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補正予算案の提出から実質審議入りまで


 2013年2月2日現在。「補正予算案に関する財政演説とは?」や、「予算案の審査過程と財政演説の位置づけ」の記事で、財務大臣が行う財政演説が予算案の審議過程でどのような役割を持つのかを考えてきました。

■補正予算案は提出後即衆議院予算委員会に付託

 私は2つの記事の中で、予算案国会提出→財政演説→財政演説に対する代表質問→予算案予算委員会に付託→予算委員会で予算案の趣旨説明→実質審議入り(基本的質疑)、という流れだと予想していました。

 しかし、昨日2月1日、衆議院のサイトに補正予算案の情報が掲載され、予想が外れたことがわかりました。掲載された情報によると、補正予算案が衆議院に提出(受理)されたのが1月31日で、同日中に予算委員会に付託されていることがわかります。

■衆議院予算委員会での趣旨説明は財政演説後

 今朝の読売朝刊と日経朝刊に、2月1日の衆議院予算委員会理事懇談会で、補正予算案の趣旨説明を2月6日にやると決めたという記事が掲載されていました。

 さらに、読売朝刊では、衆議院と参議院の議院運営委員会が、2月4日に行う財務大臣の財政演説に対する代表質問の日程を、衆議院で2月5日に、参議院で2月6日に行うことを決めたと報じています。

■補正予算案の提出から実質審議入りまで

 したがって、今年の補正予算案の提出から実質審議入りまでの過程は次のようになります。

  1. 内閣が衆議院に補正予算案を提出:1/31(木)
  2. 衆議院が補正予算案を予算委員会に付託:1/31(木)
  3. 補正予算案に関する財政演説:2/4(月)
  4. 財政演説に対する代表質問・衆議院:2/5(火)
  5. 財政演説に対する代表質問・参議院:2/6(水)
  6. 衆議院予算委員会で補正予算案の趣旨説明:2/6(水)
  7. 衆議院予算委員会で補正予算案の基本的質疑:2/7(木)←実質審議入り

予算案の審査過程と財政演説の位置づけ


■補正予算案は2月7日に実質審議入り

 2013年1月31日現在。「補正予算案に関する財政演説」の位置づけを、本会議での議案の趣旨説明と同じようなもであると考えてみたのですが、どうも自信がありません。財政演説と予算案が委員会に付託されることは関係がないかもしれません。

 というのも、1月30日付の日経朝刊は、2月5〜6日に財政演説に対する代表質問を終え、2月7日に衆議院予算委員会で補正予算案が実質審議入りするスケジュールを出しています。「実質審議入り」とは、委員会で議案の趣旨説明が終わり、趣旨説明に対する質疑に入ることを指します。

■予算案の審査過程

 ただし、予算案の審査の過程は法案とは少し違います。以下に予算案審査の流れを書きます。浅野一郎・河野久『新・国会事典 第2版』(有斐閣)を参考にしました。

  1. 財務大臣の趣旨説明、財務副大臣、内閣府副大臣の補足説明
  2. 基本的質疑(全閣僚出席)
  3. 質疑(財務大臣と要求大臣)
  4. 公聴会
  5. 分科会
  6. 締めくくり質疑(全閣僚出席)
  7. 採決

 少し補足します。「要求大臣」というのは、質問者が答弁を要求する大臣のことです。例えば、厚生労働省の予算について質問したい場合は、厚生労働大臣の出席を求めることになります。また、4の公聴会と5の分科会は3と平行して行われます。

 予算案の場合、2の基本的質疑に入ることで「実質審議入り」します。つまり、2月7日時点で衆議院予算委員会で補正予算案の基本的質疑が行われる予定だと日経はみているわけです。

■趣旨説明はいつか?

 予算案の審査過程を考えると、少なくとも2月7日以前には予算委員会で趣旨説明を終えていなければなりません。しかし、原則として趣旨説明はどんなに短いものでも委員会の日程を一日分消費します。例外は、与野党があらかじめ賛成で合意している場合くらいです。

 もし、財政演説が本会議での趣旨説明と同じ位置づけのものだとすると、2月6日まで代表質問をやっていたら委員会で趣旨説明する時間がないように思えます。だから、財政演説と委員会審査に関係がないのではないかと思ったのです。

 とはいえ、参議院の本会議は午前中から開かれます。2月6日の午後までに代表質問を終わらせて、夕方から衆議院予算委員会で趣旨説明と補足説明をすれば、2月7日に間に合います。

■衆議院のサイトで答え合わせ

 考えていてもわかりません。冒頭にも書いた通り、本日補正予算案が国会に提出されるので、しばらくしたら衆議院のサイトに補正予算案に関する情報が載ります。そこには、議案が委員会に付託された日付も出ているので、それによって財政演説の位置づけがわかります。

 すなわち、財政演説の日付より前だったら、財政演説は本会議での趣旨説明とは違うということで、財政演説の日付以降だったら、財政演説は本会議での趣旨説明と同等のものであるということです。

*2月2日追記**平成24年度補正予算案の付託は1月31日でした。財政演説と付託に関連はないようです。詳しくは「補正予算案の提出から実質審議入りまで」を参照してください。


補正予算案に関する財政演説とは?


■来年度予算案閣議決定

 2013年1月30日現在。昨日29日に定例閣議(毎週火曜)が行われ、平成25年度予算案が閣議決定されました。あとは国会に提出するだけです。

 しかし、すぐに来年度予算案を審議することはできません。今日から28日に行われた安倍首相の所信表明演説に対する代表質問が行われていますし、来週は平成24年度補正予算案の審議があります。

■補正予算案に関する財政演説

 今朝の日経朝刊によると、補正予算案は明日31日に国会に提出され、2月4日には財務大臣による補正予算案に関する財政演説が行われるとのことです。この、「補正予算案に関する財政演説」とは何なのでしょうか。

 法案審議の際、委員会の審議に先立って本会議で法案の趣旨説明をするよう、議院運営委員会が要求することがあります。このとき、本会議での趣旨説明と質疑が終わらなければ、委員会で法案を審議する前提となる「付託」は行われません。つまり、法案審議が始まらないということです。

 おそらく、日経が書いている補正予算案に関する財政演説は、法案でいう本会議での趣旨説明に近い位置づけのものだと考えられます。

*2月2日追記**平成24年度補正予算案の付託は1月31日でした。財政演説と付託に関連はないようです。詳しくは「補正予算案の提出から実質審議入りまで」を参照してください。


施政方針演説と所信表明演説


■通常国会召集

 2013年1月29日現在。昨日28日に通常国会が召集されました。昨日は開会式と、安倍首相の演説が行われました。明日30日から2月1日まで、衆参両院の本会議でこの演説に対する各党の質問が行われます。

■ひとつだけ?

 今回のスケジュールには、少し違和感がありました。例年ですと、通常国会冒頭では、政府四演説というものが行われます。政府四演説とは、以下のものを指します。

  1. 首相による施政方針演説
  2. 外務大臣による外交演説
  3. 財務大臣による財政演説
  4. 経済財政政策担当大臣による経済演説

 ところが、昨日の夕刊をみても、衆議院のサイトでみられる本会議の映像をみても、首相の演説しかやってないようなので、「おかしいなぁ」と思っていました。

 しかし、その疑問も今朝の朝刊ではれました。昨日の本会議の演説は、「施政方針演説」ではなく「所信表明演説」だったのです。

■施政方針演説と所信表明演説の違い

 今朝の読売朝刊に出ていた解説によると、施政方針演説と所信表明演説の内容には次のような違いがあります。

  • 施政方針演説:次年度予算案を踏まえた政策について説明するもの
  • 所信表明演説:政策の基本理念や、主要政策への考え方を説明するもの

 今国会冒頭で施政方針演説を行わなかったのは、次年度予算案がまだ閣議決定をみていないためだと思われます。

 また、施政方針演説は通常国会で行われますが、所信表明演説は臨時国会や特別国会の冒頭、首相の交代時は会期中にも行われます。昨年末の特別国会で安倍首相は所信表明演説をしていないため、28日に所信表明演説を行ったようです。

 今まで、施政方針演説と所信表明演説がごっちゃになっていたので、いまいち事態を飲み込めませんでした。

■3月初旬に政府四演説

 ちなみに、政府四演説をやらないわけではありません。今朝の日経朝刊によると、3月初旬に施政方針演説を含む政府四演説を行う見込みだそうです。

 ということで、近いうちにもういちど安倍首相の演説をニュースなどで耳にすることがあるようです。


官報でみる国会


 官報の国会関係のもの、いわゆる「国会事項」には、本会議のスケジュールから、国会職員の人事異動までいろいろなものが載っています。大抵は、議員が内閣に質問する際に提出する「質問主意書」のタイトルの羅列が多くを占めていて、大変地味なものになっています。タイトルだけなのであんまり面白くありません。

 たまに、毛色の変わったものが載るときもあります。例えば、昨年11月2日付には、当時の野田内閣総理大臣が横路衆議院議長に「原子力緊急事態宣言」がされていることを通知した「通知書」が載っていました。

内閣人第一九七号
  平成二十四年十一月二日
         内閣総理大臣 野田 佳彦
 衆議院議長 横路 孝弘殿
 原子力規制委員会設置法附則第二条第六項の規
定に基づき、原子力災害対策特別措置法第十五条
第二項の規定による原子力緊急事態宣言がされて
いる旨を貴院へ通知いたします。

 この通知は、国会の同意が必要な原子力規制委員会の人事について、同意を先送りするために出されたものだと言われています。ちなみに、文中の「内閣人」というのは、内閣の人事案件についてのものだという印です。原子力規制委員会設置法に、「原子力緊急事態宣言」が出ているなどの条件を満たせば同意を先送りできる例外規定がおかれています。国会の同意を得られる見込みがたたないので、わざわざ通知しているわけですね。


官報で見る国会召集の詔書


2013年1月22日現在。先週末、「平成二十五年一月二十八日に、国会の常会を東京に召集する詔書」が渙発され、来週28日に通常国会が召集されることになりました。

国会の召集は、憲法が定めた天皇の国事行為のひとつです。国会関係の国事行為には、昨年11月にあった衆議院の解散や、同じく12月の衆議院総選挙の公示などがあります。

文面は以下のようになっています。

 日本国憲法第七条及び第五十二条並びに国会法第一条及び第二条によって、
平成二十五年一月二十八日に、国会の常会を東京に召集する。
御 名  御璽
平成二十五年一月十八日
内閣総理大臣臨時代理
国務大臣 麻生 太郎

普通、詔書は「〜する」という本文と御名御璽(天皇の名前とはんこ)のあとに、内閣総理大臣が署名します。これを副署といいます。今回は、安倍首相が外遊中だったためか、内閣総理大臣臨時代理として麻生財務相が副署していますね。私は、最近官報をチェックし始めたので、臨時代理が副署した詔書は初めて見ました。

官報をインターネットでチェックしたい方は、ここで過去30日分を確認できます。


どうして、「来年度予算成立は5月」なのか〜予算編成のスケジュールから考える


 2013年1月9日現在。一昨日、1月7日に各省庁の補正予算に対する要望が締め切られました。同時に、自民党の政務調査会部会も仕事始めとなり、緊急経済対策に向けての話し合いも始まりました。「1月11日に自民党が緊急経済対策を策定する」という報道からすると、1月11日に総務会で決定するスケジュールだと思われます。

 さて、安倍政権発足前後から、「2013年度予算成立は5月の連休明けになる」との報道がされていました。今まで、どのような根拠で政治家や新聞記者がこのような見通しを出せるのかいまいちわからなかったのですが、予算審議や予算編成について調べるうちに、だんだんその根拠がわかってきました。

■予算編成のスケジュール

 予算編成はどのように行われているでしょうか。ポイントとなる月は、8月と12月、そして1月です。

■8月末:各省庁の概算要求

 8月末を目処に、各省庁が財務省に来年度予算を要求します。これを概算要求と呼びます。

■9月〜12月:予算査定

 9月から、予算編成を担当する財務省主計局の主計官(各省庁課長級)や主査(各省庁課長補佐級)が中心となり、各省庁の課長や課長補佐から説明を受けながら予算査定を行っていきます。

■12月下旬:政府案閣議決定

 12月下旬には、来年度予算の財務省原案が発表されます。それをもとに、政府は来年度予算案を閣議決定します。閣議決定するということは、予算案を国会に提出する準備が整うということです。ちなみに、平成24年度予算案は、2011年12月24日に閣議決定されています。

■1月下旬:政府案を衆議院に提出

 1月下旬、通常国会の召集日には政府案を衆議院に提出します。実質的な審議は、首相の施政方針演説や、財務大臣、外務大臣の演説とそれに対する質疑が終わったあと、召集から1週間程度たってから始まります。ただし、補正予算の審議を行う場合は、補正予算の成立を待ってから来年度予算の審議が始まるので、さらに1週間程度あとになります。

■予算成立5月説の根拠

 以上が予算編成のスケジュールです。今年の場合は、11月中旬に衆議院が解散されてから予算編成が事実上止まったかたちになっています。

 単純に考えると、解散から新政権発足までの1ヶ月がそっくり後ろに押し出されることになります。つまり、例年なら1月下旬に予算案が国会に提出されるところ、1ヶ月のびて2月下旬になり、そこから国会審議に2ヶ月かかって、5月の連休明けに成立というスケジュールになるわけです。

 安倍政権発足前後から報道されていた「来年度予算案5月成立」という説には、このような根拠があると思われます。


予算審議にかかる時間


2013年1月3日現在。今月下旬にも日本国憲法下の183回目の国会である常会、いわゆる通常国会が召集される見込みです。通常国会最大のテーマは、予算審議です。

■予算成立は5月?

今年は、総選挙や政権交代によって予算編成が難航していることもあり、平成25年度予算の成立は5月ごろになるとも言われています。3月中に予算を成立させ、4月から執行することが原則なので、もし5月に成立したとすると稀に見る遅さです。

■昨年の予算審議時間

いったい、予算審議にはどのくらいの時間がかかるのでしょうか。昨年、2012年は2ヶ月かかっています国会会議録検索システムを使って昨年の通常国会である、第180回国会の予算委員会の開会日をみたり、予算案の採決が行われた本会議の会議録をみたりして算出しました。

平成24年度予算案は、1月24日(火)に内閣から衆議院に送付され、1月30日(月)に衆参の予算委員会で、審議の前提となる趣旨説明が行われています。

そして、2月9日(木)の衆議院予算委員会で審議が始まりました。趣旨説明から2週間ほど時間があいているのは、平成23年度補正予算の審議を衆参で2月1日(水)から2月8日(水)までの間に6回行っていたからです(衆議院3回、参議院3回)。

衆議院では2月9日(木)から3月8日(木)までに19回予算委員会を開き、3月8日(木)に委員会で可決したのち同日中に本会議でも可決、参議院に予算案を送付しています。本会議での予算委員長の報告によれば、衆議院予算委員会では、政府に対する質疑時間だけでも89時間を費やしたそうです。

参議院では、3月12日(月)から4月5日(木)までに15回予算委員会を開き、4月5日(木)に委員会で否決したのち同日中に本会議でも否決、衆議院に予算案を返付しています。本会議での予算委員長の報告によれば、参議院の予算委員会では100時間近く審議したそうです。

4月5日(木)に予算案が参議院で否決されたことにより、衆参は同日中に両院協議会を開き協議します。協議は物別れに終わり、憲法60条2項(*)により衆議院の議決が国会の議決になりました。つまり、平成24年度予算案が成立したということです。

■今年の見通し

ここまでみた通り、平成24年度予算成立には、2月9日(木)から4月5日(木)までのおよそ2ヶ月間の日数と、34回の衆参予算委員会開会が必要でした。

では、今年の予算審議はどうなるでしょう。

昨年と同じだけの時間をかけるとすると、2ヶ月かかることになります。3月までに処理するには、1月中に予算審議を始めないといけません。

ただ、これは不可能です。なぜなら、冒頭に書いた通り、年末に総選挙と政権交代があった影響で予算編成作業が遅れていて、1月中に平成25年度予算案を国会に提出することが極めて難しいからです。

平成25年度予算成立が5月になるというシナリオで考えると、25年度予算案の審議入りは3月上旬がタイムリミットです。とすると、25年度予算案は2月中に編成作業が完了しなければなりません。

■補正予算もある

さらに、予算案が4月までに成立しない場合、成立するまでの間は暫定予算が組まれます。この暫定予算は政府の裁量が少ないため、安倍内閣が掲げる経済再生を達成するには心もとない内容になってしまいます。

この状況を打破するため、安倍内閣は、10兆円規模の経済対策を盛り込んだ平成24年度補正予算案を編成しています。この補正予算案もできていないのです。

平成24年度補正予算案の編成が終わり、補正予算案の審議、成立が終わってやっと25年度予算案の審議ができることになります。かなりハードなスケジュールです。

このスケジュールをどう乗り切るのか。予算審議だけでなく、予算編成作業の進捗も注目です。

 

*日本国憲法60条2項

予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。


参院対策が必要な理由


 自民・公明両党は、先日の選挙で衆議院の三分の二を超える議席を獲得しました。衆議院で三分の二を超える議席を持っているということは、民主党がいまだ第一党の座を死守している参議院で法案を否決されても、衆議院でそれを再可決し成立にこぎつけられるということです。とはいえ、参議院を無視した国会運営ができるわけではありません。例えば、日本銀行の総裁などは内閣が任命するのですが、任命には衆参両院の同意が必要です。この同意に関しては、法案と違い再可決の規定がないので、参議院が同意せず、話し合いにも応じない場合、どうにもならなくなってしまいます。そして、少なくとも来年の7月までは法案についても再可決は難しいです。そう考える理由は、「スケジュール」と「可処分時間」にあります。

 「スケジュール」というのは、来年7月に控えた参議院選挙のことです。選挙前には国会を閉じなければならないので、来年の通常国会は6月末で終わりになります。今年の通常国会は6月21日までであったところを、9月8日まで延長されましたが、来年はそんな大幅な延長はできません。

 ここで、「可処分時間」が問題となります。実は、衆議院の再可決の制度には二つの制限があります。その制限を乗り越えないと再可決の権利を行使することができません。ひとつは、もちろん参議院で法案が否決されること。もうひとつは、衆議院から参議院に法案が送付されてから60日経過することです。これは憲法59条の2項と4項に定められています。

 これがどういうことかというと、ある法案が参議院の本会議で採決せずに放っておかれた場合、衆議院で可決されてから60日過ぎなければ、衆議院で再可決できないということなのです。下手に否決すると、すぐ衆議院で再可決されて法案が成立してしまうので、本気で自公に抵抗するなら、採決を先送りし続けるのが一番合理的な行動になります。

 この制度上の事実と、来年7月に参院選があることを考えると、ひとつの結論が導かれます。通常国会の延長が6月末頃になる以上、再可決できる法案はそう多くはないということです。

 通常国会では、普通、その年の予算審議が行われます。そして、予算案は法案よりも優先して審議することになっているので、ほとんどの法案が予算が衆議院を通過してから実質的な審議に入ることになります。もし、3月中に予算案が衆議院を通過したとしても、7月までに通常国会を閉会しなければならない場合、法案を審議できるのは、4,5,6の3ヶ月になります。3ヶ月は90日です。衆議院・参議院の法案審議の中心となる、委員会の定例日が週2〜3日であることを考えると、参議院が審議拒否を貫いたら、ひとつの法案に60日かかっていれば、成立させられる法案が少なくなることは明白です。また、再可決を多用することで、与党が自分勝手に国会運営をしている印象になり、世論の反発を生む可能性もあります。

 自公が立法を通じて日本のタスクリストを本格的に再構成できるのは、来年の秋、臨時国会意向になるでしょう。しかし、その前の参議院選挙で自公が勝利しなければ、今よりさらに難しくなります。そして、参議院選挙で勝つためには、通常国会中に実績を出さなければなりません。日銀総裁人事などは、自民党の総裁選の最中にも言及していた、安倍総裁が最も重視している政策のひとつになるので、これを思い通り動かせなければ話になりません。そのためには、現時点での参議院の多数派工作が大変重要になるのです。

 自民党・公明党の勝ち過ぎを心配しているみなさん。みなさんの心配は杞憂です。日本国憲法は、こういうときのために、選挙制度の違う第二院を設置したのです。まずは、憲法を信頼しましょう。


参議院対策は必要か


 2012年12月17日現在。昨日16日に衆議院総選挙の投開票が行われました。自民党と公明党が480議席のうち325議席獲得するという結果になりました。対する与党民主党は選挙前の231議席から57議席と大敗北です。野田首相は、すでに民主党代表を辞する意向を示しています。

 さて、今年中にも安倍新内閣が誕生するとみられています。年明けからは、予算審議が始まります。まずは、予算でどれだけ独自色を出せるかが見所です。予算案は法案より先に審議することになっているため、安倍自民を中心とする政権が新たに日本のタスクリストに加えるタスク=法案を作り上げるのは、来年の4月以降になるでしょう。

 ただ、参議院では民主党がいまだ第一党です。第一党とは、参議院に議席を持つ会派の中で一番多い議席を持っているということです。自民党83議席に対して民主党87議席と、なんとか自民党を上回っています。自民党と公明党の議席をあわせても参議院の過半数に達しないため、このままでは、自民党と公明党は参議院をコントロールできません。参議院のコントロールなしに、法案を成立させることはハードルが高いため、参議院においてなんらかの対策が必要になります。

 「あれ、自公で衆議院の三分の二を占める議席を持っているんだから、参議院で法案が可決しなくても衆議院で再可決すればいいんじゃないの?参議院の過半数必要?」と思われるかもしれません。私は、「スケジュール」と「可処分時間」の観点から、参議院対策は必要不可欠だと思っています。理由はまた明日。