「0増5減」vs「18増23減」:議院運営委員会での攻防


■議院運営委員会での攻防

 2013年6月1日現在。衆議院議員選挙の選挙区割に関する法律の取り扱いを巡って、参議院が熱いです。

 4月に衆議院で可決された、内閣提出の「0増5減」の区割り法案は、参議院で未だに審議されていません。そもそも、審議の前提となる法案の委員会への付託が行われていません。委員会への付託は法案審議のスタート地点なので、審議は全く行われていないと言っていいです。

 そんななか、5月29日の参議院議院運営委員会で、民主党はみんなの党が提出した「18増23減」法案の委員会付託を求める動議を提出しました。動議とは、その日の会議の予定にない案件を議題にすることです。

 当日の会議録では、以下のようになっています。

○委員長(岩城光英君) ただいまから議院運営委員会を開会いたします。
○小見山幸治君 私は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法の一部を改正する等の法律案については、本会議で趣旨説明を聴取することなく政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託することの動議を提出いたします。
○委員長(岩城光英君) 速記を止めてください。
   〔速記中止〕
○委員長(岩城光英君) 速記を起こしてください。
 ただいまの小見山君提出の動議の取扱いにつきましては、理事会で協議いたします。
(第183回国会 議院運営委員会 第28号 平成二十五年五月二十九日(水曜日)より)

 大抵の場合、動議が出されると委員長がただちに委員に動議を議題にすることに対する賛否を諮り、議事日程に加えられます。ところが、今回は理事会に協議するということで、結論を出すのを避けています。

 参考に、今回の逆パターン、衆議院議院運営委員会で4月に「0増5減」の区割り法案を強行付託したときの会議録を見てみましょう。

○佐田委員長 (前略)
 趣旨説明を聴取する議案の件について御協議願います。
 高木毅君。
○高木(毅)委員 動議を提出いたします。
 内閣提出、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案は、本会議において趣旨説明を聴取しないこととし、議長において政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されることを望みます。
○佐田委員長 佐々木憲昭君。
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 (前略)
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。
 (中略)
 以上で意見表明といたします。
○佐田委員長 それでは、高木毅君の動議に賛成の諸君の挙手を求めます。
    〔賛成者挙手〕
○佐田委員長 挙手多数。よって、そのように決定いたしました。
(第183回国会 議院運営委員会 第20号 平成二十五年四月十六日(火曜日)より)

 途中で共産党の意見表明があったものの、動議が提出されたらただちに採決しています。この動議の取り扱いの違いはどこからくるのでしょうか。

■議院運営委員会委員長ポストの重要性

 衆議院の議院運営委員長は与党自民党の議員です。「0増5減」の区割り法案の付託については与党の意向にそっているので、委員長はただちに動議を処理してしまいます。衆議院の議院運営委員会は与党議員で委員の過半数を占めているので、決をとればかならず与党の思い通りになるからです。

 参議院の議院運営委員長も与党議員です。しかし、「18増23減」は衆議院で可決した「0増5減」の区割り法案を否定するものであり、委員会に付託されることは与党にとってあまり都合のよいことではありません。参議院の議院運営委員会は野党が過半数を占めているので、採決すると必ず動議の通り付託されてしまいます。だから、委員長は動議の取り扱いを理事会で協議して時間を稼いだわけです。これも、委員長が議事進行をある程度左右できる権能、議事整理権のひとつなのだと思います。

 もし、参議院の議院運営委員長が野党議員だったら、後に引用した衆議院の例のようにただちに動議が処理され、賛成多数で動議の通り「18増23減」法案は付託されたでしょう。与党が議院運営委員長のポストをおさえていたことで、試合を延長戦に持ち込むことができたと言えます。

■議院運営委員会と本会議

 議院運営委員会は本会議の議事日程を決定する役割も担っているので、議院運営委員会ががたついていると国会全体がグラグラしてしまいます。現に、29日の動議を巡って参議院の議院運営委員会理事会は紛糾し、5月31日の議院運営委員会を開けなかったため、予定されていた本会議を開くことができませんでした。当然、その本会議で採決する予定だった案件はすべておあずけになってしまいます。

 6月26日の通常国会会期末まで、審議できる時間はあとわずかです。どんどん衆議院から送られてくる法案を処理するため、参議院はますます忙しくなってきます。そんなときに本会議を開けないというのでは困るので、与党としてはなるべく早くこの問題を解決したいところでしょう。

 どう決着がつくのか、少し楽しみです。


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