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日銀同意人事と譲歩する与党


■日本銀行正副総裁の同意人事

 2013年3月5日現在。国会は、昨日に引き続き、代表質問と日本銀行正副総裁候補者の所信聴取が行われる予定です。

 金融政策の要となる日本銀行の正副総裁人事の行方は、安倍首相が進めようとしている景気回復策にとってきわめて重要と見られています。参議院選挙で自民公明両党が過半数を獲得するためにも、補正予算案に続いて、政府案を通したいところです。

■譲歩する与党

 2012年度補正予算案の審議日程では、与党は野党にかなり譲歩して、衆議院と参議院で5日ずつ審議することにしました。与党は、日銀正副総裁同意人事についても譲歩を強いられています。参議院における野党の圧力は、いまだ健在です。

 そう判断する理由は、日銀正副総裁の所信聴取が衆議院で先行して行われていることにあります。

 読売や日経などは、参議院で所信聴取するのは来週、3月11日、12日という見込みを示しています。わざわざ衆議院の所信聴取から1週間あけているのは、人事案が政府から議院運営委員会に提示される前にマスコミに報道されたことに対する説明を、民主党が求めたためです。民主党の意向に配慮して、与党は衆議院と同日の所信聴取を断念したものと思われます。

■民主党の責任というわけでもない

 これは、民主党がごねているからというだけでもありません。国会の慣習として、委員会の開会日程などを決める理事会の決定は全会一致を原則としているので、たとえ一人しか理事を出していない党が反対しても、物事が決まらないのです。自然と、与党は野党に配慮するようになっていきます。

 また、政府や国会に解任する権限のない日銀正副総裁人事は、一度決まったら本人が辞めると言うまでやめさせることはできません。国会が同意するまでにある程度の時間をとって、同意するにあたいする人物かどうか調べるのはもっともな話です。

■参議院の権威は?

 ただ、候補者の所信聴取を遅らせる形で審議を引き伸ばすのは、思わぬ副作用をもたらすおそれがあります。

 事実上は、衆議院の所信聴取の内容が報じられることで、候補者の考えを参議院議員も知ることができるため、参議院での人事案同意の可否の検討時間は十分あります。

 しかし、建前上は、参議院で所信を聴取していないのです。これでは、参議院で所信聴取しなくても、衆議院で所信聴取するだけで十分ということになりかねません。

 参議院の権威に関わる話なので、のちのち問題になるかも知れません。


予算審議と民主党


■いよいよ予算審議

 2013年3月4日現在。今日から国会は、首相の施政方針演説に対する代表質問が行われます。そして、いよいよ今週末にも2013年度予算案の審議が始まります。参院選を7月にひかえ、会期が短い今国会最大のテーマであり、野党最大の見せ場です。

■民主党にとっての山場

 特に、民主党にとっては野党勢力を予算案反対で結集できるかどうかが問われることになります。

 2012年度補正予算案は、野党勢力が賛成と反対に割れてしまい、自公両党が過半数割れしている参議院でも可決してしまいました。これは、自公の国会日程に対する譲歩や、昨年以来の円安株高傾向による成果もあるでしょう。しかし同時に、民主党が野党共闘の盟主になれないことを露呈したとも言えます。

 もし、2013年度予算案も両院で可決してしまったら、民主党の立つ瀬がないです。なぜなら、政権奪取をねらう野党の国会闘争の成果は政府・与党案の成立阻止、あるいは成立遅延、ぐっと下がって修正によって測られるからです。

 与党が過半数を占めていない参議院で議案を可決させるということは、民主党にとっては大敗北です。


補正予算案可決とみんなの党


■参議院で可決した補正予算案

 2013年2月27日現在。政府・与党の野党に配慮した国会戦略がうまくいったのでしょうか。それとも、昨年の衆議院解散以来の株高・円安に対する世論の好感によるものでしょうか。参議院の少数野党の一部が賛成にまわり、与党が過半数を持っていない参議院でも補正予算案は可決されました。

■みんなの党への影響

 この結果は、民主・自民・公明についで12議席を持っているみんなの党にとって厳しいものです。みんなの党抜きでも政治が進んでいってしまうことを示したからです。

 みんなの党は補正予算案に反対しました。ですが、冒頭に書いたとおり、補正予算案は1票差ではありますが参議院で可決成立しています。みんなの党を除いても与党が参議院で過半数を得られるのならば、国政への影響力は大幅に減少してしまいます。せっかく12議席を持っていても、なんの意味もありません。

■みんなの党と維新の会

 昨年末の衆議院総選挙で維新の会は大躍進しました。けれども、みんなの党の渡辺喜美代表が維新の会との共闘交渉に強気で臨んでいました。みんなの党の方が参議院で多くの議席を持っていたからです。

 今回の補正予算案可決で、みんなの党と維新の会との力関係が変わるんじゃないかと予想しています。


補正予算案の審議日程の攻防5・完


■2012年度補正予算案成立

2013年2月26日現在。参議院本会議で2012年度補正予算案が可決し、成立しました。反対116票に対し、賛成117票。1票差の成立です。本会議での採決に先立ち、参議院予算委員会でも補正予算案は可決されています。安倍内閣は、補正予算案に関して「ねじれ国会」を克服したと言えるでしょう。

■審議日程からうかがえる民主党への配慮

 さて、今回の補正予算案の審議日程は、衆議院と参議院でともに5日ずつとなりました。以下がその日程です。

1 2
3 4 5 6 7
衆議院1
8
衆議院2
9
10 11
祝日
12
衆議院3
13
衆議院4
14
衆議院5
衆議院通過
15
G20
(麻生財相出席)
16
17 18
参議院1

19
参議院2
20
参議院3
21
参議院4
首相訪米1→
22

首相訪米2→

23

首相訪米3→

24

首相訪米4

25
韓国大統領
就任式
(麻生財相出席)
26
参議院5
補正成立
27 28 1 2

 当初、民主党は衆参各7日の審議日程を主張していましたが、それよりは短くなりました。とはいえ、与党も首相訪米前の成立を目指し、衆参各3日の審議を想定していたので、与党が勝ったというわけではありません。

 おそらく、民主党としては訪米前の補正成立を阻止することが第一目標としてあったのでしょう。それを達成するために、補正予算案の審議日程としてはべらぼうな長さの衆参各7日を与党に吹っ掛けたのだと思います。

 与党が訪米前の成立を断念せざるを得なかったのは、参議院で与党が過半数の議席を持たないためです。3月からは日本銀行の正副総裁人事の同意案件があり、2013年度本予算の審議も始まります。これらの課題をうまくこなさなければ、7月の参議院選挙での与党勝利はおぼつきません。

 このため、参議院の情勢を踏まえた国会戦略を立てる必要があります。この国会戦略の遂行が、「補正予算案の審議日程について民主党に譲歩する」という結果につながったのだと思います。

■わかったこと

 補正予算案の審議日程をおってわかったことは、以下の3つです。

    1.補正予算案を審議する予算委員会は、衆議院と参議院で同じだけの日数行われる
    2.予算委員会は、首相や財務大臣など主要な大臣が出席できない状況にでもならない限り、平日で連日行われることがある
    3.予算委員会の採決と本会議での採決は同日中に行われることがある

 ちなみに、補正予算案の審議日程の攻防4で書いた読売新聞の「26日参議院予算委員会採決、27日本会議採決」説は外れました。今週中に行われる、首相の訪米に関する衆参予算委員会の集中審議のあと採決する予想だったのでしょうか。まだまだわからないことは多いです。

    *2012年度補正予算案シリーズ*


なぜ政治は面白いのか?


■駆け引きが面白い

 なぜ政治を面白いと思うのか、ちょっと考えてみました。

 面白い政治の話を目にしたときの感覚は、駆け引きの要素がある漫画や小説、ドラマをみたときのそれと近い気がします。

 政治は考えなければならないことが多く、駆け引きも盛り上がります。自党の議席数、自派閥の議員数、資金量、制度、時間、経済状況、国際情勢、圧力団体などなど。とんでもないところで足をすくわれたり、逆に意外なところから助けがきたり、展開の意外性もあります。

 また、駆け引きにはその人の人間性が出ます。政治では1対1の話合いになる場面もあり、人間と人間のぶつかり合いになります。これも魅力的です。

■解釈の楽しさ

 そして、解釈する楽しさもあります。「どうしてそうなったか?」という疑問を、自分なりに考えていく、パズル的な楽しさです。

 最近なら「どうして野田前首相は解散したのか?」。昔なら「どうして三木内閣は衆議院の任期満了まで存続できたのか?」。もっと昔なら「徳川慶喜の権力基盤はどこにあったのか?」。いろいろなパズルがあります。

■ブログの位置づけ

 ひたすら国会の制度を調べているのも、パズルを解くのに使う道具を揃えるためです。最終的には、パズルに自分なりの答えを出して、政治の動きを予想できるようになりたいと思っています。

 全盛期の竹下登元首相は、政治の動きを予想してほとんど間違わなかったと言われています。竹下さんの予想は「竹下カレンダー」と呼ばれました。政治を楽しみながら、その境地にいたるまでのログをこのブログに残していければ最高です。


補正予算案の審議日程の攻防4


■補正予算案、参議院で審議中

 2013年2月20日現在。先週、衆議院を通過した補正予算案は、参議院で審議中です。明日21日の首相訪米前にケリをつけたかった与党ですが、野党は応じず、補正予算案成立は来週になる見込みです。

■読売の予想の根拠は?

 与党が21日採決を断念したことを報じる記事は、朝日、毎日、読売などから発信されました。

 ほとんどの記事で、補正予算案の成立を「25日以降」としているなか、読売だけ「委員会採決は26日頃、本会議での採決は27日になる見通し」と、やたら細かく予想しています。

 なぜ26日採決なのでしょうか。慣例によれば、衆議院で5日審議している以上、参議院でも5日審議すれば十分なはずで、採決は25日にも可能に思います。

 この記事によると、「25日に行われる韓国大統領就任式に、政府が麻生太郎副総理兼財務相を派遣することを検討している」とあります。麻生財務大臣がいなくては予算委員会を開けないため、読売は26日に委員会で採決すると予想しているのかもしれません。

■読売の予想は合っているか?

 ただ、麻生大臣の訪韓を他社が知らなかったとも思えないので、読売だけ26日委員会採決と書いた理由はよくわかりません。それだけでなく、委員会採決と本会議採決が別々の日になるという根拠もよくわかりません。

 どの記者もだいたい読売と同じように考えていたけれど、読売以外は安全策で25日以降と書いたのでしょうか。それとも、読売だけ特別な情報源があるのでしょうか。

 読売の予想が合っているか、ちょっと楽しみです。


大臣の出席義務と議員の不逮捕特権


■審議と大臣

日本国憲法第63条
内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

 国会は話し合って物事を決める場所です。話し合いに必要なものは、話し合う人です。ひとりでは話し合いになりません。

 また、ある議題について話し合っているときは、その議題に詳しい人、その議題を提案した人から話しを聞く必要がでてきます。冒頭の憲法の条文は、主な議題の提案者である大臣から、国会が話しを聞くための権利を保障しています。

 この国会の権利は強力で、大臣の出席義務のために、日本の大臣はおちおち海外視察もできないといわれています。大臣が出席しなければ法案審議が進まないため、ただでさえ少ない審議時間を海外視察で減らすわけにいかないのです。

■審議と議員

 同じように、審議に必要な国会議員が何があっても国会に出席できるようにした条項が憲法にあります。

日本国憲法第50条
両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

 いわゆる、国会議員の不逮捕特権として知られているものです。不逮捕特権は、よく「政府の政策に批判的な議員を警察に逮捕させることがないように設けたものだ」と説明されています。

 それもそうなのですが、もうひとつ国会を成り立たせるための理由があります。逮捕されそうな議員が、審議中の法案の起草にかかわっていて、その議員に話しを聞かなければ審議がどうにもこうにも進まない、ということが起こったとします。そういうときは、この条項によって、少なくともその法案の審議の間は、逮捕されそうな議員を国会に出席させることができます。

■どちらも審議を確保するための決まり

 60条も50条も国会審議をしっかりと行うための決まりです。「話し合い」を成り立たせるには、いろいろな工夫が必要なのですね。


強行採決とは


■強行採決のイメージ

 騒然とする委員会室。野党議員に羽交い締めにされそうになりながら、委員長はマイクを握りしめ、声を張り上げます。

 「本案に賛成の諸君の起立を求めます!」

 委員長の叫びに応え、与党議員が一斉に起立します。与党議員が起立するや否や、委員長は宣言します。

 「起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。」

 私の中の強行採決のイメージはこういうものです。

■どうなると強行採決か

 強行採決とは、与野党理事の話し合いがつかずに「採決」を強行することを言います。

 原則として、委員会の議事進行は各委員会の理事会や理事懇談会で決められます。しかも、その決定は全会一致とする慣例になっています。全会一致なので、野党理事が賛成しない限り議事進行は決まりません。

 与野党が激しく対立している議案の場合、野党はありとあらゆる手を使って議事を遅延させようとします。その遅延策のひとつが、採決に応じないことです。採決しなければ、審議は終わりません。いくら与党の議席が多くても、採決して賛成多数で可決しなくては先にすすまないのです。

 よって、どうしてもその議案を通したいときは、与党は数の力を行使するために、強行採決をすることになります。数の暴力をふるうのも結構大変なのです。

■強行採決が必要なときとは

 野党の議事遅延策、議事妨害が厄介なのは、それによって時間を消費してしまうためです。

 政府・与党が成立させなければならない法案はひとつやふたつではありません。夏の参議院選挙を控え、例年より政府提出法案が少ないといわれている今年(2013年)の通常国会でも、その数は60を超えています。政府・与党の立場からすると、審議は十分しなければなりませんが、ひとつひとつの法案にあんまり時間をかけるわけにもいかないのです。あんまり時間をかけると、何一つ決まらない事態に陥りかねないからです。

 国会は審議する場所でもありますが、決めるところでもあります。何も決めないと、それはそれで国会の権威は危うくなります。

 また、与党であるからには、少なくとも衆議院では多数の議席を占めているはずです。ということは、野党より多くの国民の支持を得ているはずなのです。多数の意見もまた、国政に反映させなければなりません。

 少数意見を大切にするのはいいことです。しかし、少数意見が常に多数意見を封じ込めてしまうのはよくありません。それは少数の独裁であり、民主主義の目指すものとは違うはずです。

 最終的に決断するため、強行採決が必要なときもあります。


足を引っ張るのが野党の仕事


■野党になっても批判される民主党

 2013年2月16日現在。昨年末の衆議院総選挙で野党になった民主党の国会戦略に批判が高まっています。民主党政権時代に苦労し、自ら緩和を申し出た「事前報道ルール」の見直しに対する姿勢が曖昧なところを挙げて、「民主党は抵抗野党に堕した」とまで言う人がいます。

 事前報道ルールが妥当なものかどうかはさておき、野党は抵抗するのが仕事なので、政府・与党の足を引っ張ることを一概に批判はできません。

■野党の役割は政府に再考を促すこと

 野党というのは何かというと、国会に議席を持ち政府に関与していない会派のことです。国会に議席のない野党もいなくはないでしょうが、力はありません。この場合の力には、いくつか種類があります。

 ひとつは議決権のことです。議決権があると、政府提出法案に反対票を投じ、成立を阻止できます。これは国会議員でなくてはできないことです。

 もうひとつは、国会のスケジュールに関与できることです。国会の委員会のスケジュールは、各委員会の理事によって決定されます。スケジュールを決められると、審議を始めるのを遅らせることや、採決を先送りし続けることで審議を長引かせることができます。国会の会期末までに議案が採決されなければ廃案となり、少ない議席数でも、政府に待ったをかけることができます。これも国会議員でなければできないことです。

 どの力も、国会という場で政府の施策に再考を促すことを可能にします。政府に再考を促すことは、政府、もっと言えばその実質的な運営者である官僚の好き勝手を許さないということにつながります。

■野党も国民の代表

 野党であるからには、政府・与党の方針に反対の意見があるはずです。なかったら別の政党として存在している価値がありません。そして、その意見は、単に野党議員の意見であるというだけではなく、野党議員に投票した国民の意見でもあるはずなのです。

 野党は政府・与党に反対の意見を持った国民の代表です。その意見もまた、尊重されなければなりません。野党は、自らを支持した国民の声を届けるためにできるすべてのことをやる義務があるはずです。

 その義務を果たす方法のひとつが、政府・与党の足を引っ張ることなので、ある程度の議事妨害はやむを得ないところだと思います。


補正予算案の審議日程の攻防3


■衆議院通過は2月14日

 2013年2月13日現在。12日の衆議院予算委員会理事会で、補正予算案を14日採決することで合意した、という記事が今朝の朝刊に出ていました。記事によると、与党は13日採決を求めていたようですが、野党に押し切られた形です。

■記者のカレンダー

 補正予算案の実質的な審議は7日から始まっています。14日に衆議院予算委員会で採決された場合、衆議院では5日審議したことになります。慣例として、衆議院と参議院の予算委員会は同じだけ日数をかけることになっているので、参議院でも補正予算案の審議に5日かけることになります。

 以上を踏まえると、補正予算案の審議日程は、最速で次のようなスケジュールになります。

1 2
3 4 5 6 7
衆議院1
8
衆議院2
9
10 11
祝日
12
衆議院3
13
衆議院4
14
衆議院5
衆議院通過
15
G20
16
17 18
参議院1

19
参議院2
20
参議院3
21
参議院4
首相訪米?
22
首相訪米?
23
首相訪米?
24
首相訪米?
25
参議院5
補正成立?
26 27 28 1 2

 時事通信のこの記事で、「(補正予算案の)成立は早くて25日ごろになる」とありますが、この想定を書いた記者の頭の中にあるカレンダーは、これと同じものだと考えられます。