政治化と脱政治化

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■読売:地球を読む欄

 2013年4月29日現在。今朝の読売新聞朝刊に面白いフレーズが載っていました。「地球を読む」という欄で、今回は政治学者の御厨貴さんが書いていました。内容は発足から120日経った安倍政権を振り返るというものです。以下がそのフレーズです。

経済・金融を政治が統治できるのだという姿勢を明確にしたことは、ここ20年で初めてだ。

 経済・金融を政治が統治できるというのは、政治が経済・金融をコントロールできるということです。そして、政治が経済・金融をコントロールできるということは、経済・金融の問題が公的な討議の領域に入るということになります。つまり、私達も投票を通して日本の経済・金融をコントロールすることができるということになるのです。

 逆に経済・金融を政治がコントロール出来ないというのはどういうことでしょうか。政治がコントロールできないということは、それは政治の領域で扱うことから外れます。少なくとも投票を通しては、私達にコントロールできなくなります。経済・金融の場合は、問題解決を市場に任せる・日本銀行に任せるということになります。

 前者のように問題を政治の領域に移すことを「政治化」、後者のように問題を政治の領域から外すことを「脱政治化」といいます。

■政治化と脱政治化

 「政治化」と「脱政治化」という言葉は、コリン・ヘイ『政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方』という本で知りました。この本はタイトル通り、「どうして政治というと悪いイメージがつきまとうのか」ということを扱っています。

 ヘイは、政治に関わる政治家や官僚は、みな自らの利益を最大化することを狙っているという前提で見られていると指摘します。そのため、もはや政治にはこの世の様々な問題を解決することができないと考えられているとも。

 やっかいなことに、有権者だけでなく政治家や官僚自身も同じ前提=政治には問題解決能力がないという立場をとっているため、様々な問題を政治の領域から移すことに熱心になってきました。ヘイの言う、脱政治化を推進してきたのです。

 脱政治化が問題解決に役立つかどうかはともかくとして、脱政治化は政治にダメージを与えます。脱政治化は、政治で扱える問題をどんどん減らしていくからです。問題解決の当事者が、国会や政府から市場に、そして市場の参加者としての消費者=有権者にどんどん移っていきます。果ては、その問題は誰の手にも扱えない、運命的、宿命的なものとみなして、受動的に対処することになっていきます。

 現在の日本で言えば、識者の経済成長に対する見方がこれに当てはまるでしょう。「経済成長を左右するのは、国でもなく、市場でもない。まして消費者にどうこうできるものではない。もう日本はかつてのような経済成長はできない。いかに経済成長するかではなく、経済成長しないことを前提に考えていくべきだ」という見方です。

 ここまでいくと極端ですが、そうでなくても脱政治化によって政治で扱える領域は減ります。つまり、有権者が選挙に行って投票しても、なんにもならないということです。政治で決められることが減ってしまうのだから当然です。結果として投票率は減り、多様な意見を取り入れることができなくなって政治の選択肢が更に狭まり、また投票率が減っていくという負のスパイラルに陥ってしまう。先進国で投票率が年々減っていることには、そういう背景があるかもしれないと、ヘイは書いています。

■各党の政治姿勢

 冒頭で紹介した御厨さんの言葉でも示されている通り、安倍政権は脱政治化ではなく政治化の道を進んでいるようです。確かに、安倍首相は日銀を政府の統制下におくことで金融をコントロールし、大型の補正予算を組むことで経済をコントロールしようとしています。

 また、安倍首相の持論であった「戦後レジームからの脱却」を実行するには、教育や安全保障などをどんどん政治化していく必要があるでしょう。政治化という点で、安倍政権の政治姿勢は一貫しているのでしょうか。

 そうでもありません。関税をなくすことを目指す、少なくとも関税の決定を国内政治だけでなく国家間で決めるようにするTPPは政治化ではなく脱政治化的な政策です。民主党やみんなの党、日本維新の会も、ある政策については政治化し、またある政策については脱政治化するという姿勢です。これは、非常に興味深いことです。

■政策の優先順位を見抜く

 ひとつひとつの政策の詳細も重要なのでしょうが、政策を政治化と脱政治化という側面でみるのも面白いかもしれません。各党の基本的な理念が政治化よりなのか脱政治化よりなのかということと、それぞれの政策が政治化よりなのか脱政治化よりなのかを考えることで、政策の優先順位がわかるのではないかと思うからです。

 優先順位が高いもの重視するため、優先順位が低いものは交渉の材料にされることでしょう。政策の優先順位がわかれば、与野党がどのように国会で攻防を繰り広げ、どのように物事が決まっていくかをおおよそ予測できるかもしれません。そうすれば、投票の際、自分が大切に思っていることを改善してくれる政党を、より適切に選べると思うのです。

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