政治家の育成と有権者について


■政治家を育てるためには、有権者の忍耐が必要?

 2013年1月19日現在。今朝の読売新聞朝刊4面、「政治の現場」欄で「民主再建」という連載が始まりました。「民主党再建への取り組みと、その課題を追う。」連載だそうです。

 第一回の記事の後半に出てきたのは、昨年12月の衆議院総選挙で落選した、仙谷由人元官房長官です。そのなかで特に目を引いた部分を引用します。

党再生に向けて、仙谷は「党としてきちんとした政治家を育てることだ」と考えている。そのためには、時間もコストもかかる。選挙のたびに、支持政党を変える有権者に忍耐を求めたい気持も仙谷にはある。

 引用した部分の「」で囲まれた部分は仙谷さんのコメントだと考えていいと思いますが、地の文はどうでしょうか。読売の記者の感想かもしれません。誰の意見にせよ、こういう、変動する民意による急激な政権交代を憂う意見はよくあります。

 民主党再生を担う政治家を育てるには、時間もコストもかかるというのはわかります。当たり前ですね。しかし、それと選挙のたびに支持政党を変える有権者と何の関係があるのでしょうか。

■有権者の忍耐とは?

 そもそも、現行の小選挙区比例代表並立制は、選挙で勝った政党がガンガン思い通りに政策遂行するための制度です。このため、選挙と選挙の間は、有権者に政治を変える力はほとんどありません。政権与党に幻滅した有権者は、選挙がない間ずっと忍耐し続けているわけです。これ以上何を忍耐しろというのでしょうか。

 「支持政党を変える有権者に忍耐を求める」というからには、「忍耐」には支持政党を変えるな、という意味があるわけです。ところで、有権者には決まった支持政党がない人たち、いわゆる無党派層が存在します。無党派層としては、支持政党を変えるもなにも、その時点でいいと思った政党に投票するのです。そのような無党派層にまで忍耐を求められても困ります。それとも、有権者なら支持政党をしっかり決めておくべき、とでも言うのでしょうか。

 そうだとすると、一度支持政党を決めたら、有権者はよほどのことが起こらなければ支持政党を一定の期間変えてはならないということになります。しかし、「よほどのこと」も、「一定の期間」も人によって異なることは明白です。絶対的な基準はなく、いつどのように変えても自由なはずです。したがって、有権者の支持政党選択について、忍耐を求めるのは不当です。

■議員でなければ、与党でなければ政治家は育たないのか?

 思うに、この意見にはひとつの前提があります。それは、「政治家は議員という職になければ成長しない」というものです。ときには、この前提は「議員は政権与党に所属して政府の役職につかなければ成長しない」という厳しいものになることもあるようです。

一度も議員になったことがない政治家に関して言うならば、議員として議会で活動することで初めてわかることもあるでしょうから、そういう前提も成り立つでしょう。しかし、既に一期以上務めている政治家にもそれは当てはまるでしょうか。

 「議席を失って議会から離れることで政治家としての成長が止まる」というのだったら、もうその政治家を当選させる必要はありません。その選挙区の現職議員が出馬をやめるまで、ずーっと現職議員にまかせればいいのです。同じ理屈で、「政権与党でないと情報が入ってこないし、行政にも入れないので政治家としての成長が止まる」というのだったら、野党は永遠に野党のままにするのが合理的ということになります。

 そんな馬鹿な話はありません。議席を持っていることで、政権与党にいることで得られるものはあるでしょうが、それだけが成長する機会のすべてではないはずです。もしかしたら、現状では実地に経験を積む以外の成長の機会は乏しいかもしれません。しかし、それは有権者の投票行動とはまったく別の話であって、各政党による努力や工夫が必要なところです。

■有権者に求めるべきもの

 もし有権者に求めるべきものがあるとしたら、投票行動の硬直化ではなく、政党や政治家個人への寄付だと思います。寄付が増えれば、党や政治家の経済状態がよくなり、落選した政治家や、当選したことのない新人政治家が政治活動をしたり勉強したりする余裕ができるはずです。政治活動を支援するものとしては政党交付金もありますが、これは議員数に応じてもらえる額が変わってくるので、議席のない政治家を育てるという点ではあまりあてにできません。

 そして、寄付を増やすには、政治活動への寄付に特典を与える制度を整備することと、なにより、政治に対する興味を醸成するようなコンテンツを粘り強く地道に作っていくことが不可欠です。

 有権者に求めるよりさきに、いくらでもやれることはあるはずです。他人である有権者を変えようとするより、政治家自身が変わることを考えた方が前向きですしね。


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