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憲法63条はいつ効力を発揮するのか


■さっぱりわからない

 いまだに、6月24日、25日の参議院予算委員会に与党だけでなく安倍首相をはじめとする大臣も欠席した件について考えています。この件、さっぱりわからないです。

 何かヒントはないかと、公開された6月24日,25日の予算委員会の会議録を読んでみると、参考になる部分がいくつかありました。

■大臣の出席要求の手続きと国会法71条

 まずは、24日の会議録です。24日は参議院予算委員長である石井一議員の発言だけで会議が終わっています。その発言のなかに、以下のような部分がありました。

 委員長といたしましては、質疑者が質疑できる環境を整える必要があると考え、去る二十一日金曜日、安倍内閣総理大臣に対し、通常、事務局を通じて口頭で求めている国務大臣の出席要求を、私から文書で求めております。
(第183回国会 予算委員会 第19号 平成二十五年六月二十四日(月曜日))

 「事務局を通じて口頭で求めている」ということは、大臣の出席要求書みたいな文書があるわけではなさそうです。石井委員長が”わざわざ”といったニュアンスで、「私から文書で求めております。」と言っていることから、そう考えて間違いなさそうです。

 しかし、普段は口頭で求めている、そして今回ですら参議院予算委員長名で出席要求をしているわけですが、「議長」は一体どこで出てくるのでしょうか。

 国会法71条は委員会の大臣出席要求についてこう言っています。

第71条 委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。

 このように「議長を経由して」とあるわけですが、口頭で出席を求めたり、予算委員長名で文書で出席を求める場合、どこでどう「議長を経由して」いるのかどうかよくわかりません。

 国会法71条は、大臣の国会出席義務を定めたとされている憲法63条を実現するための条項だと思われます。国会法71条の要件を満たさなければ、憲法63条もまた効力を発揮しないのではないでしょうか。つまり、大臣の出席義務はないことになります。

■もし、今まで「議長を経由して」いなかったら

 これは今回に限りません、石井委員長の発言に「通常、事務局を通じて口頭で求めている国務大臣の出席要求」とあるからには、普段から口頭で大臣の出席を求めていたわけです。事務局の求めのなかに「議長を経由して」いる部分がない場合、今までの参議院の委員会はすべて大臣に憲法上の出席義務がなかったことになります。

 そうなると、昨年話題になった参議院の決算委員会に民主党政権の大臣が欠席した件も、憲法違反の疑いはなくなります。

 まぁ、考えているだけではわかりませんね。このあたりを解説した資料を、地道に探すしかなさそうです。


大臣に出席を要求する手続きはどうなっているのか?


    まとめ:参議院予算委員会をめぐる現状

  • 政府・与党が参議院予算委員会を2日連続で欠席
  • 野党:参議院予算委員会に大臣が欠席したのは憲法違反。
    (憲法63条:大臣の国会出席義務)
  • 与党:参議院議長は現在不信任決議案を提出されている。事故ある状態だから大臣は呼べない。
    (国会法71条:委員会は議長を経由して大臣を呼ぶ)
  • 参議院は正常な状態ではないため、どちらが正しいとも言いがたい。
  • 憲法63条の要件が不明。今後調べていきたい。

■政府・与党が参議院予算委員会欠席

 2013年6月25日現在。昨日24日と本日、政府と与党は参議院予算委員会を欠席しました。石井予算委員長(民主)などの野党は「憲法63条を無視している」と政府の対応を批判しています。

 憲法63条は、大臣の国会出席義務について書かれています。

第63条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

 条文から判断すると、野党の主張は正しいように思えます。

■大臣に出席を要求する手続きは?

 これに対する与党の言い分として、今朝の読売に自民党の脇参議院国会対策委員長のコメントが載っていました。

「委員会に首相を呼ぶ時は、議長経由で呼ばなくてはならない。(不信任案を受けた議長が)どうして首相を呼べるのか」
(読売新聞2013年6月25日付朝刊)

 確かに、国会法には以下のように書いてあります。

第七十一条  委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。

 この条文によると、大臣を呼ぶ際に議長が何らかの役割を担っていることは間違いなさそうです。

■多用は禁物

 脇国対委員長の言うとおり、平田参議院議長の不信任決議案が参議院に提出されています。議長や委員長の不信任案が出た時は、議長・委員長に代わって別の人間が会議を進めることをふまえると、参議院議長は大臣を呼べる状態ではないというのも一理あります。

 ただ、そうなると政府に都合が悪いことがでたときは、議長の不信任案を出せば国会への説明を回避できるということになります。これでは、憲法63条の趣旨は台無しになります。「議長に事故がないときのみ大臣を呼べる」という確かな先例や慣例がない限り、やたらに使っていい理屈だとは思えません。

 これは、野党にも言えます。24日と25日の予算委員会は、石井委員長が職権で開会を決めたものです。正常な状態なら、与野党の理事で構成される理事会で開会が決まるところを委員長が1人で決めているわけです。これで大臣を国会に出てこさせようとするのも考えものです。当然ながら、大臣にもそれそれスケジュールがあります。急に言われて国会に出れるとは限らないでしょう。まして、総理大臣ならなおさらです。

 また、大臣が出て来ない場合、憲法違反になるのはもちろんですが、同時に国会の権威を大きく傷つけます。出席する見込みもなく、出席させる力もないときにやたらに呼びつけても無視されるだけです。現にそうなっています。これでは参議院の権威が危ういです。

 与党の理屈も野党の理屈も、常に使えるものではないように思います。実際にどういう手続で大臣を呼んでいるのか、憲法63条が効力を持つにはどのような要件が必要なのかなどがはっきりするとわかりやすいんですけどね。どうも、憲法違反という重大な事態を招かないように、わざとぼかしているような感じがします。憲法63条と国会法71条の実際については調べる価値がありそうです。


みなし否決のとき、再可決の手続きはどうなるか?


    まとめ:みなし否決による再可決の流れ

  • 1.法案が参議院で否決されたとみなす動議を衆議院に提出
  • 2.動議を本会議で可決
  • 3.参議院から法案が返付
  • 4.法案の再議決を求める動議を衆議院に提出(21:17追記)
  • 5.法案を衆議院本会議で再可決

■再可決の流れ

 2013年6月24日現在。本日、「0増5減」の区割り法案が衆議院で再可決される見込みです。NHKの記事によると、午前中に「0増5減」が憲法の規程により参議院で「みなし否決」されたとみなす動議を衆議院に提出しするところから手続きは始まります。この動議が午後1時から始まる衆議院本会議で可決されると、次の段階にうつります。

そして、参議院から法案が戻りしだい、改めて衆議院本会議が開かれ、法案は、自民・公明両党をはじめとする3分の2以上の賛成多数で再可決されて、成立する見通しです。
NHK NEWSWEB:「区割り見直し法案 再可決で成立へ」

 この「法案が戻りしだい」という部分に注目しました。紙なのかなんなのかわかりませんが、実体のある「法案」というものが存在し、それが衆議院と参議院の間を行き来しているのでしょう。

 そして、どうも可決するには「法案」がその院になければならないようです。これは、非常に面白いです。妄想すると、「法案」が衆議院にたどり着くのを妨害して、会期末のいっぱいまで粘れば、再可決させないことも可能なのかもしれません。

 もしかしたら、国会の書類がすべて電子化されても、「法案」を一度参議院から衆議院に送信する手続きをしなければ、衆議院で議題にできないのかもしれません。


廃案と継続審議の違い(決定版)


    まとめ

  • 継続審議はセーブ
  • 廃案はセーブデータの消滅
  • 会期がまたがると、前の会期で可決した院のセーブデータは消滅する
  • 法案の成立には、原則、同一会期中に両院で可決することが必要

以前『廃案と継続審議の違い』という記事を書きました。この記事は、先議の院で可決された法案が後議の院で継続審議になった場合だけをみて、「廃案と継続審議に違いはない」としています。ちょっと考え過ぎというか、視野が狭いものになっているので、改めて廃案と継続審議について整理したいと思います。

■継続審議の意義

継続審議のメリットは、それまでに行った審議過程を活かすことができるという点にあります。委員会に付託されていたら次は付託されたところから始まり、法案の提案理由説明が終わっていたら次は質疑から始まるわけです。「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案の対立をみてもわかる通り、法案を委員会に付託するだけでも大仕事になることがあるので、これは結構便利です。ゲームで言えば「セーブ」ですね。

これが廃案になってしまうと最初からやり直しです。それも、法案の提出からやり直しになります。例えば、内閣提出法案なら閣議決定をもう一度行うことになります。(*1)まだ調べきれてないのですが、おそらく閣議にかけるために必要な内閣法制局の審査もしなければならないでしょう。党内手続きもやり直しになるかもしれません。政府・与党からすれば、このやり直しは相当な損失になります。そのためか、全く審議が進んでいない、提出しただけの法案もよく継続審議になっています。廃案のダメージは、セーブデータが消えてしまった状態に近いと思います。

■継続審議の限界

ただ、継続審議にも限界があります。継続審議の効果は、継続審議を決定した院でのみ有効なのです。例えば、衆議院で可決した法案が参議院で継続審議になった場合、次の会期に参議院で可決しただけでは法案は成立しないということです。

これは会期不継続の原則がひとつひとつの案件を一会期内に限るだけでなく、議決の効力も一会期内に限定しているために起こります。先ほどの例で言えば、衆議院の議決(この場合可決)は次の会期には「なかったこと」になるわけです。

ですから、この法案を成立させるにはその会期中に再度衆議院で可決されなければならないのです。場合によっては両院で計4回可決してやっと成立することもあります。表にすると以下のようになります。(カッコ内の数字は議決の順番)

会期1 会期2 会期3
衆議院 可決(1) 継続審議 可決(3)
参議院 継続審議 可決(2) 可決(4)
結果 未成立 未成立 成立

また、参議院では継続審議によって審査過程を「セーブ」することを公式に認めていますが、衆議院では認めていません。衆議院は、会期不継続の原則によって審査過程も次の会期で消滅すると考えているので、建前上は継続審議になった法案を改めて委員会に付託しています。ですから、法案によっては改めて提案理由説明を行ったりすることがあります。

以上の点で継続審議の効力には限界があります。しかし、それでも貴重な審議時間を節約する方法であることに違いはありません。廃案に比べたらマシなのです。

 

*1…例えば、昨年大変話題になった特例公債法案は、通常国会で廃案になったあと、再び閣議決定して臨時国会に再提出しています。(bloomberg.co.jp:『財務相:特例公債法案を閣議決定、再提出へ?減額補正は提案受け検討』

参考文献


「0増5減」vs「18増23減」:議院運営委員会での攻防


■議院運営委員会での攻防

 2013年6月1日現在。衆議院議員選挙の選挙区割に関する法律の取り扱いを巡って、参議院が熱いです。

 4月に衆議院で可決された、内閣提出の「0増5減」の区割り法案は、参議院で未だに審議されていません。そもそも、審議の前提となる法案の委員会への付託が行われていません。委員会への付託は法案審議のスタート地点なので、審議は全く行われていないと言っていいです。

 そんななか、5月29日の参議院議院運営委員会で、民主党はみんなの党が提出した「18増23減」法案の委員会付託を求める動議を提出しました。動議とは、その日の会議の予定にない案件を議題にすることです。

 当日の会議録では、以下のようになっています。

○委員長(岩城光英君) ただいまから議院運営委員会を開会いたします。
○小見山幸治君 私は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法の一部を改正する等の法律案については、本会議で趣旨説明を聴取することなく政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託することの動議を提出いたします。
○委員長(岩城光英君) 速記を止めてください。
   〔速記中止〕
○委員長(岩城光英君) 速記を起こしてください。
 ただいまの小見山君提出の動議の取扱いにつきましては、理事会で協議いたします。
(第183回国会 議院運営委員会 第28号 平成二十五年五月二十九日(水曜日)より)

 大抵の場合、動議が出されると委員長がただちに委員に動議を議題にすることに対する賛否を諮り、議事日程に加えられます。ところが、今回は理事会に協議するということで、結論を出すのを避けています。

 参考に、今回の逆パターン、衆議院議院運営委員会で4月に「0増5減」の区割り法案を強行付託したときの会議録を見てみましょう。

○佐田委員長 (前略)
 趣旨説明を聴取する議案の件について御協議願います。
 高木毅君。
○高木(毅)委員 動議を提出いたします。
 内閣提出、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案は、本会議において趣旨説明を聴取しないこととし、議長において政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されることを望みます。
○佐田委員長 佐々木憲昭君。
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 (前略)
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。
 (中略)
 以上で意見表明といたします。
○佐田委員長 それでは、高木毅君の動議に賛成の諸君の挙手を求めます。
    〔賛成者挙手〕
○佐田委員長 挙手多数。よって、そのように決定いたしました。
(第183回国会 議院運営委員会 第20号 平成二十五年四月十六日(火曜日)より)

 途中で共産党の意見表明があったものの、動議が提出されたらただちに採決しています。この動議の取り扱いの違いはどこからくるのでしょうか。

■議院運営委員会委員長ポストの重要性

 衆議院の議院運営委員長は与党自民党の議員です。「0増5減」の区割り法案の付託については与党の意向にそっているので、委員長はただちに動議を処理してしまいます。衆議院の議院運営委員会は与党議員で委員の過半数を占めているので、決をとればかならず与党の思い通りになるからです。

 参議院の議院運営委員長も与党議員です。しかし、「18増23減」は衆議院で可決した「0増5減」の区割り法案を否定するものであり、委員会に付託されることは与党にとってあまり都合のよいことではありません。参議院の議院運営委員会は野党が過半数を占めているので、採決すると必ず動議の通り付託されてしまいます。だから、委員長は動議の取り扱いを理事会で協議して時間を稼いだわけです。これも、委員長が議事進行をある程度左右できる権能、議事整理権のひとつなのだと思います。

 もし、参議院の議院運営委員長が野党議員だったら、後に引用した衆議院の例のようにただちに動議が処理され、賛成多数で動議の通り「18増23減」法案は付託されたでしょう。与党が議院運営委員長のポストをおさえていたことで、試合を延長戦に持ち込むことができたと言えます。

■議院運営委員会と本会議

 議院運営委員会は本会議の議事日程を決定する役割も担っているので、議院運営委員会ががたついていると国会全体がグラグラしてしまいます。現に、29日の動議を巡って参議院の議院運営委員会理事会は紛糾し、5月31日の議院運営委員会を開けなかったため、予定されていた本会議を開くことができませんでした。当然、その本会議で採決する予定だった案件はすべておあずけになってしまいます。

 6月26日の通常国会会期末まで、審議できる時間はあとわずかです。どんどん衆議院から送られてくる法案を処理するため、参議院はますます忙しくなってきます。そんなときに本会議を開けないというのでは困るので、与党としてはなるべく早くこの問題を解決したいところでしょう。

 どう決着がつくのか、少し楽しみです。


予算が否決されてから成立するまで


 2013年5月16日現在。昨日15日、2013年度予算が成立しました。2月に成立した2012年度補正予算は衆参両院で可決しているのですが、2013年度予算は参議院で否決されました。どのような手続きを踏んで予算が成立したのでしょうか。少し流れを追ってみます。

■参議院本会議で否決

 まず、参議院予算委員会で予算案が採決され、野党の反対多数で否決されます。次に、参議院本会議で予算委員長が報告したのち、採決され、野党の反対多数で否決されます。

■両院協議会開会

 参議院本会議で予算案が否決されたことで、すでに予算案を可決している衆議院の議決と不一致になってしまいました。衆議院は両院協議会を開くことを参議院に請求します。ここで、衆参の意見を調整するため、両院協議会が開かれます。協議委員は、衆参から10名ずつ選出されます。

■衆議院の議決が国会に議決となり、成立

 15日午後9時半ごろから両院協議会を開いたものの、衆参の意見は一致しませんでした。事ここに至って、憲法60条2項により、衆議院の議決が国会としての決定になり、2013年度予算が成立することになりました。衆議院の議事経過によると、議長が衆議院の議決が国会の議決となったことを告げ、本会議が散会になったのは、午後10時44分のことでした。

憲法60条2項
 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。


議事整理権について


■議事整理権

 議事整理権という言葉があります。議事整理権とは、会議の議長が議事進行を左右できる権利です。具体的には、会議を開くこと、休憩すること、そして、発言を許すか許さないかなどを決定することができます。

 国会の場合は、本会議では議長が、委員会では委員長が議事整理権を持っています。しかし、いつも議長や委員長が単独で議事整理権を行使しているわけではありません。本会議では議院運営委員会が、委員会では理事会がそれぞれ協議して決めています。

 そして、普通は議院運営委員会や理事会で協議したとおりに会議が進むため、議長や委員長の議事整理権はあまり目立ちません。むしろ、目立たないということは、完全に協議通りに、つまり事前の台本通りに会議が進行しているということであり、議事整理権が適切に行使されていることを示していると言えます。

■議事整理権行使の例

 その普段は目立たない議事整理権が、その言葉とともに出てきた例を見つけました。先日、2013年4月23日の議院運営委員会の会議録が、衆議院のサイトで公開されました。この日の議院運営委員会では、衆議院小選挙区の区割り法案を採決する本会議の運営などについて協議しています。会議録から引用します。

○佐田委員長 次に、本日の議事日程第五について発言を求められておりますので、順次これを許します。

 議事日程第五が区割り法案についてです。委員長に指名された、みんなの党、日本共産党、生活の党の議員が、区割り法案の強行採決に抗議する意見を次々に表明します。この順番と、発言者については理事会で申し出があり、決定されたものだと思われます。

 予定された発言が終わり、委員長が発言の終了を宣言しようとした時です。

○佐田委員長 これにて発言は終了……(渡辺(周)委員「委員長、発言を」と呼ぶ)整理権はこちらにありますので。(渡辺(周)委員「委員長、発言を」と呼ぶ)理事会でそのような申し出はありませんでしたので。
 これにて発言は終了いたしました。(渡辺(周)委員「委員長、そこを、発言を」と呼ぶ)

 これはどういうことでしょうか。どうも、理事会で発言を申し出なかった民主党の渡辺周議員が発言を求めたところ、委員長は議事整理権を行使し、発言を許さなかった、ということのようです。民主党は、この日の本会議に出席するか欠席するか最後まで迷いに迷ったようです。この議院運営委員会に党としてどのように対応するかも決めかねていたので、こういうイレギュラーなことになったのかもしれませんね。ちなみに、会議録中の「呼ぶ」という言葉は、「声をだす」程度の意味です。会議録では、正式な発言以外で言ったことを「呼ぶ」というように書いているようです。

 この会議録から、委員会の議事進行は理事会で事前に決めていること、そして、委員長が許さなければ、委員会で発言することができないことがハッキリとわかります。

 この前の、厚生労働委員会が中断した件もそうですが、変わったことが起こると国会審議を成り立たせている仕組みが見えてきて面白いです。


審議拒否と日本共産党


■審議拒否の意義

 2013年4月25日現在。先週、4月15日〜19日は、衆議院の選挙制度を巡って審議拒否が起こりました。

 審議拒否は、多数派の強引な国会運営に抵抗する手段のひとつです。

 強引な国会運営とは、例えば、多数派にとって都合の良い議案だけを議題にして、すぐに採決するようなものです

 原則、議題になっていないものについて話し合うことはできないので、議題の設定や設定過程自体がおかしいと思った場合は、審議拒否して委員会が開かれないこと狙います。そして、審議復帰を条件に多数派から譲歩を引き出すのです。

 事実、4月17日の衆議院は、党首討論を行う国家基本政策委員会以外のすべての委員会が、野党の出席を得られなかったため審査を進めることができませんでした。審議拒否には、委員会を開かせないという力が存在すると言えます。

■それでも委員会が開かれたら

 審議拒否には一定の効果があります。

 とはいえ、その効果は多数派である与党が譲歩した時のみ発生するものです。特に、現在の衆議院のように与党が圧倒多数の議席を持っている場合、野党が出席しようがしまいが、与党は強制的に委員会を開くことが可能だからです。

 こうなってしまうと、審議拒否をして委員会を欠席してしまったら、会議録に自分たちの意見を残すことはできません。

 せいぜい、委員長が欠席した会派の名前を読み上げたことが残るだけです。

 本会議の日程について協議したあと、委員長の職権で再開された、4月16日の衆議院議院運営委員会の会議録では、以下のようになっています。

○佐田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 再開に先立ち、民主党・無所属クラブ、日本維新の会、みんなの党、生活の党の所属委員に理事をして出席を要請いたしましたが、いまだ出席が得られません。やむを得ず議事を進めます。

 この時、議院運営委員会に委員を出している会派のうち、野党会派で出席したのは日本共産党のみでした。

■審議拒否にくみしない日本共産党

 日本共産党は他の野党が審議拒否しているなかでも委員会に出て、与党と反対の立場から意見を述べています。

 会議録では共産党議員の以下のような発言が残っています。

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 初めに、この委員会が、与野党合意のないまま、与党によって一方的に開かれたことに対して、強く抗議するものであります。議会の運営は、合意の上、円満に行われるべきであります。
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。

 与党の強引な国会運営に抗議し、与党の提案した「区割り法案を特別委員会に付託して審議を開始する」ことに反対したことが、会議録からわかります。

 この意見は会議録に残ります。審議拒否をして、委員会を開かせないようにして、多数派から譲歩を引き出したり、対応を改めさせたりするのも大事ですが、委員会に出て自分の意見を会議録に残すのも大事です。

 ですから、どこか1党は野党の出席が必要です。

 日本共産党は、その点で議会政治に対し、一定の役割を果たしていると言えます。


なぜ区割り法案は迅速に処理されなければならないのか


■60日でみなし否決

 『区割り法案強行採決』でまとめてみて感じたのですが、よくもまあ、これだけのことを5日間でやったものです。与党がこれだけ焦っているのも、民主党などの野党がこれだけ抵抗しているのも、区割り法案が確実に成立するには、4月26日までに衆議院を通過している必要があるからです。

 憲法59条2項には、参議院が否決した法案を衆議院の3分の2以上の議席でもって可決すれば、その法案は成立するという、いわゆる再可決の条項があります。しかし、再可決は参議院が否決しなければ使えません。ずーっと参議院が審議せずにほっといたら何もできないのです。

 そこで、同じく憲法59条第4項にこうあります。

参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 これによって、参議院に法案が送付されてから60日たてば、衆議院で再可決できることになります。国会は延長できるので、60日に足らなかったら延長するという手もあります。しかし、今国会のあとには参議院選挙が控えているため、あまり延長はできません。まごまごしていると60日経過する前に国会が終わってしまいます。

 今国会の会期は6月26日までなので、区割り法案を確実に成立させるには、60日前の4月28日までに衆議院を通過していなければなりません。ただし、4月28日は日曜日なので、それ以前の最後の平日である4月26日までに衆議院本会議で採決しなければならない、というわけなのです。


区割り法案、特別委で強行採決


■区割り法案強行採決

 2013年4月19日現在。1票の格差を是正するため内閣が提出した、衆議院の小選挙区を「0増5減」して区割りを変更する公職選挙法改正案、いわゆる区割り法案が「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」で強行採決されました。

 区割り法案をめぐる動きは、法案審議で起こるイベントのオンパレードだったので、非常に興味深かったです。

■4月15日・野党審議入りを拒否

 区割り法案の扱いについては、今週初めから揉めていました。4月15日、衆議院の議院運営委員会理事会で、区割り法案の審議入りについて話し合われました。この理事会では野党が審議入りを拒否し、話し合いは物別れに終わりました。

 国会は法案を審議するところです。国会で法案審議を主に担当するのがそれぞれの委員会です。区割り法案の場合は、「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」という長い名前の委員会で審査することになります。

 ところが、委員会で審査するには、法案を委員会に付託しなければなりません。原則として、法案が委員会に付託されなければ、委員会での法案審査は行われません。法案の付託は議長の権能ですが、議長の諮問機関でもある議院運営委員会が実質的に決めています。

 また、法案を委員会に付託する前に、その法案の趣旨説明を本会議で行うことがあります。これを決めるのも、議院運営委員会です。趣旨説明を行うことが決まったら、趣旨説明が終わるまで委員会に付託されません。趣旨説明が終わって初めて、法案の委員会審査が始まります。

 野党は議院運営委員会理事会で、区割り法案を、本会議での趣旨説明を省略して特別委に付託することを拒否したのです。

■4月16日・与党強引に付託

 4月16日午後。与野党の幹事長・書記局長会談が開かれました。与党は改めて0増5減の区割り法案を、衆議院議員定数の大幅削減に先行して処理することを求めましたが、野党はやはり拒否しました。

 4月16日夜。議院運営委員会理事会が開かれ、話し合いが持たれましたが、与野党の意見は折り合いません。ついに、議院運営委員長の職権により、議院運営委員会の開催が強行されます。

 委員会を開いたり、委員会の議題を決める権限は委員長が持っています。ですが、それら委員会の議事進行の決定については、各委員会の理事会で行うことになっています。そして、理事会の決定は理事の全会一致によってなされるのを原則としています。委員長が、その職権で委員会を開くのは尋常な議事運営ではありません。これに反発し、共産党を除く野党は、議院運営委員会を欠席することになります。

 この日の議院運営委員会で、区割り法案について、本会議での趣旨説明を省略して「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」に付託することが議題とされます。この議題は、共産党以外の野党が欠席する中、自民公明両党の賛成で可決され、特別委員会で区割り法案を審議する準備が整いました。

■4月17日・野党全面審議拒否

 前夜の強引な国会運営に野党が反発し、党首討論が行われる国家基本政策委員会以外のほとんどの委員会の出席を拒否します。そのため、各委員会は流会になったり、委員会を開いたものの、審査に入るにいたらなかったりしました。

 そんななか、特別委の理事懇談会が開かれます。ここで、与党は野党に18日に区割り法案の趣旨説明と質疑を行い、19日採決する日程を提示します。野党はこれを拒否し、18日に特別委を開くことは、特別委の委員長職権で決定されました。

■4月18日・野党審議復帰

 4月18日。野党欠席のなか開かれた特別委で、趣旨説明と質疑が行われ、区割り法案は審議入りしました。と同時に、衆院選挙制度改革に関する実務者協議が開かれます。この実務者協議が開かれることによって、野党は特別委を除いて審議に復帰します。

 この日、野党各党は伊吹衆議院議長に与党の強引な国会運営への抗議を申し立てます。議長から与党へ、野党に配慮した国会運営を行うよう働きかけるよう求めたのです。このように、与野党が対立してどうにもならないときは、議長が間にはいって調整することがあります。これを議長あっせんと呼びます。

■4月19日・議長あっせんと強行採決

 4月19日。伊吹議長は区割り法案に関する与野党対立の打開に向けたあっせんに乗り出しますが、合意にいたりませんでした。ついに、民主党や維新の会などが欠席する中、特別委で区割り法案が可決されます。強行採決です。

 強行採決とは、多数派が強引に採決してしまうことです。本来なら、与野党すべての党が出席したなかで審議し、採決しなければならないのに、力任せに採決してしまうので「強行」とつくのです。与党は多数派だから与党なので、すべての議題を即採決していたら、すべて与党の思うがままになるに決まっています。それでは意味がないのです。

 ただ、何も決まらないのも困りものなので、強行採決も使い方次第というところがあると思います。今回はどうなのでしょうか。

■典型的な与野党対立

 一見荒れているように見えますが、一連の動きをみると、典型的な与野党対立型の国会審議となっています。すべての動きが、国会審議の「お作法」から外れていません。むしろ、民主党などの野党は審議拒否を一日でやめてしまったので、おとなしいくらいです。なんにせよ、これで区割り法案の衆議院通過は、本会議での採決を待つばかりとなりました。