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みなし否決のとき、再可決の手続きはどうなるか?


    まとめ:みなし否決による再可決の流れ

  • 1.法案が参議院で否決されたとみなす動議を衆議院に提出
  • 2.動議を本会議で可決
  • 3.参議院から法案が返付
  • 4.法案の再議決を求める動議を衆議院に提出(21:17追記)
  • 5.法案を衆議院本会議で再可決

■再可決の流れ

 2013年6月24日現在。本日、「0増5減」の区割り法案が衆議院で再可決される見込みです。NHKの記事によると、午前中に「0増5減」が憲法の規程により参議院で「みなし否決」されたとみなす動議を衆議院に提出しするところから手続きは始まります。この動議が午後1時から始まる衆議院本会議で可決されると、次の段階にうつります。

そして、参議院から法案が戻りしだい、改めて衆議院本会議が開かれ、法案は、自民・公明両党をはじめとする3分の2以上の賛成多数で再可決されて、成立する見通しです。
NHK NEWSWEB:「区割り見直し法案 再可決で成立へ」

 この「法案が戻りしだい」という部分に注目しました。紙なのかなんなのかわかりませんが、実体のある「法案」というものが存在し、それが衆議院と参議院の間を行き来しているのでしょう。

 そして、どうも可決するには「法案」がその院になければならないようです。これは、非常に面白いです。妄想すると、「法案」が衆議院にたどり着くのを妨害して、会期末のいっぱいまで粘れば、再可決させないことも可能なのかもしれません。

 もしかしたら、国会の書類がすべて電子化されても、「法案」を一度参議院から衆議院に送信する手続きをしなければ、衆議院で議題にできないのかもしれません。


「0増5減」vs「18増23減」:なぜ調整の動きが見られないのか


    まとめ

  • 「0増5減」の区割り法案も「18増23減」法案も参議院での審議はなさそう
  • 自民党・民主党・みんなの党は自党の意見表明に終始
  • 調整する動きがみられないのは、「0増5減」の区割り法案の成立が確実なため

■委員会付託からの流れ

 2013年6月23日現在。やっと委員会に付託された「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案ですが、参議院で審議しないまま「0増5減」が衆議院で再可決される見込みです。

 まず、「0増5減」を先行審議したい与党と、「0増5減」と「18増23減」を同時審議したい野党が委員会の議事運営について揉めます。この件は、両法案が付託された政治倫理・選挙制度特別委員会理事会において、轟木利治委員長(民主)が職権で6月19日に同時審議することを決定し決着します。

 与党はこの決定に反発し、理事会を欠席しました。当初、与党は19日の委員会に出席するかどうかも微妙な情勢でしたが、最終的には出席して「0増5減」の即日採決を求めることに決めました。

 19日。「理事会で質疑の申し出がなかった」ということで、自公に委員会での質疑時間が割り振られていないことが判明します。これに与党は猛反発し、轟木委員長の不信任動議を提出します。このため、この日の委員会は流会となり、21日に不信任動議を採決してから審議する予定になりました。

 そして、みなし否決前の最後の平日である21日。与党は、参議院議院運営委員会理事会で、本会議で予定された議事日程が消化されたあと、本会議を休憩することを提案しました。理由は、みなし否決前に「0増5減」の本会議採決の可能性を残すためです。

 しかし、野党は「審議時間が足りない」とこの提案を拒否します。参院議長もこれに同調し、議長は本会議の散会を宣言しました。理事会では結論が出なかったため、議院運営委員会で予定された日程を消化したあと休憩するか散会するか採決をとり、散会することを決めました。その後、議運の決定通り本会議で日程を処理し、議長は散会を宣言します。与党は、本会議を散会した議長の対応を「審議の機会を奪う横暴な議事運営だ」として議長の不信任決議を提出します。

 これでみなし否決前に参議院は採決はおろか審議することもできず、「0増5減」の区割り法案は明日24日にも衆議院で再可決されます。

■各党の態度

 この流れ、非常に不可解です。民主党の委員長が与党に質疑時間を割り振らなかった意味がわかりません。そんなことしたら、反発するに決まっています。

 与党が運営する委員会なら、原則として野党が審議拒否していたとしても、委員会ではその会派の持ち時間をしっかり消費します。持ち時間が終わるまで、みんなで待つわけです。このような一見無駄なことをするのも、ちゃんと審議したという実績を作るためです。審議するために国会があり、国会で審議のうえ可決されたものが法律になるのですから、当然です。

 この他にも、民主党は月初めに出した「18増23減」法案を委員会に付託する動議も採決をまたず撤回したりと、不可解な点が多いです。参議院で「0増5減」の区割り法案も「18増23減」法案も審議したくないんじゃないかと勘ぐりたくなってきます。

 同じことは自民党にも言えます。どうしてそこまで同時審議を拒否したのかわかりません。確かに、「0増5減」の区割り法案を先行審議すれば、参議院での採決はそれだけ早まるでしょう。しかし、野党が同時審議を主張している以上、それを頭から拒否しては話が進みません。

 そして、みんなの党はどうでしょうか。みんなの党は「18増23減」法案の方が「0増5減」よりも1票の格差が少なくなると主張しています。しかし、この法案を提出したのは5月17日で、衆議院で「0増5減」が可決した4月23日からひと月近く経っています。

 これはいくらなんでも遅すぎです。例えば、平成5年の128回国会で日本共産党が参議院に提出した公職選挙法改正案は、内閣提出の公職選挙法改正案が衆議院で可決された1993年11月18日に提出済(*1)です。どうして、もっと早く提出しなかったのでしょうか。

 もし、通常の法案のように参議院送付後すぐに「0増5減」が委員会に付託されて審議していたら、「18増23減」法案を提出するころには「0増5減」が採決されていたかもしれません。「18増23減」の考え方はいいのでしょうが、この法案の審議は参議院での「0増5減」の早期付託拒否戦術が前提となっています。最初から民主党の議事妨害の手段として利用された感が否めません。

 このように、各党は自らの立場の表明に終始し、調整する様子がまったく見られませんでした。

■「0増5減」は確実に成立する

 各党がそれぞれの立場の正論を主張して、調整する気配がないのは「0増5減」の区割り法案の成立が確実なためです。どんなに紛糾しようと、与党が衆議院で再可決すれば、「0増5減」は成立します。

 ある意味ですでに結論は決まっているわけです。ですから、安心して自党の主張を貫き通すことができます。調整の必要などないのです。

*1…ちなみにこの128回国会の例により、参議院先議の形で衆議院の選挙制度改革法案を審議した前例があることがわかります。

*2013年6月28日一部修正(太字、取り消し線)


廃案と継続審議の違い(決定版)


    まとめ

  • 継続審議はセーブ
  • 廃案はセーブデータの消滅
  • 会期がまたがると、前の会期で可決した院のセーブデータは消滅する
  • 法案の成立には、原則、同一会期中に両院で可決することが必要

以前『廃案と継続審議の違い』という記事を書きました。この記事は、先議の院で可決された法案が後議の院で継続審議になった場合だけをみて、「廃案と継続審議に違いはない」としています。ちょっと考え過ぎというか、視野が狭いものになっているので、改めて廃案と継続審議について整理したいと思います。

■継続審議の意義

継続審議のメリットは、それまでに行った審議過程を活かすことができるという点にあります。委員会に付託されていたら次は付託されたところから始まり、法案の提案理由説明が終わっていたら次は質疑から始まるわけです。「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案の対立をみてもわかる通り、法案を委員会に付託するだけでも大仕事になることがあるので、これは結構便利です。ゲームで言えば「セーブ」ですね。

これが廃案になってしまうと最初からやり直しです。それも、法案の提出からやり直しになります。例えば、内閣提出法案なら閣議決定をもう一度行うことになります。(*1)まだ調べきれてないのですが、おそらく閣議にかけるために必要な内閣法制局の審査もしなければならないでしょう。党内手続きもやり直しになるかもしれません。政府・与党からすれば、このやり直しは相当な損失になります。そのためか、全く審議が進んでいない、提出しただけの法案もよく継続審議になっています。廃案のダメージは、セーブデータが消えてしまった状態に近いと思います。

■継続審議の限界

ただ、継続審議にも限界があります。継続審議の効果は、継続審議を決定した院でのみ有効なのです。例えば、衆議院で可決した法案が参議院で継続審議になった場合、次の会期に参議院で可決しただけでは法案は成立しないということです。

これは会期不継続の原則がひとつひとつの案件を一会期内に限るだけでなく、議決の効力も一会期内に限定しているために起こります。先ほどの例で言えば、衆議院の議決(この場合可決)は次の会期には「なかったこと」になるわけです。

ですから、この法案を成立させるにはその会期中に再度衆議院で可決されなければならないのです。場合によっては両院で計4回可決してやっと成立することもあります。表にすると以下のようになります。(カッコ内の数字は議決の順番)

会期1 会期2 会期3
衆議院 可決(1) 継続審議 可決(3)
参議院 継続審議 可決(2) 可決(4)
結果 未成立 未成立 成立

また、参議院では継続審議によって審査過程を「セーブ」することを公式に認めていますが、衆議院では認めていません。衆議院は、会期不継続の原則によって審査過程も次の会期で消滅すると考えているので、建前上は継続審議になった法案を改めて委員会に付託しています。ですから、法案によっては改めて提案理由説明を行ったりすることがあります。

以上の点で継続審議の効力には限界があります。しかし、それでも貴重な審議時間を節約する方法であることに違いはありません。廃案に比べたらマシなのです。

 

*1…例えば、昨年大変話題になった特例公債法案は、通常国会で廃案になったあと、再び閣議決定して臨時国会に再提出しています。(bloomberg.co.jp:『財務相:特例公債法案を閣議決定、再提出へ?減額補正は提案受け検討』

参考文献


「0増5減」vs「18増23減」:野党に花をもたせる与党?


 2013年6月9日現在。6月7日、自民党と民主党は「0増5減」の区割り法案の審議入りで合意しました。詳しい話し合いは6月10日に行うようですが、何かあっけないというか、何かがくすぶっているような感じがします。

■なぜ6月7日に話がついたのか

 6月7日に事態が動くのではないかとは、4つのパターンを考えていた時うすうす感じていました。以下の記事を読んでいたからです。

 野党側がこだわる背景には、6月9日までに法案が成立、公布された場合、必要とされる1か月間の周知期間を経て「7月9日公示-21日投開票」の衆院選が可能となることがある。
(読売新聞「参院本会議 延び延び」2013年6月4日朝刊)

 読売の見立てでは、野党は衆院選と参院選のダブル選挙を避けるのに躍起になっているというのです。なぜ野党がダブル選挙を嫌うのかというと、今まで2度行われたダブル選挙はすべて与党が勝利しているからです。

 しかも、各メディアによる世論調査でも、安倍内閣の支持率は60%をゆうに超えています。この状態で選挙になったら、衆議院の議席数はあまり変化がないにしても、参議院で与党に過半数を握られて、野党が今までのような力を失ってしまうかもしれません。

 読売の見立て通り、民主党は「ダブル選挙を避けるため「0増5減」の区割り法案の成立が6月9日よりあとになりさえすればいい」と考えているのだとします。6月9日は日曜なので、最後の平日は6月7日金曜日です。民主党は6月7日まで粘ればいいのであって、そのあと審議に応じればダブル選挙回避という目的は達成できるわけです。

■しっくりこなかった

 このような可能性をうすうす感じていたのに、記事に書けなかったのは何かしっくりこないものがあったからです。

 「0増5減」をめぐる参議院の攻防は、当初、野党が審議入りに応じないというところに焦点がありました。ですが、途中から「18増23減」法案がでてきて「与党が「18増23減」法案の審議入りを認めないから審議が進まない」と、焦点が与党の対応に移っていきます。

 この、与党が「18増23減」の審議を認めないことのメリットがわかりません。「衆議院の選挙制度改革案が参議院先議ではおかしい」というのは単なる理屈です。なんとしても審議して「0増5減」を早期に成立させようという与党の意気込みが見えてこないような気がします。「18増23減」の大義については野党から様々な発信がありますが、与党は「0増5減」の大義名分をあんまり熱心に訴えている様子がありません。少なくとも報道にはでてきません。

■仮説

 どうして与党の動きが鈍いように感じるのでしょうか。

 読売の見立てを前提として仮説を組み立ててみます。

  1. 野党としては6月9日までの成立は絶対阻止したい。
  2. そのためには審議入りを遅らせるのが一番いい。
  3. 審議入りを遅らせるには、法案を吊るしておく(委員会に付託せず放っておく)ことがいい。
  4. 単に吊るしておくだけではだめだ。与党に責任の一端を追わせたい。
  5. 「0増5減」を廃止する「18増23減」の審議入りを求めよう。
  6. 「18増23減」を委員会に付託する動議を出して、より与党の責任を明確にしよう。(5月29日)
  7. 目論見通り「18増23減」の委員会付託を与党が拒否した。これで野党だけの責任ではなくなる。
  8. めでたく6月7日も終わりに近づいた。ダブル選挙を行うには時間切れになった。さぁ、お互い話をつけよう。審議しないまま再可決されては、参議院の存在意義が問われてしまう。

 こう考えた時にもっとも納得いかない点が、6です。ここがいちばんよくわりません。なぜなら、与党は6月7日にあっさり「18増23減」を「付託するだけなら(審議しないなら)良し」と、委員会付託に賛成しているからです。じゃあ最初からそうすればいいじゃないかと思うのです。

■野党に花をもたせる野党

 そもそも、今国会における与党の国会戦略のキーワードは「安全運転」です。7月の参議院選挙に勝利するため、批判を受けるような無理な強行採決や再可決などはしないという方針のはずです。そう考えると、今回の騒動は、与党が野党に付き合ってあげたのかもしれません。

 「0増5減」の区割り法案は、与党があきらめなければ、会期末までにに確実に衆議院で再可決して成立させることができます。もう勝敗は決していると言っていいでしょう。でも、それだけでは野党がかわいそうです。あまり野党を追い詰めると、捨て身の攻撃に出て今回の騒動なんか目じゃないくらいの混乱に陥る可能性があります。そうしないためにも、野党にアピールの場を与える場所が必要だったのかもしれません。


「0増5減」vs「18増23減」:4つのパターン


 2013年6月4日現在。参議院でもめている「0増5減」の区割り法案(以下政府案)と「18増23減」法案(みんな案)はそれぞれどうなるでしょうか。それぞれの法案を「審議する」「審議しない」という観点で整理すると、4つのパターンがありえます。

■パターン1:両方審議する

 与野党間でなんらかの話がつき、両方の法案を委員会に付託し、審議するパターンです。みんな案は野党の賛成で問題なく委員会に付託されるでしょう。しかし、与党は法案付託を決める参議院議院運営委員会で過半数を確保していないため、政府案が確実に委員会に付託される保証はありません。

■パターン2:みんな案のみ審議する

 たとえば、議員運営委員会委員長が解任され、民主党の議員に交代するパターンです。そして、5月29日に出されたみんな案を委員会に付託する動議を即決し、委員会にみんな案を付託します。政府案はぎりぎりまで放っておきます。

■パターン3:政府案のみ審議する

 なんらかの理由で、民主党が動議を撤回し、かつ、政府案を委員会に付託するパターンです。たとえば、「これ以上延ばしたら、参議院で一度も審議ないうちに政府案が衆議院で再可決されてしまい、参議院の権威に傷が付く(=参議院不要論につながる)」というところで、このパターンになる可能性があるでしょう。

■パターン4:両方審議しない

 このまま膠着状態で会期末までいってしまうパターンです。このパターンには、なんだかんだいって本会議は開くパターンと、議運が紛糾し続け本会議も開けないパターンがありえます。後者はもっともまずいパターンです。

■共通するポイント

 パターン4を除くと、議運に出された動議を何とかしなければなりません。動議を放置し続けるのは、可能性としては存在します。しかし、放置は委員長解任によって中断させることができます。野党が委員長解任を本気で目指した場合、与党はこの動議に向き合わざるを得ません。

 ただ、野党がそこまで強硬でない場合、話は別です。今朝(6月4日)の読売朝刊に「6月5日に参議院本会議が開かれる見込みである」という記事がありました。これは、パターン4の本会議を開くパターンにあたります。

 参議院の予定を知らせる参議院公報によると、本日議院運営委員会理事会がセットされているので、明日に参議院本会議が開かれる可能性は結構高いのではないかと思います。

 本会議が開かれる場合、(理事会ではなく)議院運営委員会もその直前に開かれるものと思われます。動議が出てから初の委員会となるので、どうなるか楽しみです。


「0増5減」vs「18増23減」:議院運営委員会での攻防


■議院運営委員会での攻防

 2013年6月1日現在。衆議院議員選挙の選挙区割に関する法律の取り扱いを巡って、参議院が熱いです。

 4月に衆議院で可決された、内閣提出の「0増5減」の区割り法案は、参議院で未だに審議されていません。そもそも、審議の前提となる法案の委員会への付託が行われていません。委員会への付託は法案審議のスタート地点なので、審議は全く行われていないと言っていいです。

 そんななか、5月29日の参議院議院運営委員会で、民主党はみんなの党が提出した「18増23減」法案の委員会付託を求める動議を提出しました。動議とは、その日の会議の予定にない案件を議題にすることです。

 当日の会議録では、以下のようになっています。

○委員長(岩城光英君) ただいまから議院運営委員会を開会いたします。
○小見山幸治君 私は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法の一部を改正する等の法律案については、本会議で趣旨説明を聴取することなく政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託することの動議を提出いたします。
○委員長(岩城光英君) 速記を止めてください。
   〔速記中止〕
○委員長(岩城光英君) 速記を起こしてください。
 ただいまの小見山君提出の動議の取扱いにつきましては、理事会で協議いたします。
(第183回国会 議院運営委員会 第28号 平成二十五年五月二十九日(水曜日)より)

 大抵の場合、動議が出されると委員長がただちに委員に動議を議題にすることに対する賛否を諮り、議事日程に加えられます。ところが、今回は理事会に協議するということで、結論を出すのを避けています。

 参考に、今回の逆パターン、衆議院議院運営委員会で4月に「0増5減」の区割り法案を強行付託したときの会議録を見てみましょう。

○佐田委員長 (前略)
 趣旨説明を聴取する議案の件について御協議願います。
 高木毅君。
○高木(毅)委員 動議を提出いたします。
 内閣提出、衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案は、本会議において趣旨説明を聴取しないこととし、議長において政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されることを望みます。
○佐田委員長 佐々木憲昭君。
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 (前略)
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。
 (中略)
 以上で意見表明といたします。
○佐田委員長 それでは、高木毅君の動議に賛成の諸君の挙手を求めます。
    〔賛成者挙手〕
○佐田委員長 挙手多数。よって、そのように決定いたしました。
(第183回国会 議院運営委員会 第20号 平成二十五年四月十六日(火曜日)より)

 途中で共産党の意見表明があったものの、動議が提出されたらただちに採決しています。この動議の取り扱いの違いはどこからくるのでしょうか。

■議院運営委員会委員長ポストの重要性

 衆議院の議院運営委員長は与党自民党の議員です。「0増5減」の区割り法案の付託については与党の意向にそっているので、委員長はただちに動議を処理してしまいます。衆議院の議院運営委員会は与党議員で委員の過半数を占めているので、決をとればかならず与党の思い通りになるからです。

 参議院の議院運営委員長も与党議員です。しかし、「18増23減」は衆議院で可決した「0増5減」の区割り法案を否定するものであり、委員会に付託されることは与党にとってあまり都合のよいことではありません。参議院の議院運営委員会は野党が過半数を占めているので、採決すると必ず動議の通り付託されてしまいます。だから、委員長は動議の取り扱いを理事会で協議して時間を稼いだわけです。これも、委員長が議事進行をある程度左右できる権能、議事整理権のひとつなのだと思います。

 もし、参議院の議院運営委員長が野党議員だったら、後に引用した衆議院の例のようにただちに動議が処理され、賛成多数で動議の通り「18増23減」法案は付託されたでしょう。与党が議院運営委員長のポストをおさえていたことで、試合を延長戦に持ち込むことができたと言えます。

■議院運営委員会と本会議

 議院運営委員会は本会議の議事日程を決定する役割も担っているので、議院運営委員会ががたついていると国会全体がグラグラしてしまいます。現に、29日の動議を巡って参議院の議院運営委員会理事会は紛糾し、5月31日の議院運営委員会を開けなかったため、予定されていた本会議を開くことができませんでした。当然、その本会議で採決する予定だった案件はすべておあずけになってしまいます。

 6月26日の通常国会会期末まで、審議できる時間はあとわずかです。どんどん衆議院から送られてくる法案を処理するため、参議院はますます忙しくなってきます。そんなときに本会議を開けないというのでは困るので、与党としてはなるべく早くこの問題を解決したいところでしょう。

 どう決着がつくのか、少し楽しみです。


与党が「18増23減」審議入りに難色を示す理由


■脇参議院国会対策委員長のコメント

 2013年5月26日現在。前回『「0増5減」と「18増23減」』で、「与党がみんな案(18増23減)の審議入りに賛成しない理由がわからない」ということを書きました。その後、ニュースを検索すると自民党の脇参議院国会対策委員長の見方を紹介しているNHKの記事を見つけました。

自民党の脇参議院国会対策委員長は、記者会見で、「衆議院の小選挙区の区割りを見直す法案の審議に、何かほかの法案を持ち出す必要はないし、衆議院の制度に関することを参議院で先に議論することは常識的ではない」と述べ、みんなの党が提出した対案を参議院の特別委員会で審議することに否定的な考えを示しました。
(NHK NEWSWEB「区割り見直し法案 対案と共に審議が条件」5月21日 15時31分)

 私は、「衆議院の制度に関することを参議院で先に議論することは常識的ではない」という部分に注目しました。

■衆議院と参議院は「対等」

 衆議院と参議院は、衆議院の優越こそありますが、どちらか一方の院に従属するものではありません。衆議院は衆議院、参議院は参議院として独立しています。そのため、衆議院と参議院で議事進行のルールが違うものまであります。

 選挙とは、国会を構成する国会議員を選出するものですから、選挙制度の変更は両議院に重大な影響を及ぼします。ですから、参議院が衆議院という別の院の選挙制度を先に提案するのは、衆議院の権威にかかわると言えなくはありません。

■「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案の違い

 と、ここまで書いて違和感を覚えました。いま、参議院で放っておかれている「0増5減」の区割り法案は、内閣提出法案だからです。立法機関である国会に重大な影響をあたえるものを、行政機関である内閣が作成するのはちょっと筋違いな気がします。

 よく調べてみると、「0増5減」の区割り法案は、昨年成立した小選挙区を「0増5減」する法律に基づいて区割りを見直す法案でした。昨年成立した法律は、衆議院議員が提出しています。もちろん、衆議院で先に審議しています。

 各県の定数を定めるところまでは当事者である国会議員が中心となってやり(昨年の「0増5減」法)、実際に区割りを決めるのは専門的な知識を持っている衆議院議員選挙区画定審議会が行う(今審議している「0増5減」の区割り法案)という役割分担になっているようです。

 では、みんなの党の「18増23減」法案は何なのでしょうか。この「18増23減」法案は、昨年成立した「0増5減」法に対応するものです。ですから、具体的にどこからどこまでが新しい選挙区になるかというのは、別に法律で定める必要があります。

■「18増23減」法案の意味

 つまり、みんな案は昨年の11月時点まで時間を戻すことを主張しているのです。この法案が成立すると、昨年の「0増5減」法は廃止されます。同時に、「0増5減」法に基づいて出された衆議院議員選挙区画定審議会の区割り改定案勧告もなかったことになります。したがって、今審議している「0増5減」の区割り法案も意味がないものになります。

 今朝の日経朝刊では、与党は「18増23減」法案について、国会審議の前提となる委員会への付託自体みとめない方針だそうです。確かに、自分たちの進めてきたものを真っ向から否定する法案の審議を認めるのは、嫌なものかもしれません。そこが、与党が「18増23減」審議入りに難色を示す理由のひとつなのでしょう。


「0増5減」と「18増23減」


2013年5月25日追記:この記事では、みんなの党が提出した小選挙区を「18増23減」する法案を、具体的な区割り見直し法案と勘違いして書いています。「0増5減」の区割り法案と「18増23減」法案は同じレベルの法案ではありません。詳しくは『与党が「18増23減」審議入りに難色を示す理由』を御覧ください。

■区割り法案審議、進まず

 2013年5月22日現在。衆議院の小選挙区における1票の格差を是正するための区割り法案は、先月衆議院で可決して参議院に送られています。そろそろひと月たつのですが、参議院での審議はまだ始まっていません。

■18増23減の区割り法案

 今朝の日経朝刊によると、与野党はみんなの党が提出した「18増23減」の区割り法案の取り扱いでもめているようです。野党としてはみんな案を審議入りさせれば、24日に同時に政府案の「0増5減」も審議するという構えです。しかし、与党はみんな案の審議入りに難色を示しています。

 難色を示しているということは、みんな案の審議入りに与党が同意しないがために、政府案の審議入りが遅れる可能性があるということになるのでしょうか。

■与党にとって何が問題なのか

 なぜ、与党はみんな案の審議入りに賛成しないのでしょう。みんな案が参議院本会議までいって可決すれば、参議院の区割り法案は「18増23減」、衆議院の区割り法案は「0増5減」となって両院の議決が異なることになります。その時点で衆議院で「0増5減」法案の再可決が可能になるので、ただ時間がすぎるのを待つより良いと思うのですが。

 とはいえ、与党がみんな案の審議入りに賛成しない、少なくともすぐに賛成しないからにはそれなりの理由があるはずです。それがわからないのが、もどかしいです。


審議拒否と日本共産党


■審議拒否の意義

 2013年4月25日現在。先週、4月15日〜19日は、衆議院の選挙制度を巡って審議拒否が起こりました。

 審議拒否は、多数派の強引な国会運営に抵抗する手段のひとつです。

 強引な国会運営とは、例えば、多数派にとって都合の良い議案だけを議題にして、すぐに採決するようなものです

 原則、議題になっていないものについて話し合うことはできないので、議題の設定や設定過程自体がおかしいと思った場合は、審議拒否して委員会が開かれないこと狙います。そして、審議復帰を条件に多数派から譲歩を引き出すのです。

 事実、4月17日の衆議院は、党首討論を行う国家基本政策委員会以外のすべての委員会が、野党の出席を得られなかったため審査を進めることができませんでした。審議拒否には、委員会を開かせないという力が存在すると言えます。

■それでも委員会が開かれたら

 審議拒否には一定の効果があります。

 とはいえ、その効果は多数派である与党が譲歩した時のみ発生するものです。特に、現在の衆議院のように与党が圧倒多数の議席を持っている場合、野党が出席しようがしまいが、与党は強制的に委員会を開くことが可能だからです。

 こうなってしまうと、審議拒否をして委員会を欠席してしまったら、会議録に自分たちの意見を残すことはできません。

 せいぜい、委員長が欠席した会派の名前を読み上げたことが残るだけです。

 本会議の日程について協議したあと、委員長の職権で再開された、4月16日の衆議院議院運営委員会の会議録では、以下のようになっています。

○佐田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 再開に先立ち、民主党・無所属クラブ、日本維新の会、みんなの党、生活の党の所属委員に理事をして出席を要請いたしましたが、いまだ出席が得られません。やむを得ず議事を進めます。

 この時、議院運営委員会に委員を出している会派のうち、野党会派で出席したのは日本共産党のみでした。

■審議拒否にくみしない日本共産党

 日本共産党は他の野党が審議拒否しているなかでも委員会に出て、与党と反対の立場から意見を述べています。

 会議録では共産党議員の以下のような発言が残っています。

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 初めに、この委員会が、与野党合意のないまま、与党によって一方的に開かれたことに対して、強く抗議するものであります。議会の運営は、合意の上、円満に行われるべきであります。
 その上で、内閣提出の小選挙区〇増五減を、一方的に委員会付託を強行することに対し、断固反対するものであります。

 与党の強引な国会運営に抗議し、与党の提案した「区割り法案を特別委員会に付託して審議を開始する」ことに反対したことが、会議録からわかります。

 この意見は会議録に残ります。審議拒否をして、委員会を開かせないようにして、多数派から譲歩を引き出したり、対応を改めさせたりするのも大事ですが、委員会に出て自分の意見を会議録に残すのも大事です。

 ですから、どこか1党は野党の出席が必要です。

 日本共産党は、その点で議会政治に対し、一定の役割を果たしていると言えます。


なぜ区割り法案は迅速に処理されなければならないのか


■60日でみなし否決

 『区割り法案強行採決』でまとめてみて感じたのですが、よくもまあ、これだけのことを5日間でやったものです。与党がこれだけ焦っているのも、民主党などの野党がこれだけ抵抗しているのも、区割り法案が確実に成立するには、4月26日までに衆議院を通過している必要があるからです。

 憲法59条2項には、参議院が否決した法案を衆議院の3分の2以上の議席でもって可決すれば、その法案は成立するという、いわゆる再可決の条項があります。しかし、再可決は参議院が否決しなければ使えません。ずーっと参議院が審議せずにほっといたら何もできないのです。

 そこで、同じく憲法59条第4項にこうあります。

参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 これによって、参議院に法案が送付されてから60日たてば、衆議院で再可決できることになります。国会は延長できるので、60日に足らなかったら延長するという手もあります。しかし、今国会のあとには参議院選挙が控えているため、あまり延長はできません。まごまごしていると60日経過する前に国会が終わってしまいます。

 今国会の会期は6月26日までなので、区割り法案を確実に成立させるには、60日前の4月28日までに衆議院を通過していなければなりません。ただし、4月28日は日曜日なので、それ以前の最後の平日である4月26日までに衆議院本会議で採決しなければならない、というわけなのです。