約束と履行、停滞した政局の打開


 2012年8月10日現在、参議院で消費税増税を含む法案、税と社会保障の一体改革関連法案が与党民主党、野党自民党、公明党の賛成で可決しました。これで、野田首相が政治生命をかけた法案が成立することになります。

 野田首相と自民党の谷垣総裁はひとつの約束をしました。谷垣さんは消費税増税を含む法案の成立に協力するかわりに、野田さんは衆議院を早期に解散するという約束です。今日で、谷垣さんは約束を果たしました。次は野田さんの番ですが、さて、どうなるでしょう。

 野田さんと谷垣さんの立場を簡単に整理してみましょう。

  できること ほしいもの
野田首相 衆議院の解散 法案の成立(参議院での可決)
谷垣総裁 法案の成立(参議院での可決) 衆議院の早期解散

 上の図でわかるように、お互いにほしいものとできることが一致しています。お互いに相手の求めるものを与える能力があるので、公平な約束に見えます。ただし、公平な約束になるには前提があります。その前提のひとつが、「お互いの義務を履行する時期が同時になること」です。

 お互いが義務を同時に履行しないとき、後に義務を履行する側が裏切るリスクが常にあります。しかも、解散や法案の成立というものは物と違って取り返しがきかないので、やってしまったら終わりです。先に義務を履行した側は、ずっと待っているほかないのです。

 そして、解散と同時に衆議院議員は失職しますし、参議院は閉会することが憲法に定められているため、法案成立前に解散するというのは難しいです。このため、谷垣さんは常に、先に義務を履行することになってしまいます。あとは、野田さんに義務を履行するよう言い続けるしかありませんが、それがすぐ解散につながるわけではありません。制度上、首相に解散のみを強制することはできないのです。

 しかし、首相に解散を強制することができないというのは、制度上のことでしかない、とも言えます。組織は、規則で作られた制度だけで動くものではありません。人間が動かします。制度の中から攻撃できないなら、制度の外から攻撃すればいいのです。人を動かすのは、お金、感情、物理力なので、こちらに焦点をあわせます。

 おそらく、昨日から自民党の幹部クラスの議員が「『近いうち』というのは今国会中(9月8日まで)のことだ」と盛んに発言しているのは、「今国会中に解散するのが当然」という空気を醸成するためで、制度外からの攻撃をしているのだと思います。うまく行けば、世論が解散を強く求めるようになって、野田さんを精神的に追い詰めることで解散を実現できるかもしれません。ただし、これには時間がかかります。ましてや相手は、誰も聞いていない朝の街頭演説を地道に続けたという野田さんです。9月8日までにはとても間に合わないでしょう。

 また、もう一つ問題があります。野田さんを追い詰めたところで、野田さんが解散できるかどうかわかりません。むしろ、野田さんや民主党を追い詰めれば追い詰めるほど、民主党の選挙結果は悪くなることが予測されます。これでは、ますます解散しにくくなるでしょう。

 結局、法案成立を人質にとったり、政府与党を追い詰めることで解散を狙うのは、何の効果もないように思えます。自民党は、まったく想定外の方向から攻めるか、神風が吹くのをじっと待つか、首相が解散しようがしまいがすべての法案成立を阻止する修羅の道を行く決意をするかしない限り、事態を打開することができないでしょう。

 これからどうするのか、非常に楽しみです。


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