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なぜ立憲民主党は衆参両院で最大野党なのに、参議院で国民民主党と野党第一会派争いをしなければならないのか


■立憲民主党、参議院の野党第一会派を奪還

2019年3月12日現在。先週3月7日に参議院の野党第一会派が国民民主党を中心とする会派から立憲民主党を中心とする会派に変わりました。今年の1月に国民民主党を離党して立憲民主党に移る意向を示していた藤田議員を、国民民主党が除籍処分して会派離脱を認めたためです。

野党第一会派になるかどうかというのは極めて重要です。審議のスケジュールなどなどの交渉では、野党第一会派が野党を代表して与党と交渉するからです。

■衆参両院で数えると、大差で立憲民主党が野党第一党だが……

藤田議員の会派離脱が決まったことで、衆議院と参議院の両方で立憲民主党を中心とする会派が野党第一会派になりました。とはいえ、参議院での立憲会派と国民会派の議員数は28対27で1名差です。参議院では野党第一会派と第二会派の差はあまりないのですが、衆議院では68対39と大差をつけています。衆参両院で合わせれば、元から立憲民主党は野党第一党と言えます。

「衆参合わせて元から立憲民主党の議員が野党議員で一番多いのだったら、参議院の議員数とか関係なく立憲民主党が与党と交渉すればいいのではないか」と思われるかもしれません。しかし、そうはいきません。立憲民主党が「衆参通算では野党第一会派だから、参議院の第一会派もよこせ」と言わないのは、衆議院と参議院が独立しているという建前があるためです。

■衆議院と参議院は対等で独立している

衆議院と参議院は、いくつかの規定で衆議院の議決が参議院に優越することはありますが、原則としてそれぞれ独立した存在です。衆議院と参議院の間に上下関係はありません。国会の中に衆議院というセクションと参議院というセクションがあるのではなく、衆議院という国会と参議院という国会があるのです。国会が2つあるということ、これが二院制です。余談ですが、日本の立法・行政・司法のそれぞれのトップである「三権の長」は4人います。行政は内閣総理大臣、司法は最高裁判所長官、そして立法は衆議院議長と参議院議長、この4人です。

二院制の意義のひとつは、それぞれ違う方法で選出された議員が会議を行って物事を決めることです。参議院にとって、衆議院の野党第一会派がどこだろうが知ったこっちゃないのです。参議院のことは参議院で決めるという自律性が大事なので、衆議院の議員数を根拠に、参議院の野党第一会派が当然立憲民主党の会派になるという主張はできません。


2018年度2次補正予算成立


■2次補正成立

2019年2月7日現在。本日、参議院予算委員会で2018年度2次補正予算案が可決、ただちに参議院本会議に緊急上程され可決、成立しました。国会のインターネット審議中継の動画の時間ベースで計算すると、予算委員会での審議時間は衆参合わせて28時間程度でした。

■2019年度予算審議開始

本日、衆議院予算委員会理事懇談会が開かれ、明日8日から2019年度予算案(本予算、当初予算)の審議を始めることで与野党が合意しました。8日、週が変わって12日、13日までの審議が合意できています。

合意された審議で実施するのが、総理大臣とすべての閣僚が出席する基本的質疑です。基本的質疑は、本予算の場合、例年3日行われています。今年も例年通りの日程ということになります。

さて、憲法60条の規定で予算案の年度内成立が確実になる期限まで、残る平日はあと15日です。現在の予算審議の形式になってから最速で予算案が衆議院を通過した日数が14日ですので、最速にせまる勢いで審議をしなければ予算案の年度内成立は確実になりません。

ここからが本番です。

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野党第一会派を巡る争いでくじ引きに


■質問順をくじ引きで決める

2019年1月30日現在。立憲民主党と国民民主党による参議院の野党第一会派を巡る争いは、まだ決着がついていません。参議院で昨日行われた決算質疑では、立憲民主党と国民民主党のどちらが最初に質問するかで揉めて、くじ引きで順番を決めたと報道されています。さらに、明日1月31日の参議院の代表質問の質疑順序も折り合いがつかず、くじ引きで決めたそうです。ちなみに、どちらも国民民主党が最初に質疑することになったそうです。

この争いは、参議院での立憲民主党の会派と国民民主党の会派の所属議員数が27名・27名と同率一位になっていることで起こっています。実際は、国民民主党の藤田参議院議員が離党し立憲民主党に入党する意向を示しているため、立憲民主党28名、国民民主党26名で立憲民主党の会派が参議院の野党第一会派であるように思います。

しかし、国民民主党は藤田さんの会派離脱をみとめていないため、数字の上では未だに国民民主党の会派が27名のままです。会派の離脱は離脱する会派が議長に届け出ないとできない慣習になっているためです。

こういう事情があるので、立憲民主党は「実質的に立憲民主党が参議院第一会派だ」と主張しているようです。しかし、今回質疑順のくじ引きに応じたことで、国民民主党の榛葉参院幹事長は「立憲民主党はくじ引きに応じたのだから、国民民主党の会派と立憲民主党の会派の所属議員数が同数であることを認めたことになる。今後もくじ引きで決めることになる」と強気な主張をしたと読売新聞や日経新聞が本日の朝刊に記事にしています。

■国会での野党同士の対立は、選挙にも影響

参議院の立憲民主党は、この榛葉さんに相当やられているらしいです。榛葉さんは今年の夏の参議院選挙で改選します。榛葉さんの選挙区は2名が当選する2人区です。1月22日付読売新聞朝刊で、立憲民主党は榛葉さんの選挙区に候補者を擁立し「落選に追い込む」と息巻いていると報じられています。国会での野党同士の対立が選挙に影響を与えています。選挙は政治生命につながるため、冗談ではすみません。野党同士の対立とはいえ、ややこしそうです。

ちなみに、参議院の野党第一会派が決まらない問題の渦中の人である藤田さんも今年改選で、選挙区は2人区です。1月22日の読売の記事では、立憲民主党は藤田さんの選挙区でも候補者を立てようとしていると書かれています。この件は、藤田さんを立憲民主党に引き抜く交渉材料になっていたのでしょうか。


藤田参院議員の国民民主党会派離脱騒動


■参議院の野党第一会派争い

2019年1月27日現在。参議院の野党第一会派争いは決着がついていません。

参議院の野党会派は立憲民主党を中心とする会派が27人、国民民主党を中心とする会派が27人と同率一位になっています。しかし、国民民主党の参議院議員である藤田議員が離党し、立憲民主党に入党する意向を示しています。藤田議員の意向どおりに進めば、立憲民主党の会派が28人、国民民主党の会派が26人となり立憲民主党が前回の臨時国会に続いて衆参で野党第一会派として与党と交渉することになります。

国民民主党もぼんやりしているわけにはいきません。先週せっかく自由党と統一会派を組んで参議院の野党第一会派に返り咲いたのに、通常国会召集前に立憲民主党に第一会派の座を奪われてしまっては悲しすぎます。

国民民主党は、藤田議員の離党と会派離脱を認めていないようです。議会用語事典によれば、議員の会派の退会届は、所属していた会派の代表から議長に対して文書で届ける慣習になっているので、国民民主党が藤田議員の退会届を参議院議長に出さない限り、藤田議員の退会は認められません。


少数会派の不利な点


■会派の所属議員数で委員になれる委員会が変わる

国会では、会派の所属議員数で活動の幅が変わってきます。

例えば、参議院では10人以上の所属議員がいる会派を交渉会派と呼び、所属議員を議院運営委員会の委員にすることができます。

議院運営委員会というのは議院の運営について話し合う委員会です。本会議の議事について話し合うことが多いです。

本会議の議事について話し合うことができるというのは、それなりに重要です。たいていの重要な法案には委員会で審議する前に本会議で説明することを求める「本会議趣旨説明要求」というものが出されています。「本会議趣旨説明要求」が出された法案は、本会議で趣旨説明するか、趣旨説明要求が取り下げられるか、趣旨説明要求を否決しない限り委員会で審議することができません。

この本会議趣旨説明要求について審議するのが議院運営委員会であるため、議院運営委員会の委員になることで法案審議のスタートに関わることができます。

逆に言えば、10人以上の所属議員がいる会派でないと、議院運営委員会に議決に加わることすらできないのです。

参考:竹中治堅監修『議会用語事典』(学陽書房)


会派に所属することと、政党に所属することの違い


■ 「無所属の会」の岡田代表ら9名が立憲民主党の会派に加わる

2019年1月9日の日経新聞朝刊に、衆議院の「無所属の会」の岡田代表ら9名が立憲民主党の会派に加わったという記事が出ていました。一方、同じ「無所属の会」の野田前総理大臣ら数名は立憲民主党の会派への合流を見送りました。

無所属の会は、岡田代表や安住元財務大臣、野田前総理大臣ら民進党のベテラン議員が結成した会派です。政権運営をしていた旧民主党を源流とする民進党は、2017年の衆議院総選挙からなんやかんやあって立憲民主党と国民民主党に分裂しました。分裂の過程で、無所属のまま衆院選を戦ったのが、無所属の会の面々です。

立憲民主党の会派に無所属の会のメンバーのほとんどが参加したということは、立憲民主党が旧民主党の後継政党になる第一歩になるかもしれません。

■会派とは

ちなみに、会派というのは国会で議員が活動するグループです。国会では、会派に所属する議員の数によって、どの委員会に所属できるか、委員会の運営に関与する委員長や理事などの役職につけるかどうかが決まります。会派の議員数は、国会運営に関わるうえで非常に重要なのです。岡田代表らが無所属の会を作ったのも、会派としてある程度まとまった人数がいないと国会運営に関与できないためです。

基本的には、政党と会派はイコールの存在になりますが、複数の政党がひとつの会派を組んだり、政党に所属していない議員が既存の政党と一緒に会派を組むことも可能です。無所属の会も、無所属議員が集まって会派を組んでいました。会派は自由なのです。

■会派に入ることは、政党に入ることではない

今回の場合は、無所属の会の岡田代表らは、特定の政党に所属しないまま、国会では立憲民主党とともに活動することになります。ざっくりいうと、国会では立憲民主党と一緒に活動するけど、選挙では一緒に活動しないということです。

たとえば、岡田代表は、国会では議員数の多い立憲民主党に割り当てられた質問時間を利用したり、立憲民主党に割り当てられた委員会の委員になって政府に質問することができます。会派が同じだからです。

しかし、選挙で岡田代表が苦戦したときに、立憲民主党の比例票で復活当選するようなことはできません。政党が違うからです。


ペーパーレスでも、あえて2時間待ち続ける


■国会のペーパーレス化

ーー内閣不信任案の印刷で時間を稼ぐなど、野党側の武器としてそうしたものを使うという指摘もあるが?

小泉:正直言って、野党が武器としてそれを有効だと見ているのであれば、まずはそれを武器のまま残せばいいと思ってます。印刷時間に2時間。それを持っているということが国会の戦略上必要だというのであれば、仮にペーパーレスにしても実際に2時間空ければいいじゃないかと。

『国会のペーパーレス化に批判 小泉進次郎氏「意味がわからない」 – ライブドアニュース』

自民党の小泉進次郎衆議院議員は、国会改革を訴えている政治家のひとりです。上の記事では小泉代議士の主張のうちペーパーレス化について取り上げています。

国会改革というと、わりと「省エネ」「効率化」につながる提言が多いです。国会を効率化するということは、今までよりも短い時間で審議できるようになるということです。つまり、与党に有利になる部分が多くなるため、野党が賛成しにくいです。

■ペーパーレスでも2時間待つ

ペーパーレスも与党が有利になる例として挙げられていて、その例が冒頭で引用した部分で言及されている「内閣不信任決議案の印刷で2時間必ず国会審議が止まる」というものです。

小泉代議士は、「ペーパーレスで2時間がなくなるのでは?」という批判を念頭に、「ペーパーレスになっても決議案提出から2時間審議を止める慣例にしたらいい」と言っています。これは、なかなかいい考え方ではないかと思います。

特に、「技術上は待つ必要がないのに、昔の名残で2時間待っている」という状態になるところが、新しい国会の伝統が作られるようでワクワクします。


内閣不信任決議案を提出させない方法


■来年の通常国会会期末に、内閣不信任決議案をとっておいた立憲民主党

今月10日に閉会した臨時国会では、会期末恒例となっている内閣不信任決議案の提出がありませんでした。立憲民主党は内閣不信任決議案の安売りはせず、参議院選挙前となる来年の通常国会の会期末に提出する予定だということです。ですが、会期末に内閣不信任決議案を確実に提出することができるでしょうか。

■国会冒頭の内閣「信任」決議案で、内閣「不」信任決議案を封じ込める技

内閣「信任」決議案というものがあります。「本院は、○○内閣を信任する。」という内容で、内閣「不」信任決議案とは反対の決議です。内閣「信任」決議案が「否」決された場合は、内閣「不」信任決議案が「可」決された場合と同じく、議決から10日以内に衆議院を解散しない限り内閣総辞職しなければなりません。内閣「信任」決議案と内閣「不」信任決議案は、言葉は反対ですが同一の効果を持った決議案と言えます。

もし、国会召集直後に内閣「信任」決議案が提出されたとしたらどうなるでしょう。両院のすべての審議は、内閣「信任」決議案が議決されるまで止まります。これも「不」信任決議案と同じです。そして、内閣「信任」決議案は、通常過半数を超える与党議員の賛成により可決されるでしょう。

そうすると、その会期中に内閣「不」信任決議案を審議することはできなくなります。会期中に同一の案件を再度審議・議決することがないという「一事不再議の原則」により、すでに可決された内閣「信任」決議案と表裏一体の性格を持つ内閣「不」信任決議案の審議を行えなくなるからです。

■絶対に封じ込められるわけではないし、やらないほうがよさそう

とはいえ、「一事不再議の原則」は絶対ではなく、会期中に事情が変わったときに同じような内容の議案を審議することは許されると考えられています。内閣「信任」決議案可決後に大スキャンダルが発覚したなどの場合は内閣「不」信任決議案を提出することはありうるでしょう。スキャンダルなどなくとも、事情変更を主張して会期末に野党が内閣「不」信任決議案を提出することは当然あると思います。

しかし、内閣「不」信任決議案を審議しづらくすることは確かです。もし、本当に通常国会冒頭で内閣「信任」決議案が提出されたらとても面白いです。でも、裏技のようなバグをついたような戦術なので、内閣と与党の支持率に悪い影響が出そうです。


通年国会という提案の狙いと現状


■会期制があることでどうなっているか

2018年12月20日のNHK NEWS WEBに次のような記事がありました。

国会改革をめぐって、国民民主党は、審議を充実させるため、会期を定めず1年中、国会を開くことができる、いわゆる「通年国会」への移行などを求める中間報告の案をまとめました。

『国民「国会は会期定めず通年国会に移行を」 | NHKニュース』

現在の国会は、事前に定めた期間だけ活動する会期制を採用しています。今年(2018年)は、1月22日に召集された通常国会が7月22日に閉会したあと、10月14日に臨時国会が召集されるまで国会は閉会していました。そして、12月10日に臨時国会が閉会したため、現在も国会は閉会しています。

■国会が閉会しているとどうなるか

国会が閉会しているというのはどういうことかというと、議案の審議や議決が行われないということです。議案の審議については、閉会中審査・継続審査の手続きをとれば閉会中も審議することができますが、本会議で議決することはできないようです。本会議で議案を議決できないということは、閉会中に法案が成立することはないということです。

会期制を採用することには、閉会中に国会が活動しないということの他に重大な効果があります。会期不継続の原則により、会期末を迎えると原則として審議未了の法案が廃案になることです。閉会中審査・継続審査を議決しない限り、法案提出からやり直しになってしまいます。

■通年国会という提案の狙い

会期制と会期不継続の原則があることで、野党は審議に協力しないことで政府与党の法案を成立させるペースを抑制するという戦術をとることができます。法案の中身でなく、審議の日程や採決の日程について争うことになるので、これを日程闘争と呼びます。

国民民主党の通年国会という提案は、会期を定めないことで日程闘争の効果を減らし、国会審議を充実させようというものです。


国会の総理依存


■総理の外遊にあわせたスケジュールだった?

一昨日12月10日に閉会した臨時国会では、終盤に外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の参議院での採決をめぐって徹夜国会になりました。

終盤国会の混乱の原因になった入管難民法改正案については、「総理大臣の外遊日程に合わせたため、与党の国会運営が強引になった」という批判があります。

一瞬なるほどと思うような意見です。しかし、この意見には「総理大臣がいなければ国会審議がまわらない」という、国会の総理依存とも言うべき前提があります。

■国会は政府の下請け機関ではない

国会は国会として独立して存在しており、政府の下請け機関ではありません。国会が要請した時に総理大臣が国会に出席する義務があるのは当然ですが、総理大臣がいなければ法案審議が進まないと言うのは本末転倒です。

総理大臣がいようがいまいが、国会は自身の役割を果たすことができるはずです。

Posted from するぷろ for iPhone.