もっと楽しく政治の話をするための国会のルール」カテゴリーアーカイブ

もっと楽しく政治の話をするための国会のルール4


議案の提出

 ここまでは学校で習ったことのある部分だったので馴染みがある部分もあったと思います。ここからは、学校であまり詳しくやらない部分に入ります。国会の審議のルールです。

 国会で審議されるのは主に法案、予算、条約の承認についてです。このうち、予算と条約は内閣のみが提出します。予算編成をする権限と条約を締結する権限は内閣にあるからです。

 法案については、内閣と国会議員が提出できます。内閣の法案は、各省庁が政策を遂行するために作成したものです。法案を作成しているのは官僚ですが、作成過程で与党議員と事前に話し合いながら作成することもあります。自民党が政権与党であるときは、自民党内の政務調査会という機関で官僚と議論して法案が作成されています。官僚が作成した法案は、内閣法制局の審査のあと、閣議決定されて国会に提出されます。成立する法案のほとんどが内閣提出法案です。

 国会議員は「法律を作るのが仕事」といわれることもあり、当然法案を提出できます。しかし、国会議員は自由に法案を提出できるわけではありません。衆議院では、法案の提出者の他に、賛成者が20人必要です。さらに、法案が新たに予算が必要なものであった場合は賛成者が50人必要です。参議院は議員の数が衆議院と違うので必要な賛成者の数も違います。予算が必要ない法案は賛成者が10人必要で、予算が必要な法案は賛成者が20人必要です。

20190922法案提出要件

 衆議院では、議員の数が21人以上の会派であれば、会派主導で法案を提出することができますが、議員数が20人以下であれば法案を提出することはできません。会派に所属しない議員など、絶対法案を提出することができません。

 衆議院ではこの他に、法案提出には提出者が所属する会派の「機関承認」が必要です。所属会派の許しがなければ法案を提出できないのです。国会議員が多数いる会派所属の議員でも、会派の主流派と違う独自の発想の法案を提出しようとしたら、所属会派の他の議員を説得しないと法案を提出できません。国会議員が法案を提出するのは非常に高いハードルがあります。


もっと楽しく政治の話をするための国会のルール3


衆議院の優越

 次が衆議院の優越です。国会の議決は、衆議院と参議院が一致して議決したときに有効となるのが原則です。ある法案について、衆議院が可決、参議院も可決すれば法案が成立して法律になるという具合です。もし、衆議院と参議院の議決が一致しなかった場合は、法案は成立しません。ただし、法案については衆議院が可決したあと参議院が否決した場合に、衆議院の3分の2以上の賛成で再び可決した場合はその時点で法律になります。

 さらに、予算案の議決や条約の承認の議決は、衆議院が可決したあと参議院が否決した場合に、両院協議会という話し合いの場でも衆参で折り合いがつかないときは衆議院の議決そのまま国会の議決になります。内閣総理大臣の指名の議決も、衆参の指名が不一致で両院協議会の話し合いも不調に終わった場合は衆議院が指名した国会議員が内閣総理大臣になります。このように、衆議院と参議院の議決が異なったときは、条件付きで衆議院の議決が優先されます。

 では、参議院が議決をしなかった場合はどうなるでしょうか。いま述べた衆議院の優越は、衆議院と参議院の議決が違ったあとの決まりであるため、参議院が議案を議決しないで放っておいた場合は適用できないように思えます。そのようなケースもちゃんと想定されていて、衆議院で議案を可決後、憲法で決められた日数経過しても参議院が議決をしない場合は、衆議院の議決がそのまま国会の議決になります。これを「自然成立」と呼びます。自然成立の日数は、議案によって違い、内閣総理大臣の指名が衆議院の議決から10日、予算案と条約の承認が衆議院の議決から30日になっています。法案については、衆議院の議決から60日以内に参議院が議決しないときに、衆議院が「参議院は法案を否決したとみなす」という議決をすることができます。これを「みなし否決」と呼びます。カレンダーで表すと次のようになります。

衆議院の優越

 実は、国会について考えるときは日付の感覚が非常に重要なので、この日数は必ず覚えておいたほうがよいです。実用例はあとで詳しく書きます。

 ちなみに、法案は衆議院と参議院どちらから審議を始めてもよいのですが、予算案に関しては衆議院の議決が優先される関係上、必ず衆議院から審議を始めることになっています。衆議院の優越は、衆議院ですでに議案が議決されていることが前提になっているため、もし予算先議権がないと、参議院で予算をいつまでもいつまでも審議して議決せずに、衆議院で審議できない状況になってしまいます。そのため、必ず衆議院から予算審議をすることになっているのです。これを「予算先議権」と呼びます。


もっと楽しく政治の話をするための国会のルール2


国会のおさらい

 日本の国家権力は、大きく3つに分類されます。立法、行政、司法です。この3つに対応する機関は、立法が国会、行政が政府、司法が裁判所です。国会を中心にみると、国会が決めた予算や法律の範囲内で内閣が政策を実行し、政府が実行した政策が法律の範囲内かどうかを裁判所がチェックする、という関係になっています。

 国会の主な仕事は、法律を決めること、予算を決めること、条約の承認を決めることです。その他の重大な仕事としては、政府の代表である内閣総理大臣を選挙で決めることが挙げられます。これらの仕事は、いずれも政府の活動の根拠になるものです。政府が何か新しいことをしようとしたときに、法律の根拠がなければ権力をふるえませんし、予算がなければ新しく公務員を雇ったり、役所が民間企業と取引することもできません。原則として、国会が決めないと政府は新しい活動が何もできないということです。

 国会は衆議院と参議院の二院で構成され、そのメンバーである議員は日本国民が選挙で選びます。衆議院議員の任期は四年で、参議院議員の任期は六年と両院で差があります。更に、衆議院には参議院にはない「解散」というものがあります。解散とは、内閣総理大臣がすべての衆議院議員を任期の途中でクビにして、新しく衆議院議員を選ぶ選挙を行うことです。解散があるので、衆議院議員の任期は四年よりも短い場合が多いです。

 衆議院には解散があるかわりに、参議院にはない権限をいくつか持っています。まずは、内閣不信任決議権です。政府の中枢である内閣に対して「信任しない」という決議を衆議院がしたとき、内閣は10日以内に衆議院を解散するか、総辞職して政権を失うかのどちらかを選ばなければなりません。衆議院を解散したとしても、選挙に勝てなければ政権を失うことになるので、内閣不信任決議権は非常に強い権限です。ちなみに、選挙に勝っても形式上以前の内閣は総辞職しますので、内閣総辞職の運命はくつがえせません。衆議院の支持を失えば内閣が倒れるというこの制度を、議院内閣制と呼びます。


もっと楽しく政治の話をするための国会のルール


政治につきまとう厄介なイメージ

 「政治」には、厄介なイメージがつきまといます。政治の話は、初対面の人との会話で出してはいけない話題のひとつとされています。どういう話題が政治の話になるかというと、沖縄の在日米軍基地の問題とか、憲法改正とか、愛国心、夫婦別姓などなど、なんらかの政策に関する話題です。これらの政策の共通点は、それぞれの人の立場によって、最適な解決策が違う点にあります。そのため、すべての人が100%納得する政策は、おそらくありません。

 「政治」に厄介なイメージがつきまとうのは、すべての人が100%納得する政策がないためです。どの政策も誰かにとってマイナスになる可能性があるため、政策を中心に政治の話をすると、自分の立場をかけた戦いになってしまうのです。戦いになってしまったら、お互いに無傷ではいられません。ここが、政治の話をするときに障害になるポイントです。

 では、政治の話を安心してすることは不可能なのでしょうか。不可能ではありませんが、ひとつ条件があります。その条件とは、政治のルールを把握することです。

 スポーツ観戦をしたあと、友人と感想を話すとき、ルールを無視して自分が応援しているチームが勝ったと言い合うでしょうか。そんなことをしていたら喧嘩になります。大抵の場合、ルールに照らしてどのチームが勝ったかはお互い了解していて、その上でプレー内容がどうだったかについて話すと思います。ルールの範囲内で、このチームは勝ったけどプレー内容が気に入らないとか、そういう好みの違いはあるかもしれません。SNSなどで見る政治の話は、ルールを無視して自分が支持する政策を推している政党や政治家が勝ったと言いはっているのに近いです。

国会のルールを知るメリット

 では、知っておくべき政治のルールとはなんでしょうか。政治には色々な面があるため、政治のルールにも色々あるのですが、私は国会のルールを知ることをおすすめします。

 なぜ国会のルールなのかというと、普段ニュースなどで目にする政治は国会に関するものが多いからです。「予算委員会」、「審議拒否」「強行採決」、「内閣不信任決議案」、政治に興味がある方ならよく目にするフレーズではないでしょうか。これらはすべて国会に関する言葉です。

 また、国会に対して政府というものがありますが、政府の活動のルールは各省庁ごとに違うものもあり、難しいです。それに、政府の活動は政策に結びついてくるので、政策と分離するのが難しいという理由もあります。

 そして、国会は「言論の府」とも呼ばれる、話し合うためにある機関です。国会のルールというのは、話し合いをまともに成立させるために必要なルールでもあります。国会のルールが平気で無視されるようになると、話し合いが形だけのものになってしまいます。

 国会での話し合いが、形だけのものになるのは危険なことです。新しい政策は、必ず国会での話し合いを通じて実現します。国会を適当に済ませていいようになってしまうと、どんな政策も好き放題できてしまうことになります。ルールの破り方によっては、好き放題できてしまうのが多数派ではなく少数派になることもあるかもしれません。

 国会は政策実現の最後の関門です。どんな政策を支持しているにせよ、国会を無視することはできません。福祉政策、外交政策、安全保障政策、財政政策、どの政策を重視していようと、すべて最後は国会に行き着きます。国会は政治の中心であると言っても過言ではありません。

 ですから、政治の話をするときに、まず国会のルールを把握するのがいいと思います。

 この連載で、今までブログに書いた内容をまとめて、国会の審議がどのようなルールで行われているかを説明します。そして、実際のエピソードをもとに、国会のルールがどのように攻撃や防御に使われていったかがわかるようにします。一通り読めば、国会関係の政治ニュースの意味がよりわかるようになります。

 個々の政策の是非に踏み込まず、その政策を可能にする議案が国会で可決される可能性はどの程度かを話し合うことができれば、友人とスポーツや映画の感想を話すように政治の話をできるはずです。