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「早期解散」というおまじない


 2012年9月26日に、野党自民党の新しい党首を選ぶ総裁選が行われました。総裁選を制し、新総裁となったのは安倍元首相です。

 安倍さんは、全国の自民党員と現職の自民党国会議員による最初の投票では2位でした。1位は大量の党員票を獲得した石破元政務調査会長。しかし、石破さんの得票が全体の過半数に達しなかったため、自民党国会議員のみで行われる決選投票で安倍さんが逆転しました。

 次の選挙のことを考えると、300票の党員票のうち、165票を獲得した石破さんを総裁にした方がいいような気がします。党員のほうが、国会議員よりも一般の有権者に近いからです。なぜ、党員票を無視するかのようなかたちで、安倍さんが選ばれたのでしょう。派閥の意向がどうのとか、政策がどうのとか、政治面には書かれているようです。

 すべての国会議員にとって、有権者は大事です。国会議員というものは、選挙で選ばれなければタダの人だと言われています。選挙は国会議員がもっとも重要視しているもののひとつです。ましてや、選挙で一票を投じる有権者のことが気にならないわけがありません。

 しかし、それも時期によります。選挙が遠ければ、そこまで有権者に気をつかわないかもしれません。何か有権者の機嫌を損ねるようなことをしても、次の選挙までに忘れてくれるかもしれないからです。もしかしたら、気づきやしないと思っている議員もいるかもしれません。

 逆に、選挙が近ければ、全身全霊で有権者にアピールするでしょう。例えば、参議院選挙を3ヶ月後に控えた、2001年4月の自民党総裁選。当時の森首相は大変不人気であったため、危機感を持った自民党の国会議員は、党員票の前身である県連票で他候補圧倒した小泉純一郎衆議院議員を総裁に選んでいます。

 2001年の例をみてから今回の総裁選の対応をみると、自民党議員は選挙の時期はまだ先だと思っていると言えないでしょうか。少なくとも、3ヶ月よりも先。年内ではない。

 ところで、安倍新総裁は、さっそく早期の衆議院解散を求めると表明しています。早期とは年内のことだ、とも。解散すると全衆議院議員が失職し、それにともない衆議院議員を選出する総選挙を行うことになります。解散と選挙はセットなのです。早期解散とは、早期総選挙ということなのです。

 自民党の議員は、本当に早期解散、「近いうち解散」ということが起こると思っているのでしょうか。もしかしたら、「早期解散」というのは「おまじない」になっているのかもしれません。

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解散しないということはどういうことか


 民主党代表に再選された野田首相は、輿石参議院議員を民主党幹事長に再任しました。この決定に、衆議院の早期解散を求めている野党は反発しています。なぜなら、輿石幹事長は早期解散に賛成でないとみられているためです。つまり、早期解散に否定的な輿石さんをわざわざ幹事長に留任させた野田首相もまた、早期解散に消極的なのではないか、と見られているということです。

 野田首相の代表再選を支持した民主党議員のなかには、早期解散に反対の人々ももちろんいるでしょうから、支持者の意向を考えると、解散は「しない」というより「できない」、事実上封印されたと考えていいでしょう。

 解散とは、首相の決断ひとつで全衆議院議員をクビにできるということです。衆議院議員に与える影響は大きいです。解散できないということは、政府が衆議院議員を縛る権限をひとつ失うことになります。与党議員が反対したら、それを止めるためにとることができる選択が少なくなるのです。よりいっそう、与党議員の意向を尊重した政権運営が必要になったと言えます。

 この状態で、野田首相は自分の信じる政策をすすめることができるのでしょうか。

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選挙制度改革なくして、解散なし?


 2012年8月23日現在、政府・民主党は、最高裁が2009年の衆議院選挙の一票の格差が違憲状態であると判断したことをふまえて、小選挙区5議席、比例定数40議席を減らすことを柱とする衆議院の選挙制度改革法案を、9月8日までに衆議院で採決する構えを見せています。野党の自民党、公明党はこれに反発し、衆議院で審議拒否し、参議院での首相の問責決議案の提出を検討しています。つまり、参議院でこの法案が可決、成立する見込みは、現状ないということです。

 さて、これは「解散の先送り」になるのでしょうか?

 これが解散の先送りになるには、「選挙制度改革法案が成立しなければ、衆議院の任期満了まで解散=選挙できない」という前提が必要となります。しかし、任期満了したときに選挙しないわけにもいかないことは明白です。「任期満了までに選挙制度改革ができるよう努力する」「選挙制度改革ができない前提で話すのはおかしい」という考え方もあるでしょう。ですが、実際、任期満了までに成案を得られなかったらどうするのでしょうか?

 また、もし解散や選挙ができないとすると、最高裁の要請による選挙制度改革法案によって首相の解散権どころか、国民の選挙権も制限されることになります。言い換えると、最高裁判所は国民の選挙権を奪うことができるということです。そもそも、裁判所は選挙を中止できるのでしょうか。

 できるわけがありません。裁判所が総選挙を差し止める判決を出したとして、選挙差止を実現する法的根拠が明らかでないからです。つまり、裁判所に選挙を止める力はありません。また、裁判所で定数配分を決めるのも無理です。裁判所が独自に公職選挙法を改正するが如き行為は、憲法第41条「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」に違反するからです。

 解散・総選挙の実施と選挙制度改革法案の成立は関係ないと見るべきです。

参考文献:柴田孝之『論文基礎力養成講座 憲法』(日本実業出版社)


解散を目指す以外の方法は?


 今まで、自民党が首相に衆議院の解散を約束させることは不可能、ということを延々と書いてきました。では、自民党は早期解散を求める以外に、何を目指せば良いのでしょうか。

 自民党は、首相が解散してもしなくても、政権獲得につながるように行動しなければなりません。自民党の強みは、参議院総議席数242議席のうち、87議席を動かせることです。ちなみに、与党民主党は88議席を掌握しており、その差はわずか1議席です。

 この87議席を使って、政府民主党が成立を目指す法案に協力するかわりに、なんらかの利益を得ようとすることができます。ここまでは、参議院での法案成立と引換に解散を求める戦略と同じです。この戦略は、解散を目当てにしないならば、一定の効果を得ることができます。

 例えば、法案成立に協力するかわりに、自民党に有利になるよう法案を修正させることができます。すでに、3党合意のときに、自民党と公明党は民主党の政策を取り下げさせています(年金交付国債発行の取り下げ、など)。

 この武器を、衆議院の選挙制度改革の議論で存分に振るい、自民党に有利な選挙制度になるようにすることで、次の衆議院選挙を有利にすすめることができるかもしれません。また、選挙制度改革に限らず、政府与党がすすめる様々な政策において、自民党の意向を反映させることを目指せば、事実上、国政を左右しているのと同じことになります。単に、政府の役職がないだけです。

 しかし、政府の役職につくことこそが重要なのかもしれません。事実だけでなく名目が伴わないとならないのだとすると、衆議院で多数を取り、政権を取らなければならないことにかわりはありません。つまり、政府与党案を自民党色に染め上げたところで、次の選挙で勝てなければ無意味なのです。

 ただし、政権を取る方法は選挙で勝つだけではありません。前回の衆院選のマニフェストに反する政策を強いることで、民主党の議員をどんどん離党させ、衆議院における民主党の議席数を過半数割れに追い込めば、衆議院の各派の思惑次第で、民主党抜きで連立政権を組むことができるかもしれません。

 とはいえ、これは希望的観測です。民主党議員が民主党の執行部、つまり、代表(=首相)、幹事長などが自民党に対して弱腰すぎる、要求を聞きすぎる、ということになった場合、離党と執行部交代のどちらを選ぶかと言えば、執行部の交代を選ぶでしょう。民主党を離党して尚、政権に関われるかどうかは不透明だからです。また、小選挙区制は少数政党に厳しいと言われているので、例え敗色濃厚だとしても民主党に残ること選んだほうが合理的です。離党してしまったら、自らの票を獲得する原動力のひとつである、地方組織や支援団体の助けも得られませんから、なおさらです。

 自民党をとりまく現状は厳しいです。しかし、野党がしっかりしないと国会はダメになるので、知恵をしぼって頑張って欲しいところです。国民の立場からすれば、自民党が勝とうが、民主党が勝とうが、はたまた、その他の党が勝とうが、日本が良くなればそれでいいのですから。


秋以降解散?


 2012年8月12日付の朝刊に、民主党の前原政調会長が、「秋の臨時国会で特例公債法案の成立、衆議院の選挙制度改革、補正予算の成立、この三つを成し遂げれば解散できる」と発言したという記事がありました。野田首相が、解散時期について「”近いうち”というのは言葉通りの意味で、それ以上でも以下でもない」「解散は首相の専権事項だ」としているなか、わざわざ前原さんが解散の条件と次期を示したのはどういう意味があるのでしょうか。

 まず、新たに解散の条件と時期を示すことで、消費税増税を含む法案に続いて自民党や公明党の協力を求める狙いがあると考えられます。野党が「今度協力すれば本当に解散してくれるかもしれないし、この三つは国政にとって重要だから、協力して当然だ」と思ってくれれば、スムーズに話し合いが進むでしょう。少なくとも、話し合いには応じるので、衆議院を通過したところで参議院で放って置かれることはないでしょう。

 また、このような発言をすることで新聞に記事にしてもらい、政界や世論の反応を見るという目的もあります。もし、「上の三つが成立したうえで秋解散」の反発が強ければ別の方法を考える、というように、より人気がありそうな方向に微修正することができるからです。ただ、何回も言っていればみんな慣れてきて、既成事実化するかもしれません。ここでの既成事実化とは、秋の臨時国会以後解散、つまり今国会中(9月8日まで)の解散はないということです。そういう狙いもあるかもしれません。

 さらに考えます。衆議院のサイトを見ると、特例公債法案は今年の1月24日に受理されている(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm)ので、今国会中に成立を目指すこともできるはずです。なぜ、特例公債法案も今国会中ではなく臨時国会なのでしょうか。

 わざわざ「秋の臨時国会で」と言っているのは、野田さんが首相でない可能性を考えているからかもしれません。9月の民主党代表選で野田さんが落ちたときは、以前の約束は守らなくても問題ないので新しい首相と新しい約束をしよう、ということです。そして、前原さんは前回の代表選で野田首相の対抗馬でした。前原さんは、自分ならこの条件で解散すると宣言しているのでしょうか…ちょっと無理がある考えですね。

 この可能性よりは、同じく9月に総裁選がある自民党の谷垣総裁が交代するのを待っていて、谷垣さんの交代をもって「”近いうち”解散」の約束を白紙に戻し、新たな条件で解散を約束することを目論んでいる、という可能性の方がまだありそうです。

 どの考えにせよ、制度的に首相に解散を強制するすべはないように思います。世論を顧みないならば、約束したって、守らなくてもいいのです。与党が協力を求める法案と、約束する解散の時期を変えながら野党と取引していくという状況が、来年の夏まで続いていくのではないでしょうか。このままだと、法案などの内容よりも、約束の履行時期の方が話題になってしまって、あまりいい状況だとは思えません。

 この状況を変えるには、思いもよらない方法をとるしかありません。もし、盲点となって使われていないような制度があるのなら、それを使うことで打開できます。例えば、誰もが組むと思っていなかったと言われている、自民党と社会党が組んだ、自社さ連立政権の成立や、解散すると思っていなかったのに解散した郵政解散などがそれです。どちらも、制度として禁止されているわけではありませんが、計画した人間以外はほとんどの人がやると思っていませんでした。

 おそらく、今後、参議院による首相の問責決議案がどのように扱われるのかというのが、ひとつのポイントだと思います。もし、臨時国会冒頭で首相の問責決議案が可決されたらどうなるのでしょうか。本当に参議院の審議は止まり、政府にダメージを与えるのでしょうか。それとも、国民やメディアの反発が厳しく、むしろ野党にダメージを与えるのでしょうか。

 ちなみに、通常国会の会期末で首相の問責決議案を可決させられたのが福田元首相で、福田さんは3ヶ月後の臨時国会召集前に総辞職してしまいました。その臨時国会をしのぎ、次の通常国会の会期末に問責決議案を可決させられた首相が麻生元首相です。麻生さんは可決して7日後に衆議院を解散しています。どちらも、問責決議案が直接的な原因となって、総辞職や解散をしたとは言いきれません。ただ、共通するのは、首相の問責決議案が可決させられた後、国会が2週間以上続いた例はないということです。2週間を超えたとき、何が起こるのか。大変興味があります。


約束と履行、停滞した政局の打開


 2012年8月10日現在、参議院で消費税増税を含む法案、税と社会保障の一体改革関連法案が与党民主党、野党自民党、公明党の賛成で可決しました。これで、野田首相が政治生命をかけた法案が成立することになります。

 野田首相と自民党の谷垣総裁はひとつの約束をしました。谷垣さんは消費税増税を含む法案の成立に協力するかわりに、野田さんは衆議院を早期に解散するという約束です。今日で、谷垣さんは約束を果たしました。次は野田さんの番ですが、さて、どうなるでしょう。

 野田さんと谷垣さんの立場を簡単に整理してみましょう。

  できること ほしいもの
野田首相 衆議院の解散 法案の成立(参議院での可決)
谷垣総裁 法案の成立(参議院での可決) 衆議院の早期解散

 上の図でわかるように、お互いにほしいものとできることが一致しています。お互いに相手の求めるものを与える能力があるので、公平な約束に見えます。ただし、公平な約束になるには前提があります。その前提のひとつが、「お互いの義務を履行する時期が同時になること」です。

 お互いが義務を同時に履行しないとき、後に義務を履行する側が裏切るリスクが常にあります。しかも、解散や法案の成立というものは物と違って取り返しがきかないので、やってしまったら終わりです。先に義務を履行した側は、ずっと待っているほかないのです。

 そして、解散と同時に衆議院議員は失職しますし、参議院は閉会することが憲法に定められているため、法案成立前に解散するというのは難しいです。このため、谷垣さんは常に、先に義務を履行することになってしまいます。あとは、野田さんに義務を履行するよう言い続けるしかありませんが、それがすぐ解散につながるわけではありません。制度上、首相に解散のみを強制することはできないのです。

 しかし、首相に解散を強制することができないというのは、制度上のことでしかない、とも言えます。組織は、規則で作られた制度だけで動くものではありません。人間が動かします。制度の中から攻撃できないなら、制度の外から攻撃すればいいのです。人を動かすのは、お金、感情、物理力なので、こちらに焦点をあわせます。

 おそらく、昨日から自民党の幹部クラスの議員が「『近いうち』というのは今国会中(9月8日まで)のことだ」と盛んに発言しているのは、「今国会中に解散するのが当然」という空気を醸成するためで、制度外からの攻撃をしているのだと思います。うまく行けば、世論が解散を強く求めるようになって、野田さんを精神的に追い詰めることで解散を実現できるかもしれません。ただし、これには時間がかかります。ましてや相手は、誰も聞いていない朝の街頭演説を地道に続けたという野田さんです。9月8日までにはとても間に合わないでしょう。

 また、もう一つ問題があります。野田さんを追い詰めたところで、野田さんが解散できるかどうかわかりません。むしろ、野田さんや民主党を追い詰めれば追い詰めるほど、民主党の選挙結果は悪くなることが予測されます。これでは、ますます解散しにくくなるでしょう。

 結局、法案成立を人質にとったり、政府与党を追い詰めることで解散を狙うのは、何の効果もないように思えます。自民党は、まったく想定外の方向から攻めるか、神風が吹くのをじっと待つか、首相が解散しようがしまいがすべての法案成立を阻止する修羅の道を行く決意をするかしない限り、事態を打開することができないでしょう。

 これからどうするのか、非常に楽しみです。


首相が「近いうち」に解散するのなら


 2012年8月9日現在、みんなの党などの野党6党が衆議院に提出した内閣不信任決議案は否決されました。民主党から一部賛成者と欠席者を出したほか、公明党は欠席、自民党は数名の議員が賛成したのを除いて欠席しました。「早期解散の確約がなければ、衆議院に不信任案を、参議院に首相の問責決議案を提出する」としていた自民党が党として欠席したということは、昨日の野田首相の言葉「近いうちに信を問う」を解散の「確約」とみなしたと考えてよいでしょう。ただ、消費税増税を含む法案の、参議院での採決がまだなので、断言はできません。自民党で不信任案に賛成した中川秀直代議士や小泉進次郎代議士が党内で大演説をし、党論を法案反対にもっていくかもしれません。

 さて、「近いうちに信を問う」とした野田首相ですが、これが「早期解散の確約」となるにはいくつかの前提が必要です。

  1. 野田さんは約束を必ず守る
  2. 野田さんと谷垣さんの「近いうち」は一致している
  3. 野田さんは代表選前に民主党代表を辞める気はない
  4. 野田さんは代表選に出馬し、再選を目指す
  5. 野田さんは増税を含む法案以外にもやりたいことがある
  6. 野田さんは5のやりたいことを、民主党議員に協力させるだけの力がある
  7. 野田さんは解散を反対されても、強行できる
  8. 野田さんは、早期に解散することで仲間の民主党議員がどれだけ落選しても構わないと思っている

 1は大前提です。野田さんが約束を守らない人だったら話になりません。

 2はいま注目を集めている「近いうち」はいつか?ということです。野田さんの近いのスパンが、宇宙レベルの1億年とかだったら話になりません。

 3,4,5,6は野田さんが「近いうち」がくる前に首相の座から降りる(追われる)ことがないかということです。すでに民主党の輿石幹事長は「首相や谷垣総裁が交代したら、この約束はなかったことになる」という趣旨のことを言っていますので、野田さんが首相をやめたら話になりません。解散できませんしね。

 7,8は野田さんに解散の実行力があるかということです。約束を守る気があり、首相を続ける気力も十分であっても、いざ解散というときになり、解散を決める閣議をまとめられなかったというのでは、話になりません。野田さんは、周りの空気や個人的な感情に左右されずに解散を断行できるでしょうか。制度上は、首相が自由に行使できる衆議院の解散権も、その人の感性や、周囲の人間との関係、その場の雰囲気などによって拘束されます。制度上できることと、その人がやれることというのは、乖離がある可能性があるのです。

 この前提をみるだけでも、早期解散、ましてや今国会中の解散などはかなり難しそうですね。

 何度も書いていますが、自民党にとって最も厳しいのは、自民党が左右できる参議院での法案成立の可否というカードを、制度上、衆議院の解散前にしか切れないことです。いわば、常に相手が後出しをするジャンケンを強いられているようなもので、自分の切ったカードの恩恵だけを相手が受けるリスクが常にあります。そして、すべての法案の成立に反対したところで、首相に解散を強制できる制度はどこにもありません。強制力がある形で、自民党が首相に早期解散させるのは不可能です。首相の善意と、与党をまとめる政治力にかけるしかありません。

 ところで、制度的に保証された見返りがなんにもないのに、法案成立に応じたようにみえる谷垣さんですが、谷垣さんは約束を守る人なのでしょうか。そして、谷垣さんの「近いうち」は一体いつなのでしょうか。


詰んでる自民党


 2012年8月7日現在、自民党は、明日8月8日午前までに野田首相が解散を確約しなければ、内閣不信任決議案と首相の問責決議案を同日午後に提出することを決めたようです。(http://jp.wsj.com/Japan/Politics/node_490749?mod=WSJFeaturesAuto

 早期解散の実現が自民党の当面の勝利条件なのだとしたら、勝利は絶望的です。衆議院の解散は首相の専権事項であり、首相に解散する気がない場合、絶対に解散することはないからです。極端な話、自民党が解散の見返りとしている消費税増税を含む法案の成立が果たされたとしても、野田首相がしらばっくれてしまえば、誰も解散を強制することができない以上、解散はありません。

 また、首相が解散権を自由に行使するのはなかなか難しく(「解散の確約とは」)、仮に首相が解散を確約したとしても、解散できるかどうかわかりません。例えば、野田首相が民主党代表の座を追われ、内閣総辞職したら、新しい首相が誕生します。新しい首相が前の首相の約束を守る義務はありません。すでに、鳩山元首相と野田首相の消費税増税をめぐる対立という点で、直近に前例があります。新しい首相が約束通り解散する可能性はどのくらいあるのでしょうか。

 このように、現行制度から考えて、早期解散を実現するのは至難の業です。制度上早期解散を実現する唯一の方法は、与党議員をひたすら引きぬいて過半数をとり、内閣不信任案を可決することです。内閣不信任案が可決したとしても、総辞職で解散をかわされる可能性はありますが、その場合は数にものを言わせて総理大臣を決める首班指名選挙を勝ち取って、即解散することになります。しかし、これはかなり難しそうです。

 自民党が持っている唯一のカードは、首相が政治生命をかけている消費税増税を含む法案の成立を参議院で左右できることです。しかし、衆議院が解散すると参議院は閉会することになっているため(憲法54条2項)、そのカードを解散カードより先に切らざるを得ないところが、残念なところです。

 自民党がどのような手を打っても、確実に早期解散を強制することはできません。早期解散を目指すという点において、自民党はすでに詰んでいると言えるでしょう。あとは、盤外で何かが起こることや、相手のミスを待つしかないです。


解散の確約とは


 2012年8月6日現在、野党自民党の谷垣総裁は、消費税増税を含む法案を参議院で採決する前に野田首相が衆議院を解散することを確約しない場合、参議院に首相の問責決議案を提出し、衆議院にも内閣不信任案を提出するつもりであるようです。つまり、解散して衆議院の選挙を行う決意が無い限り、法案の成立に協力できないということです。

 しかし、解散の「確約」とはどういうことでしょうか?だれが、どうやったら首相に解散を確約させられるのでしょうか?口頭だろうが、口頭の発言を録音していようが、一筆とっていようが、首相が解散しないと言えばしません。仮に、衆議院で内閣不信任案が可決されたとしても、10日以内に衆議院を解散するか内閣総辞職するか選ぶことを強制出来るだけで(憲法69条)、首相に解散のみを強制することは制度上不可能であるはずです。

 また、首相に解散する気があったとしても、解散できるかどうかは疑問です。解散するには、すべての大臣の賛成が必要であり、選挙で負けそうな大臣がいたら反対する可能性があるからです。最終的には、反対する大臣を次々と罷免し、首相自らがすべての大臣を兼務すれば解散はできますが、果たして野田首相にそのようなことができるのでしょうか?

 解散の確約という、制度上存在しうるのかどうかわからない概念が政治上の一大問題になっているのは、大変興味深いです。果たして野田首相は解散を確約するのでしょうか。そのとき、確約とはどういうものになるのでしょうか。楽しみです。