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2013年12月4日の本会議-記名投票要求と休憩動議


2013年に開かれた臨時国会(第185回国会)の最大のイベントは特定秘密保護法案の審議でした。土日を含んで50日程度という短い時間のなかで何が何でも法案を成立させたい与党と、時間切れで廃案か継続審議に持ち込もうとする野党、特に民主党との間で熾烈な争いが繰り広げられました。2013年12月4日の参議院本会議も、そのひとつです。

■経過

2013年12月4日。午後1時22分に参議院本会議が開かれました。以下、『参議院インターネット中継』の動画の経過時間で追っていきます。

  • 7分 開議
  • 10分 日程第一〜第三の条約承認を求める件、外交防衛委員長報告終了
  • 11分 採決 記名投票要求があったことを議長が告げ、記名投票になる
  • 12分 議員の点呼開始
  • 17分30秒〜18分50秒 ゆったり投票する議員が集中
  • 23分 賛成236、反対0で可決
  • 24分29秒 日程第四の法案について、政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員長が登壇し発言を始めたところで、議場から「議長」という呼び声
  • 24分52秒 石井準一議員が暫時休憩することの動議提出
  • 25分34秒 動議可決、本会議休憩

■採決の種類と記名投票の特徴

本会議での採決には、賛成の議員に起立を求める起立採決、演壇の投票箱に賛成の白票、反対の青票を議員一人一人が投票する記名投票などがあります。また、参議院のみ議席で賛成反対のボタンを押して投票する、押しボタン式投票というものがあります。

記名投票を求めるには、本会議に出席している議員の五分の一以上の要求が必要です。参議院の定数は242人です。

本会議に全員出席なら、五分の一以上、242÷5≒49人の要求があれば足ります。4日の日程第一から第三の採決では、57人の要求がありました。本会議の欠席者いれば、もっと少なくてもよいはずです。衆議院の定数は480人なので、本会議に全員出席なら96人の要求で記名投票になります。

参議院での民主党の議席は58議席ですので、民主党は単独で記名投票を要求できます。

しかし、衆議院の民主党の議席は56議席です。本会議で200人以上の欠席者が出ないかぎり、民主党単独では記名投票を要求することはできません。確実に記名投票にするためには、53議席を持つ日本維新の会の協力が不可欠です。

維新の協力が得られない場合は、維新以外のすべての野党会派と数名の無所属議員の協力を得なけれなりません。

実際、12月6日の衆議院本会議での安倍内閣不信任決議案採決において、民主党は維新の協力を得られませんでした。他の野党の協力も得られず、不信任決議案としては31年ぶりの起立採決となりました。

■記名投票の狙い

野党にとっての記名投票の目的は、採決に時間をかけることによる審議の引き伸ばしです。4日の投票では、12分ほどかかっています。おそらく、スムーズにいけばもっと短くなるでしょうが、動画を見るとわかる通り、ゆったり丁寧に投票する議員がいるので10分以上かかるのです。

この本会議で予定されていた議題は12件ありました。もし、そのすべての採決を記名投票で行ったらどうなったのでしょうか。いくつかの議題をまとめて採決することもあるので、だいたい9回採決の機会があります。9回×12分=108分くらい採決だけでかかる計算になります。本会議が終わるのは、午後3時30分〜4時くらいになります。

4日の午後には国家安全保障に関する特別委員会の地方公聴会が予定されていました。地方公聴会の会場は埼玉県さいたま市大宮です。

この地方公聴会は特定秘密保護法案の採決の前提となるものです。採決の前提になるというのは、地方公聴会が終わるまでは、採決までいけないということです。

地方公聴会は委員会審査のひとつで、本会議中に平行して委員会を開くことは原則できません。よって、本会議が終わるまで地方公聴会はできないことになります。

民主党の記名投票要求は、この地方公聴会を翌日に先送りすることを狙ったものだとされています。

すべての議案を記名投票し、午後4時に本会議が終わるとします。それから大宮に行ったとすると、午後5時30分には地方公聴会を開けるように思います(身支度して東京駅に着くまでに30分。東京駅から大宮駅まで新幹線で25分。地方公聴会を始める準備に30分程度かかる想定)。

具体的に何時くらいがデッドラインだったのかはよくわかりません。新幹線の座席や会場、地方公聴会で意見を述べる公述人の都合などを考えると、午後5時30分から地方公聴会を開くのは無理なのかもしれません。

■与党によるタスクの組み替え

なんとしても4日中に地方公聴会を開きたい与党はどうしたでしょうか。与党は採決前に、しかも委員長の報告中に本会議の休憩動議を提出します。『残りの議案の採決』→『本会議散会』→『地方公聴会』という順番から、『本会議休憩』→『地方公聴会』→『本会議再開』→『残りの議案の採決』という順番にタスクを組み替えたわけです。

先に公聴会を済ませてしまえば、本会議で多少時間がかかっても特定秘密保護法案の審議が遅れることはありません。民主党の記名投票要求による議事妨害は不発に終わってしまったのです。

参考:参議院規則
第137条 議長は、表決を採ろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、その起立者の多少を認定して、その可否の結果を宣告する。
議長が起立者の多少を認定し難いとき、又は議長の宣告に対し出席議員の五分の一以上から異議を申し立てたときは、議長は、記名投票又は押しボタン式投票により表決を採らなければならない。
第138条 議長は、必要と認めたときは、記名投票によつて、表決を採ることができる。出席議員の五分の一以上の要求があるときは、議長は、記名投票により、表決を採らなければならない。
第139条 記名投票を行う場合には、問題を可とする議員はその氏名を記した白色票を、問題を否とする議員はその氏名を記した青色票を、投票する。
第140条 記名投票を行うときは、議場の入口を閉鎖する。


野党のTPP特別委設置要求について考える


 2013年10月7日、菅官房長官は衆参両院の議院運営委員会理事会に出席し、10月15日の国会召集を伝えました。

 臨時国会召集に向けた与野党の話し合いでは、与党側が海賊対処・テロ防止特別委員会の廃止と内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を審議する特別委員会設置を求めた一方、野党は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に関する特別委員会の設置を主張し、結論はでませんでした。

 野党のTPPに関する特別委員会の設置という主張は、国会戦略上なかなか興味深いです。TPPは多くの閣僚が関わっているため、その分、多くの閣僚の出席要求が出され、閣僚を国会に拘束しやすくなります。閣僚は1人なので、特別委員会に出席することになれば、その分他の委員会に出席することができなくなります。すると、他の委員会が開けなくなり、国会審議全体が停滞する可能性もあります。しかも、特別委員会は連日開会も可能なため、拘束の度合いは高いと言えます。

 もちろん、TPPの特別委員会で審議する法案や条約がないのであれば、連日開会しないことや、まったく開かないことで閣僚の拘束を防ぐことはできます。ただ、特別委員会を開かないこと自体が、政府・与党がTPPに関して国会を無視しているという印象を世論に与え、野党に政権批判の口実を与えてしまいます。

 それだけではなく、TPPの特別委員会設置を拒否するだけでも、「政府・与党はTPPに関して国会で審議する気がない」という宣伝をするには十分です。

 こういうのは定石なんでしょうか。かなりいい手だと思います。


特別委員会設置数には上限がある?


■衆議院の特別委員会が廃止に

 2013年10月6日付読売新聞朝刊に「テロ特廃止へ」という小さい記事がありました。来週15日に召集予定の臨時国会で、与党は衆議院の海賊対処・テロ防止特別委員会を廃止する方針を決めたという内容です。これは、臨時国会で内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を審議する特別委員会設置するための措置です。

■特別委員会の特徴

 そもそも特別委員会とはなんでしょうか。予算委員会や内閣委員会は、どの国会(通常国会、臨時国会)でも常に置かれている常任委員会です。この常任委員会とは別に、それぞれの国会ごとに設置されるのが、特別委員会です。特別委員会は、扱う内容も個別具体的な案件に特化していて、その案件を審議するために置かれます。

 特別委員会の特徴はいくつかあります。ひとつは、定例日がないことです。常任委員会では委員会を開く定例日が決まっていて、会期末や年度末など余程のことがないと定例日以外の日に委員会を開くことは難しい(野党が同意しない)です。でも、特別委員会なら定例日を設けずに連日審議をすることも可能です。

 この特徴を使って、内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を審議する特別委員会を設置し、審議をスピードアップして国会の日程に余裕をもたせ、それぞれの法案を確実に成立させよう、というのが政府・与党の狙いです。

 もうひとつの特徴は、設置の自由度が高いことです。常任委員会の名称と数は国会法41条に定められていて、国会法を改正しなければ増やしたり改名したりできません。ですが、特別委員会については特に法律に定めがないので、自由にいくらでも設置することができます。

■実は制限がある

 特別委員会は設置数に制限がない、はずだったのですが、現状では制限があるようです。

 冒頭にあげた読売の記事には以下のような記述がありました。

国会の慣例で、衆院特別委の数は最大10とされ、新設には既存の特別委を廃止しなくてはならない

 どういう経緯があってこの慣例ができたのかわかりませんが、実際の運用上は衆議院の特別委員会は10までしか作れないことになっているようです。内閣安全保障会議設置関連法案や特定秘密保護法案を成立させるためには、テロ特を廃止して新しい特別委員会を作らなければならないわけです。ちなみに、特別委員会の廃止には手続きはいりません。すでに前の臨時国会の閉会と同時にすべての特別委員会が消滅しているからです。

 法律や規則だけ読んでいてもこういう慣例というものはわからないので、記事にしてもらえると大変ありがたいです。ただ、欲を言えば、どういう経緯でそういう慣例ができたのか、とか、なにか与野党の申し合わせ事項があるのか、とかそういうことも書いてくれると調べる手間がはぶけていいのですけどね。

 地道に調べるしかなさそうです。

■追記(2013年10月18日現在)

 2013年10月17日、衆議院本会議は、新しい特別委員会である「国家安全保障に関する特別委員会」の設置を自民・公明・民主・維新・みんな各党などの賛成多数で議決しました。既存の特別委員会の廃止はしなかったため、衆議院の特別委員会の数は11になりました。10月17日付読売新聞朝刊によると、衆議院の委員長ポストの配分をめぐる各党協議が難航したため、与党は、検討していたテロ特の廃止を見送ったそうです。

 どうも、衆議院の特別委員会の最大設置数を10とする慣例は、野党がこの慣例を理由にして新しい特別委員会の設置を拒むほど強いものではなかったようです。

    変更履歴

  • 2013年10月18日:タイトル末尾に「?」を追加
  • 2013年10月18日:「■追記」以下を追加

国会運営の効率化に必要な視点


■国会運営改革について

 2013年9月8日の日経新聞朝刊に与党の国会運営改革案についての記事が掲載されていました。

 具体的な内容は以下の5つです。

  • 予算委員会の審議日程をあらかじめ設定
  • 首相、閣僚の国会答弁の負担軽減
  • 国会同意人事の対象削減
  • 首相の所信表明、施政方針演説の衆参一本化
  • 党首討論の開催頻度を増やす
  • 委員長手当の見直し(減額)

■審議時間はコストか?

 最初の4つは、政府にとっての重荷になっている国会審議というコストの削減を目的としたものと言えます。審議をコストとして捉え、それを削減して国会運営を効率化するための改革ということでしょうか。審議というコストをかけることこそが大事だと考えている人は、なかなか賛成しづらいでしょうね。

 とはいえ、ただただ審議時間、というより法案の提出から採決までの時間をかければいいというものではありません。野党が本会議での法案の趣旨説明を求めて、委員会付託を遅らせる「吊るし」によって、なかなか実質審議入りさせないことで採決までの時間を引き延ばしているケースを目にすることがあります。こういうのは、実質的な審議がされないまま、ただ時間をかけるだけでなんの意味もありません。

 例えば、今年の通常国会の選挙制度改革法案は、参議院での委員会付託を延ばしに延ばした挙句、参議院での審議はほとんどと言っていいほど行われずに、衆議院で再可決されました。参議院に法案を送付する意味があったのでしょうか。

 そういう無駄を省いて審議時間をしっかり確保するという目的もあるならば、国会運営改革に賛成です。単に審議時間を短くする、大臣の答弁の回数を減らすだけでは意味がありません。現状でも短いことがあるからです。

■効率化には目的が必要

 そもそも効率化という言葉は、その時その時によって意味が変わってしまう言葉だと思います。時代によって効率化する範囲や、効率化が許される深さが異なるのではないでしょうか。環境保護に対する意識があまりない時代や地域なら、環境対策にかけるコストを切り捨てるのが利益追求の面から効率的であるようにです。

 単に効率化するというのではなく、「こういう目的のために、こういう効率化をする」ということをハッキリさせる必要があります。そうしなければ、効率化の方法についてうまく話しあうことができませんし、効率化を実施した後の検証も難しくなります。

 効率化はいいことです。ただし、それは目的達成に必要なコストを減らすからいいことなのです。

■実質的な審議の確保を目的にするべき

 国会は、それぞれの意見の代表者が出てきて、討論した後に多数決で決める点に意義があります。討論することが、国会の目的のひとつなのです。

 討論、つまり実質的な審議が行われないのならば、国会議員はいらないかもしれません。議員のみなさんには、国会運営改革を話しあう際に、「実質的な審議を確保する」という視点を常に持っていてほしいですね。


上程と緊急上程


■上程とは

上程とは、議案を会議にかけることです。国会で上程という場合、法案や決議案などが本会議で議題となることを指します。例えば、「xxxx法案上程阻止」というスローガンがデモで見られたりしますが、これは反対するxxxx法案が本会議にかけさせないようにしようということです。

現在(2013年8月現在)のように、国会が衆参両院で与党が過半数の議席を保有している場合は、本会議にかけられた議題は数から言って必ず成立するため、「上程阻止」して法案を葬ろうということになるわけですね。

■緊急上程とは

竹中治堅監修『議会用語事典』(学陽書房)によると、「委員会審査を終えた議案は、翌日以降で直近の定例日の本会議の日程とされる例である。」とされています。例えば、衆議院の場合、本会議の定例日は火曜日、水曜日、金曜日です。金曜日に委員会審査を終えた議案は、翌週の火曜日の本会議で議題になります。

では、委員会で採決された当日に本会議で採決したいときはどうすればいいのでしょうか。本会議で、議事日程に追加する議決を行えば、委員会採決当日の本会議上程が可能になります。これを「緊急上程」というわけです。

この「緊急上程」という言葉、新聞などで頻繁に使われるわりに解説されているところはあまりみかけません。ずっと調べていたところ、国会図書館の議会官庁資料室においてあった『議会用語事典』で初めて見出しになっていることを発見し、感動しました。


憲法違反かどうかわからない・大臣出席と憲法違反3(終)


■結論:憲法違反になるかどうかよくわからない

 いろいろ調べられるだけ調べてみましたが、参議院予算委員会に安倍内閣の大臣が出席しなかったことが憲法違反になるかどうかはよくわかりません。

 国会法に定められている手続を省略している可能性があるので、憲法63条にある大臣の国会出席義務が発生していないと言えそうです。

第63条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

 しかし、先例によれば手続の省略は常態化しているため、成規の手続をとっていないことによって大臣の出席義務を無効にすることができるのかどうか、よくわかりません。

 仮に、「成規の手続をとらないのが慣例になっているから、大臣の出席義務はあった」という立場にたてば、安倍内閣の対応は憲法違反です。それに対抗する主張が、「内閣総務官室の文書」です。(「」付きなのは、本当に内閣総務官室の文書なのかわからないからです。なにしろ、作成者の署名も日付も入っていなかったそうですから。)

 閣僚などの国会への出席の取扱いについては、国会運営に関する事柄であることから、政府としては、従来から、与野党で協議し合意されたところに従って対応しているところです。今般の御要求に係る件については、与野党の協議で合意されたものでなく、さらに、参院議長に対する不信任決議案も提出され、その処理もなされていない状況にあることから、政府は出席しないことといたします。
(第183回国会 予算委員会 第20号 平成二十五年六月二十五日(火曜日))

 この文書が言わんとしているのは、大臣の出席要求は与野党合意のものに対して応じるのが慣例になっているので、与党不在のまま行われた出席要求に応じる必要はないというものです。

 大臣の出席要求に関する慣例が認められるなら、「内閣総務官室」が提示した慣例も認められてもよいということになってしまいます。

 また、不信任案を提出された議長、つまり「事故ある議長」を「経由」することができるのかどうかよくわかりません。副議長や、議長代理を「経由」することができるかもわかりません。

 まだまだ、わからないことが多いので、調べがいがあります。


参議院の先例からわかること・大臣出席と憲法違反2


2013年9月9日追記:「議長を経由して」の解釈についてTwitterで教えていただいたので、記事に追加しました。

■通常国会会期末の参議院予算委員会の大臣出席要求は成規の手続でない可能性が高い

 参議院の先例によれば、昭和31年3月9日以降、参議院で委員会が議長を経由して大臣の出席要求をしたことはないという事実がわかります。

 先の通常国会では、石井予算委員長が文書で大臣の出席要求を求めたそうですが、それが成規の手続によるものかはわかりません。先例によるならば、わざわざ議長を経由していない可能性があります。

 また、先例では、成規の手続で議長を経由する前に委員会で大臣の出席要求を議決しています。先の参議院予算委員会では、大臣欠席前の最後の予算委員会だった5月15日から、実際に欠席が起こった6月24日までに大臣の出席要求は議決されていません。成規の手続に委員会の出席要求決議が必要だとすると、今回の安倍内閣に対する大臣の出席要求は、成規の手続となる要件を満たさないことになります。

■「議長を経由して」は本当に「経由」するだけ

 ところで、「議長を経由して」という言葉が何度も出ていますが、これもいまいち意味がわかりませんでした。ただ、たまたま読んでいた本にヒントになりそうなことが書いてありました。以下がその本です。

 谷福丸元衆議院事務総長の言葉に次のようなものがありました。引用中の「あれ」とか「それ」は細川元首相の証人喚問に関するものです。

ところが、あれは議長の決裁じゃないんだよね、議長を経由して送ればいいことになっている。
(赤坂幸一・中澤俊輔・牧原出編著『議会政治と55年体制 ―衆議院事務総長の回想【谷福丸オーラルヒストリー】』(信山社)P.284)

それで、それは委員長がちゃんと召喚状を議長に提出してくるわけ。あれは、法規上は議長が判断することにはなっていないんだよ。議長を経由して送ることになっているんだ。経由するだけなんだ。
(前掲書 P.298)

 この言葉から考えられることは、「議長を経由して」というものは、議長が判断するものではない、ということです。委員会から上がってきたものを議長が承認することで効力が発生するわけではないということです。

 ただし、谷前衆議院事務総長は衆議院の立場で話しているため、微妙に手続の異なる参議院でそのまま適用できるかどうかはわかりません。

■「議長を経由して」について(2013年9月9日追記)

 Twitterで、@KoichiAkasaka先生から「議長を経由して」の解釈について教えていただきました。ご指摘によれば、「議長を経由して」とは、大臣出席を要求する文書や、証人喚問の召喚状などを外部に出す際に、議院の代表である議長の手を経る必要があるということだそうです。とてもスッキリとして、納得がいく解釈です。

 議院と他の機関という視点でみることができなかったので、1人では絶対に辿りつけなかった解釈だと思います。@KoichiAkasaka先生、ありがとうございました。


大臣に対する出席要求の先例<参議院>・大臣出席と憲法違反1


■参議院委員会先例録によると

 先の通常国会で問題になり、参議院で安倍首相に対する問責決議が可決される原因にもなった、参議院予算委員会の出席要求を安倍内閣が拒否した件について調べています。

 先日、国会図書館に行き、議会官庁資料室で『参議院委員会先例録 平成10年版』を閲覧しました。委員会先例録の第七章に大臣の出席要求に関する記述がありました。

第七章 国務大臣及び政府委員等

二四八 国務大臣及び政府委員の出席要求は、委員長から直接これを行うのを例とする

国務大臣及び政府委員の出席要求は、成規の手続を省略して、委員長から直接これを行うのを例とするが、成規の手続により、議長を経由してこれを行った次のような例もある。

第十回国会電気通信委員会(昭和二十六年五月三十一日)において、電話設備負担臨時措置法案の審査に当たり、大蔵大臣池田勇人君の出席を求めることを議決し、議長を経由して文書をもって出席要求を行った。
その他同例がある。
(『参議院委員会先例録 平成10年版』 P.223)

 また、関連資料として『参議院委員会先例諸表 平成22年版』の表二十に「議長を経由した国務大臣等出席要求一覧表」があります。

 同表によれば、昭和31年(1956年)3月9日までに、成規の手続により議長を経由して国務大臣の出席要求を行った例は22例ありました。それ以降はなかったようです。表には出席要求に大臣が応じたかどうかまで書かれていました。必ずしもすべての要求に応じているわけではないようです。

 委員会先例録にある「成規」の意味がわからなかったので、調べてみます。成規とは「成文になった規則」のことだそうです。今回引用した箇所の「成規の手続」とは国会法71条のことを指すと思われます。

第七十一条  委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。

 つまり、「成規の手続を省略して」というのは、「国会法71条の手続きを省略して」という意味になります。


与党で135議席の意味するものとは?


■自公で「ねじれ」解消

 2013年7月23日現在。7月21日に第23回参議院議員選挙の投票が行われました。政権与党である、自民党・公明党は今回の選挙で改選議席の121議席のうち、76議席を獲得しました(自民65議席、公明11議席)。

 これで与党は非改選議席と合わせ135議席(/242議席)と、参議院の過半数を占めます。衆議院で与党が多数でありながら、参議院では野党が多数となる「ねじれ」国会は解消されました。

■135議席の意味

 与党の135議席はどのような意味をもつでしょうか。参議院の過半数であることはもちろんですが、国会運営で重要なポイントがもう一つあります。それは「安定多数」とされる129議席を超えているということです。

 「安定多数」とは、法案審議の中心となる常任委員会の、すべての委員長を与党会派から選出し、かつ、すべての委員会で委員長を含めた与党議員が半数を占めることができる議席数のことです。この状態であれば、参議院の運営を与党が自由にできます。

 例えば、先月までやっていた通常国会で、与党は「0増5減」の区割り法案の審議開始に大変苦労しました。これは、国会運営を左右する議院運営員会で与党が過半数に満たなかったためです。そのため、強行採決すらできずに、野党に翻弄され続けました。

 今回の選挙の結果、議院運営委員会も委員長を含めて与党が過半数となる見込みです。今まで以上に、法案審議は与党の思い通りに進むことになります。

■野党の対抗手段

 とは言え、野党に抵抗の術がないわけではありません。いくら与党が過半数であるといっても、委員会運営は与野党理事の全会一致が原則です。野党としっかりと話しあわなければ、原則どおりの国会運営はできないのです。

 もし、与党が自分勝手な国会運営をしたら、審議拒否などの議事妨害で対抗することになるでしょう。これは、審議時間を引き伸ばし、法案を審議未了で廃案に追い込んでいくという昔ながらの手法です。参議院の多数をもって政府・与党案を否決するという確実さはありませんが、まだまだ有効な手段です。

 ポストねじれ国会の政治で、与党がどのように国会運営をし、野党がどのような国会戦略を立てるのか。これから楽しみです。


「内閣総務官室」の文書から考えたこと


■「内閣総務官室」の文書

 2013年6月25日の参議院予算委員会の会議録では、予算委員長だけでなく各会派の議員からも政府の欠席を批判する発言がありました。なかでも、小野次郎議員の発言は面白いです。

 冒頭、政府側の国会との窓口であります内閣総務官室から日付も作成者の署名もない文書が、今朝、国会に届きました。読み上げます。
 六月二十四日付け、国務大臣等の出席御要求について。閣僚などの国会への出席の取扱いについては、国会運営に関する事柄であることから、政府としては、従来から、与野党で協議し合意されたところに従って対応しているところです。今般の御要求に係る件については、与野党の協議で合意されたものでなく、さらに、参院議長に対する不信任決議案も提出され、その処理もなされていない状況にあることから、政府は出席しないことといたします。
(第183回国会 予算委員会 第20号 平成二十五年六月二十五日(火曜日))

 この「内閣総務官室」の文書によれば、政府は「与野党合意」で出席要求されたものを正式な出席要求と考えているようです。だから、今回の野党単独の出席要求に応じる必要はないということになるのです。

■与党と内閣

 確かに、この予算委員会は与野党合意のうえでの開催ではなく、委員長の職権によって開催されたものです。正常な国会は与野党合意の上で議事運営が行われることが原則なので、「内閣総務官室」の文書には一理あります。

 しかし、それを認めてしまうと、与党が反対したら大臣の出席を要求することができなくなってしまいます。これでは、国会による行政の監視が十分にできません。

 もちろん、内閣が与党の意向を無視して出席することは可能でしょう。ですが、日本の仕組みでは、内閣は与党の支持なしには存在できません。与党は内閣の生殺与奪の権利を持っているのです。

 ここに、与党内の少数勢力からなる内閣があったとしましょう。その内閣が与党の反対をおして国会に出席した時、与党による倒閣運動が激化するのは必至です。

 これは、内閣が自由意志で国会に出席する形式であるから問題になるのです。憲法の要請として出席する義務があることがはっきりすれば、与党からとやかくいわれる筋合いはないことになります。

 無用な混乱をうまないためにも、どういうときに大臣の出席義務が発生するのかハッキリさせる必要があると思います。