いよいよ予算委員会:第203回国会


 2020年11月1日現在。

 先週の国会では、衆議院と参議院で菅総理大臣の所信表明演説に対する代表質問が行われました。代表質問は、質問する議員がすべての質問を述べきったあと答弁を要求された大臣が答える、お互いに一方通行な形式で行われます。

 明日から行われる予算委員会は一問一答形式で進みます。質問者は、相手の答えを聞いて質問の仕方を変えることができます。一方、答弁する側は、原則として質問されたことに答えなければならず、反論することは望ましくないとされています。つまり、お互いに平等に意見のやりとりをするような「議論」の形式ではありません。戦いの場を選べる質問者が圧倒的に有利です。

 衆議院予算委員会の野党側の代表者である筆頭理事は、国対委員長を務めていた辻元代議士です。辻元代議士は、2017年の衆議院総選挙後の特別国会で、所信表明演説なしで国会を2、3日で閉じそうになったところを、与党と交渉して1ヶ月以上の会期をもぎ取った実力者です。政界の経験も長く、自民党と社会党が連立政権を組んでいたときには、与党社会党の議員として自民党の議員と一緒になって時の政権を支えたこともあります。

 与党からするとなかなか手ごわい相手だと思いますが、与党経験がある人なので交渉はしやすいのではないでしょうか。実際、特別国会の会期を延長した際も、与党はただ譲歩しただけではなく、野党に法案審議に協力するよう要求して、当時の辻元国対委員長に約束を守らせています。

 このような国会の最前線の話が出てくるのが、辻元代議士の著書である『国対委員長』(集英社新書)です。この本には野党国対の勝利の数々が出てきています。もしかしたら、与党を支持する人や、野党を支持しない人は敬遠するかもしれません。

 しかし、見方を変えれば、選挙で過半数の議席を得ることに失敗した野党の勝利はすべて与党国対の譲歩によるものです。野党の戦績を示すことで、与党が何でもかんでも数の力でおしきっているわけではないことも明らかにしているのです。

 「野党議員が書いてるから」とか「野党の主張が書いてあるから」とかいう理由で読まないのはもったいないくらい面白いことがたくさん書いてあります。国会の中で何が行われているか興味がある人は、読んで損はありません。

第203回臨時国会のスケジュール
第203回臨時国会のスケジュール

第203回国会召集


 2020年10月26日現在。

 本日、菅内閣発足後、初の本格的な国会となる臨時国会が召集されました。

 菅総理大臣は、就任後初の所信表明演説を衆参両院で行い、明後日からの代表質問を待ち受けます。

 会期は12月5日(土)までの41日間といわれていますが、平日は28日しかありません。基本的には、28日間で代表質問、予算委員会、その他の委員会の審議をこなす必要があります。

 与党サイドでは菅政権の誕生という大きなイベントがありましたが、野党サイドでは立憲民主党と旧国民民主党が合流し、100議席を超える野党第一党が誕生しました。野党第一党の議席が100議席を超えるのは、政権交代前の自民党以来8年ぶりとのことです。

 野党第一党が議席を増やした一方、国会内では野党第一会派の議席数が少なくなるという事態になっています。合流に参加しなかった新しい国民民主党の議員が、衆参共に立憲民主党との統一会派を解消したからです。

 野党といってもそれぞれ別々の党派であり、主張も理念も違います。圧倒的な野党第一党となった立憲民主党がどのように野党をまとめて政府与党と対決していくのか、とても楽しみです。


法案がない国会は野党に交渉力を与えない


 2020年9月6日現在。

 先月末に辞任を表明した、安倍総理大臣の後任を選ぶ臨時国会の日程が決まったという報道が出ています。次の臨時国会は9月16日から18日までの3日間で、総理大臣を決める首班指名選挙と開会式をやったら閉会の予定だとか。私が予想した、新総理の所信表明演説や代表質問は、いまのところ次の国会ではやらないようです。

 このニュースを目にしたとき、私は「この会期の短さは野党の納得できるものではないのでは」と思いました。なぜなら、野党は今年の通常国会が閉じてから、ずっと臨時国会の早期召集を要求していたからです。たとえば「せっかく開かれた国会で、首班指名選挙だけやって終わりはないだろう」という抗議をするのではないかと思いました。

 そこで、立憲民主党の国会対策委員会が運営しているツイッターアカウント(https://twitter.com/cdp_kokkai)を確認すると、意外や意外、与野党交渉の野党側の代表者である安住国会対策委員長は、政府・与党のこの申し出について理解を示しているようでした。

 なぜ、安住国対委員長は、次の臨時国会で代表質問や予算委員会の集中審議を求めなかったのでしょうか。立憲がツイッターで公開している国対委員長のインタビューの書き起こしによれば「会期が3日間では、新しい政権の陣容や国会の幹部人事が間に合わないから」というのが理由のようです。

 確かにそうなのかもしれません。しかし、それだったら3日間の会期そのものについて「短すぎる」と言わなかったのはなぜなのでしょうか。

 私にはわからないのですが、わかる人にはわかる「3日間の必然性」があるのかもしれません。何かスケジュール上の制約があるとか、制度的に無理があるとか。そういうことでもないと、安住国対委員長の淡々とした感じは出ないと思います。ちなみに、日本共産党の志位委員長は、臨時国会の会期が短いことについてツイッターで批判をしていました。野党側の受け取り方も一様ではないようです。

 日程について反対しない、立憲に特有の事情もありそうです。統一会派を組んでいた立憲と国民民主党の合流の交渉がこの夏に進んでいて、臨時国会召集の直前くらいに合流新党の結党大会が行われる予定になっています。政府・与党の新体制が整わないのと同様に、野党第一党となる新党の体制も完成しないのかもしれません。

 よく考えると、安住国対委員長も新党発足後は国対委員長ではない可能性もあります。すぐに辞めるかもしれないのに、いろいろ積極的に動くわけにもいかない事情もあるのかもしれません。

 また、政府側が提出する法案が決まってないという事情もありそうです。

 国会には行政を監視する機能もありますが、法案や予算案を審議し議決することも主な仕事です。提出する法案がなければ、野党も質疑の場が与えられません。単に国政について政府に質問することは、与野党の申し合わせにより現在も閉会中審査で実施しています。野党にとって、いま臨時国会の会期を長くとる必要性が薄いのかもしれません。

 そもそも、政府提出法案がなければ野党は無力です。なぜなら、与党が野党に譲歩するのは、成立させたい法案を円満な審議で進めるためだからです。与党にとって審議したい法案がなければ、与党は野党に譲歩する動機がありません。その点で、法案がなくても国会を開く意義はありますが、その国会が野党にとって面白いものかどうかは怪しいと思います。

 具体的な法案がない状態で野党が与党に審議に応じさせるには、世論を盛り上げることで、与党に「審議しないと次の選挙がまずい」と思わせる必要があります。しかし、野党はいままで、与党のモチベーションを上げるために、国会の早期召集で世論を盛り上げようとしてきましたが成果がでていません。

 この状態では、野党は議席通りの力しか発揮できないでしょう。そう考えると、閉会中審査で政府の姿勢を追求する場があるいまの状態のほうが、野党にとっても都合がいいのかもしれません。


安倍総理辞任表明後の国会の動き


2020年8月30日現在。

 28日、安倍総理大臣が辞任を表明しました。近いうちに安倍内閣は総辞職し、国会で新たな総理大臣が指名されて、新しい内閣が発足します。

 内閣総理大臣に指名されるのは、国会の首班指名選挙で過半数の票を獲得した国会議員です。首班指名選挙を行う必要上、9月に臨時国会が召集されるのは確実な情勢です。はからずも、野党が要求していた国会の早期召集は実現することになりそうです。

 首班指名選挙で投票される国会議員は、各政党で一本化されます。ひとつの会派から複数の国会議員に票を投じられるようなことは、普通起こりません。普段ならば、議員は自分が所属している政党の党首に一票を投じます。しかし、安倍総理は総理大臣だけでなく自民党総裁も辞任するはずで、自民党としては首班指名選挙の前に安倍総裁に代わる新たな党首を選ばなければなりません。

 そのため、自民党総裁選の後、臨時国会を召集、首班指名選挙、新内閣発足、という流れになると思われます。新内閣発足の後は、国会で新総理による所信表明演説と代表質問も行われるはずです。新総理と野党党首の対決がここから始まります。

 ところで、衆議院議員の任期が残り一年に迫っており、ただちに衆議院を解散するのではないかという観測もあるようです。解散する場合は、新内閣を発足した後に、新しい総理大臣が衆議院を解散することになると思われます。このケースでは、選挙の結果にかかわらず、選挙後に発足したばかりの新内閣が総辞職するという変なことになります。

 新総裁を選んだ後、首班指名選挙を行う前に解散すれば、新内閣がすぐ総辞職することを避けられます。ただし、辞任を表明した総理大臣が衆議院を解散することになってしまいます。辞任する総理大臣が国政に新たな動きを発生させることは避けるべきで、安倍総理が残りの任期で解散することはおそらくないでしょう。


「国会というゲームのルール」発売中です!


 2020年8月23日現在。

 先週、このブログの内容をまとめたものがKindle本として配信開始されました!タイトルは「国会というゲームのルール」です。

 本にまとめたのは、「もっと楽しく政治の話をするための国会のルール」シリーズです。このブログで一番読まれている「与党と野党の役割は違う」などが収録されています。

 本の内容はブログのものと変わっていませんが、校正が入って文章全体をブラッシュアップしています。また、図や表も修正が入っています。追加の内容としては、あとがきを書き下ろしました。

 Kindle Unlimitedにも登録されています。ぜひダウンロードしてお読みいただければと思います。

 ところで、本の元になった連載は「ノープラン・ライティング」で最高の一冊を書き上げる講座(書き上げ塾)という講座の一期生の課題として書いていました。半年間で一冊分のコンテンツを作るために必要なことを学びながら書いていく講座です。この講座の受講なしに本にまとめることは私には難しかったと思います。講師やスタッフ、受講生のみなさんに感謝いたします。


「国会を止めるな」は野党議員の本音ではある


 2020年6月21日現在。先週今年の通常国会が閉幕しました。

 今年は感染症の問題もあり、すでに二次補正まで成立しているという非常事態になっています。

 今国会では、SNSを使った抗議活動が国会を動かしたように見える出来事もありました。そのためか、一時期ツイッターで与野党の支持者によるハッシュタグの応酬もありました。そのなかで、最後に出てきたのが「国会を止めるな運動」です。

 国会を止めるな運動は、通常国会の延長を求めたものです。閉会することを「止める」と表現しています。実際、野党側は通常国会を12月28日まで延長して実質的な通年国会にしようという提案もしていました。

「感染症対策のために国会は常に開いておくべきだ」というのが大義名分なのですが、いままさに進行している事態について、具体的な議案の提出がないところで国会を開いておくことにあまり意味があるとは思えません。野党が直近で求めていたのも予算委員会の集中審議です。集中審議では、政府に質問することはできても新たな対策を打ち出すことはできません。質疑で「こういう対策をやってくれ」と訴えて、政府が「やります」と言えばそういうこともできるかもしれませんが、おそらく質疑でいわれて「やる」と即答できるようなことは、もともと実施する予定だった対策である可能性が高いでしょう。

 国会はこれからやることや、すでにやったことを検証するのには向いていますが、進行中の事態に対して新たな手立てを打ち出すことには向いていないのではないでしょうか。

 ただ、野党にとって「国会を止めるな」というのに切実な思いがあることは事実です。政府が対策をとることで報道される与党と違い、国会が動いていなければ野党が目立つ場所はありません。国会が閉会中の野党は無力です。だからこそ、野党にとっては国会が開かれていなければ困るのです。

 ここまで書いて気づきましたが、国会が開かれてないと緊急事態宣言を出すのは難しくなるのかもしれません。緊急事態宣言を出す前と解除する前に国会で事前報告を実施したからです。法的に事前報告は必ずしも必要でないのかもしれませんが、前例になったことから今後も事前報告をする原則になるのではないかと思います。もしかしたら、「国会を止めたら緊急事態宣言を出しにくくなるぞ」という主張をしていた議員もいるかもしれません。


予算審議を予想しよう!:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール7


 ここまで読んできたあなたは、だいぶ国会の「お約束」に詳しくなったはずです。これで準備が整いました。最後に予算審議の日程を予想する方法を一緒に見ていきましょう。毎年通常国会の前半で行われる本予算の審議の流れは、形式が決まっていて予想が立てやすくなっています。審議の予想方法をとおして国会の日程感をつかみましょう。

「本予算」とは、来年度予算案のこと

 本予算とは新年度の当初予算案のことです。次の年度の1年間で国がつかうお金の予定が決められています。「当初」とついているのは、年度の途中で追加でお金を使いたいときに編成する「補正予算」と区別するためです。本予算と補正予算では、本予算のほうがお金の規模が大きくなります。

 本予算の審議は必ず通常国会で行われます。なぜなら、国民の代表である国会議員が国のお金のつかいみちを決定する「財政民主主義」という考え方があるからです。したがって、4月から新年度がはじまる以上、政府とそれを支える与党には3月末日までに予算案を衆参両院で可決、成立させる義務があります。そして、通常国会の召集は1月です。そこで、通常国会の前半である1月から3月を、本予算の審議に費やすことになるのです。

 本予算は財務省主計局で編成し、閣議決定を経て国会に提出されます。この閣議決定は毎年12月下旬に行われます。もし、閣議決定が1月にずれ込むと、その分予算審議の開始が遅れてしまいます。

通常国会は演説からはじまる

 通常国会が召集されて、初日に行われるのが政府4演説です。総理大臣の施政方針演説、外務大臣の外交演説、財務大臣の財政演説、経済財政政策担当大臣の経済演説の4つを本会議で行います。なお、衆議院と参議院は独立した存在だという建前があります。まったく同じ内容の演説を衆参の本会議で二度行うのはこのためです。

 4演説のあと、慣例では1日以上おいてから代表質問がはじまります。それぞれの演説を受けて、各会派の代表が本会議で総理大臣、外務大臣、財務大臣、経済財政政策担当大臣に質問します。1日おくのは「演説を聴いたあとに質問を考える時間を作るため」という理由があるそうですが、与党が強気の場合は演説の翌日に代表質問に入ることもあります。それによって野党が反発するという場面もよく見られます。もちろん、これは演説の翌日が平日の場合です。演説が金曜日に行われた場合は、土日で2日あくためか、野党も納得したかたちで月曜から代表質問に入ります。

 代表質問は衆議院と参議院で2日ずつ、3日間にわたって行われます。4日間にならないのは、衆議院の2日目の代表質問を行う日に参議院の1日目の代表質問が行われるからです。

 召集日が金曜日のパターンの代表質問終了までの日程をカレンダーであらわすと、次のようになります。

通常国会召集から代表質問まで
通常国会召集から代表質問まで

先に補正予算から審議する

 通常国会に今年度の補正予算案が提出されることもあります。補正予算案がある場合は、本予算の審議よりも先に補正予算の審議が行われます。ただし、予算委員会で行う趣旨説明は、補正予算と本予算を一括して同時に行うことがあります。衆議院予算委員会での趣旨説明は、参議院の代表質問2日目に行われるパターンが多く見られます。

 補正予算の審議は、衆参ともに2、3日ずつというのが相場です。日数は少ないですが、最初と最後に基本的質疑と締めくくり質疑を行います。ちなみに、予算委員会は連日審議することができます。他の委員会は、国会が召集されるたびに設置される、特定の政策に関する法案を審議する「特別委員会」をのぞいて、決められた定例日以外になるべく会議を開かない慣例になっています。そのような委員会で定例日外に会議を開こうとすると、それを理由に野党が反発したり、開けたとしても「われわれ野党が定例日外の委員会を開くことを許してやっている」という嫌味をいわれたりします。

 補正予算を先に審議することと、審議時間の相場が2日くらいであること、そして委員会を連日にわって開けること。これらをふまえると、補正予算成立までのカレンダーは次のようになります。

補正予算成立まで
補正予算成立まで

予算案採決までの日数は14日〜17日が相場

 3章で見たとおり、本予算の審議は基本的質疑からはじまります。予算委員会の質疑は、基本的質疑、一般質疑、集中審議、締めくくり質疑の4種類がありました。これらの質疑は、一回の委員会でまとめて行われることもあります。たとえば、基本的質疑の最終日に総理大臣らが退席して一般質疑に移ったり、集中審議のあとに一般質疑に移ったりします。

 そのため、単純に「この日は集中審議」と決めつけるのは正確性にかけます。ただ、時間でわけるとさらにわかりにくくなります。ここでは、一般質疑のみであれば一般質疑の日と数え、基本的質疑や集中審議、締めくくり質疑が数時間入った日はそれぞれの質疑の日として数えます。

 4つの質疑の所要日数は次のようになります。

・基本的質疑:3日

・一般質疑:3〜6日

・集中審議:3〜5日

・締めくくり質疑:1日

 締めくくり質疑が行われる日は質疑が終局する日です。質疑が終局すると、ただちに討論と採決に入る慣例になっています。つまり、締めくくり質疑から採決までは同じ日に行います。

 質疑の他に、なくてはならないのが公聴会です。公聴会は、予算委員が公述人から意見を聞き、質疑応答するもので、地方に予算委員を派遣して行う「地方公聴会」と、国会で行う「中央公聴会」の2種類があります。いずれも予算案採決のための必須条件です。

 さらに、締めくくり質疑前に行うものとして、衆議院では分科会、参議院では委嘱審査があります。衆参で審議の形態は違いますが、「予算案をいくつかの分野にわけ、同時並行で審議を行うことで審議の便宜をはかる」という目的は一緒です。分科会は予算委員が審議をする点、委嘱審査はそれぞれの分野に関係のある委員会で審議をする点に違いがあります。

 地方公聴会と中央公聴会はそれぞれ1日ずつ、分科会と委嘱審査はそれぞれ2日ずつ行います。

 以上をふまえると、予算案採決までに要する予算委員会の開会日数は14日〜17日になります。これをだいたい16日くらいと考えて衆議院通過までをカレンダーであらわすと、次のようになります。

衆議院通過まで
衆議院通過まで

 基本的質疑から締めくくり質疑まで、1日も休みなく審議すると2月22日には衆議院を通過するスケジュールになります。ただし、実際は閣僚のスケジュールの都合などで1日〜3日ほど予算委員会が開かれないこともあります。それでも2月27日には衆議院を通過します。

年度内の自然成立は「3月2日」がタイムリミット

 予算案が2月27日に衆議院を通過するというシナリオは、与党大勝利といっていいものです。なぜなら、本予算の審議における与党の勝利条件は「3月2日までに衆議院を通過すること」だからです。

 なぜ「3月2日」なのでしょうか。実は、1章で説明した衆議院の優越に理由があります。衆議院の優越により、予算案は衆議院を通過してから30日経過した場合、参議院の審議が終わらなくても自然成立します。

 この「30日」という日数が鍵です。次の図をみてください。

自然成立とみなし否決の日程感
自然成立とみなし否決の日程感

 2日に衆議院で議決された議案の自然成立の日は、31日になっています。要するに、年度末の3月31日までに予算案が自然成立することを狙うならば、3月2日には衆議院を通過させなければならないのです。

 3月2日に予算案が衆議院を通過してしまえば、参議院でいくら審議に時間がかかっても、政府は痛くも痒くもありません。新年度から予算案どおりに政策を実行できるからです。

 さらに、参議院は自然成立の日よりも前に予算案の採決をする傾向にあります。なぜなら、「衆議院だけあれば参議院なんていらないんじゃないの?」という疑問を国民に抱かせないようにするには、みずからの議決が予算成立に影響を与えない「自然成立」を避けなければならないからです。

 3月2日に衆議院を通過すれば、結果的に参議院も年度内に予算案を採決し、円満に予算が成立するのです。政府と与党にとって、これ以上の勝利はありません。

 対する野党は、そのような状態を避けなければなりません。そのため、予算案の衆議院での採決が3月2日付近になりそうな場合は、与野党で激しい攻防が繰り広げられ、6章でみたような徹夜国会になることもあります。

 ここまで見てきた、

①通常国会冒頭の動き

②補正予算と本予算の審議順序

③14〜17日という予算審議日数の相場

④「3月2日」というタイムリミット

以上の4点をおさえておけば、予算審議の日程が予想できます。たとえば、通常国会の召集日から、今回の予算審議が与党にとってスケジュールに余裕があるのか無いのかがわかります。あとは、その時の社会情勢、政治状況をふまえて自分なりに通常国会の前半を予想できると思います。

 このように日程ベースで国会をみる方法は、特定の政策の是非に踏み込まない利点があります。法案から政策を切り離すことで、政策に対する態度の表明を避けながら、限られた日程で法案を通す技術の巧拙を話題にすることができるはずです。

 「政治の話題から政策を切り離す」ことは、一般的に政治に対する態度として求められていることと反対かもしれません。しかし、「政策の話題から人間を切り離す」ことは困難です。なぜなら、ひとがある政策を支持するかどうかを決めるのは、そのひとの「思い」だからです。だからこそ、政策について話し合いつつもお互いを尊重してわかりあうことは難しいと、わたしは思います。そもそも、そのような重大な話を気軽にできるのかどうか大変疑わしい。ましてや、知らない人に「なぜ態度を表明しないのか」と詰めよられる筋合いはありません。

 憲法には内心の自由があり、意見を表明する自由があります。その一方、投票の秘密のように意見の表明を強制されない自由もあります。これは「意見を表明する自由」があるからには当然備わっているはずの自由ですが、あまり重視されていないように思います。

 ある政策に対してどのような態度をとるか。それはもっとも個人的な領域のものです。個人を尊重するのならば、そんなものの表明を強いられることがあってはなりません。まして、態度の表明にとどまらず、「なんらかの政治的な立場にコミットをしなければ民主的な社会で生きる資格がない」かのように責められる筋合いなどありません。

 政策そのものは予算がともなった行政の振る舞いという具体的なものですが、ひとりひとりがその是非を判断する基準は思いや理念といった抽象的なものです。しかし、日程は違います。時間という具体的で客観的な基準があります。日程を柱に、日程を決定する国会のお約束の数々をふまえて国会審議をみることは、徹底的に現実をみることなのです。

 そして、たったひとつの現実にすべてのひとが共に生きています。現実は、いまを生きているひとびとが共有しているものです。たとえば、そのような現実のなかに「天気」があります。挨拶の際に天気の話をすることがすすめられるのは、天気がその場所にいるすべての人間に共通のものだからだと思います。

 つまり、政治を天気の話と同じ気軽さで話すには、国会審議の日程をめぐるバトルを題材にすればいいのです。国会で繰り広げられる日程闘争を話題にすることこそが、政治を身近にする第一歩なのです。

 たしかに、「政策不在の日程闘争を話すことに意義があるのか」という反論はあるでしょう。しかし、政策について話すことは既に書いた問題をはらんでいます。また、日程闘争を話題にすることにも意義はあります。日程闘争は、時間と制度を組み合わせたゲームです。与野党の日程をめぐる争いをみることは、自然と「与党と野党が制度に基づいたプロセスどおりの動きをしているか」をみることになるのです。

 制度に沿った動きをしているかどうかを検証するのは、民主的な社会を成り立たせるために意義があることです。制度は法律から導かれるものであり、制度を無視することは法律を無視することにつながります。法律を無視することは、「国民が選んだ議員が国会で法律を決め、法律のとおりに行政が動く」という議会制民主主義が危うくなることになりかねません。

 政策について話さなくても、政治を監視することはできるのです。

 とはいえ、ただ監視するだけでは面白くありません。せっかくですから、国会審議を観客として楽しみましょう。楽しむために必要なことは、カレンダーを読めることと、少しだけ国会のルールをおぼえることだけです。難しい政策の話はわからなくてもかまいません。国会の審議中継を全部視聴したり、議事録をすべて読んだりして、内容を理解しなくてもかまいません。ただ、面白そうなところをつまみ食いすればいいのです。

 そして、面白いところがあったら、それをあなたの身近なひとに話してみましょう。政治と聞いて、ちょっと身構えたひとも、政策と関係ない話ならフラットに耳を傾けてくれるかもしれません。

 そのようなやりとりが増えて、食事の席の話題として政治があがるようになると、もっと面白い政治の見方が出てくると思います。どんどん政治を面白がって、ついでに政治家の監視もしてしまいましょう。それだけで、あなたも政治に参加することになるのです。



 この連載は、以下の本に収録されています。本でまとめて読みたい方はこちらをどうぞ!


休憩動議や中間報告で野党の攻撃を無効化する:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール6


 ここまで野党の抵抗方法についての説明が続きました。与党だって負けてはいません。野党がどんなに抵抗しても、与党が会期内に成立させると決めた法案はありとあらゆる手をつかって審議を進めます。ここでは、2013年に成立した特定秘密保護法案と、2017年に成立した組織的犯罪処罰法改正案の審議を例に、与党がどのように野党の攻撃をさばいているかをみていきましょう。

記名投票要求による採決の引き延ばしに休憩動議で対抗

 2013年12月4日、午後1時22分から開かれた参議院本会議には、12件の案件が上程されていました。この時点で、第185回臨時国会の会期末は12月6日となっており、国会審議はまさに大詰めを迎えています。

 この国会で与野党が対決していた重要法案のひとつである特定秘密保護法案は、すでに衆議院を通過し参議院の審議に入っていました。与党は4日の午後に採決の前提となる地方公聴会をさいたま市で開くことを狙っていましたが、本会議開会中に公聴会を行うことはできません。野党は普段は記名投票を求めないような全会一致になる案件にも記名投票要求を出して、採決を長引かせることで本会議が終わる時間を遅くしようとしていました。

 本会議が長引いて地方公聴会が開けないことを恐れた与党は一計を案じました。一括として議題となった最初の3件の記名投票採決が終わり、次に議題となった案件の審議をした委員長の報告をさえぎり、動議が出されます。本会議を休憩する動議です。ただちに動議は取り上げられ起立採決で可決し、午後1時41分、本会議は休憩しました。このまま残りの案件の採決を続けるのではなく、いったん休止することで確実に地方公聴会を実施できるようにしたのです。

 ちなみに、休憩した本会議は午後9時11分に再開します。再開後の本会議は残りの7件の採決が終わった10時18分にいったん延会し、2時間後の5日0時11分から残りの2件の採決を行う本会議が開かれました。予定されていた12案件がすべて採決されたあと、野党提出の議院運営委員長(与党議員)解任決議案と与党提出の内閣委員長、経済産業委員長(いずれも野党議員)の解任決議案が次々に動議により議題とされ、採決されます。

 採決の結果は、議運委員長のものは否決、内閣、経産委員長のものは可決です。ここまでで午前2時39分、いったん休憩します。午前3時16分に再開した本会議で、解任された内閣、経産委員長の後任を選ぶ選挙が行われ、与党議員が後任の委員長に選出されました。こうして徹夜となった本会議は、午前3時54分に休憩しました。

 この国会は特定秘密保護法案で与野党がバチバチにやりあっていたためか、12月6日〜7日にかけても、深夜まで本会議、さらに延会して午前0時から本会議開始という流れになりました。6日が会期末なのに7日も審議できているのは、6日に12月8日までの会期延長を議決したためです。これも特定秘密保護法案を確実に成立させるための策でした。結局、特定秘密保護法案は12月6日の参議院本会議で可決し、成立しました。

休憩、散会、延会

 ここで本会議の休憩、散会、延会の違いをおさえておきましょう。

 すべての議事日程が終了したとき、本会議は散会します。散会したときは、その日のうちに再び本会議を開くことはできません。

 議事が終わる前に会議を休止するのが休憩です。ですが、あらかじめ決められた議事日程が終了していても、新たな案件が緊急上程されることが見込まれるときは休憩します。なぜなら、休憩ではなく散会してしまうと本会議を開くのが翌日以降になってしまうからです。

 そして、議事の途中で会議を終了するのが延会です。ここまで見てきた特定秘密保護法案をめぐる攻防のように、議事の途中で午前0時になる場合も0時になる前に延会します。延会した場合、次の本会議では、終わっていない案件をそのまま審議することができます。

 おそらく、休憩のまま日付が変わってしまうと自動的に散会になり、新たに議事日程を組み直すための議院運営委員会を開くなど調整が必要なのでしょう。また、定例日外に本会議を開く場合の野党との調整も大変なはずです。散会になることを避けて、翌日の本会議でただちに続きの審議をしたいときに、延会という手段を講じるのだと思います。

委員会審議を打ち切る「中間報告」

 2017年6月14日、第193会国会の対決法案である、織的犯罪処罰法改正案は5月23日に衆議院を通過し、参議院に舞台を移して法務委員会で審議中でした。

 参議院では5月29日に本会議趣旨説明を終え、法務委員会に付託、翌30日に委員会で趣旨説明と質疑に入り実質審議入りしました。与野党でどういう駆け引きがあったのかはわかりませんが、法案の趣旨説明と質疑が同日中に行われている時点で、だいぶヤバそうな雰囲気がただよっています。

 その後、6月1日、8日、13日と質疑を行っていますが、13日の委員会で野党議員の質疑の途中で法務大臣の問責決議案が提出され、委員会は休憩となりました。休憩後、法務委員会が開かれることのないまま迎えた14日の参議院本会議で、組織的犯罪処罰法改正案の中間報告を求める動議が突如提出されます。

 中間報告とは、委員会の審議が終わる前に本会議で法案の審議経過を報告させることです。中間報告を受けたあとは、本会議の議決で委員会での審議に期限をつけたり、委員会から法案をとりあげて本会議で審議を継続したりできます。本会議で審議を継続するということは、採決もできるということです。中間報告を求める動議と、本会議で審議することを求める動議のセットで、本会議で質疑、討論、採決をすることができます。

 中間報告からの本会議採決は、強行採決のなかでもかなりハードなものです。そもそも委員会で採決がないという「採決なしの強行採決」であり、究極の強行採決といえるでしょう。

 ちなみに、中間報告を求める動議が議題になった直後に議院運営委員長解任決議案が提出され、解任決議案の採決が終わった段階で午後9時42分延会しました。5時間後の6月15日午前2時31分から本会議が始まり、中間報告を求める動議が可決、組織的犯罪処罰法改正案の中間報告、同法案を本会議で審議する動議の可決まで行って午前4時33分休憩します。1時間後の5時41分再開し、法務大臣や外務大臣に対する質疑、討論、採決が行われ、午前7時46分に組織的犯罪処罰法改正案は可決し本会議が休憩しました。この15日は休憩後に本会議の再開はありませんでした。ものすごい徹夜国会です。

 紹介した事例のように、会期末に与野党で本気で戦うと審議が深夜に及ぶどころか徹夜になることもあります。国会議員の仕事も体力が必要なのです。


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出したいけど、可決したら困る。「内閣不信任案」:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール5


 内閣が役所を指揮できる根拠は、衆議院の信任を受けているというところにあります。それゆえに、衆議院が「本院は、○○内閣を信任せず。」と議決することは、内閣の命運が尽きることと同じです。その他の不信任案と違って、内閣不信任案は採決の結果次第で重大な政治的な状況を生み出し、単なる野党の審議引き延ばし策以上のものになります。そんな内閣不信任案をめぐる攻防を見ていきましょう。

内閣不信任案が可決するのは、与党が割れたとき

 内閣不信任案が可決されたケースは4例あります。1948年の第2次吉田内閣、1953年の第4次吉田内閣、1980年の第2次大平内閣、1993年の宮沢内閣です。

 このうち、1948年のケースは衆議院総選挙を早期に行うことで与野党合意していた、いわば八百長のようなものですが、それ以外のケースは与党議員の造反により可決したガチのものです。

 1953年は、当時の吉田総理が国会審議中に漏らした「ばかやろう」という言葉をきっかけにして起こった政局で、与党自由党を脱党した議員が不信任案に賛成しました。

 1980年のケースは、当時の大平総理に対抗していた福田赳夫元総理を支持する与党自民党内の反主流派の欠席により、出席していた与党議員の数が野党議員を下回ったことで不信任案が可決するというものでした。このケースでは初の衆参同日選挙となり、大平総理が選挙中に死去したこともあってか、自民党は衆参両院で大勝しました。

 1993年のケースは、与党自民党の最大派閥が内紛により分裂し、派閥抗争で少数派になった議員や当時の一大テーマであった「政治改革」に対して宮沢内閣が消極的だと考えた議員が不信任案に賛成したことで可決しました。1955年の結党以来与党であった自民党が初めて下野するきっかけとなった事件でもあります。

 このように、内閣不信任案が可決したケースが与党議員の造反によるものしかないのはある意味当然です。通常は、衆議院の過半数の支持を得た議員が総理大臣になります。過半数の支持を得てできた内閣が、過半数の信任を得られなくなるということは、支持したうちの何人かが不支持にまわったからなのです。

 逆に言えば、与党が一枚岩ならば内閣不信任案は絶対に可決することはありません。与党に分裂のきざしがない状態で出された場合は「野党は不信任案が可決することを本気で望んでいないんだな」と考えてもいいかもしれません。

内閣不信任案が可決したら、選挙戦がはじまる

 内閣不信任案の可決には、内閣に次の2つの選択肢のうちのいずれかを選ぶことを強制する効果があります。ひとつが内閣総辞職すること。もうひとつが衆議院を解散することです。どちらかを、10日以内に選ばなければなりません。

 内閣総辞職するのは、内閣総理大臣を選び直し、現在の衆議院が信任する内閣を作り直すためです。そして、衆議院の解散には、内閣を信任しない衆議院議員全員をクビにしたうえ、選挙で国民に選び直してもらい、新たな衆議院の信任を得た内閣を作り出すという狙いがあります。衆議院の不信任の議決に素直にしたがうか、議決に対抗して、内閣と衆議院のどちらが正しいかを国民に問うかという違いです。

 過去に内閣不信任案が可決されたケースでは、内閣総辞職した例はひとつもありません。すべての内閣が衆議院を解散しています。内閣不信任案は解散の呼び水になる可能性があるのです。

内閣不信任案は野党にとって「もろ刃の剣」

 批判している政策を進める内閣の法案審議を妨害し、場合によっては退陣に追い込むことができる内閣不信任案は、野党にとって大変魅力的なものです。内閣不信任案の賛成討論は、内閣のこれまでの政治姿勢をまるごと批判する機会でもあり、演説の内容によって有権者にアピールすることもできます。実際、2018年7月20日に行われた安倍内閣不信任決議案の賛成討論は『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)として出版されました。

 そんな不信任案の欠点は「可決したら解散総選挙になる」という点です。

 与党議員の造反や欠席がなければ可決しない以上、内閣不信任案の可決により衆議院の選挙が前倒しで実施されることは、野党にとって政権獲得のチャンスになるはずです。与党議員に裏切られるような人気のない政権ならば、野党にも勝てる可能性があるからです。

 しかし、野党側が選挙の準備が全くできていない状態で不信任案が可決したらどうでしょうか。選挙資金さえ十分でなく、他の野党とも争わなくてはならない状況であれば、政権獲得どころかよけいに党勢を落としてしまいます。

 しかも、与党議員が裏切るのではなく意図的に採決の前に欠席した場合は、与党にとって有利なタイミングで内閣不信任案が可決し、総選挙になる可能性もあります。この決議案は、選挙を勝ち抜くあてがない野党が出してはいけないものなのです。

総理大臣の「解散の構え」に翻弄された野党の例

 2019年6月に、内閣不信任案が野党にとってもろ刃の剣であるということがよく分かる事例がありました。

 2018年の臨時国会の会期末では、野党である立憲民主党と国民民主党との間で内閣不信任決議案の提出の方針が割れたという報道がありました。内閣不信任案の提出を求めた国民民主党に対し、立憲民主党は参議院選挙の直前となる2019年の通常国会の会期末にしぼって不信任案を提出することで与党との対決ムードを盛り上げたいと考え、提出を拒んだということです。(時事ドットコム『内閣不信任案で足並み乱れ=立憲・国民』2018/12/08-01:15)

 この報道によれば、立憲民主党は2018末の臨時国会で内閣不信任案を温存して、2019年の通常国会の会期末で提出する気満々だったということです。

 しかし、「総理大臣は、衆議院を解散して衆議院と参議院の同日選挙を狙っているのではないか」という観測が出ると、立憲民主党の幹部の中に内閣不信任案提出慎重論が出ているという報道が出始めました。この内閣不信任案提出慎重論は、5月下旬に官房長官が「内閣不信任案が提出は衆議院を解散する大義になりうる」と記者会見で質問に答えたことで、ピークに達します。

 5月30日の日経新聞朝刊には、内閣不信任案の国会提出について話し合った野党党首の次のようなコメントが出ていました。

 「様々な政治状況を判断したうえで、改めて状況によって相談させてもらう」(立憲民主党:枝野代表)  「今回は年中行事のように出すものではない」(国民民主党:玉木代表)  「党首会談で合意したのは、よく相談していこうという一点だ」(日本共産党:志位委員長)

どの党首も、なんとも煮え切らない態度を示しています。

 ところが、徐々に同日選見送りの方向がみえてきた6月上旬には、野党党首は一転して内閣不信任案の提出に前向きになります。はっきりと不信任案を出さないほうがいいというようなコメントを出した玉木代表などは「不信任に値する点は多々ある。枝野代表が出すというのであれば協力したい」(日経新聞6月12日朝刊)と正反対のコメントを出しています。

 このまま内閣不信任案を出すのかなと思いきや、6月16日に枝野代表は「参院選に挑むので、首相の問責決議案を参院に出すのが筋ではないか」(日経新聞6月18日朝刊、読売新聞6月18日朝刊)と、不信任案の提出を見送るかのようなコメントを出しました。

 このコメントは「野党は通常、可決されても法的拘束力のない問責決議案より、内閣総辞職を迫る内閣不信任案を重視する」(読売新聞6月18日朝刊)という点で、これまでの常識では考えられないものでした。しかも、内閣不信任案を提出しない理由は「衆議院の解散がなさそうだから不信任案を出す、と思われるのはしゃくだ」(日経新聞6月18日朝刊、読売新聞6月18日朝刊)という信じがたいものでした。当然、不信任案を出す気になっていた他の野党党首は枝野代表のコメントに猛反発しました。

 結局、6月19日に行われた党首討論で総理大臣が衆議院を解散しない意向を示したことで、枝野代表は再び内閣不信任案の提出に傾きます。6月25日、立憲民主党や国民民主党などは内閣不信任案を提出しました。

 このように、内閣不信任案とその結果もたらされる可能性がある衆議院の解散は、野党を右往左往させる力があります。ちなみに、この事例では総理大臣や官房長官といった政権幹部だけでなく、与党議員からも解散総選挙待望論がある状態でした。1980年の衆参同日選挙以来、「同日選は与党有利」という考えがあるからです。これは、与党が総選挙をやる気のように見えて、かつ、野党が選挙に消極的であることが重なったときに起こった、珍しいケースなのかもしれません。


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不信任案や解任決議案で審議をストップ!:もっと楽しく政治の話をするための国会のルール4


 国会で多数派にならなければ内閣を維持できない関係上、野党は与党よりも議席数が少ないことが普通です。ここからは、そんな野党が与党に対抗するためにどんな手段を使っているかを見ていきます。まずは不信任案の使い方です。

野党の欠席で審議が止まるのは、与党の配慮によるもの

 野党が法案審議を止める方法として、よく知られているのが審議拒否です。何らかの条件が満たされるまで委員会や本会議を開くことに反対し、開かれた場合も欠席します。

 与党としては、野党抜きで審議を進めたとあっては有権者に悪い印象を与えてしまう恐れがあります。余裕がある場合は「野党が出席しないのでこの会はお流れにします」と、与党が自発的に審議を止めてくれます。

 ただし、この対応はあくまで与党の譲歩です。定足数という委員会を成立させるための最低限の出席者を満たしている限り、野党の委員が何人休もうが委員会を開いて審議を進めることにルール上の問題はありません。委員会の定足数は「委員の半数以上」と国会法で定められています。すべての常任委員会で委員長を出して、かつ、定足数を満たす半数の委員を与党議員で占めることができる議席数を「安定多数」と呼びます。

 ただ、これだけでは与党で委員会を牛耳ることはできません。委員長は可否同数の場合しか採決に加わりません。ぴったり過半数の与党議員しか委員会に出せなかった場合は、与党議員から委員長を出すと、与党側は過半数を割ります。与党の委員がひとりでも欠席したら、採決で野党に負けてしまいます。委員長を出しても、与党議員が過半数になるようでなければ真に安定的な国会運営ができません。この状態をすべての常任委員会で達成できる議席数を「絶対安定多数」と呼びます。

 最低でも与党が安定多数となる議席を保持している場合は、定足数を与党議員だけで満たせます。野党の欠席で審議が必ずストップすることにはなりません。

 単なる欠席よりも審議を止める力が強い方法があります。委員長の不信任案を提出することです。

委員会の進行を少し遅らせる委員長の不信任案

 法案審議中に委員長の不信任案が提出された場合は、不信任案の採決が優先されます。つまり、不信任案の採決が終わるまでのあいだ、もともとやっていた法案審議が止まります。

 なぜ不信任案の採決が優先されるのかというと、不信任されるかもしれない委員長のもとで審議を進めるのは問題だという考え方があるからです。不信任されるような委員長は正常な委員会の運営をできないはず→そのような委員長のもとで審議を進めたらおかしな結果になりかねない→だから審議を止めて不信任案の採決をする、という理屈です。

 不信任案が否決されれば、委員長は信任されたということになります。そして、たいていの場合は与党委員の反対で否決されます。委員長は与党議員であることがほとんどだからです。

 不信任案を提出することで、強行採決を数分遅らせることもできます。

 質疑終局、討論省略のうえ採決を求める動議が出た直後、委員長の不信任を求める動議を出します。先に提出されたのは採決を求める動議ですが、委員長の不信任案の方が優先されます。不信任案の採決後、採決を求める動議が採決され、法案の採決にはいります。

本会議で採決するまで審議を止める委員長の解任決議案

 委員長の不信任案は、委員会を数分止めるくらいの効果しかありません。もうちょっと止めたい場合は、委員長の解任決議案を提出します。

 委員長の解任決議案は本会議で採決する必要があります。そのため、委員会開会中に解任決議案が出された場合は、本会議で決議案が採決されるまで委員会を中断しなくてはなりません。決議案が提出された日に本会議が設定されてなければ、委員会の再開は翌日以降になります。

 本会議も委員会も毎日やっているわけではなく、決まった曜日に開かれています。「あらかじめ決められた定例日以外に会議を開くことは望ましくない」という慣習があるようで、急に会議を設定するいうのは不可能ではありませんが、与党としては野党に抵抗するスキを与えることになってしまいます。つまり、解任決議案が提出されたからといって、予定されていない本会議をすぐに開くことは原則できません。

 委員長解任決議案を提出した場合は、委員会で委員長不信任案を出すよりも長い間審議を止めることができます。しかも、本会議は全議員が集まることに意味があるので、原則として本会議中はすべての委員会の会議を行いません。解任決議案しか議題がない場合は、すべての委員会の審議を決議案の採決の間止めることができるのです。

 似たような効果を持つものに、本会議で議決する所管大臣の不信任案、議長の不信任案などがあります。

不信任案の最優先、内閣不信任決議案

 究極の不信任案が、衆議院のみが議決できる内閣不信任決議案です。内閣不信任決議案が提出されると、衆議院だけでなく参議院の審議も止まる慣例になっています。「内閣」とは、総理大臣だけでなく、内閣を構成するすべての大臣を含みます。すべての大臣に対して不信任案が出されていて、かつ、可決した場合は内閣総辞職して全大臣がいなくなるか、衆議院が解散して全法案が廃案となる状態で、審議を続けても意味がないということなのでしょう。

討論、採決でさらに延長

 不信任案の採決の際も討論は可能です。本気で審議を遅らせようとする場合は、討論で1時間以上は演説して不信任案の審議を引き延ばし、後に控える法案審議の再開を遅らせることができます。

 また、内閣不信任案に限りませんが、本会議で採決する場合は採決の種類が4つあります。

・議長が異議の有無を聞く「異議なし採決」 ・議長が賛成の議員の起立を求める「起立採決」 ・議員が賛否いずれかのボタンを押す「押しボタン式投票」(参議院のみ) ・議員ひとりひとりが賛否を表す木札を演壇に置かれた投票箱に投票する「記名投票」

 このうち、一番時間がかかるのは記名投票です。内閣不信任案やその他の大臣の不信任案の採決方法に記名投票を要求することで、さらに審議の停止時間を延長することができます。ただし、記名投票は出席議員の五分の一以上の要求が必要です。野党会派の議席が少なすぎる場合、野党の意見を統一しなければ記名投票にできません。

同一の対象に対する不信任案は何度も出せない

 このように審議を確実に遅らせられる不信任案ですが、何度も出せるものではありません。一回の国会の会期内に同一の案件を二度議決しない「一事不再議」という考え方があります。同じ案件を何度も議決できると、いつその案件の可否が確定するかわからず国会の決議が信用されなくなるおそれがあります。国会の決議に対する権威を落とさないための工夫です。

 一事不再議の原則により、会期内に出せる不信任案や解任決議案は、それぞれの対象について一回だけです。たとえば、ある委員長の解任決議案を会期の序盤で出した場合、決議案が否決されたあと、どんなに強引な委員会運営を委員長が行っても、もう一度解任決議案を出すことはできません。

 実際、2018年の197回臨時国会で、外国人労働者の受け入れを拡大する「入管難民法改正案」の審議を衆議院法務委員会で審議し始めた段階で、野党が法務委員長の解任決議案を出して否決されたことがあります。このあと、法務委員長は解任も不信任もされることのない「無敵の法務委員長」となり、どんどん職権で委員会を開いて審議を進めていきました。不信任案や解任決議案を提出するタイミングは慎重に見極めなくてはいけないのです。

 ちなみに、内閣不信任案を提出したあとは、個別の大臣に対する不信任案を出せません。内閣不信任案がすべての大臣の不信任案を兼ねているためです。ですから、もし国会冒頭で内閣不信任案を出して否決された場合、どの大臣も必ず不信任案が出されない無敵の内閣が誕生することになります。

 ただし、一事不再議は絶対の原則ではありません。同一会期内であっても、社会情勢が変化したなど、前回不信任案を否決したあとに事情が変わったとみなされる場合はもう一度不信任案を出せるとされています。

 不信任案は、単なる欠席よりも確実に国会を止められますが、出すタイミングをはかる必要があります。野党が効果的に不信任案を出した場合は、どうせ与党の反対多数で否決されたとしても、評価されてほしいものです。

 不信任案の基本はこれでOKです。次は内閣不信任案をめぐる攻防についてみていきましょう。


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