2013」カテゴリーアーカイブ

第183回国会で学んだこと


■第183回国会を追ってみて 

 2013年の通常国会である、第183回国会が6月26日に閉会しました。このブログを始めてから初めての通常国会だったので、以前よりも国会の動きを追うことができたのではないかと思います。

 通常国会最大のテーマは、なんといっても予算審議です。予算審議の流れを追いながら、学んだことがいくつかありました。

■学んだこと

 本を読んでいた時は、参考人質疑は予算審議のひとつのステージで、参考人質疑だけをしている日があると思っていました。

 実際は、予算審議の参考人質疑は、質疑のなかで行われているもので、独立したものではありませんでした。ですから、参考人質疑を予算審議の独立したステージとして考えるのは適当ではなかったのです。予算審議の進捗状況を示した記事で、参考人質疑のところだけ実績が0日になっていたのはそのためです。やってしまいました。

 予算審議の集中審議と一般的質疑は、同じ日に行われることがあるということも発見でした。

 例えば最初の2時間は首相が出席する集中審議をやり、その後首相が退席して一般的質疑になる、という場合があります。ですから、予算審議のステージ別の進捗状況を示すのに、一般的質疑や集中審議の行われた「日数」で数えることはできないのです。それぞれの審議時間で考えるほかありません。とはいえ、予算委員会が開かれた日数自体は、予算審議の総時間数を考える目安にはなります。

 


「内閣総務官室」の文書から考えたこと


■「内閣総務官室」の文書

 2013年6月25日の参議院予算委員会の会議録では、予算委員長だけでなく各会派の議員からも政府の欠席を批判する発言がありました。なかでも、小野次郎議員の発言は面白いです。

 冒頭、政府側の国会との窓口であります内閣総務官室から日付も作成者の署名もない文書が、今朝、国会に届きました。読み上げます。
 六月二十四日付け、国務大臣等の出席御要求について。閣僚などの国会への出席の取扱いについては、国会運営に関する事柄であることから、政府としては、従来から、与野党で協議し合意されたところに従って対応しているところです。今般の御要求に係る件については、与野党の協議で合意されたものでなく、さらに、参院議長に対する不信任決議案も提出され、その処理もなされていない状況にあることから、政府は出席しないことといたします。
(第183回国会 予算委員会 第20号 平成二十五年六月二十五日(火曜日))

 この「内閣総務官室」の文書によれば、政府は「与野党合意」で出席要求されたものを正式な出席要求と考えているようです。だから、今回の野党単独の出席要求に応じる必要はないということになるのです。

■与党と内閣

 確かに、この予算委員会は与野党合意のうえでの開催ではなく、委員長の職権によって開催されたものです。正常な国会は与野党合意の上で議事運営が行われることが原則なので、「内閣総務官室」の文書には一理あります。

 しかし、それを認めてしまうと、与党が反対したら大臣の出席を要求することができなくなってしまいます。これでは、国会による行政の監視が十分にできません。

 もちろん、内閣が与党の意向を無視して出席することは可能でしょう。ですが、日本の仕組みでは、内閣は与党の支持なしには存在できません。与党は内閣の生殺与奪の権利を持っているのです。

 ここに、与党内の少数勢力からなる内閣があったとしましょう。その内閣が与党の反対をおして国会に出席した時、与党による倒閣運動が激化するのは必至です。

 これは、内閣が自由意志で国会に出席する形式であるから問題になるのです。憲法の要請として出席する義務があることがはっきりすれば、与党からとやかくいわれる筋合いはないことになります。

 無用な混乱をうまないためにも、どういうときに大臣の出席義務が発生するのかハッキリさせる必要があると思います。


憲法63条はいつ効力を発揮するのか


■さっぱりわからない

 いまだに、6月24日、25日の参議院予算委員会に与党だけでなく安倍首相をはじめとする大臣も欠席した件について考えています。この件、さっぱりわからないです。

 何かヒントはないかと、公開された6月24日,25日の予算委員会の会議録を読んでみると、参考になる部分がいくつかありました。

■大臣の出席要求の手続きと国会法71条

 まずは、24日の会議録です。24日は参議院予算委員長である石井一議員の発言だけで会議が終わっています。その発言のなかに、以下のような部分がありました。

 委員長といたしましては、質疑者が質疑できる環境を整える必要があると考え、去る二十一日金曜日、安倍内閣総理大臣に対し、通常、事務局を通じて口頭で求めている国務大臣の出席要求を、私から文書で求めております。
(第183回国会 予算委員会 第19号 平成二十五年六月二十四日(月曜日))

 「事務局を通じて口頭で求めている」ということは、大臣の出席要求書みたいな文書があるわけではなさそうです。石井委員長が”わざわざ”といったニュアンスで、「私から文書で求めております。」と言っていることから、そう考えて間違いなさそうです。

 しかし、普段は口頭で求めている、そして今回ですら参議院予算委員長名で出席要求をしているわけですが、「議長」は一体どこで出てくるのでしょうか。

 国会法71条は委員会の大臣出席要求についてこう言っています。

第71条 委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。

 このように「議長を経由して」とあるわけですが、口頭で出席を求めたり、予算委員長名で文書で出席を求める場合、どこでどう「議長を経由して」いるのかどうかよくわかりません。

 国会法71条は、大臣の国会出席義務を定めたとされている憲法63条を実現するための条項だと思われます。国会法71条の要件を満たさなければ、憲法63条もまた効力を発揮しないのではないでしょうか。つまり、大臣の出席義務はないことになります。

■もし、今まで「議長を経由して」いなかったら

 これは今回に限りません、石井委員長の発言に「通常、事務局を通じて口頭で求めている国務大臣の出席要求」とあるからには、普段から口頭で大臣の出席を求めていたわけです。事務局の求めのなかに「議長を経由して」いる部分がない場合、今までの参議院の委員会はすべて大臣に憲法上の出席義務がなかったことになります。

 そうなると、昨年話題になった参議院の決算委員会に民主党政権の大臣が欠席した件も、憲法違反の疑いはなくなります。

 まぁ、考えているだけではわかりませんね。このあたりを解説した資料を、地道に探すしかなさそうです。


大臣に出席を要求する手続きはどうなっているのか?


    まとめ:参議院予算委員会をめぐる現状

  • 政府・与党が参議院予算委員会を2日連続で欠席
  • 野党:参議院予算委員会に大臣が欠席したのは憲法違反。
    (憲法63条:大臣の国会出席義務)
  • 与党:参議院議長は現在不信任決議案を提出されている。事故ある状態だから大臣は呼べない。
    (国会法71条:委員会は議長を経由して大臣を呼ぶ)
  • 参議院は正常な状態ではないため、どちらが正しいとも言いがたい。
  • 憲法63条の要件が不明。今後調べていきたい。

■政府・与党が参議院予算委員会欠席

 2013年6月25日現在。昨日24日と本日、政府と与党は参議院予算委員会を欠席しました。石井予算委員長(民主)などの野党は「憲法63条を無視している」と政府の対応を批判しています。

 憲法63条は、大臣の国会出席義務について書かれています。

第63条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

 条文から判断すると、野党の主張は正しいように思えます。

■大臣に出席を要求する手続きは?

 これに対する与党の言い分として、今朝の読売に自民党の脇参議院国会対策委員長のコメントが載っていました。

「委員会に首相を呼ぶ時は、議長経由で呼ばなくてはならない。(不信任案を受けた議長が)どうして首相を呼べるのか」
(読売新聞2013年6月25日付朝刊)

 確かに、国会法には以下のように書いてあります。

第七十一条  委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。

 この条文によると、大臣を呼ぶ際に議長が何らかの役割を担っていることは間違いなさそうです。

■多用は禁物

 脇国対委員長の言うとおり、平田参議院議長の不信任決議案が参議院に提出されています。議長や委員長の不信任案が出た時は、議長・委員長に代わって別の人間が会議を進めることをふまえると、参議院議長は大臣を呼べる状態ではないというのも一理あります。

 ただ、そうなると政府に都合が悪いことがでたときは、議長の不信任案を出せば国会への説明を回避できるということになります。これでは、憲法63条の趣旨は台無しになります。「議長に事故がないときのみ大臣を呼べる」という確かな先例や慣例がない限り、やたらに使っていい理屈だとは思えません。

 これは、野党にも言えます。24日と25日の予算委員会は、石井委員長が職権で開会を決めたものです。正常な状態なら、与野党の理事で構成される理事会で開会が決まるところを委員長が1人で決めているわけです。これで大臣を国会に出てこさせようとするのも考えものです。当然ながら、大臣にもそれそれスケジュールがあります。急に言われて国会に出れるとは限らないでしょう。まして、総理大臣ならなおさらです。

 また、大臣が出て来ない場合、憲法違反になるのはもちろんですが、同時に国会の権威を大きく傷つけます。出席する見込みもなく、出席させる力もないときにやたらに呼びつけても無視されるだけです。現にそうなっています。これでは参議院の権威が危ういです。

 与党の理屈も野党の理屈も、常に使えるものではないように思います。実際にどういう手続で大臣を呼んでいるのか、憲法63条が効力を持つにはどのような要件が必要なのかなどがはっきりするとわかりやすいんですけどね。どうも、憲法違反という重大な事態を招かないように、わざとぼかしているような感じがします。憲法63条と国会法71条の実際については調べる価値がありそうです。


みなし否決のとき、再可決の手続きはどうなるか?


    まとめ:みなし否決による再可決の流れ

  • 1.法案が参議院で否決されたとみなす動議を衆議院に提出
  • 2.動議を本会議で可決
  • 3.参議院から法案が返付
  • 4.法案の再議決を求める動議を衆議院に提出(21:17追記)
  • 5.法案を衆議院本会議で再可決

■再可決の流れ

 2013年6月24日現在。本日、「0増5減」の区割り法案が衆議院で再可決される見込みです。NHKの記事によると、午前中に「0増5減」が憲法の規程により参議院で「みなし否決」されたとみなす動議を衆議院に提出しするところから手続きは始まります。この動議が午後1時から始まる衆議院本会議で可決されると、次の段階にうつります。

そして、参議院から法案が戻りしだい、改めて衆議院本会議が開かれ、法案は、自民・公明両党をはじめとする3分の2以上の賛成多数で再可決されて、成立する見通しです。
NHK NEWSWEB:「区割り見直し法案 再可決で成立へ」

 この「法案が戻りしだい」という部分に注目しました。紙なのかなんなのかわかりませんが、実体のある「法案」というものが存在し、それが衆議院と参議院の間を行き来しているのでしょう。

 そして、どうも可決するには「法案」がその院になければならないようです。これは、非常に面白いです。妄想すると、「法案」が衆議院にたどり着くのを妨害して、会期末のいっぱいまで粘れば、再可決させないことも可能なのかもしれません。

 もしかしたら、国会の書類がすべて電子化されても、「法案」を一度参議院から衆議院に送信する手続きをしなければ、衆議院で議題にできないのかもしれません。


「0増5減」vs「18増23減」:なぜ調整の動きが見られないのか


    まとめ

  • 「0増5減」の区割り法案も「18増23減」法案も参議院での審議はなさそう
  • 自民党・民主党・みんなの党は自党の意見表明に終始
  • 調整する動きがみられないのは、「0増5減」の区割り法案の成立が確実なため

■委員会付託からの流れ

 2013年6月23日現在。やっと委員会に付託された「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案ですが、参議院で審議しないまま「0増5減」が衆議院で再可決される見込みです。

 まず、「0増5減」を先行審議したい与党と、「0増5減」と「18増23減」を同時審議したい野党が委員会の議事運営について揉めます。この件は、両法案が付託された政治倫理・選挙制度特別委員会理事会において、轟木利治委員長(民主)が職権で6月19日に同時審議することを決定し決着します。

 与党はこの決定に反発し、理事会を欠席しました。当初、与党は19日の委員会に出席するかどうかも微妙な情勢でしたが、最終的には出席して「0増5減」の即日採決を求めることに決めました。

 19日。「理事会で質疑の申し出がなかった」ということで、自公に委員会での質疑時間が割り振られていないことが判明します。これに与党は猛反発し、轟木委員長の不信任動議を提出します。このため、この日の委員会は流会となり、21日に不信任動議を採決してから審議する予定になりました。

 そして、みなし否決前の最後の平日である21日。与党は、参議院議院運営委員会理事会で、本会議で予定された議事日程が消化されたあと、本会議を休憩することを提案しました。理由は、みなし否決前に「0増5減」の本会議採決の可能性を残すためです。

 しかし、野党は「審議時間が足りない」とこの提案を拒否します。参院議長もこれに同調し、議長は本会議の散会を宣言しました。理事会では結論が出なかったため、議院運営委員会で予定された日程を消化したあと休憩するか散会するか採決をとり、散会することを決めました。その後、議運の決定通り本会議で日程を処理し、議長は散会を宣言します。与党は、本会議を散会した議長の対応を「審議の機会を奪う横暴な議事運営だ」として議長の不信任決議を提出します。

 これでみなし否決前に参議院は採決はおろか審議することもできず、「0増5減」の区割り法案は明日24日にも衆議院で再可決されます。

■各党の態度

 この流れ、非常に不可解です。民主党の委員長が与党に質疑時間を割り振らなかった意味がわかりません。そんなことしたら、反発するに決まっています。

 与党が運営する委員会なら、原則として野党が審議拒否していたとしても、委員会ではその会派の持ち時間をしっかり消費します。持ち時間が終わるまで、みんなで待つわけです。このような一見無駄なことをするのも、ちゃんと審議したという実績を作るためです。審議するために国会があり、国会で審議のうえ可決されたものが法律になるのですから、当然です。

 この他にも、民主党は月初めに出した「18増23減」法案を委員会に付託する動議も採決をまたず撤回したりと、不可解な点が多いです。参議院で「0増5減」の区割り法案も「18増23減」法案も審議したくないんじゃないかと勘ぐりたくなってきます。

 同じことは自民党にも言えます。どうしてそこまで同時審議を拒否したのかわかりません。確かに、「0増5減」の区割り法案を先行審議すれば、参議院での採決はそれだけ早まるでしょう。しかし、野党が同時審議を主張している以上、それを頭から拒否しては話が進みません。

 そして、みんなの党はどうでしょうか。みんなの党は「18増23減」法案の方が「0増5減」よりも1票の格差が少なくなると主張しています。しかし、この法案を提出したのは5月17日で、衆議院で「0増5減」が可決した4月23日からひと月近く経っています。

 これはいくらなんでも遅すぎです。例えば、平成5年の128回国会で日本共産党が参議院に提出した公職選挙法改正案は、内閣提出の公職選挙法改正案が衆議院で可決された1993年11月18日に提出済(*1)です。どうして、もっと早く提出しなかったのでしょうか。

 もし、通常の法案のように参議院送付後すぐに「0増5減」が委員会に付託されて審議していたら、「18増23減」法案を提出するころには「0増5減」が採決されていたかもしれません。「18増23減」の考え方はいいのでしょうが、この法案の審議は参議院での「0増5減」の早期付託拒否戦術が前提となっています。最初から民主党の議事妨害の手段として利用された感が否めません。

 このように、各党は自らの立場の表明に終始し、調整する様子がまったく見られませんでした。

■「0増5減」は確実に成立する

 各党がそれぞれの立場の正論を主張して、調整する気配がないのは「0増5減」の区割り法案の成立が確実なためです。どんなに紛糾しようと、与党が衆議院で再可決すれば、「0増5減」は成立します。

 ある意味ですでに結論は決まっているわけです。ですから、安心して自党の主張を貫き通すことができます。調整の必要などないのです。

*1…ちなみにこの128回国会の例により、参議院先議の形で衆議院の選挙制度改革法案を審議した前例があることがわかります。

*2013年6月28日一部修正(太字、取り消し線)


廃案と継続審議の違い(決定版)


    まとめ

  • 継続審議はセーブ
  • 廃案はセーブデータの消滅
  • 会期がまたがると、前の会期で可決した院のセーブデータは消滅する
  • 法案の成立には、原則、同一会期中に両院で可決することが必要

以前『廃案と継続審議の違い』という記事を書きました。この記事は、先議の院で可決された法案が後議の院で継続審議になった場合だけをみて、「廃案と継続審議に違いはない」としています。ちょっと考え過ぎというか、視野が狭いものになっているので、改めて廃案と継続審議について整理したいと思います。

■継続審議の意義

継続審議のメリットは、それまでに行った審議過程を活かすことができるという点にあります。委員会に付託されていたら次は付託されたところから始まり、法案の提案理由説明が終わっていたら次は質疑から始まるわけです。「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案の対立をみてもわかる通り、法案を委員会に付託するだけでも大仕事になることがあるので、これは結構便利です。ゲームで言えば「セーブ」ですね。

これが廃案になってしまうと最初からやり直しです。それも、法案の提出からやり直しになります。例えば、内閣提出法案なら閣議決定をもう一度行うことになります。(*1)まだ調べきれてないのですが、おそらく閣議にかけるために必要な内閣法制局の審査もしなければならないでしょう。党内手続きもやり直しになるかもしれません。政府・与党からすれば、このやり直しは相当な損失になります。そのためか、全く審議が進んでいない、提出しただけの法案もよく継続審議になっています。廃案のダメージは、セーブデータが消えてしまった状態に近いと思います。

■継続審議の限界

ただ、継続審議にも限界があります。継続審議の効果は、継続審議を決定した院でのみ有効なのです。例えば、衆議院で可決した法案が参議院で継続審議になった場合、次の会期に参議院で可決しただけでは法案は成立しないということです。

これは会期不継続の原則がひとつひとつの案件を一会期内に限るだけでなく、議決の効力も一会期内に限定しているために起こります。先ほどの例で言えば、衆議院の議決(この場合可決)は次の会期には「なかったこと」になるわけです。

ですから、この法案を成立させるにはその会期中に再度衆議院で可決されなければならないのです。場合によっては両院で計4回可決してやっと成立することもあります。表にすると以下のようになります。(カッコ内の数字は議決の順番)

会期1 会期2 会期3
衆議院 可決(1) 継続審議 可決(3)
参議院 継続審議 可決(2) 可決(4)
結果 未成立 未成立 成立

また、参議院では継続審議によって審査過程を「セーブ」することを公式に認めていますが、衆議院では認めていません。衆議院は、会期不継続の原則によって審査過程も次の会期で消滅すると考えているので、建前上は継続審議になった法案を改めて委員会に付託しています。ですから、法案によっては改めて提案理由説明を行ったりすることがあります。

以上の点で継続審議の効力には限界があります。しかし、それでも貴重な審議時間を節約する方法であることに違いはありません。廃案に比べたらマシなのです。

 

*1…例えば、昨年大変話題になった特例公債法案は、通常国会で廃案になったあと、再び閣議決定して臨時国会に再提出しています。(bloomberg.co.jp:『財務相:特例公債法案を閣議決定、再提出へ?減額補正は提案受け検討』

参考文献


「0増5減」vs「18増23減」:野党に花をもたせる与党?


 2013年6月9日現在。6月7日、自民党と民主党は「0増5減」の区割り法案の審議入りで合意しました。詳しい話し合いは6月10日に行うようですが、何かあっけないというか、何かがくすぶっているような感じがします。

■なぜ6月7日に話がついたのか

 6月7日に事態が動くのではないかとは、4つのパターンを考えていた時うすうす感じていました。以下の記事を読んでいたからです。

 野党側がこだわる背景には、6月9日までに法案が成立、公布された場合、必要とされる1か月間の周知期間を経て「7月9日公示-21日投開票」の衆院選が可能となることがある。
(読売新聞「参院本会議 延び延び」2013年6月4日朝刊)

 読売の見立てでは、野党は衆院選と参院選のダブル選挙を避けるのに躍起になっているというのです。なぜ野党がダブル選挙を嫌うのかというと、今まで2度行われたダブル選挙はすべて与党が勝利しているからです。

 しかも、各メディアによる世論調査でも、安倍内閣の支持率は60%をゆうに超えています。この状態で選挙になったら、衆議院の議席数はあまり変化がないにしても、参議院で与党に過半数を握られて、野党が今までのような力を失ってしまうかもしれません。

 読売の見立て通り、民主党は「ダブル選挙を避けるため「0増5減」の区割り法案の成立が6月9日よりあとになりさえすればいい」と考えているのだとします。6月9日は日曜なので、最後の平日は6月7日金曜日です。民主党は6月7日まで粘ればいいのであって、そのあと審議に応じればダブル選挙回避という目的は達成できるわけです。

■しっくりこなかった

 このような可能性をうすうす感じていたのに、記事に書けなかったのは何かしっくりこないものがあったからです。

 「0増5減」をめぐる参議院の攻防は、当初、野党が審議入りに応じないというところに焦点がありました。ですが、途中から「18増23減」法案がでてきて「与党が「18増23減」法案の審議入りを認めないから審議が進まない」と、焦点が与党の対応に移っていきます。

 この、与党が「18増23減」の審議を認めないことのメリットがわかりません。「衆議院の選挙制度改革案が参議院先議ではおかしい」というのは単なる理屈です。なんとしても審議して「0増5減」を早期に成立させようという与党の意気込みが見えてこないような気がします。「18増23減」の大義については野党から様々な発信がありますが、与党は「0増5減」の大義名分をあんまり熱心に訴えている様子がありません。少なくとも報道にはでてきません。

■仮説

 どうして与党の動きが鈍いように感じるのでしょうか。

 読売の見立てを前提として仮説を組み立ててみます。

  1. 野党としては6月9日までの成立は絶対阻止したい。
  2. そのためには審議入りを遅らせるのが一番いい。
  3. 審議入りを遅らせるには、法案を吊るしておく(委員会に付託せず放っておく)ことがいい。
  4. 単に吊るしておくだけではだめだ。与党に責任の一端を追わせたい。
  5. 「0増5減」を廃止する「18増23減」の審議入りを求めよう。
  6. 「18増23減」を委員会に付託する動議を出して、より与党の責任を明確にしよう。(5月29日)
  7. 目論見通り「18増23減」の委員会付託を与党が拒否した。これで野党だけの責任ではなくなる。
  8. めでたく6月7日も終わりに近づいた。ダブル選挙を行うには時間切れになった。さぁ、お互い話をつけよう。審議しないまま再可決されては、参議院の存在意義が問われてしまう。

 こう考えた時にもっとも納得いかない点が、6です。ここがいちばんよくわりません。なぜなら、与党は6月7日にあっさり「18増23減」を「付託するだけなら(審議しないなら)良し」と、委員会付託に賛成しているからです。じゃあ最初からそうすればいいじゃないかと思うのです。

■野党に花をもたせる野党

 そもそも、今国会における与党の国会戦略のキーワードは「安全運転」です。7月の参議院選挙に勝利するため、批判を受けるような無理な強行採決や再可決などはしないという方針のはずです。そう考えると、今回の騒動は、与党が野党に付き合ってあげたのかもしれません。

 「0増5減」の区割り法案は、与党があきらめなければ、会期末までにに確実に衆議院で再可決して成立させることができます。もう勝敗は決していると言っていいでしょう。でも、それだけでは野党がかわいそうです。あまり野党を追い詰めると、捨て身の攻撃に出て今回の騒動なんか目じゃないくらいの混乱に陥る可能性があります。そうしないためにも、野党にアピールの場を与える場所が必要だったのかもしれません。


「0増5減」vs「18増23減」:4つのパターン


 2013年6月4日現在。参議院でもめている「0増5減」の区割り法案(以下政府案)と「18増23減」法案(みんな案)はそれぞれどうなるでしょうか。それぞれの法案を「審議する」「審議しない」という観点で整理すると、4つのパターンがありえます。

■パターン1:両方審議する

 与野党間でなんらかの話がつき、両方の法案を委員会に付託し、審議するパターンです。みんな案は野党の賛成で問題なく委員会に付託されるでしょう。しかし、与党は法案付託を決める参議院議院運営委員会で過半数を確保していないため、政府案が確実に委員会に付託される保証はありません。

■パターン2:みんな案のみ審議する

 たとえば、議員運営委員会委員長が解任され、民主党の議員に交代するパターンです。そして、5月29日に出されたみんな案を委員会に付託する動議を即決し、委員会にみんな案を付託します。政府案はぎりぎりまで放っておきます。

■パターン3:政府案のみ審議する

 なんらかの理由で、民主党が動議を撤回し、かつ、政府案を委員会に付託するパターンです。たとえば、「これ以上延ばしたら、参議院で一度も審議ないうちに政府案が衆議院で再可決されてしまい、参議院の権威に傷が付く(=参議院不要論につながる)」というところで、このパターンになる可能性があるでしょう。

■パターン4:両方審議しない

 このまま膠着状態で会期末までいってしまうパターンです。このパターンには、なんだかんだいって本会議は開くパターンと、議運が紛糾し続け本会議も開けないパターンがありえます。後者はもっともまずいパターンです。

■共通するポイント

 パターン4を除くと、議運に出された動議を何とかしなければなりません。動議を放置し続けるのは、可能性としては存在します。しかし、放置は委員長解任によって中断させることができます。野党が委員長解任を本気で目指した場合、与党はこの動議に向き合わざるを得ません。

 ただ、野党がそこまで強硬でない場合、話は別です。今朝(6月4日)の読売朝刊に「6月5日に参議院本会議が開かれる見込みである」という記事がありました。これは、パターン4の本会議を開くパターンにあたります。

 参議院の予定を知らせる参議院公報によると、本日議院運営委員会理事会がセットされているので、明日に参議院本会議が開かれる可能性は結構高いのではないかと思います。

 本会議が開かれる場合、(理事会ではなく)議院運営委員会もその直前に開かれるものと思われます。動議が出てから初の委員会となるので、どうなるか楽しみです。


「0増5減」vs「18増23減」:議院運営委員会での攻防


■議院運営委員会での攻防

 2013年6月1日現在。衆議院議員選挙の選挙区割に関する法律の取り扱いを巡って、参議院が熱いです。

 4月に衆議院で可決された、内閣提出の「0増5減」の区割り法案は、参議院で未だに審議されていません。そもそも、審議の前提となる法案の委員会への付託が行われていません。委員会への付託は法案審議のスタート地点なので、審議は全く行われていないと言っていいです。

 そんななか、5月29日の参議院議院運営委員会で、民主党はみんなの党が提出した「18増23減」法案の委員会付託を求める動議を提出しました。動議とは、その日の会議の予定にない案件を議題にすることです。

 当日の会議録では、以下のようになっています。

○委員長(岩城光英君) ただいまから議院運営委員会を開会いたします。
○小見山幸治君 私は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法の一部を改正する等の法律案については、本会議で趣旨説明を聴取することなく政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託することの動議を提出いたします。
○委員長(岩城光英君) 速記を止めてください。
   〔速記中止〕
○委員長(岩城光英君) 速記を起こしてください。
 ただいまの小見山君提出の動議の取扱いにつきましては、理事会で協議いたします。
(第183回国会 議院運営委員会 第28号 平成二十五年五月二十九日(水曜日)より)

 大抵の場合、動議が出されると委員長がただちに委員に動議を議題にすることに対する賛否を諮り、議事日程に加えられます。ところが、今回は理事会に協議するということで、結論を出すのを避けています。

 参考に、今回の逆パターン、衆議院議院運営委員会で4月に「0増5減」の区割り法案を強行付託したときの会議録を見てみましょう。

○佐田委員長 (前略)
 趣旨説明を聴取する議案の件について御協議願います。
 高木毅君。
○高木(毅)委員 動議を提出いたします。
 内閣提出、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案は、本会議において趣旨説明を聴取しないこととし、議長において政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されることを望みます。
○佐田委員長 佐々木憲昭君。
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 (前略)
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。
 (中略)
 以上で意見表明といたします。
○佐田委員長 それでは、高木毅君の動議に賛成の諸君の挙手を求めます。
    〔賛成者挙手〕
○佐田委員長 挙手多数。よって、そのように決定いたしました。
(第183回国会 議院運営委員会 第20号 平成二十五年四月十六日(火曜日)より)

 途中で共産党の意見表明があったものの、動議が提出されたらただちに採決しています。この動議の取り扱いの違いはどこからくるのでしょうか。

■議院運営委員会委員長ポストの重要性

 衆議院の議院運営委員長は与党自民党の議員です。「0増5減」の区割り法案の付託については与党の意向にそっているので、委員長はただちに動議を処理してしまいます。衆議院の議院運営委員会は与党議員で委員の過半数を占めているので、決をとればかならず与党の思い通りになるからです。

 参議院の議院運営委員長も与党議員です。しかし、「18増23減」は衆議院で可決した「0増5減」の区割り法案を否定するものであり、委員会に付託されることは与党にとってあまり都合のよいことではありません。参議院の議院運営委員会は野党が過半数を占めているので、採決すると必ず動議の通り付託されてしまいます。だから、委員長は動議の取り扱いを理事会で協議して時間を稼いだわけです。これも、委員長が議事進行をある程度左右できる権能、議事整理権のひとつなのだと思います。

 もし、参議院の議院運営委員長が野党議員だったら、後に引用した衆議院の例のようにただちに動議が処理され、賛成多数で動議の通り「18増23減」法案は付託されたでしょう。与党が議院運営委員長のポストをおさえていたことで、試合を延長戦に持ち込むことができたと言えます。

■議院運営委員会と本会議

 議院運営委員会は本会議の議事日程を決定する役割も担っているので、議院運営委員会ががたついていると国会全体がグラグラしてしまいます。現に、29日の動議を巡って参議院の議院運営委員会理事会は紛糾し、5月31日の議院運営委員会を開けなかったため、予定されていた本会議を開くことができませんでした。当然、その本会議で採決する予定だった案件はすべておあずけになってしまいます。

 6月26日の通常国会会期末まで、審議できる時間はあとわずかです。どんどん衆議院から送られてくる法案を処理するため、参議院はますます忙しくなってきます。そんなときに本会議を開けないというのでは困るので、与党としてはなるべく早くこの問題を解決したいところでしょう。

 どう決着がつくのか、少し楽しみです。