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「0増5減」vs「18増23減」:4つのパターン


 2013年6月4日現在。参議院でもめている「0増5減」の区割り法案(以下政府案)と「18増23減」法案(みんな案)はそれぞれどうなるでしょうか。それぞれの法案を「審議する」「審議しない」という観点で整理すると、4つのパターンがありえます。

■パターン1:両方審議する

 与野党間でなんらかの話がつき、両方の法案を委員会に付託し、審議するパターンです。みんな案は野党の賛成で問題なく委員会に付託されるでしょう。しかし、与党は法案付託を決める参議院議院運営委員会で過半数を確保していないため、政府案が確実に委員会に付託される保証はありません。

■パターン2:みんな案のみ審議する

 たとえば、議員運営委員会委員長が解任され、民主党の議員に交代するパターンです。そして、5月29日に出されたみんな案を委員会に付託する動議を即決し、委員会にみんな案を付託します。政府案はぎりぎりまで放っておきます。

■パターン3:政府案のみ審議する

 なんらかの理由で、民主党が動議を撤回し、かつ、政府案を委員会に付託するパターンです。たとえば、「これ以上延ばしたら、参議院で一度も審議ないうちに政府案が衆議院で再可決されてしまい、参議院の権威に傷が付く(=参議院不要論につながる)」というところで、このパターンになる可能性があるでしょう。

■パターン4:両方審議しない

 このまま膠着状態で会期末までいってしまうパターンです。このパターンには、なんだかんだいって本会議は開くパターンと、議運が紛糾し続け本会議も開けないパターンがありえます。後者はもっともまずいパターンです。

■共通するポイント

 パターン4を除くと、議運に出された動議を何とかしなければなりません。動議を放置し続けるのは、可能性としては存在します。しかし、放置は委員長解任によって中断させることができます。野党が委員長解任を本気で目指した場合、与党はこの動議に向き合わざるを得ません。

 ただ、野党がそこまで強硬でない場合、話は別です。今朝(6月4日)の読売朝刊に「6月5日に参議院本会議が開かれる見込みである」という記事がありました。これは、パターン4の本会議を開くパターンにあたります。

 参議院の予定を知らせる参議院公報によると、本日議院運営委員会理事会がセットされているので、明日に参議院本会議が開かれる可能性は結構高いのではないかと思います。

 本会議が開かれる場合、(理事会ではなく)議院運営委員会もその直前に開かれるものと思われます。動議が出てから初の委員会となるので、どうなるか楽しみです。


「0増5減」vs「18増23減」:議院運営委員会での攻防


■議院運営委員会での攻防

 2013年6月1日現在。衆議院議員選挙の選挙区割に関する法律の取り扱いを巡って、参議院が熱いです。

 4月に衆議院で可決された、内閣提出の「0増5減」の区割り法案は、参議院で未だに審議されていません。そもそも、審議の前提となる法案の委員会への付託が行われていません。委員会への付託は法案審議のスタート地点なので、審議は全く行われていないと言っていいです。

 そんななか、5月29日の参議院議院運営委員会で、民主党はみんなの党が提出した「18増23減」法案の委員会付託を求める動議を提出しました。動議とは、その日の会議の予定にない案件を議題にすることです。

 当日の会議録では、以下のようになっています。

○委員長(岩城光英君) ただいまから議院運営委員会を開会いたします。
○小見山幸治君 私は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法の一部を改正する等の法律案については、本会議で趣旨説明を聴取することなく政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託することの動議を提出いたします。
○委員長(岩城光英君) 速記を止めてください。
   〔速記中止〕
○委員長(岩城光英君) 速記を起こしてください。
 ただいまの小見山君提出の動議の取扱いにつきましては、理事会で協議いたします。
(第183回国会 議院運営委員会 第28号 平成二十五年五月二十九日(水曜日)より)

 大抵の場合、動議が出されると委員長がただちに委員に動議を議題にすることに対する賛否を諮り、議事日程に加えられます。ところが、今回は理事会に協議するということで、結論を出すのを避けています。

 参考に、今回の逆パターン、衆議院議院運営委員会で4月に「0増5減」の区割り法案を強行付託したときの会議録を見てみましょう。

○佐田委員長 (前略)
 趣旨説明を聴取する議案の件について御協議願います。
 高木毅君。
○高木(毅)委員 動議を提出いたします。
 内閣提出、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案は、本会議において趣旨説明を聴取しないこととし、議長において政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されることを望みます。
○佐田委員長 佐々木憲昭君。
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 (前略)
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。
 (中略)
 以上で意見表明といたします。
○佐田委員長 それでは、高木毅君の動議に賛成の諸君の挙手を求めます。
    〔賛成者挙手〕
○佐田委員長 挙手多数。よって、そのように決定いたしました。
(第183回国会 議院運営委員会 第20号 平成二十五年四月十六日(火曜日)より)

 途中で共産党の意見表明があったものの、動議が提出されたらただちに採決しています。この動議の取り扱いの違いはどこからくるのでしょうか。

■議院運営委員会委員長ポストの重要性

 衆議院の議院運営委員長は与党自民党の議員です。「0増5減」の区割り法案の付託については与党の意向にそっているので、委員長はただちに動議を処理してしまいます。衆議院の議院運営委員会は与党議員で委員の過半数を占めているので、決をとればかならず与党の思い通りになるからです。

 参議院の議院運営委員長も与党議員です。しかし、「18増23減」は衆議院で可決した「0増5減」の区割り法案を否定するものであり、委員会に付託されることは与党にとってあまり都合のよいことではありません。参議院の議院運営委員会は野党が過半数を占めているので、採決すると必ず動議の通り付託されてしまいます。だから、委員長は動議の取り扱いを理事会で協議して時間を稼いだわけです。これも、委員長が議事進行をある程度左右できる権能、議事整理権のひとつなのだと思います。

 もし、参議院の議院運営委員長が野党議員だったら、後に引用した衆議院の例のようにただちに動議が処理され、賛成多数で動議の通り「18増23減」法案は付託されたでしょう。与党が議院運営委員長のポストをおさえていたことで、試合を延長戦に持ち込むことができたと言えます。

■議院運営委員会と本会議

 議院運営委員会は本会議の議事日程を決定する役割も担っているので、議院運営委員会ががたついていると国会全体がグラグラしてしまいます。現に、29日の動議を巡って参議院の議院運営委員会理事会は紛糾し、5月31日の議院運営委員会を開けなかったため、予定されていた本会議を開くことができませんでした。当然、その本会議で採決する予定だった案件はすべておあずけになってしまいます。

 6月26日の通常国会会期末まで、審議できる時間はあとわずかです。どんどん衆議院から送られてくる法案を処理するため、参議院はますます忙しくなってきます。そんなときに本会議を開けないというのでは困るので、与党としてはなるべく早くこの問題を解決したいところでしょう。

 どう決着がつくのか、少し楽しみです。


与党が「18増23減」審議入りに難色を示す理由


■脇参議院国会対策委員長のコメント

 2013年5月26日現在。前回『「0増5減」と「18増23減」』で、「与党がみんな案(18増23減)の審議入りに賛成しない理由がわからない」ということを書きました。その後、ニュースを検索すると自民党の脇参議院国会対策委員長の見方を紹介しているNHKの記事を見つけました。

自民党の脇参議院国会対策委員長は、記者会見で、「衆議院の小選挙区の区割りを見直す法案の審議に、何かほかの法案を持ち出す必要はないし、衆議院の制度に関することを参議院で先に議論することは常識的ではない」と述べ、みんなの党が提出した対案を参議院の特別委員会で審議することに否定的な考えを示しました。
(NHK NEWSWEB「区割り見直し法案 対案と共に審議が条件」5月21日 15時31分)

 私は、「衆議院の制度に関することを参議院で先に議論することは常識的ではない」という部分に注目しました。

■衆議院と参議院は「対等」

 衆議院と参議院は、衆議院の優越こそありますが、どちらか一方の院に従属するものではありません。衆議院は衆議院、参議院は参議院として独立しています。そのため、衆議院と参議院で議事進行のルールが違うものまであります。

 選挙とは、国会を構成する国会議員を選出するものですから、選挙制度の変更は両議院に重大な影響を及ぼします。ですから、参議院が衆議院という別の院の選挙制度を先に提案するのは、衆議院の権威にかかわると言えなくはありません。

■「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案の違い

 と、ここまで書いて違和感を覚えました。いま、参議院で放っておかれている「0増5減」の区割り法案は、内閣提出法案だからです。立法機関である国会に重大な影響をあたえるものを、行政機関である内閣が作成するのはちょっと筋違いな気がします。

 よく調べてみると、「0増5減」の区割り法案は、昨年成立した小選挙区を「0増5減」する法律に基づいて区割りを見直す法案でした。昨年成立した法律は、衆議院議員が提出しています。もちろん、衆議院で先に審議しています。

 各県の定数を定めるところまでは当事者である国会議員が中心となってやり(昨年の「0増5減」法)、実際に区割りを決めるのは専門的な知識を持っている衆議院議員選挙区画定審議会が行う(今審議している「0増5減」の区割り法案)という役割分担になっているようです。

 では、みんなの党の「18増23減」法案は何なのでしょうか。この「18増23減」法案は、昨年成立した「0増5減」法に対応するものです。ですから、具体的にどこからどこまでが新しい選挙区になるかというのは、別に法律で定める必要があります。

■「18増23減」法案の意味

 つまり、みんな案は昨年の11月時点まで時間を戻すことを主張しているのです。この法案が成立すると、昨年の「0増5減」法は廃止されます。同時に、「0増5減」法に基づいて出された衆議院議員選挙区画定審議会の区割り改定案勧告もなかったことになります。したがって、今審議している「0増5減」の区割り法案も意味がないものになります。

 今朝の日経朝刊では、与党は「18増23減」法案について、国会審議の前提となる委員会への付託自体みとめない方針だそうです。確かに、自分たちの進めてきたものを真っ向から否定する法案の審議を認めるのは、嫌なものかもしれません。そこが、与党が「18増23減」審議入りに難色を示す理由のひとつなのでしょう。


「0増5減」と「18増23減」


2013年5月25日追記:この記事では、みんなの党が提出した小選挙区を「18増23減」する法案を、具体的な区割り見直し法案と勘違いして書いています。「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案は同じレベルの法案ではありません。詳しくは『与党が「18増23減」審議入りに難色を示す理由』を御覧ください。

■区割り法案審議、進まず

 2013年5月22日現在。衆議院の小選挙区における1票の格差を是正するための区割り法案は、先月衆議院で可決して参議院に送られています。そろそろひと月たつのですが、参議院での審議はまだ始まっていません。

■18増23減の区割り法案

 今朝の日経朝刊によると、与野党はみんなの党が提出した「18増23減」の区割り法案の取り扱いでもめているようです。野党としてはみんな案を審議入りさせれば、24日に同時に政府案の「0増5減」も審議するという構えです。しかし、与党はみんな案の審議入りに難色を示しています。

 難色を示しているということは、みんな案の審議入りに与党が同意しないがために、政府案の審議入りが遅れる可能性があるということになるのでしょうか。

■与党にとって何が問題なのか

 なぜ、与党はみんな案の審議入りに賛成しないのでしょう。みんな案が参議院本会議までいって可決すれば、参議院の区割り法案は「18増23減」、衆議院の区割り法案は「0増5減」となって両院の議決が異なることになります。その時点で衆議院で「0増5減」法案の再可決が可能になるので、ただ時間がすぎるのを待つより良いと思うのですが。

 とはいえ、与党がみんな案の審議入りに賛成しない、少なくともすぐに賛成しないからにはそれなりの理由があるはずです。それがわからないのが、もどかしいです。


予算が否決されてから成立するまで


 2013年5月16日現在。昨日15日、2013年度予算が成立しました。2月に成立した2012年度補正予算は衆参両院で可決しているのですが、2013年度予算は参議院で否決されました。どのような手続きを踏んで予算が成立したのでしょうか。少し流れを追ってみます。

■参議院本会議で否決

 まず、参議院予算委員会で予算案が採決され、野党の反対多数で否決されます。次に、参議院本会議で予算委員長が報告したのち、採決され、野党の反対多数で否決されます。

■両院協議会開会

 参議院本会議で予算案が否決されたことで、すでに予算案を可決している衆議院の議決と不一致になってしまいました。衆議院は両院協議会を開くことを参議院に請求します。ここで、衆参の意見を調整するため、両院協議会が開かれます。協議委員は、衆参から10名ずつ選出されます。

■衆議院の議決が国会に議決となり、成立

 15日午後9時半ごろから両院協議会を開いたものの、衆参の意見は一致しませんでした。事ここに至って、憲法60条2項により、衆議院の議決が国会としての決定になり、2013年度予算が成立することになりました。衆議院の議事経過によると、議長が衆議院の議決が国会の議決となったことを告げ、本会議が散会になったのは、午後10時44分のことでした。

憲法60条2項
 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。


与党の審議拒否の狙い


■与党の審議拒否

 2013年5月9日現在。与党が昨日8日の予算委員会を審議拒否したのは、環境委員会委員長である川口順子議員に対する委員長解任決議案を、予算委員会の前に本会議で決議するよう求めたためです。この要求に野党は応じず、異例の与党による予算委員会審議拒否となりました。

 参議院で与党は過半数をもっておらず、解任決議案は可決される見込みでした。実際、解任決議案は可決されています。なぜ、与党は自党の委員長が直ちに解任されるようなこと要求したのでしょうか。それも、審議拒否してまでです。

■テレビ中継と審議拒否

 今朝の日経朝刊に、8日の参議院予算委員会を与党が審議拒否したことについての解説がありました。

 まず、与党としては解任決議案を成否にかかわらず早期に処理することで、川口委員長の問題を終わらせる狙いがあった、と日経は書いています。たしかに、会期の延長に制限がある今国会で、与党としてはこのような問題に長い時間を割くわけにはいきません。

 しかし、それと与党の審議拒否になんの関係があるのでしょうか。実は、審議拒否することで、野党が川口委員長の問題をテレビでアピールすることを防ぐ効果があるのです。日経によると、NHKの国会中継には次のような慣例があるそうです。

中継は「国会が不正常な状況なら実施しない」という慣例がある。

 「不正常な状況」とは、まさに審議拒否が行われている状況です。つまり、与党が審議拒否することで、テレビ中継を中止させられるわけです。

 そして、与党は解任決議案が本会議で採決されるまで、審議拒否を続ける構えを見せます。このままでは、夏の参議院選挙を前に、テレビでアピールする機会がどんどん減ってしまいます。結局野党が本日9日に参議院本会議で解任決議案を採決することに応じて、国会は正常化へ向かいました。同時に、5月15日にテレビ中継付きの参議院予算委員会の集中審議を行うことも約束されました。

 誰が絵を描いたのでしょうか、よく思いついたものです。


欠席と審議拒否


■与党議員の国会欠席

 2013年5月8日現在。昨日7日、参議院環境委員会委員長である、自民党の川口順子議員に対し委員長解任決議案が提出されています。この解任決議案は、川口委員長が参議院議院運営委員会から許可を得ていた日数を超えて中国に滞在したことで、国会に出席できず環境委員会が流会になってしまった責任を問うものです。

 また、同じく昨日7日、参議院法務委員会で一部の与党委員の出席がないことが問題となり、予定された審議日程を消化できなくなる事態が起きました。

 どちらも与党議員が国会に出席できなかったために起きた事態です。民主党を始めとする野党は、これらを「与党の国会軽視の現れである」として厳しく批判しています。

 ただ、国会に出席しないことが「国会軽視」だとすると、野党の審議拒否もまた、「国会軽視」につながりかねません。審議拒否の正当性が弱くなってしまうので、野党は議員の出席についてあまり過剰反応しないほうが良いのではないかと思います。

■審議拒否は単なる欠席とは違う

 とはいえ、与党議員の欠席と野党の審議拒否は意味が違います。与党議員の欠席は、よくて手続きの行き違いか、単なるミスですが、野党の審議拒否は、政府・与党の国会運営から正当性を奪うための審議拒否だからです。

 国会で審議して決定したことは、みんなを縛ることになります。そのため、国会で審議することは、決定したことが正しいことを担保することにつながります。この担保を取っ払う手段が、審議拒否です。審議拒否しているということは、正常に審議が行われていないということです。それだけで、国会の決定に傷をつけることができるのです。

 審議拒否には、審議日程を遅らせる効果に加えて、政府・与党の政策にケチをつける効果もあります。だから、野党による審議拒否はこれからもなくならないでしょう。

 ところで、本日は珍しく与党が参議院予算委員会を審議拒否するという事態になりました。これにどういう意義があるのかは、まだ良くわかりません。


議事整理権について


■議事整理権

 議事整理権という言葉があります。議事整理権とは、会議の議長が議事進行を左右できる権利です。具体的には、会議を開くこと、休憩すること、そして、発言を許すか許さないかなどを決定することができます。

 国会の場合は、本会議では議長が、委員会では委員長が議事整理権を持っています。しかし、いつも議長や委員長が単独で議事整理権を行使しているわけではありません。本会議では議院運営委員会が、委員会では理事会がそれぞれ協議して決めています。

 そして、普通は議院運営委員会や理事会で協議したとおりに会議が進むため、議長や委員長の議事整理権はあまり目立ちません。むしろ、目立たないということは、完全に協議通りに、つまり事前の台本通りに会議が進行しているということであり、議事整理権が適切に行使されていることを示していると言えます。

■議事整理権行使の例

 その普段は目立たない議事整理権が、その言葉とともに出てきた例を見つけました。先日、2013年4月23日の議院運営委員会の会議録が、衆議院のサイトで公開されました。この日の議院運営委員会では、衆議院小選挙区の区割り法案を採決する本会議の運営などについて協議しています。会議録から引用します。

○佐田委員長 次に、本日の議事日程第五について発言を求められておりますので、順次これを許します。

 議事日程第五が区割り法案についてです。委員長に指名された、みんなの党、日本共産党、生活の党の議員が、区割り法案の強行採決に抗議する意見を次々に表明します。この順番と、発言者については理事会で申し出があり、決定されたものだと思われます。

 予定された発言が終わり、委員長が発言の終了を宣言しようとした時です。

○佐田委員長 これにて発言は終了……(渡辺(周)委員「委員長、発言を」と呼ぶ)整理権はこちらにありますので。(渡辺(周)委員「委員長、発言を」と呼ぶ)理事会でそのような申し出はありませんでしたので。
 これにて発言は終了いたしました。(渡辺(周)委員「委員長、そこを、発言を」と呼ぶ)

 これはどういうことでしょうか。どうも、理事会で発言を申し出なかった民主党の渡辺周議員が発言を求めたところ、委員長は議事整理権を行使し、発言を許さなかった、ということのようです。民主党は、この日の本会議に出席するか欠席するか最後まで迷いに迷ったようです。この議院運営委員会に党としてどのように対応するかも決めかねていたので、こういうイレギュラーなことになったのかもしれませんね。ちなみに、会議録中の「呼ぶ」という言葉は、「声をだす」程度の意味です。会議録では、正式な発言以外で言ったことを「呼ぶ」というように書いているようです。

 この会議録から、委員会の議事進行は理事会で事前に決めていること、そして、委員長が許さなければ、委員会で発言することができないことがハッキリとわかります。

 この前の、厚生労働委員会が中断した件もそうですが、変わったことが起こると国会審議を成り立たせている仕組みが見えてきて面白いです。


審議拒否と日本共産党


■審議拒否の意義

 2013年4月25日現在。先週、4月15日〜19日は、衆議院の選挙制度を巡って審議拒否が起こりました。

 審議拒否は、多数派の強引な国会運営に抵抗する手段のひとつです。

 強引な国会運営とは、例えば、多数派にとって都合の良い議案だけを議題にして、すぐに採決するようなものです

 原則、議題になっていないものについて話し合うことはできないので、議題の設定や設定過程自体がおかしいと思った場合は、審議拒否して委員会が開かれないこと狙います。そして、審議復帰を条件に多数派から譲歩を引き出すのです。

 事実、4月17日の衆議院は、党首討論を行う国家基本政策委員会以外のすべての委員会が、野党の出席を得られなかったため審査を進めることができませんでした。審議拒否には、委員会を開かせないという力が存在すると言えます。

■それでも委員会が開かれたら

 審議拒否には一定の効果があります。

 とはいえ、その効果は多数派である与党が譲歩した時のみ発生するものです。特に、現在の衆議院のように与党が圧倒多数の議席を持っている場合、野党が出席しようがしまいが、与党は強制的に委員会を開くことが可能だからです。

 こうなってしまうと、審議拒否をして委員会を欠席してしまったら、会議録に自分たちの意見を残すことはできません。

 せいぜい、委員長が欠席した会派の名前を読み上げたことが残るだけです。

 本会議の日程について協議したあと、委員長の職権で再開された、4月16日の衆議院議院運営委員会の会議録では、以下のようになっています。

○佐田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 再開に先立ち、民主党・無所属クラブ、日本維新の会、みんなの党、生活の党の所属委員に理事をして出席を要請いたしましたが、いまだ出席が得られません。やむを得ず議事を進めます。

 この時、議院運営委員会に委員を出している会派のうち、野党会派で出席したのは日本共産党のみでした。

■審議拒否にくみしない日本共産党

 日本共産党は他の野党が審議拒否しているなかでも委員会に出て、与党と反対の立場から意見を述べています。

 会議録では共産党議員の以下のような発言が残っています。

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 初めに、この委員会が、与野党合意のないまま、与党によって一方的に開かれたことに対して、強く抗議するものであります。議会の運営は、合意の上、円満に行われるべきであります。
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。

 与党の強引な国会運営に抗議し、与党の提案した「区割り法案を特別委員会に付託して審議を開始する」ことに反対したことが、会議録からわかります。

 この意見は会議録に残ります。審議拒否をして、委員会を開かせないようにして、多数派から譲歩を引き出したり、対応を改めさせたりするのも大事ですが、委員会に出て自分の意見を会議録に残すのも大事です。

 ですから、どこか1党は野党の出席が必要です。

 日本共産党は、その点で議会政治に対し、一定の役割を果たしていると言えます。


なぜ区割り法案は迅速に処理されなければならないのか


■60日でみなし否決

 『区割り法案強行採決』でまとめてみて感じたのですが、よくもまあ、これだけのことを5日間でやったものです。与党がこれだけ焦っているのも、民主党などの野党がこれだけ抵抗しているのも、区割り法案が確実に成立するには、4月26日までに衆議院を通過している必要があるからです。

 憲法59条2項には、参議院が否決した法案を衆議院の3分の2以上の議席でもって可決すれば、その法案は成立するという、いわゆる再可決の条項があります。しかし、再可決は参議院が否決しなければ使えません。ずーっと参議院が審議せずにほっといたら何もできないのです。

 そこで、同じく憲法59条第4項にこうあります。

参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 これによって、参議院に法案が送付されてから60日たてば、衆議院で再可決できることになります。国会は延長できるので、60日に足らなかったら延長するという手もあります。しかし、今国会のあとには参議院選挙が控えているため、あまり延長はできません。まごまごしていると60日経過する前に国会が終わってしまいます。

 今国会の会期は6月26日までなので、区割り法案を確実に成立させるには、60日前の4月28日までに衆議院を通過していなければなりません。ただし、4月28日は日曜日なので、それ以前の最後の平日である4月26日までに衆議院本会議で採決しなければならない、というわけなのです。