懇談会が開かれます。ここで、与党は野党に18日に区割り法案の趣旨説明と質疑を行い、19日採決する日程を提示します。野党はこれを拒否し、18日に特別委を開くことは、特別委の委員長職権で決定されました。

■4月18日・野党審議復帰

 4月18日。野党欠席のなか開かれた特別委で、趣旨説明と質疑が行われ、区割り法案は審議入りしました。と同時に、衆院選挙制度改革に関する実務者協議が開かれます。この実務者協議が開かれることによって、野党は特別委を除いて審議に復帰します。

 この日、野党各党は伊吹衆議院議長に与党の強引な国会運営への抗議を申し立てます。議長から与党へ、野党に配慮した国会運営を行うよう働きかけるよう求めたのです。このように、与野党が対立してどうにもならないときは、議長が間にはいって調整することがあります。これを議長あっせんと呼びます。

■4月19日・議長あっせんと強行採決

 4月19日。伊吹議長は区割り法案に関する与野党対立の打開に向けたあっせんに乗り出しますが、合意にいたりませんでした。ついに、民主党や維新の会などが欠席する中、特別委で区割り法案が可決されます。強行採決です。

 強行採決とは、多数派が強引に採決してしまうことです。本来なら、与野党すべての党が出席したなかで審議し、採決しなければならないのに、力任せに採決してしまうので「強行」とつくのです。与党は多数派だから与党なので、すべての議題を即採決していたら、すべて与党の思うがままになるに決まっています。それでは意味がないのです。

 ただ、何も決まらないのも困りものなので、強行採決も使い方次第というところがあると思います。今回はどうなのでしょうか。

■典型的な与野党対立

 一見荒れているように見えますが、一連の動きをみると、典型的な与野党対立型の国会審議となっています。すべての動きが、国会審議の「お作法」から外れていません。むしろ、民主党などの野党は審議拒否を一日でやめてしまったので、おとなしいくらいです。なんにせよ、これで区割り法案の衆議院通過は、本会議での採決を待つばかりとなりました。


自然成立の30日はどう数えるか?


■予算に関する衆議院の優越

 2013年4月15日現在。明日16日に、2013年度予算案は衆議院予算委員会と本会議で採決される見込みです。予算委員会でも本会議でも、自民党・公明党の与党勢力が過半数を占めているので、予算案は可決されることになります。

 衆議院での採決が終わると、予算案は16日中に参議院に送付されます。参議院での審議は、17日には党首討論が、18,19日はG20があるため、来週4月22日以降に行われると見られます。17日以降は、首相や財務大臣を参議院予算委員会が確保できないからです。

 参議院での審議はありますが、衆議院で可決されてしまえば予算案はもう安泰です。憲法60条2項があるからです。

憲法60条2項
 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

 参議院に予算案を送付してから30日以内に採決されない、もしくは、採決されて否決された場合でも、予算案は衆議院の議決通り可決成立するからです。

■30日をどう数えるか?

 この30日は、どう数えるのでしょうか。参院に送付された4月16日から1日ずつ数えていくのでしょうか?そして、自然成立は30日目の5月15日になるのでしょうか?それとも、その翌日の5月16日?ここ最近、予算案の自然成立について考えるとき、いつも悩んでいました。

 その悩みが、先週解決しました。2013年4月13日付の読売新聞朝刊、『予算案、16日衆院可決へ』という見出しの記事に、次のように書いてあったのです。

予算案は16日に参院に送付され、遅くとも30日後の5月15日には自然成立する。

 読売新聞によれば、参議院に予算案が送付された日から「30」とカウントダウンが始まり、カウントが「1」になったところで自然成立する、と考えて良いようです。新聞がこういうところをきちんと書いてくれると、政治を楽しむ立場からすると非常に助かります。

 


2013年度予算案、4月16日衆院通過へ


■2013年度予算案4月16日採決

 2013年4月13日現在。2013年度予算案を4月16日に衆議院予算委員会と本会議で採決することが決まりました。

 ここで審議状況を確認します。()内の数字は2012年度予算の衆議院予算委員会の審議実績です。

  • 基本的質疑:4日(4日)
  • 一般的質疑:3日(6日)
  • 集中審議:6日(5日)
  • 地方公聴会:1日(1日)
  • 参考人質疑:0日(1日)
  • 公聴会:1日(1日)
  • 分科会審査:0日(1日)*4月12日,15日に実施決定済
  • 締めくくり質疑,討論,採決:0日(1日)*4月16日に実施決定済

■昨年と比較

 2013年度予算案の衆議院の審議日数は、18日間になる見込みです。昨年は20日間なので、昨年よりも2日少ないことになります。ただ、これはあくまでも2013年度予算案を議題とした衆議院予算委員会が開かれた日数です。実際の審議時間で比べた時に、どの程度差が出るかはこれだけではわかりません。

 4月11日付の読売新聞朝刊に、「最近5年間の予算案審議状況」と題する表が出ていました。過去5年間の衆議院予算委員会の基本的質疑、一般的質疑、集中審議、締めくくり質疑の合計時間などを示したものです。その表によれば、昨年の予算案の総質疑時間は88時間40分でした。基本的質疑、一般的質疑、集中審議、締めくくり質疑の日数である16日で割ると、1日あたりおよそ5時間30分審議していることになります。

 その表には4月10日時点での2013年度予算案の総質疑時間も出ていました。総質疑時間は76時間30分。4月10日までに基本的質疑、一般的質疑、集中審議は13日間審議しているので、13日で割ると、1日あたりの審議時間はおよそ5時間50分になります。読売の表で考慮されてる審議で残っているのは、4月16日の締めくくり質疑のみです。16日で12時間ほど審議すると昨年の総質疑時間に達することになりますが、おそらく、時間数でも昨年より短くなるでしょう。


一般的質疑より集中審議?


■予算審議状況

 2013年度予算案は、16日に衆議院で採決し、可決する見込みであるという報道がされています。ここで審議状況を確認します。()内の数字は2012年度予算の衆議院予算委員会の審議実績です。また、カレンダーの*印は予定分です。

  • 基本的質疑:4日(4日)
  • 一般的質疑:3日(6日)(2013年4月11日訂正)
  • 集中審議:5日(5日)*4月10日に6日目実施決定済(2013年4月11日訂正)
  • 地方公聴会:1日(1日)
  • 参考人質疑:0日(1日)
  • 公聴会:0日(1日)*4月11日に実施決定済
  • 分科会審査:0日(1日)*4月12日,15日に実施決定済
  • 締めくくり質疑,討論,採決:0日(1日)

!!2013年4月11日追記:4月5日の一般的質疑を集中審議と間違えていました。訂正いたします。!!

2013年 4月
1
一般的質疑2
2
集中審議3
3
地方公聴会
4 5
一般的質疑3
6

7 8
集中審議4
9
集中審議5
10
集中審議6*
11
中央公聴会*

12
分科会審査1*
13

14 15
分科会審査2*
16
予算委員会採決?
17

18
G20
19
G20
暫定予算期間内成立最終ライン
20

21 22

23

24 25 26 27

28 29 30

 もし、16日に採決するとなると、昨年より、一般的質疑が3日少ないことになります。そして、審議時間の総数も昨年より2日分少なくなります。これで民主党をはじめとする野党は納得するのでしょうか。

■一般的質疑より集中審議?

 一般的質疑と集中審議はどう違うのでしょうか。一番違うのは、一般的質疑は首相に出席義務がないのに対して、集中審議は首相が出席しなければならないという点にあります。首相が出席しなければならないということは、首相の時間を拘束するということです。行政の長である首相を、国会の監視下におくことになります。つまり、一般的質疑より、集中審議の方が野党にとって価値が高い可能性があります。

 今年度は、一般的質疑が昨年より3日少ないかわりに、集中審議は昨年より1日多く実施する見込みです。もし、集中審議1日分が一般的質疑2日分に匹敵する価値をもっているとすれば、野党としても面子を潰さずに、採決に臨むことができます。「価値が高い審議(集中審議)を昨年より1日多くしているから、昨年より2日少ない審議時間でも構わないでしょ」と、与党が野党を説得する余地が生まれるのです。

 私は、今国会の審議状況から考えて、野党は審議時間の確保をするため4月16日に採決で折り合うのは難しいんじゃないかと思っていました。ですが、上で述べたような考え方が通れば、「集中審議を一般的質疑の代わりにする」ことで手を打って、野党が4月16日に衆議院に予算案を採決することを許す可能性もあるかもしれません。


2013年度予算の採決時期はいつか?


■4月第1週終了

 4月に入って、第1週が終了しました。2013年度に入りましたが、2013年度予算は未だ成立していません。

 ここで審議状況を確認します。()内の数字は2012年度予算の衆議院予算委員会の審議実績です。また、カレンダーの*印は予定分です。

  • 基本的質疑:4日(4日)
  • 一般的質疑:3日(6日)(2013年4月11日訂正)
  • 集中審議:3日(5日)*4月8日に4日目実施合意済(2013年4月11日訂正)
  • 地方公聴会:1日(1日)
  • 参考人質疑:0日(1日)
  • 公聴会:0日(1日)*4月11日に実施決定済
  • 分科会審査:0日(1日)
  • 締めくくり質疑,討論,採決:0日(1日)

!!2013年4月11日追記:4月5日の一般的質疑を集中審議と間違えていました。訂正いたします。!!

2013年 4月
1
一般的質疑2
2
集中審議3
3
地方公聴会
4 5
一般的質疑3
6

7 8
集中審議4*
9 10 11
中央公聴会*

12 13

14 15 16

17

18
G20
19
G20
暫定予算期間内成立最終ライン
20

21 22

23

24 25 26 27

28 29 30

 昨年の審議実績を基準に考えると、あと9日程度審議する必要があります。

■3つのシナリオ

 先月末に成立した暫定予算の期間は4月1日から5月20日までです。5月20日までに2013年度予算が成立していないと、政府・与党の見積もりが甘かったことになります。そして、確実に5月20日までに成立させるには、4月19日には予算案を衆議院で可決し、参議院に送付しなければなりません。

 しかし、4月18日~19日はワシントンで開かれるG20に麻生財務大臣が出席するため予算委員会は開けません。このため5月20日までに予算を成立させるには、4月17日には採決しなければならないのです。

 4月17日まで、平日は残り8日。昨年の審議時間より1日少なくなります。民主党は今国会において、2012年度補正予算審議や日本銀行正副総裁人事の同意審議などで、最大限の審議時間確保を求め、勝ち取ってきました。民主党の対応により、2013年度予算の採決時期について、3つのシナリオが想定できます。

    シナリオ1:与党が5月20日までの成立確定を断念し、4月22日以降採決
    シナリオ2:野党が審議時間の確保を断念し、4月17日採決
    シナリオ3:与野党が相互に譲歩し、土日に審議して4月17日までに採決

 どのシナリオになるか、新聞の政治欄などを注目して見ていきたいです。


厚労委の30分・3


 「厚労委の30分」は、2013年3月19日の衆議院厚生労働委員会の審議が30分中断したことについて分析する連載です。「厚労委の30分・1」では、討論が終了したら、すぐ採決になるという委員会審査のルールがあることを確認しました。「厚労委の30分・2」では、民主党の党内手続きが遅れたことについて考えました。

■困る委員長

 2013年3月19日、衆議院厚生労働委員会。与党理事は、

「審議を中断するのなら、委員長から『民主党の党内手続きを待つために中断する』と中断理由を説明してほしい」

と要求します。この要求に対し、厚生労働委員長は

「これから速記を止めるので、理事から委員に説明してほしい」

と返します。しかし、与党理事は

「委員会なのだから、委員長がしかるべき説明をすべきだ」

と譲りません。

 困った委員長は、委員長席の左側のスペースに控えていた人物に話しかけます。

「こういう場合に、委員長が中断理由を説明するパターンはあるのか」

■国会職員という人々

 委員長が話しかけていたのは、議員ではなく衆議院事務局の職員だと思われます。いわゆる国会職員です。国会職員は、国会審議が円滑に行われるよう働いています。警備をしている衛視も国会職員ですし、本会議場で議長の隣に座っている事務総長も国会職員です。

 国会職員の中には、国会法、議院規則、先例集のエキスパートがいます。国会審議が儀式だとすれば、式次第のエキスパートです。いつも同じように審議が行われればいいのですが、時にイレギュラーな事態がおこります。今回の厚労委で起こったことがそうです。そのようなとき、法律、規則、そして先例からどのように事態に対応するかアドバイスすることも、国会職員の職務のうちに入ります。すべては、国会が国権の最高機関としての機能を全うするためです。

■黒子

 国会職員は委員長に何事かを説明します。説明を受けた委員長は、与党理事に「『民主党の党内手続きを待つため』と説明する」と言い、理事全員を席に返しました。

 そのまま議事進行しようとした委員長ですが、あまりにイレギュラーな事態だからかほんの一瞬言葉に迷います。そこですかさず、先ほどの職員が小声で委員長に促します。適当な表現ではないかもしれませんが、まるで黒子のようです。

「(この際ご報告いたします。)」

「この際ご報告いたします。予防接種法の一部を改正する法律案について、民主党の党内手続きの終了を待つため、しばらく皆さまには、このままお待ちいただくことになります。」

マイクが微かに、「え〜」という声を拾っていますが、委員長は続けます。

「よろしくお願いいたします。…速記を止めてください。」

 かくして、ここから30分程度委員会は中断。みんなで待つことになったのです。


2013年度予算審議日程はかなり窮屈


■麻生財務大臣、ワシントンへ

 2013年4月2日現在。今朝の読売新聞朝刊、「今年度予算案2週間ぶり審議」という見出しの記事に、興味深いことが書かれていました。以下に引用します。

麻生財務相が今月18日からのワシントンでの主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するため、与党は17日までの衆院通過を目指す方針だ。

 どうして、与党は17日までの衆院通過を目指す方針なのでしょうか?

 まず、3月末に成立した暫定予算の期間は4月1日から50日間なので、その期間内に2013年度予算を成立させるには、4月19日までに衆議院を通過させる必要があります。つぎに、財務大臣が国会に出席できない場合、予算委員会は開けませんが、麻生財務大臣は4月18日から日本にいません。これらの条件から導き出される日付が、4月17日なのです。

■4月17日に通過できるか?

 昨年と同じだけの予算審議時間を確保するには、4月から13日分の審議時間が必要です。すでに昨日1日と本日2日に審議しているので、残り11日になります。カレンダーを見てみましょう。

2013年 4月
1
2
3 4 5 6

7 8 9 10 11

12 13

14 15 16

17

18
G20
19
G20
暫定予算期間内成立最終ライン
20

21 22

23

24 25 26 27

28 29 30

 4月19日まで、平日は13日しかありません。G20により、18,19日に予算委員会は開けません。平日は残り11日です。これで、昨年並みの審議時間確保に必要な日数と並びました。すなわち、残りの平日全てで予算委員会を開かないと、4月19日までに昨年並みの審議日程を確保できないことになります。かなり窮屈な日程だと言えるでしょう。


厚労委の30分・2


■納得いかない与党理事

 「厚労委の30分」は、2013年3月19日の衆議院厚生労働委員会の審議が30分中断したことについて分析する連載です。前回は、討論が終了したら、すぐ採決になるという委員会審査のルールがあることを確認しました。

 討論が終了し、さぁ採決!…となったところで、厚生労働委員長は理事を集めました。委員長は、「民主党の手続きが終わるまで討論の終局を宣言せずに待つことになる」と理事に説明します。

 納得いかないのが与党理事です。「他の党はすべて手続きを終えて委員会に臨んでいる。民主党だけが党内手続きを終えていないために審議を中断するというのはおかしい」というわけです。そして、委員長に「民主党の手続きを待つために中断すると宣言してほしい」と要求します。

■党内手続きが終わってない!

 ここで言う「党内手続き」とは、党として法案の賛否を決める手続きのことです。現在、民主党は「次の内閣」という機関で法案の賛否を決めているようです。この「次の内閣」で法案を了承する手続きが終わっていないために、討論のあと、ただちに採決することができませんでした。

 与党理事の不満は、「採決する予定の委員会に臨む前に、法案への態度を決める党内手続きを終えるのが当然だ。党内手続きが終わっていないというのは、民主党の怠慢か、さもなくば意図的な議事妨害だ」という点にあります。この見方は妥当でしょうか。

■民主党の言い分

 民主党にも言い分はあります。『「巨大与党の傲慢、信義にもとる行為」 自民党の発言に?木国対委員長が抗議』という表題の民主党公式サイトの記事で以下のように弁明しています。

 会見には衆院厚生労働委員会筆頭理事の山井和則議員も同席、本来水、金曜日が定例日である同委員会の審議に関して、与党側からの「予防接種法の一部を改正する法律案(予防接種改正法案)をどうしても19日に採決してほしい」という強い要請があっため、これに応え予備日である火曜日の法案審議を行ったものであり、採決前には当然党内手続きが必要であったと経緯を説明。通常1日に採決する法案は1本であるところ、予防接種法改正案のみならず「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための試作の総合的な推進に関する法律案」(再生医療推進法案)とあわせて2本採決したとも述べ、「筆頭間協議、理事会で全政党合意のもと、法案の採決は元々5時過ぎとの段取りになっていた。急に止めたわけではない」「理事会合意したことに対し野党を批判するのは感覚がおかしい。正常な委員会運営はできないのではないかと思う」と与党の姿勢を批判した。

 つまり、「今回の問題は、与党の要求に応じて迅速な審議に協力したために、民主党の党内手続きが間に合わなくなってしまって起きた事態である。審議に協力したことに関し、与党から感謝されこそすれ、非難される筋合いはない」というように思っているというわけです。

■「日切れ法案」の審議はタイトだが…

 民主党の言い分には一理あります。この予防接種改正法案は、「日切れ法案」です。「日切れ法案」として扱われる法案は、年度末、3月末日までに処理しなければならないので、審議日程は非常にタイトになります。衆参で100を超える議席を持つ政党が自民党と民主党以外にないなかで、「他の党が手続きを終えたのに、民主党が終えていないのは怠慢だ!」と、単純に言うわけにはいかないと思います。

 とはいえ、問題がまったくないわけではありません。「日切れ法案」として扱われるためには、与野党で合意している必要があります。逆に言えば、与野党で年度末までに処理しようと決めたからこそ、「日切れ法案」として扱われているのです。すなわち、「日切れ法案」として3月下旬に審議されているからには、それまでに党内手続きを完了させることを承知していてしかるべきであったと言えるかもしれません。

 ましてや、委員会採決の段階では民主党を含めた全会一致で「原案の通り可決すべし」としているわけで、党内手続きの何に手間取っていたのだろうかと不思議に思います。そして、手間取るのなら、採決事態を先延ばしするよう理事会で要求すべきだったと思われても仕方がないところであります。

■「話し合い」の困難さ

 しかし、話し合いはロジックと規則だけで決まるわけではありません。厚生労働委員会の委員名簿を見ると、委員会の審議日程などを決める理事8名のうち野党理事は民主党と日本維新の会の代議士の2人のみです。民主党の山井代議士は野党筆頭理事ですが、野党は2人しかいないのです。しかも、同じ野党と言っても、維新の会は野党第一党の座を民主党から奪おうと虎視眈々と機会を伺っている政党で、決して味方ではありません。

 このような状況で、民主党の立場を堂々と主張して、委員会の審議日程を左右することができるでしょうか?私は、なかなか難しいのではないかと思います。

 確かに、衆議院予算委員会は同程度の理事の比率(9人中2人)であるなかで、野党筆頭理事の長妻代議士は自らの意思をガンガン通しています。そのためかどうかはわかりませんが、同委員会の与党筆頭理事は馳代議士から遠藤代議士に交代してます。しかし、大臣を務めた今までの活躍を考えると、長妻代議士は特別と考えるべきでしょう。他の人が長妻さんのようにできるかと言うと、そうではないと思うのです。

 「理事会の決定は全会一致で決まるから、自分が反対すれば決まらない。自分は死んでも反対するんだ。」というのは、言うのは簡単ですが、やるのは難しいです。時の政治的な難題を、気力と体力と弁舌だけで乗り切った、徳川慶喜のような例(四侯会議)は、本当に稀有な例ではないでしょうか。そこに、政治において意外な状況が起こってしまう要因があるのではないかと思います。