天の声にも変な声がたまにはある


■小説吉田学校第六部:田中軍団

 昨年から断続的に読み続けている戸川猪佐武『小説吉田学校』ですが、やっと大平正芳内閣誕生まできました。

■天の声にも変な声がたまにはある

 大平内閣誕生時に生まれた名言に、「天の声にも変な声がたまにはある」というものがあります。これは、昨年国政から引退した福田康夫元首相のお父さん、福田赳夫元首相の言葉です。

 大平内閣の前の内閣は、福田赳夫内閣でした。1978年、自民党総裁の任期満了を前に、福田首相(当時)は続投を望んでいました。この年は自民党員による総裁選の予備選があり、1位になる自信のあった福田首相は「予備選挙で2位になった総裁候補は、国会議員による本選を辞退すべき」と主張していました。

 しかし、予備選挙で福田首相は大平幹事長(当時)に大きく離され2位になってしまいます。森喜朗官房副長官(当時)などが本選に出馬するよう福田首相に要請しますが、福田首相は本選辞退を決めました

 このとき、「天の声にも変な声がたまにはある」という言葉が生まれました。天の声というのは、予備選の結果です。この結果は、大平幹事長を支える大平派だけの成果ではなく、ロッキード事件で自民党を離党していた田中角栄元首相率いる田中派の協力があったためとされています。

 現役首相が与党の党首選の、それも予備選に敗れて本選を辞退し、内閣総辞職するという結末に、福田首相を応援していた面々は納得がいきませんでした。彼らには、福田派として総裁選の選挙運動ができなかったという思いもあったからです。というのも、福田首相は派閥政治の打破を訴え、自ら福田派を解消していたのです。

■政局が面白い

 「天の声にも〜」という言葉は知ってはいましたが、詳しい経緯は知らなかったので大変面白かったです。この六部は福田内閣を描く前半部が退屈で何度も中断していたのですが、総裁選あたりになってきてグンと面白くなって一気に読んでしまいました。

 どうしても、政策が順調に行われる場面より、政局のほうが面白くなってしまいます。小説とはいえ、だいたい歴史には沿っているので結末はわかっているのですが、それでも面白いのです。


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