厚労委の30分・3


 「厚労委の30分」は、2013年3月19日の衆議院厚生労働委員会の審議が30分中断したことについて分析する連載です。「厚労委の30分・1」では、討論が終了したら、すぐ採決になるという委員会審査のルールがあることを確認しました。「厚労委の30分・2」では、民主党の党内手続きが遅れたことについて考えました。

■困る委員長

 2013年3月19日、衆議院厚生労働委員会。与党理事は、

「審議を中断するのなら、委員長から『民主党の党内手続きを待つために中断する』と中断理由を説明してほしい」

と要求します。この要求に対し、厚生労働委員長は

「これから速記を止めるので、理事から委員に説明してほしい」

と返します。しかし、与党理事は

「委員会なのだから、委員長がしかるべき説明をすべきだ」

と譲りません。

 困った委員長は、委員長席の左側のスペースに控えていた人物に話しかけます。

「こういう場合に、委員長が中断理由を説明するパターンはあるのか」

■国会職員という人々

 委員長が話しかけていたのは、議員ではなく衆議院事務局の職員だと思われます。いわゆる国会職員です。国会職員は、国会審議が円滑に行われるよう働いています。警備をしている衛視も国会職員ですし、本会議場で議長の隣に座っている事務総長も国会職員です。

 国会職員の中には、国会法、議院規則、先例集のエキスパートがいます。国会審議が儀式だとすれば、式次第のエキスパートです。いつも同じように審議が行われればいいのですが、時にイレギュラーな事態がおこります。今回の厚労委で起こったことがそうです。そのようなとき、法律、規則、そして先例からどのように事態に対応するかアドバイスすることも、国会職員の職務のうちに入ります。すべては、国会が国権の最高機関としての機能を全うするためです。

■黒子

 国会職員は委員長に何事かを説明します。説明を受けた委員長は、与党理事に「『民主党の党内手続きを待つため』と説明する」と言い、理事全員を席に返しました。

 そのまま議事進行しようとした委員長ですが、あまりにイレギュラーな事態だからかほんの一瞬言葉に迷います。そこですかさず、先ほどの職員が小声で委員長に促します。適当な表現ではないかもしれませんが、まるで黒子のようです。

「(この際ご報告いたします。)」

「この際ご報告いたします。予防接種法の一部を改正する法律案について、民主党の党内手続きの終了を待つため、しばらく皆さまには、このままお待ちいただくことになります。」

マイクが微かに、「え〜」という声を拾っていますが、委員長は続けます。

「よろしくお願いいたします。…速記を止めてください。」

 かくして、ここから30分程度委員会は中断。みんなで待つことになったのです。


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