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特例公債法案と野党の協力


 2012年11月5日現在。予算執行に必要な特例公債法案の審議はまだ始まっていません。与党は野党の顔色をうかがいながら、そろそろと議会運営をしているようです。野党は与党に協力するのでしょうか。

 委員会の審査は基本的に8段階のステージがあります。以下がそれです。清野正哉『国会とは何か』(中央経済社)P.174を参考にしました。

  1. 法案提案者の趣旨説明
  2. 趣旨説明に対する質疑
  3. 参考人の意見聴取とそれに対する質疑
  4. 委員会視察あるいは委員派遣
  5. 公聴会の実施
  6. 質疑
  7. 討論
  8. 採決

 また委員会での法案審査に先立ち、委員会の所管大臣の所信表明とその質疑を一日ずつ行うことになっています。

 衆議院で特例公債法案を審査する財務金融委員会では、11月2日に所管大臣の所信表明を終わらせており、今週7日に所信表明に対する質疑に入るところまでは与野党で合意しています(参考記事:時事通信ドットコム:公債法案、8日にも審議入り=解散にらみ駆け引き?国会)。

 上の記事で書いてある「実質審議入り」というのは、1:法案提案者の趣旨説明を行うことをいいます。少なくとも、1と2:趣旨説明に対する質疑を行って、7:討論、そしてもちろん8:採決を行わないと委員会の審査は通常終わりません。

 これらのステージは、一旦始まれば機械的に進んでいく…というものではありません。その理由は、委員会のスケジュール決定方法にあります。

 毎回の委員会開会前に理事会を開き、その日の委員会のスケジュールを決めます。扱う題材、質疑の順番、ひとりひとりの持ち時間など、その日の委員会の式次第を決めているのです。

 例えば、そろそろ採決したいなと思ったら、理事会で今日は採決をやると決めなければいけません。原則、理事会の決定には理事全員の賛成が必要です。ですから、理事がひとりでも「今日採決するのはダメ」と反対したら尋常には決まらないのです。

 理事のポストは与野党問わず議席数に応じて分配されるため、スムーズな委員会進行には与野党の調整が必須になります。野党の間でも対応が割れている特例公債法案では、審議スピードを読むのは非常に困難です。野党がいつ審議を遅延させるかわからないからです。

 現に、上の記事では委員会での審査前に、本会議での趣旨説明を野党側が求めているとあります。通常は委員会で1〜8のステージをこなせば本会議で採決する環境が整います。ただし、特に重要な法案については委員会審査の前に本会議で趣旨説明を求めることができます。この趣旨説明を野党は求めているのですが、法案審議に必須のものであるというわけではないので、結果的に審議スピードを遅らせています。

 この野党の要求を与党は突っぱねることもできます。少なくとも、突っぱねても違法にはなりません。しかし、法案は衆議院だけで審議するものではありせん。野党多数である参議院の審議を控えているのにもかかわらず、強硬策に出ることは得策ではありません。それは、前回の通常国会会期末での特例公債法案と衆議院の選挙制度改革法案の強行採決の結果が、首相の問責決議可決とそれにともなう全面審議拒否だったことを考えれば明らかです。

 野党が完全に与党民主党に協力しない限り、特例公債法案の速やかな成立はありません。逆にいえば、与党の目論見通り、来週中にも参議院に法案を送れる状況になったとしたら、野党議員がどんな強がりを言ったとしても、与党に協力したことは間違いないと言えるわけです。

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政治主導とは4:効率化と「決める政治」


■効率化

 限られた時間を有効に使うため、無駄を省いて目的を確実に達成するということは、私たちにとって悪いことではありません。すすんで取り組むべきことですらあるかもしれません。

 私たちが日々スケジュールと目標達成に気を使っているように、政府もスケジュールに気を使っています。

■政府のスケジュール

 政府は年間100本程度の法案を提出しており、その大部分を通常国会の150〜250日で処理しなければなりません。通常国会の会期は150〜250日ですが、予算案は法案より先に審議しなければならない、という慣例により最初の60日程度は予算審議のために費やされます。また、日曜祝日はもちろん、土曜日もほぼ休みなので、さらに32日〜60日引かれます。ですから、法案全体の実質的な審議可能日数は58〜140日となります。

 ひとつの法案につき、委員会を通過するのに必要な日数は、最低でも2日です。それに本会議採決を加えて3日。さらに、日本は二院制をとっているため、2倍して6日。委員会を省略しない場合、一つの法案を処理するのに最短でも6日はかかります。仮に通常国会で提出する法案が100本あったとすると、すべての法案を成立させるには、のべ600日かかることになります。

 本会議での採決は、一日で複数の法案を扱います。また、委員会の数は30ほどあるので、すべての委員会にまんべんなく法案が付託された場合、ひとつの委員会で処理する法案は4本程度になります。したがって、すべての法案が最短で審議・採決された場合、4本×6日=24日、24日ですべての法案が処理できます。あれ、意外と楽勝な数字になりました。

 ここで出した数字には、2つの前提があります。ひとつは「野党が(賛成という意味ではなく)審議に協力的であること」。そして、もうひとつは、「与党が政府提出法案に賛成すること」という前提です。与党内で事前に合意を得ずに国会で法案を審議したら、時間も足りないでしょうが、法案成立の目処が立つかどうかすら怪しいです。

■与党が反対した場合

 2005年の郵政解散のもとになった郵政民営化法案は、与党内審査をしたことはしました。この法案には根強い反対があり、与党内審査の最終ステージである自民党総務会は苦しい決定をします。法案の国会提出だけを了承する、というものです。これで法案はなんとか国会に提出されました。

 しかし、法案の国会提出後も、自民党では修正案の審査が行われます。それほど反対派は強硬だったのです。結局、修正案はなかなか合意を得られず、自民党総務会は多数決で修正案を了承するところまで追い込まれました。自民党の与党内審査では全会一致で物事を決めるのが慣例になっているので、これは大変なことでした。与党内での強行採決が行われたようなものです。

 郵政民営化法案の修正案は5票差で衆議院を通過しましたが、参議院では17票差で否決されてしまいました。ここから、当時の小泉首相は衆議院を解散して大勝利。296議席を獲得します。そして、民営化の時期を半年延長した郵政民営化法案を国会に再提出し、衆参両院で可決され、やっと成立しました。

 与党できちんと了承されていない法案を成立させるのが、いかに大変かということがわかります。

■「決める政治」のための効率化、結果としての形骸化

 この例は極端ですが、こういう波乱を減らすために、官僚は根回しをし、与党で事前に法案を検討してしまうのです。スケジュールを確実にこなすための、効率化と言えます。これは悪いこととは言い切れません。政府として責任ある行政をするには、根拠となる法律が確実に成立することが不可欠だからです。

 責任ある行政、つまり「決める政治」を行うため、法案の成立を確実にしようとすればするほど、与党内審査で与党の意思をがっちり固めようとします。与党が賛成でまとまっていればいるほど、数において劣る野党にはなすすべがなくなり、国会は諸々の審議過程を消化するだけの場所となります。

 効率化と「決める政治」、どちらも大切です。ただ、それらの言葉と政治主導という言葉は、国会の形骸化という点で、時に相反することがあるようです。

参考文献:大山礼子『日本の国会』(岩波新書)


廃案と継続審議の違い


2013年6月15日追記:この記事では、議決効力の不継続の点しか考慮していません。継続審議と廃案はやはり別物です。継続審議の意義に関する現在の見解は『廃案と継続審議の違い(決定版)』を御覧ください。

国会での法案の審議プロセスと時間について考えてきました。とりわけ、法案が会期末までに成立しない場合廃案になるという会期不継続の原則のもとで、法案が廃案になる場合と継続審議になる場合の違いについて調べてきました。現時点での考えを書いてみます。

■継続審議と廃案に違いはない?

衆議院で可決した法案が参議院で議決に至らず、継続審査の手続をとったとします。このとき、次の国会で可決したとしても、また衆議院で可決しなければ成立しません。ちなみに、この根拠となる法律が国会法83条の5(*1)なのだそうですが、あっさりしすぎていて私には解説がないと理解できません。この点を解説している本を探してます。

同一のケースで参議院で審議未了により廃案になったときは、継続審査した場合でさえ、次の国会で両院の議決が必要になるのですから、衆議院に法案を提出するところからやり直しなると考えたほうがよさそうです。

同一会期中に両院で可決しなければならないので、継続審査しようが廃案になろうが、どちらもかわりないように思えます。あとは、83条の5のケースで衆議院に法案が戻ってきたときに、衆議院でどのように対応するかにかかっています。そのときの対応が、再提出のものと異なれば、継続審査と廃案に若干の違いが出てきます。

■会期不継続の原則自体に強力な制約がある

継続審議と廃案の違いについて調べるために、国会の法案審議の手続について書かれた本を読んできました。読んできて思ったのは、廃案と継続審議の違いよりも、会期で一区切りつけられてしまう会期不継続の原則自体に相当な制約があるということです。

会期不継続の原則の存在と国会の会期が150日程度しかないことにより、限られた会期で成立しなかった法案はふりだしに戻り、成立を目指すにはまた最初からやり直さなければなりません。そのため、その法案が重要であればあるほど、ひとつの法案にかける時間が多くなり、その分他の法案の審議や、新しい法案の準備などの時間がなくなっていきます。

これは、政府・与党にとって相当な制約です。時間も、お金も、人的資源も使います。法案を否決しなくても、これだけのダメージを政府・与党に与えられるのですから、野党が審議拒否をしがちなのもわかります。

*1…国会法第83条の5 甲議院の送付案を、乙議院において継続審議し後の会期で議決したときは、第83条による。


法案審議のプロセス


 政府提出法案の審議プロセスを発見しました。簡単に書いてみます。

  1. 先に審議する議院の議案課が議案を受け取る
  2. 議案課で所定の手続を行う
  3. 議院運営委員会で、審査する委員会を決める
  4. 議院運営委員会により、本会議で議案提出者に趣旨説明を求めることを決めたとき、本会議で趣旨説明と質疑応答を行う
  5. 委員会審査開始。提出者が趣旨説明をする
  6. 議案に関する質疑を行う
  7. 場合によっては、公聴会を開催する
  8. 採決する。委員会審査終了
  9. 議院運営委員会で議案の本会議上程日を決める
  10. 本会議で採決する
  11. 本会議で可決したときは、後に審議する議院で1〜10を繰り返す
  12. 両院で可決したら、後に審議する議院の議長と事務総長名で、法律の公布を天皇に奏上する

 このプロセスは、村川一郎『政策形成過程』(信山社)、伊藤光利・田中愛治・真渕勝『政治過程論』(有斐閣アルマ)、大山礼子『国会学入門 第2版』(三省堂)から、私がまとめて書きました。

 一点補足します。議案課というのは、国会議員ではなく国会職員が務めています。国会職員は各議員で独自に任用された、国会運営に従事する人たちです。この国会職員のトップが事務総長です。

 国会でこれだけの過程を経ないと、法律はできないわけです。あとは、「閉会中審査」または「継続審査」した議案の審議プロセスがわかれば、前回の記事(時間切れになった議案について)の疑問である、「廃案後再提出になった議案と、継続審議になった議案の違い」がわかるはずです。

 ところで、両院で可決した法律の公布を天皇に「奏上」したのち、天皇が法律を公布します。奏上とは「天皇に申し上げること」であり、議長は天皇にへりくだっているわけです。現在も天皇の権威というのは生きていて、国会よりも上にあるということなのでしょう。日常ではなかなか天皇の権威というものを意識しないので、こういう言葉や慣習を見つけると、少したじろぎを覚えます。こういうところも、政治制度を調べる面白さのひとつです。




時間切れになった議案について


 2012年9月4日現在、今年の通常国会もあと4日で会期―国会の活動期間―が終わり、閉会となります。話題になった赤字国債発行に必要な特例公債法案や、衆議院の選挙制度改革法案をはじめ、採決されていない議案がいくつもあります。審議途中で国会が閉会した場合、議案はどうなるのでしょうか。

 原則として、会期中に議決されなかった場合、議案は廃案となります。廃案になった法案をもう一度審議したい場合は、次回の国会に改めて提出して最初から話しあわなければなりません(国会法68条)。これを「会期不継続の原則」といいます。

 この原則には例外があり、衆議院では「閉会中審査」、参議院では「継続審査」する議決があれば、次の会期に引き継ぐことができます。ただし、次の国会までに衆議院の総選挙がある場合は、すべて廃案になることになっています。

 大山礼子『国会学入門』などには、会期不継続の原則があるために審議時間が限られてしまうと書かれています。審議時間が限られると、野党は審議時間を引き伸ばすことで議案を廃案にすることを目指すようになり、審議拒否など審議に消極的になってしまうのです。

 今まで、なんとなくこの説明で納得していました。しかし、よく考えてみると、法案審議で経なければならないプロセスとその所要時間がわからないことには、廃案になることと、継続審議になることの違いがよくわかりません。この点が、はっきり書いていてある記述が見つけられず、ちょっと困っています。

 また、参議院のサイト(http://www.sangiin.go.jp/japanese/aramashi/keyword/keizoku.html)によれば、参議院で「継続審査」した議案は、次の国会でそのまま審査出来るのに対し、衆議院で「閉会中審査」した議案は、会期の始めに議案を審査する委員会を決め直すと書いてあります。衆議院において、廃案になった場合と閉会中審査した場合の違いがいまいちよくわかりません。

 この点を、引き続き調べていきます。